一章二十七話 精霊
「出てこい!シャルの手紙を返せ!!!」
森の幽霊と噂されていた奴の仕業だと思われる犯行。よりにもよってシャルのくれた手紙を盗むなど、絶対に許さない。
無事に取り返してさらに土下座はしてもらわなくては。それでこの怒りが落ち着けば許してやってもいい。
気配はある。
離れていくような感じじゃない。今も俺を眺めていやがる。
その時だった。
『くすくす、人間って本当に鈍感ね!』
小馬鹿にしたような、その声を聞き漏らすことはない。
研ぎ澄まされた聴覚が、方向までも正確に認識した。
「そこかぁぁぁ!!!」
『えっ、きゃあぁぁ!』
「逃がさねぇ!」
飛び回るそれは緑色の小さな、小人……?羽の生えた小人だった。
「って、そんなの関係無い!」」
俺はそれめがけて剣を振る。技能の身体強化も惜しみなく使う。
『えっ、ちょっ、待って、やめてぇぇぇ!』
緑色の……見た目から妖精、いや、この世界には妖精族がいるからな。
精霊としよう。
緑色の精霊(魔物か?)は鱗粉のような粉をこぼしながら逃げ回る。
その小ささからか、随分と速い。
「くっそ、すばしっこい……!」
俺はさらに体を強化する。体が悲鳴をあげるが気にしていられない。
俺はさっきよりも速い、動きと剣速で追い込む。
精霊か魔物か知らないが容赦はしない。
周囲の草木も同時に斬って斬って斬りまくる。
緑色の精霊は疲れてきたのか、だんだんとスピードが落ちる。それでもなかなか捕まらない。
「こうなったら……火球!」
魔法式『火』『球』で作った魔法だ。魔法式を暗記しただけの時より大きい。
『えっ!?』
精霊は俺が魔法を使ったことに驚いたのか、一瞬声を上げて振り返ったがすぐに逃げ出す。
火の球は精霊を追尾する。その速さはわずかに火の球の方が速い。
(俺のコントロールを見せてやる)
精霊は草木の間を抜け、急旋回したりしながら逃げ回るが逃げ切れない。
精霊は絶望したような顔をする。しかし何か閃いたかのように加速した。
その差は少しずつ縮まっていく。
あと少しで着弾するといったところで、精霊はわずか五センチ程の木々の隙間を通った。
火の球は間を通れずに木々にぶつかり消えてしまった。
(普通より大きいのが裏目に出たか、でも……)
「この距離ならもう逃がさない!」
俺は精霊の動きを先回りしていたのだ。この距離ならもう逃がさない。
俺は精霊めがけて剣を振った。流石に殺すのは忍びないので峰打ちだ。
しかし精霊は剣スレスレで避けていく。
それでもバランスを崩したのだろう、地面に落ちていった。
俺は精霊が地面に激突する前に掴む。
『あ……ありがとーーー』
「おい、盗んだもん返せ」
『ひぃぃぃ!』
落ちるのを防いでくれたと思ったのか。精霊は俺に礼を言おうとしたようだ。
それも少しはあるかもしれないが目的は違う。
俺は剣の切っ先を精霊に向けた。
もともと場合によっては斬るつもりだったのだ、脅すくらい問題ないだろう。脅してでも返してもらう。
「………………」
しばらくはただ震えているだけだった。
しかし精霊は少しすると、なんと泣き出してしまった。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』
「………………」
流石に涙を流しながら、こうまで謝られると怒れない。
「はぁ……」
俺は、逃げられるの覚悟で精霊を地面に下ろしてやった。逃げられたらちゃんとシャルに謝ろう。
精霊は涙を流しながら目をパチクリさせて俺を見る。
そして思い出したかのように手紙を差し出してきた。
『ごめんなさい……許して……』
意外にも精霊は頭を下げてきた。
俺はシャルの手紙を返してもらう為に手を伸ばした時、精霊の羽が少し傷付いていることに気づいた。
(俺のせいか……)
なんだかその光景を見たら申し訳なくなってしまった。
とりあえず手紙は返してもらった、怒りもすっかり消えた。
『グスッ……うっ……』
精霊は泣きながらその場を動かない。どうしようもなく申し訳なく感じてきた。
(そうだよな、少し怒りすぎたか)
「ごめん、やりすぎた。回復………っ!」
母さんからもらった大回復の魔法式『大』『癒』。
そのうちの『癒』だけを使った魔法だ。
謝罪の気持ちも込めて、とりあえず怪我をしたらしい羽を治す。
しかし俺には魔力量的に少し無茶だったらしい。目眩がしてきた。
今日はこれ以上魔法を使えないだろう。
緑の精霊は自分の羽が治っていくのに驚き、羽を軽く動かしていた。泣き止んでくれた。
精霊は羽を動かしてみた後、確認するように飛ぶ。やはり怪我のせいで動かなかったようだ。
そのままいなくなるのかと思いきや、なんと俺の肩に止まった。
『聞こえる?』
「あ、あぁ、聞こえる」
精霊が話しかけてきた。
それは耳元で話しかけられたら聞こえないはずがないだろう。
しかし精霊はその返事を聞いて、また驚いていた。
『お前……本当に人間?』
「失敬な、俺は正真正銘人間だ」
最初に声を聞いた時も思ったが、少し失礼なやつだな。
そういう意味ではグランに似てるか。
悪気のない失礼さ。
『どういうこと……?』
精霊は何やら不思議がっている。何がそんなにおかしいだろうか。
(あれ、そういえばこいつの言葉……)
今気付いた。
声は聞こえるのに言葉が聞こえない。耳を澄ましてみると聞こえてくるのは一定の音のみ。
何を不思議がっているのか分かった。
よく考えたら明らかに言葉が通じなさそうな見た目じゃないか。
そもそも種族自体が違うだろうからな。
というかこんな小さな種族、生き物自体聞いたことすらなかった。
それなのに会話ができるのは普通じゃない。
俺のスキル《言語理解》が発動しているのだろう。
だから聞いたことのない言語、いや、もはやただの音にしか聞こえないものでも会話が出来る。
いつまでも首を傾げている姿はようやく精霊らしく見えてきた。
なんだか小動物みたいだ。
「会話ができるのは俺のスキルの力だ」
教えてやることにする。別に変に焦らすのは好きじゃない。
精霊は、納得!といった顔をした。そうしてまた話し始める。
『そういえば人間にはすきるっていう便利なものがあったわね!なるほど!』
耳元で少しうるさいな。
話した内容からするに精霊、魔物かもしれないが、こいつみたいのにはスキルがないらしい。
そしてこの小さな生き物は訳のわからないことを言い出した。
『お前、私と契約しなさい!』




