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二章五話 王都までの道のり




 ヤノ村が魔物に襲われたあの日以来、俺は魔物と戦うことはなかった。戦わないようにしていた訳ではない。ただ、たまたまそうだっただけだ。

 その間はずっと落ちた筋力を戻すこと、そしてグランと父さんに協力してもらって強くなる事に時間を費やした。

 またあの時のような事があっても、今度こそ誰かを、ちゃんと守る為だ。あんな危険なやり方以外で。


 だから俺は一年と数ヶ月ぶりに魔物と戦うことになる。

 おそらく心配してくれているのであろう、ソラには少し申し訳ないが、俺はとても楽しみだった。これで、自分がどれだけ成長できているのかを知る事が出来る。


 サンドボア。

 比較的乾燥した地でイノシシ型の動物が魔力によって変化した魔物。皮膚は非常に硬く、人が切ることは困難。脅威なのはその突進で、食らえばひとたまりもない。


「ミドリはソラの所にいてあげてくれ」


『分かったわ!ちゃちゃっと倒しちゃいなさい!』


「任せとけ」


 ミドリはソラの元へ飛んでいく。

 ソラはおそらく、自分のせいで誰かが犠牲になる事を極端に恐れている。

 今回は、まるでソラの代わりに俺が囮になる様な成り行きだったからな。ソラも落ち着いてはいられないだろう。ミドリがいればソラが変な気を起こす可能性は低くなる。


 シーマは馬車から顔を出して少し心配そうにしている。シーマは俺が戦える事を知らない。ならばその反応もおかしな事じゃない。


 俺は剣を抜く。


 剣を抜くと途端に集中できる。俺は目の前のサンドボアを捉えた。


 俺は肩の力を抜いた。


(ーーー強化……ん……?)


 技能で身体能力を強化する。

 すると体が成長したからか、もしくは成長に伴って少しだけ魔力が増えたからか、以前より強化度合いが大きくなっていることに気付く。

 成長の実感に思わず少しだけ頰が緩んでしまった。


 まだかなり距離があるが、サンドボアの突進速度なら一瞬で到着する。

 俺はまっすぐ剣を向けた。


「ブォォォォ!!!」


 サンドボアは大きな声を出した。

 ゴブリンやファイアウルフとは全然違う。迫力が段違いだった。これがランク一つ違うだけの、大きな違い。

 けど俺だって強くなっているはずだ。


 サンドボアがついに俺の懐に入ってくる。

 サンドボアはその牙を俺に突き刺す様に突進してくる。


 ガキン!!!


「ブォオ?」


 俺は強化した脚で踏ん張り、牙に剣を当てて力を逃す。

 凄い力だ。恐らく少し前なら簡単に吹き飛ばされていただろう。しかし俺は完全にサンドボアの動きを止めることに成功した。


 ふむ、成長期とは恐ろしい。


「ふっ!」


 一気にサンドボアの牙を弾く。サンドボアの体勢を一瞬崩させる。

 俺の体勢は万全。これを逃す気はない。


 俺は素早く横を過ぎる。剣をサンドボアの体に突き刺しながら。確かに普通なら、硬くて斬る事どころか刺すことすらできないだろう。しかし強化されていれば、話は別だ。


 サンドボアの絶叫と血が飛び散る。そんなのお構いなしに追撃をする。

 サンドボアは抵抗する間も無く倒れていった。


 なるほど、これはすごい。

 予想以上に力がついている。これならDランクの魔物が集団で襲いかかってきてもなんとかなりそうだ。


 充実感を得ながらソラの元に戻る。

 ミドリが肩にとまった。


『すごく強くなってるわね!流石は私のハルト!』


「お前のじゃないぞ」


 それを聞いてミドリがむくれていたからつついてやった。次第につつかれるのを避ける遊びに移行していく。


「すごいんですね……」


 ソラはかなり驚いている様子だ。

 確かに筋肉隆々と言うわけでもなく、特別強そうには見えないかもしれない。そんな見た目弱者が余裕で魔物を倒したら驚くだろう。


「大丈夫だっただろ?」


 ソラはハッとして頷く。

 これで、自分のせいで周りを不幸にしているという考えが少しでも変わればいいが……そうもいかないか。


 サンドボアの素材は重いから仕方ない、放置することにした。時間が経てば他の魔物に食べられて無くなる。


 俺は仕切りの向こう、グラン達がいるところへ行った。


「……何してるんだ?」


「おかえり、ハル。早かったね」


 そこにはグランとシーマに抑えられている奴隷商人の姿があった。最初から予想はしていたが、やっぱりか。


「聞いてよ!この人、ハルトを置いて出発しようとしたんだよ!」


 シーマが奴隷商人を睨みながら伝えてくれる。

 俺を囮にするつもりだったんだろうな。予想もしていたし、特に怒ることもない。


「まあまあ、それくらいしなくちゃ生きていけない世界だろ?」


「その通りでございます。特に商人の世界は厳しく……」


 俺が庇った瞬間に、それに便乗してきやがった。まあ、商人なんていう競争の激しい職業なら本当にそうなのかもしれないな。


「ハルトがそう言うなら……」


「うん、僕もそれでいいよ」


 シーマは渋々と、グランはすんなりと商人を許す。

 グランから解放された商人は何事も無かったかのように座り直す。


「ふぅ……。申し訳ありません、お客様。どんな時も自分の命が最優先ですので」


 少しも悪びれた様子がない。

 次があれば次も同じようにすると言っているようにも感じる。肝が座ってるな。


「それでいいと思いますよ。そういう世界ですからね」


 元々格安で乗らせてもらっている身だ。許さない理由がない。というか何度も言っている通り、この物騒な世界では自分の命はしっかりと守らないといけないからな。

 それにこんなにはっきりと言うのは好感が持てる。


「しかし見事な腕前でした。何かお礼をするので考えて置いてください」


 奴隷商人はそう言ってまた馬車を走らせ始めた。


「よかったの?」


「もちろん。結果として俺もここにいるし」


「んー、まあ確かに。じゃあ私もそれでいいや」


 シーマはすぐに元の調子に戻る。

 グランは最初からいつも通りだった。昔からあまり動じないやつだな。


(ミドリ、王都まであとどれくらいだ?)


(あと五時間ってところね!寝ればすぐよ!)


 そうか。

 少しの時間ロスもあったが、ようやく王都に着ける。なんだかんだ言っても初めての王都。顔には出さないがワクワクが止まらない。

 どんな所なんだろうか。色々な想像が溢れてくる。


 それまであと五時間。


 グランは寝始めてしまった。マイペースグラン。

 シーマは魔法書を見始めてしまった。魔法使いとしては正しい行動なんだけどな。シーマもマイペース気味なのかもしれない。

 話し相手がいなくなった俺は、またソラのところに行くことにした。


 ソラを一目見た時から存在するこの気持ち。ハッキリ言おう。俺はソラのことが好きになった。ほぼ一目惚れだ。

 たとえもうすぐで別れるのだとしても、ギリギリまで話していたかった。

 魔力的につながっているミドリには、俺の気持ちも気づかれてそうだな。案の定、ソラと話しているとチラチラと見てはニヤニヤしていた。


 ソラからすればそこまで大切とは思ってないようだけど、俺は王都に着くまでこの時間を大切にしていた。



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