表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/72

二章二話 新しい友人



 馬車に乗ってから一日が経った。特にこれと言って特別なことは何もなかった。王都までかかる時間は約一週間。

 馬車に乗っているのは俺たちだけではない。

 俺たちの他に、二十代半ばくらいの男性と、俺たちと同い年くらいの女の子がいた。


 俺たちは早くも暇になっていた。本当にすることがないんだから仕方がないだろう。

 ミドリも見られるわけにはいかないから、ずっと俺の中にいる。つまり、いつものうるさい奴が静かなのだ。


 グランは外の景色を見て楽しそうにしているが、俺はそれだけではすぐに飽きてしまう。というかグラン、モテるのになんだか子供っぽい。女性ってこういうタイプが好みだったりするのだろうか。


 俺はすることがないので、傍目からは分からないように筋トレをしていた。辛い体制を長い時間維持しているのだ。

 あれ以降、月日が経ってそれなりに回復したが理想はもう少し力をつけたい。


 グランや父さんとかなり戦ってきたから、速い剣筋も目では捕らえられる。しかし、どうにも体が反応しきらないのだ。グランに勝ち越すのが目標の俺にとっては、魔法も大事だがこっちも手を抜けられない。


 しかし、な。流石に暇だ。風景だけで楽しめるグランが羨ましい。


「あの、ちょっといいですか?」


「えっ、あぁ……。どうぞ」


 俺たちが乗った時からいた女の子に話しかけられた。ショートヘア気味の元気そうな印象を受ける女の子だ。


「王都に何をしに行くんですか?」


「今年から魔法学園に入学する為だ」


「やっぱり!」


 女の子は嬉しそうに手を合わせて喜んでいた。


「私も今年から入学なんですよ!」


「そうなんだ」


「なんか感動が薄いですね」


 いや、だって。俺は比較的初めて見た時からそうかもしれないとは思っていたから。

 この時期に王都へ向かう同世代。分かりづらいが。小さな杖も持っている。ちなみに、杖を媒介とすれば魔法を発動しやすくなるのだ。


 そして何より、彼女のカバンから見えているもの。

 あれは魔法書だ。


「じゃあ入学試験に合格したら同級生ですね」


「入学試験?」


「知らないんですか?」


 俺は頷く。

 よく考えれば俺たちは王都についても学園についても簡単にしか教えてもらってなかった。


「魔法学園に入学する為の二種類の試験があるんですよ」


「へぇ、教えてくれると助かる」


「いいですよ」


 女の子は俺の隣に座る。近くで見ると、随分と目鼻立ちが整っていた。どちらかと言うと美人系だろうか。シシル先生には遠く及ばないが。いや、容姿なんて関係ないが。大事なのは人柄だ。


「まず第一に筆記試験です。魔法の理論、魔法の成り立ち、この世界の歴史、魔法式の構造についての試験ですね」


 なるほど、それはどうにかなりそうだ。先生は魔法以外にも、たくさんそういうことを教えてくれた。むしろ魔法は自身の努力が大切なこともあって、そういう知識の方が教えられたかもしれない。

 そもそも魔法式についての試験なんて、《言語理解》を持つ俺にとって朝飯前だ。


「……なんか嬉しそうですね」


 つい鼻高になってしまった。いけない、これじゃあ初対面の印象が悪くなってしまう。


「ごほん。次を頼む」


「分かりました。第二に、実技試験ですね。魔法の発動速度、威力、実践能力です。多分……」


 女の子は少し自信なさげに教えてくれる。

 しかし、実技試験はヤバイかもしれない。十五歳になってある程度魔力が増えてきたが、それでも簡単な魔法を数回しか使えない。

 発動速度は自信があるがその他は大丈夫だろうか。そもそも魔力が極端に少ないと知られても入学できるのだろうか。


「そんなに不安そうな顔しないで。大丈夫ですよ!」


 そんなに俺の表情は分かりやすいのか。最近はグランにも心を読まれることが多いし。


「いや、助かった、ありがとう。それと同期になるんだから敬語はいいよ」


 この子が敬語を使うとなんだかイメージとのギャップがある。そもそもあまり慣れてないんだろう。俺も使い慣れていない敬語を使われると、少し戸惑う。


「そう?助かる。あっ、自己紹介してなかったね、何してんだろ、私」


「俺も忘れてた」


 俺と女の子は顔を見合って思わず笑った。気が合いそうな人で助かった。


「俺はハルト。楽しく生きるのが目標だ」


「面白い目標だね。私の名前はシーマ、十五歳!好きなタイプは………あそこにいる人ね」


 シーマは窓際で風景を見ているグランを指差していた。あの野郎、いちいちモテやがって。


「へぇー」


「あっ、もしかして嫉妬した?」


「してない」


 なんだ、この人は。今まで関わったことがないタイプの人だ。

 でも嫌な感じじゃない。むしろ、友人としてはかなり面白そうな人だ。嫉妬するような間柄にはなりそうもないけどな。


 何を勘違いしているんだろう。シーマはニマニマしながら俺を見ている。うん、でもやっぱり少しイラっとした。少しミドリに似ている。


 その後は他愛ない話をしていた。


「ハルトって誰に魔法教わったの?」


 ふと、シーマはそんなことを訊いてきた。


「シシル先生だ」


「あはは、ごめん知らないや。有名な人?」


 どうだろうか。個人的には明らかに普通じゃないと思うんだが。そもそも千二百年生きているらしいし。どこかで有名でもおかしくないかもしれないけど。

 でも特には聞いてないな。


「分からない。でもすごい人だと思う」


「へぇ、そうなんだ。私はノルマール様に教えてもらったの」


「誰?」


 人名は先生にも教えてもらったことはないわ。


「知らないの!?ノルマール・アラカインド!王宮魔法師の!」


 そんなにすごい人なのか。そもそも王宮魔法師なんて単語も初めて聞いたからな。そんな俺が知っているはずもない。

 先生も教えてくれなかったと言うことは大切な知識ではないんじゃないだろうか。


「知らん」


「えぇー、まあいいよ。ハルトは得意魔法は何なの?」


 得意魔法?魔法を使うのに得意不得意があるのか?

 よく使う、という意味ならある。


火矢(ファイアアロー)火球(スァイアボール)かな」


 初期の初期。超簡単な魔法だ、少し恥ずかしい。

 しかしシーマの様子は馬鹿にするようなことは一切なかった。


「つまり火系統の魔法が使えるんだ!私は氷系統が得意なの」


 系統の話だったか。それならまあ、火系統で間違ってはない。

 他にも使えるけども。

 その後聞いたが、魔法書にはそれぞれ特性があるらしい。シーマの持っている魔法書は氷。先生の持っていた魔法書も、強化(ブースト)とか幻影(ファントム)とかあったけど、基本は火の魔法が多かったな。


 その後はグランも混じって魔法の話や、シーマの「自分は魔法の才能がある」という自慢話を聞いていた。

 グランみたいなのがタイプだと言っていた割にはごく普通だった。よかった、ここで二人が恋仲になったら俺がいたたまれない。

 せめて王都に着くまで待ってほしいものだ。


 王都に着くまであと数日。新しい友人もできて楽しみになってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