二章七話 最も忙しい日々の始まり
「よろしくお願いします。アリオさん」
「気軽でいいって、まじで!堅苦しいのは好きじゃねんだよ、特にクラウの息子に敬語使われるとか、鳥肌が立つぜ」
快活で、話していて気持ちのいい人だ。きっと職員、冒険者問わずに人気あるんだろうな。
父さんが信頼している人なんだから間違いないだろう。
「それじゃあ……よろしく、アリオ。俺はハルトだ」
軽くグランを見る。
さっきまでの緊張は少しは和らいだようだが、今度はギルドのいかにもっぽい内装に夢中だ。いい加減にしっかりしてもらわないと困る。
俺ははしゃいでいるグランの脇腹を突く。
一瞬くすぐったそうにして、ようやく状況に気付いたようだ。
「僕はグランって言います。よろしくお願いします、アリオさん」
自己紹介やらは一応聞いていたらしい。
「おう、二人ともよろしくな!色々と済ませておくべき手続きがあるから受付まで来てくれ」
俺とグランはアリオについて行く。
グランの敬語を指摘しないあたり、本当に父さんの息子である俺だから畏れるのが嫌なんだな。
少し対応に迷うが、フレンドリーに少し敬意を含めて接することにしよう。
アリオは一度ギルドの奥へ行ってから、何枚かの紙を持ってきた。目の前の机の上に並べる。
「まず最初に、ギルドについて軽く説明してやる」
俺とグランは椅子に座らせてもらった。
文句を言わせてもらうと、硬くて居心地が悪い。こういうところに予算とか使ってほしいな。
「面倒だから本当に簡単に、一回しか言わねぇぞ。ギルドに登録すると、ギルドに届けられた依頼を受けることが出来て、完了すれば金がもらえる。以上」
「本っ当に簡単にだな」
「質問は聞くぜ。あっ、登録はこれからするからその質問は無しな」
あまりにも簡潔すぎて、逆に質問が思い浮かばないな。そもそも何を質問すればいいのか……。実質はまさにその通りだしな。
「質問です」
「おう、なんだグラン」
「ギルドのランク?って何度か聞いたことあるんですけど、どういう意味なんですか?」
たしかに、それは先生からも詳しいことは聞いていない。戦闘力だけで言うと、同じランクの魔物と同じ同程度ってことくらいだ。
「耳の穴かっぽじってよく聞けよ。基本ランクってのはEから始まって功績次第で上がる。あと依頼をこなした数だな。まあ、人それぞれだがランクはあげといて損はねぇぜ。その分儲かる依頼も受けられるしな」
「そうなんですか。分かりました、ありがとうございます」
「礼は言わんでいい。これが俺の仕事だからな」
なるほど、なら俺は早くランクを上げるべきだな。
より良い依頼を受けて効率的に金を稼いでいくために。まあ、それには恐らく俺だけ誰かの協力が必要なんだが。
そういえば……。
「このギルドのルール……決まりとか無いのか?」
「そうだなぁ。暗黙の了解としてだが、他人の依頼の邪魔をするのは無しだな。あとあんまり非人道的な行動とったら罰則だ」
「どういう罰則なんだ?」
「一生まともには暮らしていけねぇな」
おぉ、怖い。一体何をされるんだろう。むしろ興味が湧くな。
アリオがそれを言った瞬間周囲の冒険者が固まっていたし、知っている人もそれなりにいそうだ。
そのうち聞いてみよう。
「それくらいか?じゃあ登録するか!」
アリオが一枚の紙を俺とグランの前にそれぞれ出す。
「ここに名前と歳、誕生日を書いてくれ」
上の欄から言われた通りに書いていく。
今更だが、この世界の日周期は地球と変わらない。更に四季もある。ということは間違いなく、この世界も宇宙があってその中にある一つの惑星なんだろう。
しかも地球とうり二つの。パラレルワールドの線も考えられる。
「書けました」
「俺も」
グランと俺は同時にアリオに差し出す。
この次は何をするんだろうか、まさかこれだけで終わりというわけでもあるまい。
「よし、登録完了だな」
「えっ、これだけ?」
あまりにも拍子抜けすぎた。
ギルドカードが出てきたり、水晶出してきて魔力流せとかそういうのは無いのか。テンプレは無視しちゃいけないだろ。
「おう、これで終わりだ。この紙は特別な魔法具から作られたものでな、さっきのうちにお前らの魔力も確認したぜ」
