一章三十七話 犯罪集団と乱入者
家を出て約三分。ずっと技能で身体能力を強化してきた。森でミドリに話を聞いた時からほぼずっと使っている。今までこんなに長い間連続で使ったのは初めてだ。
魔力回路にはあまり負荷は感じない。でも倦怠感がすごい。多分、魔力回路に問題はなくても、筋肉や骨に負担があるんだ。
それでもまだ解くつもりはない。安全だと分かった時に解くつもりだ。
頑張れ、俺。
「ハルト!」
「父さん!剣持ってきたよ!」
父さん達は既に村の入り口に集まっていた。それはそうか。思ったより時間を費やしてしまったし。
「ハルト、お前は逃げなさい。ここは戦える大人でどうにかするから」
父さんが俺の身を案じてくれる。本来ならここはそうするべきなのかもしれない。
でも今回は状況が少し悪い。
「……ミドリ、集団の人数と強さの予想を頼む」
俺は気付かないうちに肩に乗っていたミドリに頼む。
ミドリはその魔力から人数と、大体どれだけ鍛えられてるかの予想ができるのだ。
『人数は十二、みんな少なくともDランクよ!』
俺は頷く。
「ミドリが言うにはDランク以上の手練れが十二人。本当に二人でこの村を守りきれるの?」
Dランクとは、ランクDの魔物を単独撃破ができるレベル。世間一般的に“強い”とされるランクだ。
ちなみにBランクになれば、その活躍はとても大きく、所属ギルドによっては最高戦力だ。
今この場にいるのは俺とミドリ、父さんとグランのお父さん。この村に戦闘技術を持ってる人はこれだけだ。
正直言って、厳しいはず。
父さんは俺の言葉を聞いて難しい顔をする。父さんの背後にいるグランのお父さんは肩をすくめて首を横に振っていた。
あれは不可能だと言っているのだろう。
「俺もここにいさせてくれ、父さん」
父さんは少し迷っていたようだった。でもすぐに結論を出す。
「……危ないと思ったらすぐに逃げなさい。そうしたら俺たちでどうにかするから」
「分かった。約束するよ」
認めてくれた。
元々、俺の歳はこの世界では大人としてカウントされる歳だ。それなのにこの場で完全に否定するのは難しいのだろう。
それに父さんは俺の剣の師匠だ。戦闘になっても十分戦えると信じてくれたのだろう。
さて、こちらはひとまずよしとして……。
「ミドリ、グランは?」
ミドリはグランの家に向かったはずなのにグランの姿が見えない。
悔しいが、グランは戦闘において俺よりも強い。
『家にもいなかったわ!もしかしたら森の中かも』
まったく!約束には遅れてくるし、こんな大切な時にもいないし。
ここ乗り越えたらちゃんとお詫びをしてもらおう。
あっ、やべ。
「死亡フラグ立てたかも……」
『なに?』
「なんでもない」
この世界は現実だ。俺は死亡フラグなんて信じてないから大丈夫。
そして、ミドリが予想した時間から少し遅れて人影が見えてきた。
『来たわよ!』
「あぁ、分かってる。明らかに犯罪者って雰囲気だな」
全員が大きな剣を持ち、明らかに奪ったような血がついて所々破けた服を着ている。
そして全員が共通した布を、首に巻いたり腕に巻いたりしている。
その笑みは、まるでこれから行う殺しが楽しみで仕方ないような感じだ。
「なっ!あの布は……!」
グランのお父さんは声を荒げる。
黒によく分からない柄が描かれた布を見て驚いている。
「どうしたんですか」
「……あの布。多分王都で有名な犯罪集団だ。全員でBランク相当の奴らだ」
Bランク。それはほとんどの英雄と呼ばれるような人達の属するランク。集団で、だとしても明らかにヤバイ。
……なんでこんな時にいないんだよ、シシル先生。
「ハルト、やっぱりお前は逃げろ」
「大丈夫だって。いざとなったら逃げるから」
それにここを突破されれば、今避難している村人が襲われるのは時間の問題。それならば俺も戦う。
父さんもそれは分かっていたらしい。それ以上言う事はなかった。
犯罪集団は俺たちを見つける。
その瞬間、ほとんどが口元を歪める。尋常じゃない寒気がした。日本を含めて初めて感じる悪寒。あぁ、これが殺気ってやつなんだろう。
向けられた殺気に足がすくみかけるが、なんとか平静を保つ。俺はシャルと母さんの為にも、ここを守って帰らなくちゃいけないんだ。
……あっ、忘れていた。
「父さん、母さんが無事に帰って来いって言ってたよ」
父さんはそれを聞いて一瞬頰を緩める。
子供もかなり大きくなってきたっていうのに、熱は冷めないもんだな。
「……当然だ。その為にもここは持ちこたえるぞ」
父さんはさらに気合が入ったようだ。
「ハルト、ミドリちゃんに中央にいるやつのランクを聞いてくれ」
「どうなんだ」
ミドリは犯罪集団の中でも明らかに雰囲気が違う、おそらくリーダーだろう男を注視する。
『……多分、Cランク……』
「……はぁ」
思わずため息が出る。
もはや子供の頃に体験するレベルの修羅場じゃないだろう。いや、全員でBランク相当ならCランクの人がいてもおかしくないか。
「どうだ?」
「Cランクらしい」
父さんとグランのお父さんの表情は変わらない。
流石。
これは戦闘における心構えの差か何かだろうか。
「あいつは俺がどうにかする。お前たちは他を頼む。ハルトは無茶するなよ」
「父さんこそ、大丈夫なの?」
一番強いやつと一対一でやる気だ。しかもそいつはCランクなのに。
「大丈夫だ。俺だってCランクなんだぞ」
「えっ!?」
強いのは知っていたが、まさかCランク冒険者だったなんて。俺の父、兼師匠は実はすごかったようだ。
それなら父さんは大丈夫かもしれない。
でも……あと十一人を子供含めた二人でどうにかしなくてはいけない。グランのお父さんがどれだけ強くても、数の強さに勝てるとは思えない。
状況はかなり厳しかった。せめてグランがいればかなり違かっただろうに。
お互いの距離はもう二十メートルもない。
俺たちはそれぞれ剣を構える。
状況は最悪。
それでも諦めるわけにはいかない。
シャルに約束したんだ、お兄ちゃんとしてすべき事をすると。
犯罪集団の口元は更に歪んでいく。そして遂に全員が俺たちに向かって走り出した。
その時だった。
「止まりなさい!」
綺麗に澄んだ声がその場に響く。
集団は思わず立ち止まり、俺たちも声がした方を見た。
「私が相手をします」
そこには火の魔法を宙に浮かせた銀髪の女性。
シシル先生がいた。




