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二章三話 運命の出会い



 村を出てから三日目。

 シーマとも仲良くなり、この馬車の持ち主である商人とも話すようになった。

 最近、グランは馬車の屋根の上で剣を振り始めた。流石に暇になったらしい。


 俺は暇なら寝ればいいじゃないかという結論に落ち着き、時間があればシーマと話すか商人に王都について教わる。それ以外は筋トレか、本当に寝ているだけになった。


 このまま何事もなく王都に着くんだろう、と思っていた。ある意味ではそうだ。

 しかし俺は自分から首を突っ込ませてもらう。


「あの、隣に誰かいるんですか?」


 俺は暇そうにしている商人に話しかける。

 最近、時々壁の向こうから声が聞こえるのだ。まるで泣いているような。いや、泣きたいのを堪えているような声だ。

 荷物が置いてあるのかと思っていたが、そうではないらしい。


「すみません。何か不都合でもございましたか」


「いえ、そんなことは何もないんです。ただ気になって」


 商人は「そうですか」と胸を撫で下ろしていた。

 商人にとって信頼を落とすことはしたくなかったんだろうな。安心してくれ、ただ気になるだけだ。


「奴隷ですよ。わたしは商人は商人でも、奴隷商なんです」


 奴隷か………。

 奴隷についてはよく先生から聞いた。先生は他種族について色々気にしている人だったから。

 この世界では、いたって普通のことらしい。もちろん俺はおかしいと思った。そして先生にもそう言ったのだ。


 しかし、当然の事かもしれないがその考えは他人に言わないように言われた。

 様々な歴史を持つ地球、日本とは違ってこの世界では誘拐なんて日常的に起きている。ならばそれで稼ぐにはどうするか。

 奴隷として売るのである。


 今でも俺はおかしいと思ってしまう。

 でもこの世界ではこれが普通なのだ。だからあまり気にし過ぎれば俺が異端者になる。

 先生には飽きる程、日本との違いを理解しろと言われてきた。


 たとえいくら力をつけても規制することなどしてはいけない。それをして良いのは自分の国だけ。

 もしも周りを巻き込んで規制しようとすれば、ほとんどの国を敵に回すことになる。そんな状況になっては無事でいられるわけがない。


 だから仕方ないのだ。

 それに悪いことばかりじゃない。

 お金がなく、死にそうな人の為の一応の延命行為にもなり得る。それは王都を含めた一部だけらしいが。


 それに、やはり奴隷の値段は高くつく。そのお金でたくさんの人が救われてもいるらしいのだ。

 と、これらが先生から教わったことのまとめ。


 それを踏まえた上で、実際のどうするかは俺が決める


「その人のところに行かせてくれませんか?」


 俺は奴隷商人に訊いてみた。

 やはり、というか予想通り、奴隷商人は随分と驚いていた。


「ここに連れているのは全然人気のない、小汚い奴隷ですよ。お客様にお会いさせるような“もの”ではございません」


 この世界では奴隷はもの扱い。分かってはいるが気持ちよくないな。


「それでも、俺は気にしません」


「しかし、もしかしたらお客様に危害を加える可能性も……」


「過去にそういうことでもあったんですか?」


 なかなか引き下がらない俺に困る奴隷商人。こんなことを言う人は、そんなにいないんだろう。わざわざ“もの”に執着する人は、そうはいない。

 まあ、変に思われても俺は自分の道を行く。


「過去にあったわけではありません。しかしこの仕切りの向こうにいる奴隷は、お客様を威嚇する事で問題になっておりまして……」


 なるほど、そう言うことか。それだけなら問題ないな。

 それに、俺だって一応戦えるんだ。回復魔法もある、万が一襲われてもきっと大丈夫さ。


 引き下がる気配のない俺に奴隷商人は諦めたようだ。渋々といった様子で一瞬仕切りを外してくれた。


「お気をつけて」


 俺は仕切りの向こうに入った。

 俺が入ったのを確認すると、奴隷商人は仕切りを付け直した。戻る時は叩けば開けてくれる。


 しかし……一切何も見えないな。


火球(ファイアボール)