この世界のギルドは地球の物語のよりもハイスペックだった。面白いような、少しつまらないような。
その魔法具もいつか見てみたい。
アリオは一旦紙を持って奥へ入って行った。
「………すごいね!ハル、これでもう登録したんだって、僕たち今日からギルドに入ったんだ!」
「そうだな」
グランの盛り上がりようもすごいな。
たしかにグランは昔から魔物、魔法、王都、ギルド、学園やらに憧れてたからな。まあこの世界の男はそういうものなんだろう。
俺の憧れは魔法、スキル系だからそこまでじゃない。
「もう依頼受けちゃう?」
グランの目には期待が混じっていた。まったく、見た目と反して子供だ。
こいつみたいに馬鹿でかい子供は可愛くないぞ。
「この後は早いうちに宿探せって父さん言ってただろ」
「えー、分かったよ、宿取れないなんてことになったら嫌だもんね」
「そういうこと」
そんな事を話しているうちにアリオが戻ってきた。
「とりあえずこれで終わりだ。この後は宿探すんだろ?」
「はい、そうです」
グランは無理矢理に緊張と興奮を収めているらしく、今は好青年モードだ。
実際、あんな姿を見せるのは俺がいる時くらいだ。だから社交性があると言えるんだ。
「じゃあ俺が良い宿教えてやるぜ!」
そう言って簡単な王都の地図を机に広げた。よく分からない、あまりに簡潔すぎる地図だがグランには分かるらしい。
アリオは一点を指差す。
「ここだ。『ライク』って言う宿屋なんだが、評判も最高、飯と酒が美味くて宿は掃除が行き渡ってる。常連も気の良い冒険者が多いから安全だ」
それは好物件だな。是非ともそこでお世話になりたい。
しかしそんなに人気なら部屋は空いているのだろうか。
「ほとんど飯屋として名前が通ってるからな、少しなら空いてると思うぜ。ギリギリな」
ふむ。これは俺たちを急かしているのだろうか。早く部屋取らないと埋まっちまうぞ、という。
ーーーでもお高いんでしょう?
「大変だ!ハル、早く行こうよ!」
……ミドリあたりでも突っ込んでくれてもいいんじゃないか?それともこの辺りの記憶はまだ見てない?
「そうだな、すぐ追いつくから先に行っていてくれ」
「え?なんで?」
「ほら、早く!部屋なくなってもいいのか!」
「え、あ、うん、分かったよ。早く来てね」
グランはチラチラと俺を見ながらギルドの外に出て行った。俺は少し、アリオと話をしておきたかった。
父さんの“コネ”をしっかりと使うために。
「……で、ハルトはどうしたんだ?」
グランを見送ったアリオが話しかけてくる。
父さんとアリオの関係……も気になるが、別の大切な事だ。
「即急に金が欲しいんだ。依頼を回してほしい」
ソラを買うための金が全然足りない。多少無茶をしても、反則技を使っても集めたい。その為には俺一人じゃ絶対に間に合わない。
期限は一ヶ月。俺は所々内容をぼかしながら説明した。
「……なるほどな。事情はわかったが一ヶ月で白金貨一枚は無謀だろ」
「普通ならそうだと思う。だから無茶もするし、アリオにはいいようにしてほしい」
俺が淡々と依頼をこなすのもいい。
でも、ギルド職員であるアリオに協力してもらえればより効率が良くなるだろう。それこそ、ただ依頼を受けるのと比べものにならないはずだ
「そういうことか。でも俺に出来るのは好物件の依頼を回すことだけだ。当然危険なものも多いがいいのか?」
「もちろん。こう見えてもそれなりに戦えるよ」
アリオは「まあ、それはそうだろうな」と言って後ろの棚から依頼書らしきものを出す。
父さんの息子だから戦えるのは当然と考えているんだろうな。事実、父さんから剣を教わったし。
「一ヶ月で集めるとなると……少なくともCランク以上の依頼になる。それもかなりの数だ。本当にやるのか?」
「やるさ」
この世界、いや地球も含めた初めての“本気で一緒にいたい”というこの気持ち。ある意味じゃ、この世界で初めての俺の本当のわがままかもしれない。
きっとどうにかしたい。してあげたい。
それに今のまま売られなかったら、ソラは近いうちに処分として殺されることになる。あのソラなら誰かと関わらないように威嚇し続けて、そうなる可能性は高い。
それだけは許さない。
「……分かった。俺もよく稼げる依頼を出来るだけ回そう。……死ぬかもしれねぇぞ?」
