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一章二十九話 とある少女の物語⑥



 帝都の中心部に位置する城。

 皇帝とその家族、一部の大臣と貴族、そして皇帝に認められた者たちが住んでいます。


 そして今の私の「地獄」です。


 あの日。

 トライヤ様が殺されたあの日に、私はここに連れてこられて来ました。

 今は皇子専属のメイドとして働いています。休みなんてものはありません。


 一日中ずっと働きっぱなし。

 そして皇子の機嫌でぶたれ、罵られ、他のメイドからも悪く思われている。

 そんな環境が今の私が置かれている環境です。


 苦しいけど、大丈夫。

 トライヤ様は最期に私の幸せを願ってくれた。

 だから幸せになれる日まで、私はいくらでも頑張れます。



 ………………嘘です。


 トライヤ様の最期の言葉なのに。その願いを叶えなくちゃいけないのに。

 私はそれを重荷に感じてしまっている。


 辛い。

 トライヤ様。どうして死んでしまったんですか。

 ………私のせいなんですよね。分かってます。そう、私のせいでトライヤ様は死んでしまった。


 トライヤ様………。


「うっ……うぅ……」


 だめです。涙が溢れてしまいます。

 こんなところを見られたら、また皇子にぶたれてしまうのに……。


「うぅぅ……ひっく……」


「ソラちゃん!どうしたの!?」


「ルルリエさん……」


 私と同じメイド服を着た女性が心配をしてくれています。

 この辛い環境で私が頑張れている理由。私の先輩のルルリエさんです。


「ソラちゃん、どうしたの?またあのバカ皇子に殴られたの?」


「い、いえ。違います。すみません、心配をおかけしてしまって……」


 私は何度も何度も涙を拭う。

 あぁ、だめ。涙が止まってくれない。


「…………ソラちゃん、私の部屋に行きましょう」


「すみません……」


 おかしいな。

 悲しく感じてないのに勝手に涙が溢れてきます。

「昔々、魔王がまだ存在していた頃の話。


 あるところに一人の奴隷がいました。


 彼女の主人は本当に酷い人でした。


 彼女の両親を殺し、彼女を奴隷にしたのです。


 気に入らないことがあればすぐに暴力を振り、暴言もいつものこと。


 何度も殺されかけて、魔法のせいで自殺することも許されませんでした。


 彼女はそんな環境で狂うことも封じられながら日々を過ごしていました。


 そんなある日、そこに一人の少年が訪れました。


 彼女はその少年に興味を持ちました。


 屈強などとは言えない身体でも、どこか鍛えているように見える。


 少年を大きく見せるような自信を持っていました。


 そして少年は彼女の主人の屋敷で過ごす間、彼女ととても仲良くしていました。


 彼女は少年の冒険の話を聞き、数年ぶりにたくさん笑いました。


 少年の優しさにもたくさん触れました。


 そんなある日、彼女はついこぼしてしまうのです。


『辛いんです。どうか助けて下さい』


 彼女はそれを言ったことをすぐに後悔しました。


 不安なことに、彼女の主人に聞かれてしまったのです。


 彼女の主人はひどく怒り、彼女に罰を与えようとしました。


 次こそは死んでしまうかもしれない。


 そう思ってしまうような罰でした。


 彼女に手が伸びてくるとき、その手が少年によって止められます。


『俺がこの子を買おう』


 少年はそう言いました。


 彼女は一瞬、とても期待してしまいした。


 でもすぐに諦めます。


 様々な教養を持つ彼女の値段は計り知れないほど高いのです。


 彼女の主人は言いました。


『私の全財産と同じ値段を用意してみせろ』


 無理な話です。


 貴族である主人の財産と同じ額など、まだ若い少年に払えるわけがありません。


 しかしなんと、少年は一度屋敷を出るとすぐに主人の全財産なんで比べ物にならないほどの大金を持ってきました。


 主人は喜んで彼女を売りました。


 魔法も解かれ、元主人の呪縛から解放されたのです。


 元主人は少年に問いかけます。


『そんな奴隷一人にどうして全財産を捨てるのだ』


 少年は彼女に笑顔を向け、問いに答えました。


『好きな子が辛い思いをしているのが耐えられなかった』


 少年はのちに魔王を倒し、勇者と呼ばれました。


 彼女は何度も少年を助けました。


 二人にはたくさんの苦難がありました。


 それでもなお、彼女は少年と幸せな人生を送ったのです。



 ……ずっと伝わっている昔話よ。きっとソラちゃんにとっての勇者が現れる。

 それにソラちゃんは、あなたの主人の最期の願いを叶えたいのよね?」


「……はい」


 私が幸せになることを、トライヤ様は最期に願ってくださったのです。

 どんなに辛くても私は幸せにならなくちゃいけないのです。


 でも……もう疲れました。


「ソラちゃん、今はとても辛いわよね。でもきっと幸せになれる。私はソラちゃんの為なら何でもするから、だから頑張って」


「分かりました……」


 本当にこんな私に勇者様なんて現れるのでしょうか。


 いえ、期待してはいけません。

 なぜなら私の人生でそんな事は起こりえないと、もう分かってしまっているから。


「うっ………」


 また涙が流れてしまう。


「もう、泣かないの!大丈夫、何かされそうになったらお姉さんが助けてあげるわ!」


「ルルリエさん……」


「私はソラちゃんのこと、妹だと思ってるわ。妹を守るのは姉の権利よ」


 義務だと言わないところがルルリエさんらしいです。こんな簡単な言葉に、私は少し救われています。

 ルルリエさんと一緒に居られる限り私はまだ頑張れると、そう思えます。


「ほらっ、ソラちゃん!元気出して!」


「あっ……」


 ルルリエさんが強く私を抱きしめます。一緒に頭も撫でてくれます。

 それはまったく違うのに、何故かトライヤ様を思い出してしまいました。


 トライヤ様と同じ、とても優しい……。


「うっ……うわぁぁぁん!ルルリエさん……っ!お姉ちゃん……っ!」


「よしよし、私がついてるわ」


 私を守ってくれるルルリエさん。

 この人の為にも、きっと私は幸せになりたい。



 トライヤ様。

 まだ、私は頑張れます。




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