二章六話 予約とギルド
「お客様、着きましたよ」
「これでお別れですね、幻さん。ありがとうございました」
いざ別れの時になっても、ソラは特に悲しむ様子を見せない。やっぱり悲しみが紛れていたのは事実だろうけど、それ以上は何もなかったんだな。
でもソラの絶望しきっていた表情は緩和されている。今はそれでいい。
「ソラ、君はきっと幸せになれるよ」
そう言って仕切りの向こう側へ行く。
今のソラにとってそれは、あまり言われたくない言葉だろう。でも最後くらいはそこに気を使わずに、本当に思っていることを言いたかった。
最後にソラを見てみたが案の定、眉をひそめて嫌そうに……というよりは辛そうにしていた。
グランとシーマはもう馬車を降りたのだろう。もう馬車の中には見当たらなかった。
好都合だ。
「商人さん」
俺は小声で奴隷商人に話しかける。仕切りの向こうにいるソラにも、出来ればグラン達にも聞かれたくなかった。
奴隷商人も俺の様子から察してくれたようだ。
「……何でしょうか」
「お礼の件、決まりました」
奴隷商人は忘れていた、というような顔をする。
俺が何も言わなければ、なかった事にするつもりだったんだろう。そうはいかない。
奴隷商人はポケットからお金が入った袋を出す。
この世界の金は日本とは全く違う。銅貨・銀貨・金貨・白金貨があり、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円、白金貨が百万円の価値だと思えば間違いはない。
しかし俺が欲しいのは金ではない。
「奴隷を……ソラをください」
俺が言っても、商人はそこまで驚きはしていなかった。この一週間の様子から予想はしていたのだろう。
ソラのことを“売れ残りの奴隷”と言っていた。ならば金が無くてもいけるかもしれない。
しかし予想に反して、奴隷商人は首を横に振った。
「アレでも一応商品なのです。今回売れなくても次売れるようにすればいいのでございます。タダではとてもとても……」
そうか……。
俺たちもあまり金はない。本当はここで使うわけにはいかないんだがな。
「いくらですか?」
「少なくとも白金貨一枚、金貨百枚相当でございます」
そんな金、持っているわけがない。しかしここで無理に強要することも出来ない。脅迫でもしようものなら、俺は犯罪者として追われる身になってしまう。
「もう少し安くしてくれませんか?」
「限界まで下げてもそこなのです。それが無理でしたら他の物にしてください」
奴隷の値段は知っていた。
獣人族の奴隷で白金貨一枚というのは、相場よりもかなり安い。
それならば仕方がないな。
「じゃあ予約、させてください」
「予約……ですか。………分かりました。ですが期限は一ヶ月です。それまでは何があろうとあの奴隷は売りません」
「ありがとうございます。あともう一つ、いいですか?」
「どうぞ」
こういう時、こんな事をするのは情けないんだが……。でもこうした方がいいと思うから。
「もし俺が金を集められなかったら、その時は少しでも良い人に買ってもらえるようにしてあげてください」
正直な話。
俺はソラと関わるから不幸になるだなんて信じていない。その時の運の問題だと思う。だったらソラが幸せになるのは、良い人に買ってもらうだけで済むはずだ。
奴隷商人は、そんな俺を心底珍しいように見る。
奴隷に肩入れするなんて、国によっては非難される事だ、仕方ないだろう。
「分かりました。その代わり私がお客様を囮にしようとした、なんて事は言わないで下さいね」
「もちろんです。約束、守って下さいね」
そう取引をして、俺は馬車を降りた。
外ではグランとシーマが待ちくたびれた様子だった。
「遅いよ、ハル!せっかくの王都なんだから早く行きたいのに」
「何してたの?」
グランは文句を言い、シーマは尋ねてくる。俺は何でもない、と誤魔化した。
しかし白金貨一枚、約百万円か……。
よほど運が良くなくては一ヶ月で稼げる額じゃない。最悪、保険はかけられたから問題は無い。