「死んだら意味がないよ」
俺は苦笑した。でも、どれだけ過酷になるかは分かってるつもりだ。
Cランク。父さんと同じランクの依頼だ。しかも俺はCランク以上の魔物と戦ったことがない。
本来なら無茶過ぎるのかもしれない。
でも、ミドリの力を借りればどうにかなるかもしれない。ミドリの広範囲探査、感覚共有で効率がぐっと上がる依頼もあるだろう。それを優先的に受けていくつもりだ。
俺はさっそくCランクの依頼を受ける。
一つの依頼が一日で終わるとも限らない。グランにもうまく言わないとな。あと学園は絶対に受からないといけない。入学試験まであと約三週間だ、体を壊すわけにはいかない。
別れ際、アリオに少し注意のようなものをされた。
「周りも頼れよ」
十分頼っているつもりだ。
アリオにお金をもらうわけにはいかないけど、依頼を良い様に回してもらうし。あとは無茶してでも稼ぎきるだけだ。
俺は急いでグランを追いかけた。
まあ、途中で迷ってミドリに助けてもらったが。俺は方向音痴なのかもしれない。
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「何やってんだ?」
ようやく宿屋『ライク』の看板を見つけると、中では非常に狼狽したグランがいた。
目の前には獣人族の女性がいる。
「あっ!ハル!助かったぁ……」
「いや、何が」
俺も基本開いているらしい扉から入る。開いてはいてもまだ準備中の様だ。客がいなければ料理の匂いもあまりしない。
「あんたがハルトかい?」
「えっ、はい」
突然女性に話しかけられた。
今の一言で分かった。この人がこの宿の店主だな。雰囲気バリバリだわ。よくいる“女主人”て感じだ。
「シシルがうちで飲み食いした分、あんた達にツケられてるんだ。払いなよ」
シシル……って先生!?
あの先生が俺たちにツケだと?あの真面目な先生が?
「何かの間違いじゃ……」
「間違いだったらあんたの名前は知らなかったね」
「ですよね……」
予想外だ。ここにきて更に金が必要になるなんて。
あの先生はこんな所で本当に何をしてくれているんだ。どうせ今の手持ちじゃあ、生活費を考えるとまともに払えない。
「あの……三ヶ月以内には返します。それじゃダメですか?」
流石に無理だろうか。
ちなみにこの期間は、金が集まらなくて奴隷商人に予約の延長がうまく行った時の事も含めた予想だ。そんなうまく予約の延長なんて出来ないだろうが。
「いいさ。それまでには返しなよ?」
「え……?あ、ありがとうございます」
思ったよりもすんなりと許してくれた。
金に関することだ。そんなに簡単に許してくれるとは思わなかった。
「シシルはいつ返すって約束すらしなかったからね。その点、あんた達はマシだよ!」
そう言って背中をバシバシ音が出るほど叩かれる。獣人族の力は強いんだから加減してほしい。ソラも将来こうなるのだろうか……?
でも、とてもいい人そうだ。
「それじゃあーーーいらっしゃい!何泊なんだい?」
「一応、三週間でお願いします」
「はいよ!階段上って奥の部屋だ。綺麗に使っておくれよ」
俺はグランと部屋に向かった。
あんな人が経営してるなら、ここは確かに良い所そうだ。本当は宿を取る金も使いたくなかったが、俺のわがままでグランに迷惑かけるわけにもいかないからな。
部屋も綺麗に掃除されていた。俺はあまりこの部屋にいることはないけど、ゆっくり出来れば絶対に良い環境だった。
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夜。
ここの料理は本当に美味い。母さんの料理と比べるとやはり少し下がるが、それとは別種類の美味しさだった。
その後はグランと、これからの簡単な予定を話し合った後、寝ることになった。
ちなみにギルドの依頼については、お互い成長する為だと言って、別々で真面目に依頼をこなそう、という事で落ち着いた。これなら俺が依頼で帰らない日があっても大丈夫なはず。
そしてグランが寝静まった現在。
宿のおばさんには、静かにすれば夜に出かけるてもいいと言われている。俺はグランを起こさない様に静かに部屋を出た。
そして宿を出て、依頼をこなす為に王都の外へ走り出した。




