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二章四話 余裕なハルトと余裕の無いソラ



 その後、俺たちは少しだけ話すことが出来た。そうは言っても簡単な世間話だ。俺が話すのを少女が興味深そうに聞いていてくれただけだが。


 少しするとソラと名乗ったこの少女はスヤスヤと寝始めてしまった。精神的によほど疲れていたのだろう。俺との会話で少しは心が休めているようで嬉しい。


 翌日も、渋る奴隷商人になんとか許可を得てソラに会った。前日みたいに避けられることはなかった。

 俺のことは本気で自分の作った幻だということにしたようだ。ソラ自身、そう思いながらでも誰かと繋がりたかったんだろうと思う。


 その日は、彼女の身の上話を聞いた。

 よく何かを思い出したような悲しそうな顔をするので、「幻になら何かを打ち明けてもただの独り言だ」と言って聞かせてもらった。少し強引な理論だったが話してくれた。


 強く心に残っているんだろう。その話はとても長かった。その途中、ソラは何度も泣いていた。

 彼女の話は俺の予想を上回るものだった。とても優しく、そしてとても辛い。忘れろと言うことは間違ってもできなかった。でもだからこそ俺に打ち明けること、俺と話すことで少しでも心が紛れればいいと思う。


 ソラの話は家族との日々から始まり誘拐された日のこと、奴隷商で受けた虐待の日々、主人が自分のせいで死んだこと、そして大切な姉のような人を死なせてしまったこと。


 俺は静かに聞いていた。

 俺の軽い言葉でどうこう言う事はするべきじゃないと思ったから。


 ソラは言っていた。

 自分が大切だと思った人がみんな酷い目にあってしまう。自分のせいで二人を死なせてしまった。

 二人の最後の願いを叶えたい。でも自分が幸せになるのは不可能。だって自分と一緒にいる人を不幸にしてしまうから、自分は一人でいなくてはいけない。


 俺は、その言葉にとても大きな苦しみを感じた。

 頭ではそうだ思っていても、心は独りでいるのを辛く感じてしまうのだろう。


 情けないことに、俺はその時ソラに何かを言ってあげることができなかった。場の空気を変える為に「俺はいいのか?」と訊くことしかしなかった。

 ちなみにその答えは、笑いながら「幻さんは人じゃないですし、大切じゃないですし」だそうだ。

 少し落ち込んだ。


 その後は、ソラ自身から場の空気を変えてきた。俺に色々なことを質問してきた。

 そんな事をしているだけで、ソラの表情にあった絶望が薄れていくことが俺にとっての救いだった。

 俺は今日もソラと話していた。


 最近あまりグランとシーマと一緒にいないため、二人は少し不機嫌になっていた。俺がいなくてもあいつら同士が仲良いのだから大丈夫だろうに。


 ソラはミドリと遊んでいた。

 と言っても、ミドリがソラの髪に埋もれながら動いているだけだ。ソラはそうやって髪をいじられるのが気持ちいいらしい。獣人族は触感を含む五感に敏感なようだ。


 王都に着くまであと一日。王都に着いたらソラともお別れだ。


 幸いなことに、俺がどれだけソラに寄り添おうとしても彼女は自分からそれを避ける。必要以上に関わりを持たないようにしているのだろう。

 だから、ソラが俺たちと別れてもそんなに辛くはないだろう。どちらかと言うと俺の方が寂しいわけだが。


 ソラとミドリが遊んでいる間、俺は部屋を照らしている火の玉の形を弄っていた。これも魔法の訓練だ。発動した魔法を思うがままに動かすための。


 これもかなり慣れてきた。丸い球を縦、横に伸ばしたり平らにしてみたり。そしてソラの表情を見て、だいぶ表情が柔らかくなってきた事に安心していた。


 そんな時、突然仕切りが外された。


「お客様!この馬車に魔物が向かってきています。こちらに戻ってきてください」


 なんだと、魔力を感知できるはずのミドリは何も言っていない。


 俺はソラの髪の中で隠れているミドリを見た。……なるほど、本当に魔物が向かってきているようだ。

 ミドリはしまった、と言う顔をしていた。警戒し忘れてたな。


 そう言うことなら仕方ない。俺はミドリを連れてグランたちの元へ行こうとした。どうにか逃げる術があるならそれでいいし、ここは商人の言う通りにしよう。

 そう思った。しかしすぐに俺の考えは変わる。


「ソラ、出なさい」


「……はい」


 ソラは馬車の最後部を開けて出て行こうとした。

 俺はソラの手を掴む。


「何をやらせるんですか?」


 俺は奴隷商人に尋ねた。魔物が向かってきているなら、ここで下りれば襲われるのは間違いない。そうなればこの少女はきっと簡単に殺される。


「囮にするのです。そうすれば私達は簡単に逃げられます」


 やっぱりか。俺は奴隷商人に怒鳴りかける。

 しかしこの世界ではこれが普通。ましてや、商人が言うにはソラは売れ残りだ。少しでも有効活用しようという考えになるのは当然のことなのかもしれない。


 でも俺はそれを認めない。


「ソラを囮にするくらいなら俺が出ます」


 その言葉に商人とソラ、どちらかと言えばソラの方が驚いていた。


「お客様を囮にするなんて出来ません。どうかお考え直しください」


「大丈夫です。俺は戦えます」


 商人はそれを聞いて何かを考えていた。そして了承した。

 ……なんとなく商人が考えてることが分かるけど、グランがいてくれるから大丈夫だろう。


 俺は馬車の最後部から出ようとして、ソラの手を離そうとした。しかしソラは離そうとしない。


「ソラ、離してくれ」


「駄目です。私が囮になります。囮にさせて下さい」


 ソラはそんな事を言う。

 まさか死にたいから、今ここで魔物の元に出ようとしているのか。トライヤさん、ルルリエさんの二人の願いがあるはずなのに。


「私なんかの為に危険な事をしないで下さい」


 あぁ、なるほど。そういうことか。俺を行かせるくらいなら自分が死ぬという自己犠牲の精神か。

 不謹慎にも、そう言ってくれた事が嬉しかった。しかしそういう訳にはいかない。


「大丈夫だ。それに元々資金として魔物の素材が欲しかことだしな」


 ソラの為だけじゃない。そう言って許してもらおうとしたが、俺を掴む手は離してくれない。

 彼女は何も言わずにそのままでいた。自分のせいで誰かが傷付くのが、もう見たくないんだろう。今までの事を考えれば自然な事だ。


 俺が困っていると、商人がソラを抑えてくれた。


 ソラも、わざわざ更に止めることはしなかった。ただ、いざとなれば自分が出て行くつもりだろうけど。


「ハル、これ忘れてるよ!」


 馬車からグランが顔を出して剣を投げ渡してくる。俺が出ると分かっていたようだった。


「助かる」


 俺は剣を抜く。

 魔物が向かって来る方向を見ると、たしかに何かが砂煙をあげて凄い勢いでこっちに向かってきていた。


「ミドリ、ランクは?」


『Dね』


 それならば大丈夫だろう。

 そして近づくにつれてその姿が見えてきた。その姿は先生の持っていた本で見た事がある。

 ランクはDとされるとても凶暴な魔物、サンドボアだ。



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