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一章二十八話 精霊の契約



『私と契約しなさい!』


「…………は?」


 緑色の精霊からシャルの手紙を返してもらって数分。

 いきなり突拍子のない事を言われた。


『何をぼけっとしてるのよ、この精霊様が人族と契約してあげるって言ってるのよ!』


「いや……そもそも契約ってなんだ?」


 それなりに先生の授業を受けてきたが聞いたことのない言葉だ。

 というか本当にこいつは精霊だったのか。実際は魔物だと思っていた。


『はあ?そんなの常識でしょ』


「いや、多分それ、俺たちの常識じゃないと思うんだが」


 なかなか生意気なやつだな。数分前は泣きながら俺に頭下げてたくせに。

 精霊はやれやれ、といった風で肩をすぼめた。


『仕方ないから教えてあげるわ。精霊と人間とで魔力のパスを繋げるのが契約っていうの。契約をしてる間は唯一無二のパートナーなのよ!』


 ふむ、なるほど。

 説明してくれたつもりかもしれないが、結局よく分からない。

 こういう時は先生に頼るのが一番だ。少し話を聞いたら村に帰ろう。


「それって何かデメリットとかないのか?」


『ないわ!色々なことができて、良いこと尽くめよ!』


 そうか、それなら別に契約とやらをしてもいいか。デメリットさえ無いなら特に気にしない。

 一緒にいるって言うなら、それはそれで面白そうでもある。


『でも契約してる間は少しだけ魔力をもらうけど』


「それがデメリットって言うんだ!」


 危ない。危うく契約を許すところだった。

 やっぱり、とりあえず先生のところへ行こう。こいつの説明だけじゃ不安でしょうがない。


『大丈夫、人間からしたらほっとんど気にならない量よ』


「俺の魔力量は普通よりすごく少ないんだよ」


 未だに火矢(ファイアアロー)一発撃てばバテる魔力量なのだ。

 そんなに少ないのにこれ以上魔法が使えなくなってたまるか。


 精霊は俺の言葉を聞いて不思議そうな顔をした。


『お前の魔力量が少ない?なにをいってーーー」


 ガサッ


 精霊が何かを言いかけたところで、近くの茂みから音がした。

 魔物ならすぐに戦闘態勢を取らなくてはならない。俺は剣の柄に触れた。

 が、しかし俺は見慣れた黒髪が見えた。


「ってシャル!?」


 あの黒髪の頭は俺が長年撫で続けてきた頭だ。それは見間違えることはない。

 俺のシャルセンサーが反応する。

 俺はすぐに茂みに近づいていった。


「シャル、何してるんだ」


「うっ……ごめんなさい」


 俺は頭を抱えた。


 大方、俺が面白そうなことをしようとしてるのを見抜いてついて来たのだろう。

 こんな危ないところについてくるなんて。


 今の今まで気づかなかった俺も俺だが、ついて来たシャルもシャルだ。

 明らかに離された時があっただろうに。

 シャルにもお兄ちゃんセンサー的なのがあったり?だとしたら嬉しい。


「とにかく、家に帰ったらしっかりと反省してもらうからな」


「はーい…………」


 まったく……。

 とにかくこうなっては森の中は危険だ。予定通り教会に向かうか。


「と、言うわけだ。俺たちは村に帰るから、とりあえず契約云々はそれからって事で」


『いいわ、我慢してあげる。お前の妹可愛いわね』


「だろう!」


「お兄ちゃん、なに一人で話してるの?っていうか何それ!綺麗な緑色!」


 あっ、そうか。

 俺のスキルで精霊の言葉が分かるって事はシャルには俺の独り言に聞こえるのか。

 今はあまり話さないようにしよう。


「これは精霊っていうんだ。とりあえず先生のところへ行こうか」


「よく分からない時は先生に頼るのが一番だもんね」


「そういうこと」


 俺の可愛い妹は最近賢くなってきた。お兄ちゃんとしては嬉しい限りだ。

 俺とシャルは手を繋いで森を抜けていった。




『あの魔力……どんな兄妹よ……』

「先生の豆知識コーナー」


「変な名前をつけるのはやめて下さい」


 定番の光景に、ついふざけてしまった。

 ちなみに、教会に入ってきた時はやっぱり寝ていた。

 今日の髪の毛はいつもよりボサボサだ。


「それで、なんでハルトくんが精霊と一緒にいるのですか」