しかし、ソラを助けたいという気持ちだけじゃないんだ。俺がソラと一緒にいたい。そんなわがままを通そうとしているんだ。頑張らないとな。
「ハル、早く行こうよ!」
初めての王都が楽しみでしかたないらしいグランに急かされる。シーマも落ち着いているようには見えるが、少し興奮しているように見えた。
「はいはい」
まったく、人が新しい問題に当たっているというのに。
いや、これは俺のわがままなんだ。俺が頑張ればいい。グラン達には思いっきり楽しんでもらおう。
「あんまりはしゃぎすぎるなよ」
「僕はそんな子供じゃないよ!」
「行動自体は子供みたいだけどね」
「そんなことないよ!」
焦ってもしかたないか。みんなでいる時は俺も楽しませてもらおう。
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色々な店を回ったりして楽しんだ後、それぞれのすべき事をすることになった。
「私は行くところがあるから。今度は入学試験の日に会おうね」
そう言ってシーマは俺たちとは別方向へ向かって行った。
「それじゃあ俺たちも行くか」
「ギルドだよね。楽しみだなぁ」
俺たちはギルドに向かう。
父さんが話をつけてくれているらしい。父さんの友人という人がどんな人なのか、少し楽しみだ。
グランは方向に強いく記憶力も尋常じゃないため、度地図を見ただけで止まることなく進む。
そのおかげですぐに着くことができた。
「ハ、ハル。先に入ってよ」
「さっきまであんなに楽しみにしてただろ……」
いざギルドに入るとなると、緊張してしまったらしい。緊張しいというよりも、怖がりと言うべきか。
せっかくのイケメンが台無しだな。
仕方ない。そんなグランの為にも堂々としていよう。
入り口は大きく、常に開いている。
こんな所に入るとき、
「お、お邪魔しまーす」
なんて言ったら注目されるのは間違いないだろう。それくらいは考えて欲しいんだがな。
見事に言いやがったグランの頭にげんこつを落とす。
「いっ!痛いよ!何するのさ!」
グランを一睨みして黙らせる。
ギルドには戦闘能力の必要ない依頼も来るとはいえ、ほとんどは屈強な男だ。そんな所に不慣れそうな少年が来てみろ。
「ブフッ!ガキが何でこんな所にいるんだよ!」
「お邪魔します、って!ヤベェな!」
「ガキが来る所じゃないでちゅよー!」
こうなるだろう。
ガキって言われるような歳に見えるのか、いやそれはない。ただ馬鹿にされてるだけだ。そのはずだ。
イライラするし、原因であるグランは思いっきりビビってしまった。これでも俺なんかよりも強いんだよな。
はぁ………どうしようか。
馬鹿にされ続けるのも癪だし、かといって全員を無視するわけにもいかないな。
今日はやめて、また明日にでも来るか。
「うるせぇ!静かにしろよおまえら!」
帰ろうと踵を返すと、受付の方から一人の男が駆け寄ってきた。
「悪りぃな、こんな奴らで。おめぇら!この子はCランク冒険者クラウの子供だぞ!いい加減にしやがれ!」
男は「だろ?」と目配せしてきた。俺は素直に頷く。
それを見た他の男達は一斉に静かになった。そしてヒソヒソと話し始める。
「やべぇ、クラウさんに殺される」
「やっちまったな」
「わしは何も言っとらんぞ」
「あれがクラウの……おもしれろい」
父さんは一体ここでどんな人だったんだろう。
親の過去にはそこまで興味がなかったが、一気に気になってきた。
「クラウは昔から有名でな。今とは違って昔は強いが荒れてよく喧嘩してたんだわ」
そうなのか、意外だな。今の父さんからはあまり考えられない。
そして父さんと親しげなこの人はおそらく……。
「あんた……いや、あなたは……」
「気軽に話してくれていいぜ。俺がおまえらの子守りを頼まれた、アリオ・カラオットだ。アリオでいいぜ」
忙しくて投稿が遅れてしまいました。これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!




