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一章三十八話 ヤノ村を守る大人たち



「先生!」


 先生が帰って来てくれた。正直先生が来てくれていなかったら厳しかったかもしれない。


 以前、俺は一回だけ魔物と戦っている先生を見たことがある。父さんと同じように余裕があったが、それとは少し違かった。

 自分には一切近づけず、ゴブリンなんて一撃で仕留めて、動きが早いファイアウルフも拘束魔法で動きを封じる。


 おかげで俺も『縛』の魔法式を見ることが出来た。魔力の消費が激しくてほとんど使えないが。

 魔法の強みはスタミナを使わない事、様々な魔法でどんな状況にも対処できる事。剣士とは違った魔法使いの強さを改めて知れた。


 そんな魔法使いの、あの先生が駆けつけて来てくれたんだ。接近型の俺たちもいる。一気に状況が楽になった。

 これでこいつらも諦めて帰ってくれればいいのだが。


 いや、それはないか。


「ギャハハ!私が相手です、だってよ!女一人で何ができる!」


「なかなかの上物じゃねぇか。運が良い」


 こいつらは先生のことを知らないもんな。俺からしたら、明らかに運が悪い。

 父さんが先生の隣に出る。


「先生、助かりました。俺たちが前に出るんで援護頼めますか」


「もちろんです。けど……なんでハルトくんがいるのですか」


 先生が俺を見る。その表情に浮かんでいるのは“呆れ”だった。

 昔から先生には迷惑かけたから、問題児扱いされるんだよな、時々。


「戦える人があまりいないので」


「それでも子供が出てくる場面じゃありませんよ」


「もうとっくに十三歳です」


 この世界では十三で一人前。だからもう子供扱いされる歳じゃない。この世界では基本的にこれで通すことができる。


 先生は軽くため息をついて首を振った。

 なんだか「ハルトくんにはどうせ何を言っても意味なさそうですね」とか思われてそうだ。


「どうせ言っても無駄なので何も言いませんよ」


 やっぱり。


 それはそうと、犯罪集団同士での会話が終わったようだ。

 嫌な笑みを浮かべながら、俺たちを見てくる。いや、その視線の先は先生だ。その視線に先生は嫌そうな顔をする。


 父さん達はいつでも出れる体勢だ。俺も剣を構える。


「それじゃ……」


『待って!!!』


 この野郎。耳元で大きな声出すなって言ってるのに。でも残念なことに、この様子のミドリからは重要なことを聞けることが多いんだよな。

 先生たちもミドリの様子に気付いたようだ。


「どうした?」


『村に魔物が入って来てる!』


「なっ、しかもなんでこのタイミング……!」


 少なくとも俺が生きてきた十三年間と少しでは村に魔物が入ってくるなんてことはなかった。

 それがなぜ、このタイミングで?


「ハルトくん、どうしましたか?」


 先生が俺に尋ねる。父さんたちも俺を見る。

 どうでもいいが、俺たちが話していても攻撃してこない。こいつらなりのポリシーでもあるのだろうか。人生最後のおしゃべりは〜、とか言い出しそうだ。


「ミドリが言うには、村に魔物が入って来ているみたいです」


 三人の目が驚きで見開かれる。特に先生の驚きようが異常だった。


「そんなはずはありません!ちゃんと結界だって……」


 先生は言いかけてミドリを見る。


「いえ、ミドリさんがそうおっしゃるのなら間違いありません。……クラウさん、みんなを連れて行ってください」


「無理だ。いくらあなたでもこの人数を一人で相手をするには無茶です。俺だけでもここに残ります」


 父さんは難しい顔でそう言う。それでも先生は首を振る。


「私は大丈夫ですので行ってください」


 その言葉には、一切の拒否は受け付けないといった意思を感じた。

 しかしいくら先生でもこの人数を一人で相手をするのは厳しいと思う。魔法使いの強みはどんな状況にも対応できること。しかし懐に入られたら弱い。


 普通は魔法式を正確に思い浮かべなくてはならないから、意識はあまり相手に向けられていない。

 この人数なら十分に懐に入られる可能性はある。でも先生ならどうにかなると、そうも思う。


「父さん、先生に任せよう」


「ハルト……いいのか?」


 お前たちの先生が自ら危険に飛び込もうとしているんだぞ、いいのか?そういう意味だろう。

 確かにそうかもしれない。でも俺はこの……俺が見た中で一番強くて実力の底が見えない人なら大丈夫だと思う。


「先生ならきっと大丈夫だよ。それに俺たちがこうしてる間も避難している人たちが危ない」


 それを聞いて父さんも先生に任せる気になったようだ。グランのお父さんもその気だ。


「……それじゃあこいつらお願いします」


「はい」


 父さん達は村の中へ走り出す。

 そうと決めたら迅速に行動。それが冒険者には大切なことなのかもしれないな。

 いや、それは冒険者に限ったことじゃないな。


「……ハルトくんは行かないのですか?」


 俺はまだ動かずにいた。


「本当に大丈夫なんですか?」


 先生が心配なのだ。やっぱり魔法使いにこの距離でこの人数と戦うのは明らかに不利なのだ。


「当たり前です。私を舐めないでくださいね」


「舐めているというか……」


 魔法使いにとって不利な状況なのは変わらない。現在あまり魔法が使えない俺でもいた方がいいと思う。

 先生は俺の心配そうな顔を見て、何度目かのため息をついた。


「……私はまだハルトくんに本気を見せたことはありませんよ。それにーーー」


 先生はずっと展開していた火矢(ファイアアロー)を解く。そして俺の方を見た。


「私はあなた(・・・)の先生ですよ。あなた程の天才の。私を信じてください」


 先生は俺の目を覗き込みながら言う。


 なんだそれ。俺のこれは日本で一度培ったものありきだ。そんなに天才と言われるほどのことじゃない。先生だって承知していると思ってた。


 でもーーー


「……こんな奴ら、早く倒してこっちに来てくださいね」


 なぜかは分からない。あんな、簡単な言葉だけで信じれると思えた。

 俺は後ろを振り返ることなく父さん達の後を追う。


「ミドリ!父さん達の状況は!?」


 ずっと肩にいたミドリに訊く。戦況を聞いてからどうするべきか決めたい。


『クラウ達は森の入り口の近くで戦ってるわ!それでも何体か抜けられてる!』


 魔物に何体か抜けられていても、場所を動かずに戦っているのか。戦闘において、俺は特に父さんの考えていることが分かる。

 何回か一緒に狩りに行ったこともあるし、今までほぼ毎日、一緒に実戦訓練をしていたから。


「俺がなんとかするって信じてくれてるんだ。……もしくはグラン」


 こういう時、俺を一人前扱いしてくれるのは、俺の剣の師匠である父さんだけだ。時々口を出すことはあっても、父さんだけが本当に俺を子供扱いしない。


 そうと決まればやることは一つ。


「父さん達の後ろの魔物を倒す!!!ミドリ、案内頼む!」


『任せて!』


 父さんの信頼には何がなんでも応えたい。

 しかしミドリが何も言わないということは、あいつは魔物と戦ってないってことか。全く……。


「こんな時に怠けてんなよ、グラン」



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