「やっぱりこいつの事知ってるんですね」


 流石は先生。

 色々な本に載っていないこともよく知ってる。


「はい、それでは今日の授業は精霊やその契約についてにしましょう。シャルちゃんも飛び入りです」


「お邪魔してます」


 シャルがずいぶん大人びた雰囲気を出している。まだ八歳なんだからもう少し子どもっぽくていいのに。

 ちなみに話題の精霊といえば、今は俺の頭の上で寝ている。

 俺が襲ったせいで疲れてるのだと考えると、申し訳なくて起こせなかった。


「まず精霊の定義として、精霊とは自我を持った魔力です」


「先生、いきなりよく分かりません」


「ちゃんと説明するので聞いていて下さい」



 まあ、そんなに難しい事ではなかった。

 魔力が集まり、変質したものが魔物となるように、魔力がそのまま自我を持ったものが精霊となるらしい。


 魔物と一緒にするのは怒るからしない方がいいらしい。



「精霊は魔力を吸収して生きています。そして質の良い魔力を持った人間がいれば、契約して力を貸す代わりに魔力を少しもらうのです」


 なるほど。という事は、俺は魔力の質が良いということか。

 初めて知った。

 それでもなお、魔力量が少なくてほとんど魔法が使えないなんて……。

 《言語理解》も含めて、宝の持ち腐れ感がすごいな。


「俺が精霊と契約したら魔力量がヤバかったりしないんですか?」


「しません。必要な魔力量は本当に極小です。ハルトくんでも、一週間徹夜しない限り問題はないでしょう」


 そんな事したくない。

 そもそもそんな事したら正気を保てないだろう、人間はそういうものだと思う。

 しかし、それなら契約をする第一関門クリアだ。


 第二関門は……そうだ。


「先生、精霊ってどれだけ珍しいんですか?」


「私は少なくとも見たのが五百年ぶりですね」


 なるほど、つまり最強に珍しいということか。

 これは人にみつかってはいけないな。


「ハルトくんの心配もわかります。でも大丈夫です。精霊は契約者の魔力の流れに溶け込むことが出来ますから」


 ふむふむ。


「どういうことですか?」


 もう少し分かりやすく言って欲しい。


「精霊はもともとただの魔力なので契約者の魔力なら混ざることができるんです。一体化です」


 なんと、それは便利だ。

 しかし俺がどうこう出来ることじゃないそうだ。あくまでも精霊の判断で出来るらしい。

 それでも、これで第二関門クリアだ。

 第三関門は思いつかない。


「ハルトくんはとりあえず契約してみたらいいと思いますよ。デメリットもありませんし、むしろメリットが大きいです」


 あっ。

 そういえば大切な、契約によるメリットを聞いていなかった。


「メリットは主に四つ。精霊の加護の会得、感覚の共有、知識の共有、そしてスキルの共有です」


 明らかに凄そうなのが並んだな。

 一つ一つ質問させてもらおう。


「精霊の加護とは?」


「毒類に強くなり、呪い、洗脳魔法の類から守ってもらえます」


 これはチートですね、明らかにチートだ。

 実際、この世界の呪いも洗脳も脅威になるからな。


「感覚の共有と知識の共有は?」


「感覚の共有はリスクとしてひどく酔いますが、五感を共有できます。知識の共有は、お互いが相手に見せようとした知識を見ることができます」


 はい、これもチート。

 この小さな精霊と五感共有って、隠密作業には無敵だ。

 知識の共有も、座学に限らず様々な経験が効率二倍で手に入る。


「スキルの共有は……」


「それはその名の通り、人間の持つスキルを精霊も使えます。ハルトくんの場合、精霊も全ての言語を理解できますし、魔法式も理解できます」


 それは、よく分からない。

 言語が理解できるのは便利かもしれないがそれまで。

 魔法式の理解こそ、魔法が使えない精霊が出来ても意味がないのではないだろうか。


 まあ、きっと何か役に立つだろう。


「なるほど、ありがとうございました。俺、こいつと契約してみようと思います」


「はい、それがいいです」


 先生はニコッと笑った。相変わらず綺麗な笑顔で笑う人だ。


「にしても、なんで俺なんでしょうか。魔力量ならシャルが断トツなのに……」


「ハルトくんの魔力がよほど美味しかったんじゃないですか?精霊にも魔力の好き嫌いがありますし」


