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一章二話 君は誰ですか?



「君は、誰ですか?」


 先生と二人きりになって、いきなり言われた言葉。


 何が言いたいかは分かる。

 出来るだけ以前と同じよう、子供らしく振舞ったつもりだが、無理があったのかもしれない。

 先生の事だから態度以外も何かあるかもしれないが。


 確かに、精神的にはかなり成長した。

 周りからしたら別人のようかもしれない。

 でもーーー。


「俺は母さんと父さんの息子の、ハルトです」


 それでも俺は、母メアリと父クラウの息子のハルトだ。


「…………………」


 先生はその紅の瞳で、ジッと俺を見る。

 俺は正面からその視線を受ける。

 後ろめたいことなんて何もない。

 だって俺は正真正銘、ハルトなのだから。


「……分かりました。君がハルトくんだと信じます。

 でも出来れば何があったか、教えてくれませんか?」


「えぇ………、そんなに俺、変ですか?」


 自分ではそこまで違和感があるとは思わないのだが。


「確かにハルトくんの様子も、少しおかしかったですけど、それだけじゃないです。

 ハルトくんがファイアウルフに噛まれた時、まるでハルトくんの中に特殊な魔力が混ざりこんでいったように見えたんです」


 なるほど、とりあえず。


「魔力って何ですか?」


 日本でゲームもよくしてたから、全く分からないわけじゃない。

 しかし知ってるのは「ゲームでの」魔力だ。

 この世界の魔力に関しては、全然知らない。


「魔力というのは魔法を使うために必要なエネルギーのことです。

 基本は体力や、スタミナと同じように考えて下さい」


 ふむ、予想通りではある。


「それで、何で先生の言ったような事が起きたんですか?」


「分かりません。

 ですがあのような光景は、今まで見た事がありません。ですから何があったか教えてくれませんか?」


 どうしようか。

 あまり人に教えるものじゃない気がする。


 考えてもみてくれ。

 異世界での記憶があります、なんて言ったら場合によったら間違いなく面倒事に巻き込まれる気がする。

 しかし先生はもう、俺の様子がおかしいと気付いてるようだし…………。


「警戒しないで下さい。

 ………と言っても、そう簡単じゃないですよね。どうやって信じてもらいましょうか……」


 先生は腕を組んで、う〜ん、と悩みだした。

 無邪気……というか、ぱっと見の歳相応に可愛らしい様子に、危険はないように見える。

 先生は村人からの信頼も厚い。

 大丈夫な気がする。


「先生は俺の味方ですか?」


「当然です」


 先生は即答する。

 その言葉を信じてみようか。


「じゃあ、今から言うことは絶対秘密ですよ」


「分かりました………。口の硬さには自信があります」


 俺は日本での事と、一度死んだ事、二人分の記憶がある事などを話した。

 話している間、先生は少し大げさに驚いたりする。

 話していて楽しい。

 先生は聞き上手だな。


 全てを話すと、先生は少しの間黙り込んでいた。

 考えがまとまったのだろう、先生が俺を見る。


「………以前、ある魔法学者が魂と魔力の関係性を研究してました。

 魂とは、特殊な魔力のかたまりだと。

 今のハルトくんは、その仮定が当てはまる気がします」


 この世界では魂の存在が肯定されているらしい。


「そうだとすると、君は本当にハルトくんだと言えるのですか?」


「はい。言えます」


 誰がなんと言おうと、俺はそのつもりだ。

 ハルトの記憶と感情はそうだと言っている。


「そうですか。

 なら私も協力しましょう。

 両親には私から上手く言っておきます。今のままじゃ、そのうち心配されてしまうでしょうからね」


「本当ですか!?ありがとうございます!」


「どういたしまして」


 ニコッ、と先生は笑う。


 やはり言ってよかった。

 先生が味方になってくれればとても心強い。

 

「ちなみにハルトくんは、日本という場所では何歳だったんですか?」


「二十一でした」


 今気づいたが、そう考えると先生より俺の方が精神年齢は年上か。

 先生の容姿からして十八前後だろうしな。


 そう思っていたが、実はそうでもないらしい。


「じゃあ、まだまだ私の方が年上ですね」


「えっ!」


 素でおどろく。

 どう見ても二十にはなっていないように見えるが………。


「あぁ、私の容姿は人族からすると大体、十八歳くらいですからね。私は人族ではありませんよ」


「ええぇぇぇぇ!」


 まさかの他種族様でした。

 どこから見てもおかしな事は見当たらない。

 銀髪と紅瞳は日本じゃありえなかったが、この世界ではそこまでおかしくはなかろう。


「え、じゃあいったい何族なんですか!」


「乙女の秘密です」


 えらく可愛く返されたが、気になる。

 しかし、ここでしつこく訊くのも悪い。

 きっといつか暴いてやる。


 そういえば、


「先生、俺先生の名前知りません。名前教えてくれませんか」


 両親からは、先生だと紹介され、

 村人はそれ以外で呼んでるところを見た事がない。


 先生はニヤリとする。


「ハルトくん、その歳でナンパとはおませさんですね」


「そういうんじゃないですよ!」


 普通の三歳じゃないって知ってるだろうに。

 確かにとても可愛らしい容姿をしてるが、俺の好みではない。

 この人をそういう対象で見る事はないだろうな。


 先生は少し笑い、俺を見る。


「冗談です。ハルトくんも自分の事教えてくれたし、私も自分の事を少し教えてあげましょう。

 私の名前はシシル。千二百六十歳。特技は魔法。よろしくお願いしますね、ハルトくん」


 先生は笑顔で、そう自己紹介してくれた。

 

 窓から入ってくる月明かりを、先生の銀髪が反射してとても幻想的な光景だった。


「俺からもよろしくお願いします」


 そしてどちらからともなく握手をした。




「それにしても、先生って案外おばあさ……」


 ニコリ


「………いや、なんでもありません」


 なぜか恐怖を感じる笑みだった。


「女性に年齢の話をしてはいけませんよ」


「は、はい」


 先生は立ち上がり、部屋の電気をつけた。


「日本という所では科学の力で明かりを点けていたのですよね」


「はい」


「これは魔法具。魔力を消費して使う道具です。必ず誰かが魔力を提供していなくてはいけません」


 魔法具か、やっぱりあったな。

 魔法があるなら、そういうものもあると思った。

 魔法を使えるようになったら、いつか作ってみたい。


「私はすごく日本のことが気になっているのです。教えてくれますね?」


 先生は、とても期待に満ちた顔をしていた。

 まったく、そんな顔されたら嫌なんていえないな。


「もちろん、いいですよ。

 まず日本とは、とても治安が良くーーー」


 その夜は長々と、俺から見た日本を先生に語っていた。

 


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