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一章三十四話 シシルの事情③



ーシシルー



 ヤノ村から馬車で一週間のところに王都はある。かなりの距離だ。

 最近はあまりヤノ村の外に出ることはなかったし、久しぶりだと、なんでもない風景も見ていて楽しい。

 本当なら久しぶりの王都だと、もう少し楽しみになるのかもしれないけど、今回はそんな気になれない。


 私が一番苦手な人に会いに行くのだ。

 魔法も凄腕でスキルも異常、そして人格もムカつく人だ。

 魔法学園、現学園長。


 本名は私すら知らない。きっと今の時代には知ってる人はいないだろう。

 自分のことを隠してるところも、なんだか嫌らしい。

 多分、あれがハルトくんの言う「中二病」というやつなんだと思う。


「はぁ、会いたくないなぁ……」


 その人格もムカつくのだが、前回は喧嘩別れをしてしまったのだ。

 当然、会いづらい。

 一千年も前からの知り合いってだけでも会いたくないのに。


「まぁ、私が向かってることはもう知ってるでしょうけど」


 なんでも知ってる風で、実際に知ってるからムカつく。

 もしかして同族嫌悪だったりするのだろうか。それはないと信じたい。


 もう王都はすぐそこだ。


 どのみち会わなくてはいけなくなっていたのだ。少し予定が早まっただけのこと。別にいいじゃないか。

 よし、とりあえず久々の王都を楽しもう。

 それじゃあ行こう。




「……お嬢ちゃん、いつまでそうしてるかなんかね?もう出発したいんだが」


 決意はしても体が動かなかった。


「……会いたくない人がいるんです……」


「ふむ、わしには関係ない。さっさと行きな」


 容赦ないご老人に無理矢理に馬車から出される。悪いのは私なんだけども。


(会いたくないー!)


 私は体を引きずるようにして、私の気持ちとは正反対に賑やかな道を歩いて行った。

・

・

・

・

・

 王都有数の人気宿。


『ライク』


 気持ちの良い接待と清潔さ、何より宿屋でありながら一日中料理を注文できるのが強みだ。


「ーーーっ!美味しいです、おかわり!」


「……あんたねぇ、これから学園長先生のところ行くんだろ?そんなに飲んで大丈夫なのかい?」


 私の行きつけの宿屋でもある。ここならお金がなくてもツケが効くのだ。

 それにここの店主は私の昔馴染み。

 獣人族と人族の、獣人族寄りのハーフのおばさんだ。


「大丈夫ですよ、私はあまり酔わないので」


「知ってるけどさぁ……一応、立場的に目上の人なんだろう?」


「あの人に敬意なんて払いたくありません!どうせ今も覗き見してるのでしょうし」


 おばさんは苦笑いをしながらおかわりのお酒を入れてくれる。


「それで、今回のお代は……」


「そのうち私の教え子が来るので彼らに」


「あんたの教え子は苦労するね。ハルト君にグラン君だね、覚えたからね」


 その後、少し話してから注文が入る。おばさんは他のお客さんの注文に行った。

 去り際におかわりの三杯分のお酒を置いていってくれるのが、おばさんの良いところだ。

 ツケでは、あと三杯までだとも言ってるのだろう。


 食べ物の恨みは怖いと言うが、その逆もまた然りだと思う。

 ありがたい。


「全く、飲まずにはいられませんよーーーぷはぁ」


 お酒を一杯一気飲みをする。こんなところ、あの子達には見せられないな。


 その後はちびちびとお酒を味わっていた。

 その頃、私を指をさして何か話している若者がいることに気づいていた。


「お前が行けよ」


「いや、ナンパはお前の専売特許だろ」


「はっ!?誰が!」


 とある二人組。


 私をナンパしようとしてるようだ。

 これでも千二百歳のおばあさんですよ……って誰がおばあさんか!


「色白だし、綺麗な銀髪よね」


「あの紅い瞳もミステリアスでいいわ」


「是非ともお近づきになってお姉様って呼びたいわ」


 なんだか私に熱い目線を向けてくる王都風女子三人組。


 たしかに私の銀髪は自慢の銀髪だ。それを褒められると良い気分になるな。

 そう、ハルトくんたちと関わってると忘れがちだが私は美人なのだ。

 最近、自信喪失気味だったけど別にいいじゃないか。


 王都に来ればこれだけ注目を集められるのだから。


 って……。


「さすがに少し酔ってきたようですね」


 少し恥ずかしくなる。自信過剰気味になってしまった。

 私程度の容姿の女性ならいくらでもいるのに。


「おばさん、水ください」


「はいよ……ってあんた、少し顔赤いよ」


 見た目でも酔ってるのが分かるくらいには酔えたみたいだ。

 残りの二杯を一気にいく。


「ーーーっぷはぁ……おばさん、私の教え子たちにツケでお願いします」


「はいよ、気を付けな」


「はーい、心配ありがとーございます。それでは」


「本当に気をつけなよ」


 私はフラフラしながら『ライク』を出る。これくらい酔えればあの人に会ってもいいかな。

 それに、そろそろだろう。




「シシル様。魔法学園学園長がお呼びです」


「どうかご同行願います」


「………はぁい」


 やっぱり来た。

 ローブを着た、明らかに魔法使いである人たち。

 私の行動を見てしびれを切らした学園長が使いをよこしたのだろう。

 約束をしたわけじゃないから文句を言われる筋合いはない。


 出来れば酔いが覚める前に話を終わらせたいところだけど……。


「学園長から伝言です。

 『私を待たせるとはいいご身分ですね。酔いは覚まさせませんよ』」


 やっぱり見ていたようだ。

 一瞬でもアレと恋仲になった昔の自分を殴ってやりたい。

 あの覗き魔と………またムカついてきた。


 どうせ見ているのだろう。ならば聞こえてもいるはず。

 だからはっきりと聞こえるように言おう。


「やっぱり私はあなたの事がキライです」


 『私もですよ』と聞こえた気がした。



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