 なるほど。嬉しいような、嬉しくないような。

 魔力の質が良いっていう方がよほど嬉しいのだが。


 さて。


「ほらシャル、起きろー。授業終わったぞ。ついでに精霊も」


 最初から寝ていた精霊はともかく、シャルまで途中で寝ていた。

 確かにシャルの授業じゃないが、為になるのに。


「むにゃ……お兄ちゃん、お腹すいたんだけど……」


「そういえばもうそろそろで夕食の時間か。勝手に森に入った事、ちゃんと母さんと父さんに叱られなさい」


「うげぇ……」


 当然だ。

 どうせいつもみたく俺に付いてったんだろうな、って思ってるだろうが、それでも心配はしているだろう。


『それで、私と契約することにしたの?』


 精霊は俺の目の前に飛んできた。


「あぁ、お互いウィンウィンな関係らしいしな」


 デメリットがない時点で契約は許すつもりだったが、まあ、メリット目当てとしておこう。

 だって少し恥ずかしいし。


『決まりね!これからお前と私は精霊の契約をする。いいわね!』


「もちろんだ」


 この元気な少女との日々を思い描いてみる。

 イラつくこともありそうだし、五月蝿そうでもある。でもきっと楽しい。

 シャルとも、出来れば仲良くなってほしいし。


 いつまで一緒にいるか分からないけど、きっとそれはまだ全然先だ。


『それじゃあ契約をするわ!お前の名前を教えなさい』


「俺はハルト」


『そう、それじゃあハルト、手を出して』


 俺は言われた通りに手の平を出す。精霊はムスッとする、気に食わなかったらしい。

 精霊は拳を突き出してきた。

 なるほどな。


 俺も拳を握って、精霊の拳と合わせる。

 精霊は一瞬嬉しそうな顔をして、すぐにそれを隠す。


 ドクンッ


 周囲が震えたように感じた。

 周りの空気が変わる。

 この感じ……おそらく魔力だ。周囲の魔力がこいつに集まって来ている。


 精霊は口を開いた。



『私は聖なる魔力から生まれし草木の精霊。

 精霊王に誓う。契約者ハルトを守り抜くことを。

 ハルトに死が訪れるまで、この力を貸し続けることを。私が聖なる魔力に還るまで、ハルトの願いを貫くことをーーー』



 精霊はそこで言葉を区切って俺を見た。

 俺はさっきまでのおちゃらけた雰囲気からは想像できない様子に驚いていた。

 しかし、精霊は俺に何かをして欲しそうにしていた。


(名付けです。精霊と契約するときは契約者が名前を付けてあげるんです)


 離れた位置から先生が教えてくれる。

 また何かの魔法を使ったのかな。テレパシー系か。


 それにしても、名前か。

 実はもう決めていた。こいつを初めて見たときに思い付いた印象だ。

 俺はその名を口にする。



「ミドリ。それが君の名前だ。俺はこの名前をずっと忘れない」


 安直だと笑われるだろか。

 それでもいい。俺がこいつをそうやって呼びたいのだから。

 精霊、いや、ミドリは嬉しそうに笑った。



『ーーー私の名前はミドリ。精霊王と契約者ハルトに誓う。この名前を生涯大切にすることを』


 そう言った途端、ミドリと俺が光り出した。そしてその光は俺とミドリを繋ぐようにして形作られる。

 俺とミドリを繋ぐ糸のように。

 そうして、まるで体に染み込むように光の糸は消えていった。


 確かにミドリと繋がっている感覚が残った。

 ハルトくんがミドリさんとの契約を済ませ、シャルちゃんと一緒に家に帰っていった。

 今頃、シャルちゃんはクラウさんとメアリさんに叱られてる頃だろう。


 精霊と契約をした場面に立ち会ったのは初めてだ。もう、流石はハルトくんとしか言いようがない。

 もはや嫉妬なんてものは湧かない。

 ただ、あの常軌を逸した我が教え子を見守りたいという気持ちがあるだけだ。


「それにしても、あなたは一緒に行かなくてよろしかったのですか?」


 実は私の方に、髪に隠れるようにしてミドリさんがいる。

 私と話したいことがあるらしい。


『ーーーーーーーー』


 あはは、何言ってるか全く分かりません。ハルトくんの《言語理解》本当便利ですね。

 でも私にはこれがあります。


伝心(テレパス)


 相手と心を通わせる魔法だ。

 これがあれば言葉が通じなくても、思っていることが分かる。


(これは、お前の魔法?)


