二章一話 とある少女の物語⑨
私は、今は王都を拠点とする奴隷商人の馬車に乗っています。ルルリエさんが逃がしてくれたのに、また奴隷商に捕まってしまいました。
ルルリエさんが手配してくれた馬車がそれでした。きっと急ぐために仕方なかったのだと思います。
問題だったのが、ルルリエさんが死んでしまった事。ルルリエさんが亡くなった事を知った奴隷商人が私を奴隷にしたのです。
再度、隷属魔法をかけ直して。
でも、少なくとも帝都よりはだいぶマシです。
食事は少ないけれど普通に出してもらい、鞭で打たれることも、ぶたれることもありません。
だから以前よりは辛くないはずです。そのはずなのに……。
どうしようもないくらい、今の私の心は穴が空いたような感じがします。考えることを放棄したくなる気持ち。
トライヤ様は私のせいで死にました。ルルリエさんは私を逃がすために犠牲になりました。
私は……いったい何人の大切な人達の命を犠牲にしてもらうのですか。なんで……なんで大切な人たちの命を犠牲にしてまで私は生きているのですか。
そう、それに。
考えないようにしてきましたが、お兄ちゃんにだってあんなに大怪我をさせてしまいました。
そして私の大好きな人たちは必ず最期に私の幸せを願ってくれました。
だからこそ、それが私が簡単に死んではいけない理由です。
でも、許されるなら今すぐにでもトライヤ様とルルリエさんの元に行きたい。
でもそれは許されない。命を投げ打ってまで願ってくれたんですから。
それを無駄になんて、絶対にしたくありません。
馬車が止まったみたいです。
王都へ向かうこの馬車は、どうやら途中で誰かを乗せてあげるみたいです。私みたいに奴隷にされなければいいですが……。
外から声が聞こえます。
とても楽しそうな声。ごくありふれた、別れのセリフ。でも私はそんなありふれた言葉に幸せを感じる。
だって、私が幸せだと思えた時間は、家族で過ごした時間やトライヤ様と一緒にいた、ありふれた時間だったから。
そんなありふれた時間こそがきっと“幸せ”なんだと、私はそう思います。
「………あれ……?」
私は泣いてしまっているようです。勝手に目から涙が流れてきます。
よく分からない。辛い、悲しい、なんて感情なんて嫌という程味わってきたのに今更……。
大勢に見送られている人たちが馬車に乗り込んだようでした。
「……あっ、そっか……」
なんで泣いているか分かった気がします。
私は今、改めて絶望したんですね。きっと私は二度とそんな普通の、ありふれた幸せは得られないから。それを見せつけられて。
「……うっ……あぐっ………」
嗚咽が漏れてしまいます。
隣はあんなに幸せなのに、なんで私はこんなのなんですか………?
だめ、我慢しないと。こんな私がこの人達の幸せを邪魔するなんて許されない。
声だけはなんとか抑えます。
でも言いようのない恐怖と絶望は止まらないで、体は震え、涙は止めどなく溢れます。
他人の幸せを目の当たりにして、絶望してそして期待もしてしまいます。私も本当はいつか幸せになれるんじゃないか、と。
でも、それも許されません。
私は今のでなんとなく悟りました。
私と一緒にいる大切な人は、必ず不幸になる。そして死んでしまう。そんな事になるのだったら、私はひっそりと一人で死ぬことを選びます。
でも、それだと私の大好きだった人達の最期の願いは叶えられない。
どうすればいいんですか。どうすれば……。
ルルリエさん、やっぱり私に勇者様なんて現れませんよ。
私はどうしようもない奴隷。物語みたいに勇者様の手助けなんてできない。きっとまた不幸にしてしまうだけ。なら勇者様がいたとしても、誰も私を助けてくれない。
馬車が出発しました。
外からは「行ってらっしゃい」「また帰ってこいよ」と行った言葉が聞こえる。
私は安堵しました。この幸せがいっぱいの場から抜け出せるから。
「ーーーーーー!」
その時、外から女性が大声を出すような声が聞こえました。距離があるからか、窓のないこの空間ではまともに聞こえません。
でも、最後の言葉は聞こえてしまいました。
「二人とも、大好きですよ!」
………っ!!!
なんで、なんでですか。
なんで私だけこんな思いをしないといけないんですか。もう嫌だ。トライヤ様とルルリエさんに会いたい。
でも……。どうすればいいんですか私は!
誰かっ!
物語みたいにカッコ良くなくていい!勇者様じゃなくていい!だからっ!!!
『きっとソラちゃんにとっての勇者が現れる』
……誰か助けてよぉ!!!