 流石の俺でも超初期魔法の火球(ファイアボール)くらいなら五つは出せる。


 光に照らされた狭い空間で、彼女はいた。


 かなりボロボロになった服を身にまとい、身体を洗う機会が無いのが分かるナリだった。

 それでも、彼女の薄い青色の髪が優しくてとても綺麗だ。俺と同い年くらいだろう。


 彼女は膝を抱えて顔を伏せていた。

 でも時々震える華奢な肩で泣いているのが分かる。


「えっと……」


 気になって来てしまったがどうしようか。泣いている女の子の対処なんて俺は知らない。

 でも、このまま泣かせているなんて俺はしたくない。たとえ自己満足でも。


「君、名前は?」


「………………」


 少女は答えない。こちらを見ることもない。

 その態度に、村でもあまり女子と関わらなかった俺の心は折れそうになる。しかし日本での記憶が俺を支える。


「俺はハルト。よろしく」


 俺は手を差し出すが、やはり見向きもしない。

 まるで人と関わる事をしないように決めているかのようだ。

 ……気付いてないわけじゃない。


 この子が、俺なんかじゃ想像もつかない経験をして来たんだろうことを。

 しかし奴隷になってしまい、ここまで心が折れている少女を俺は絶対に見捨てたくない。


 だって……放っておいたら今にも死んでしまいそうな、今にも消えてしまいそうな儚さを持っているから。


 しかし、多分この子には触れちゃいけない話題もあるだろうな。何を話すべきか。


「……仲良くしたいと思ってる。名前を教えてくれないか?」


「………………」


 ダメか。

 もともと駄目元だったが。


 ……………。

 ……仕方ないか。奥の手を使わせてもらおう。


(ミドリ、出番だ)


(言うと思ったわ!この私に任せなさい!)


 ミドリが俺の魔力から出てくる感覚。しかしいつものようにすぐには出て来ない。どうしたんだ?

 ……あぁ。………なるほどな。ミドリの意図が分かった。


「君、俺を見るんじゃない。いつもする様に、自然と顔を上げるんだ。俺に言われたからじゃない、自分から」


 なんとなく、この子の気持ちがほんの少しだけわかる。日本にいた時、俺も本当に辛い時期はこうなった。


 とにかく、他人との関わりをなくしたい。


 もちろんこの子はそれだけじゃないのかもしれない。それでも、少しはそう言う気持ちもあるだろう。


「………………」


 そして少女は顔を上げてくれた。

 その表情は無気力で、まるで世界に絶望しきった様な表情だ。でも、俺はこの子の目を見て安心する。


 だってこの子の目には絶望ばかりで死んでいるように見えて、だけど本当に少しだけ、希望を捨てきれない光が見えた。


「さあ、注目!今からこの世界で最高級に珍しいものをお見せ致しましょう!」


 俺はもったいぶったセリフと動きをする。

 普段しないから恥ずかしいけど、この子にはそれを悟らせない。


「……………っ」


 少女は少し驚いたようだ。

 それでも何が起こるのか、だいぶ気になっているように目を離さない。


「それでは!目を離さないで俺の右手に注目!」


 少女の目の前に手を広げて突き出した。少女の視線は俺の右手に釘付けになる。

 きっと、日本で言うマジックやショーの類を見たことがないんだろう。それらを初めて見る子供ってこんな感じなんだろうな。


(行くわよ!)


(おっけー、いつでも来い)


 手の平が緑色に輝き出す。最初は弱い光、それがどんどん明るくなって行く。ついに、少女は目を開けていられずに閉じた。

 そしてその瞬間、ミドリが出て来た。こいつの演出凝ってるな。


 少女は恐る恐る目を開く。その視線は一点、ミドリにとどまる。


「……えっ!何ですか、これ!」


 ようやく声を出してくれた。その声は耳に心地良く響く優しい声色だった。

 俺は嬉しくて笑ってしまうのを何とかして抑える。


「この子は世界でも超貴重な“精霊”だ」


 ミドリは飛んで少女の目の前に行き、笑いかける。そして少女の肩の上に乗った。珍しいミドリのサービス精神を感じる、


「可愛いです……。この子、名前はなんて言うーーーあっ………」


 少女はまた俯いてしまった。

 恥ずかしがって、という感じではない。明らかに、やってしまったという感じだった。


 ミドリは心配そうに少女の顔を覗き込む。俺はこうなる事を予想していた。


「……俺は君の生み出した幻だよ。幻と話してもただの独り言だろ?」


「幻………?」


「そう、俺は幻だ」


 少女は顔を上げて、今度はちゃんと俺の目を見てくれた。少女の目は未だに絶望と、俺に対する不安がある。

 どうすればいいのか、考えてもよく分からなかった。だから俺の次の行動は完全に無意識のものだった。


 俺の手は自然と少女の頭を撫でていた。

 大泣きしたシャルを慰めているように、母さんが昔俺にしてくれたように。


 優しく、労わるように。


 その髪の感触に、つい言葉を漏らしてしまった。


「……綺麗な髪だ……」


「………っ!!!」


 それを聞いて少女の肩は一際大きく震える。そして俺を見たまま涙を流し始めた。

 当然、俺は内心ものすごく焦った。完っ全にミスったと思ったから。


 でも少女の目は俺を見ているようで俺じゃない何かを見ているようだった。俺に誰かを重ねているのだろうか。

 俺はもう挽回できないかもしれないと諦めかけたが、駄目元で話しかける。


「君の名前を教えてくれないか?」


 少女の目は再び俺を捉える。

 しかし予想から外れ、少女の目には俺に対する不安は無くなっていた。


 少女は少し、本当に少しだけど笑った。



 ーーー俺はその微笑に見とれてしまった。



 可愛いらしくて儚い、初めて見る種類の笑顔だった。


「……私はソラって言います。……幻さん」


 俺はこの時の気持ちを忘れることはないだろう。この日、俺は初めて女性を好きになった。



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