(はい)


 流石は精霊、一言目で伝心(テレパス)で話してきた。


(その銀髪……お前って、もしかしてーーー)


(それは秘密にしてるんです)


 現在の最も秘密にしたい事柄の一つ。

 いつかは誰かに言う時が来るかもしれないけど、今じゃない事。


(そうなの。それと、なんでハルトは自分の魔力が少ないと思ってるの?)


 これは訊かれると思っていた。

 この人にならハルトくんの助けになってくれるかもしれない。


(ハルトくんに施されてる封印、それをご両親に口止めされてるのです。どうかあなたも秘密にしていていただけませんか)


 そして所々で助けてあげてほしい。あの子の性質上、ただ平和な日々は遅れないだろうから。

 ミドリさんはニヤニヤ笑っている。なんだか馬鹿にされてる感じがする。


(お前みたいのがここにいるのは驚いたけど、結構ちゃんと“先生”してるのね!面白いわ!)


(私だってやるべき事はしてるんです)


 今までで三度目の精霊だけど、ここまで無遠慮な方は初めてだ。

 それでも精霊は偉大な方なのだ。とある宗教では神として崇められる程度には。


(ミドリさん、あまり他の人にバレないようにしてください)


(分かってるわよ。ハルトを危険な目に合わせるわけにはいかないからね!)


 なんだかんだ、この方はハルトくんのことを慕っているらしい。

 まあ、契約を結んだ時のハルトくんは一緒にいたいオーラがあったのは事実。

 ミドリさんもお目が高いということだ。


 ミドリさんは私の方から飛び立った。方向的に、ハルトくんの家に向かうのだろう。


 別れ際、彼女は私に言ってきた。


(お前の目が届かないところでは私がハルト達を守ってあげる!安心しなさい!)


 その言葉に私は苦笑いしてしまう。

 流石は精霊。

 どうやらこの方には私が今この村にいる理由がお見通しのようだ。おそらく私のスキルと、なぜこの村に来たかも。


 それでもきっとこの方は村の人たちにそれを言うことはない。

 きっとそれが面白くはならないから。


(それじゃあね!シシル“先生”!)


 散々私が先生としてやっているのを小馬鹿にしていたのに。

 認めてくれたのだろうか。だとしたら光栄だ。


(お気をつけて)


(分かってるわよ!)


 私は光を出しながら飛んでいくその姿を、見えなくなるまで見送っていた。

「いいか、お前らの仕事は村を襲うことだ、入り口は俺が作る。成功したらこの村も、村人も好きにしろ」


 王都にある、とある酒場。

 一人の男が明らかに盗賊のような見た目をした男に話す。


「その程度の仕事、失敗しねぇさ」


 彼はこの場にいる盗賊団のリーダーだ。

 彼らは最近捕まったはずの犯罪集団。戦闘スキルを持った奴らが沢山いる、王都のギルドがやっと捕まえた盗賊団だった。


 しかし捕まえてから一週間後、どうやってか姿をくらましていた。


「ギャハハ!そりゃあ女子供殺し放題ってことか!」


「最高の仕事だな!そんな果ての村にゃ大した奴ぁいねぇだろ」


 盗賊たちは大声で笑う。これだけ大騒ぎしても何も言われない。

 よく見れば、周囲にあるのはただの模様ではなかった。


 人の血だ。店主も、客も、既に全員殺されていた。


「報酬はどうなる」


 盗賊団のリーダーは依頼主に話しかける。その雰囲気は確実に手練れのそれだった。


「報酬は……そうだな、帝国へ行かせてやる」


 王都で指名手配された彼ら。

 既に動きづらい現状だが、帝都なら問題は無くなる。


「悪くない。破ったらお前の首は胴体とおさらばする事になる」


 彼の目は、それが冗談でないことを物語っていた。


 わざわざ王都のギルド、更に騎士が盗賊団の行方を必死に探していた。

 王都の現王直属の騎士までが出向くような、危険視された盗賊団。

 そんな彼らは、密かに計画を実行へ移そうとしていた。




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