一章二十六話 村の外れの森※所有魔法式
俺は十二歳になった。
あと三年。あと三年で王都の魔法学園に行ける。
成長期ということで魔力量も増えてきた。
そうは言っても簡単な魔法を数回しか使えないけども。
シャルの膨大な魔力量については、シャル自身には伝えなかった。
もう少し成長してから少しずつ教えていくことになった。
母さんと父さんには先生が話したらしい。
二人とも大喜びだったそうだ。
俺の十二歳の誕生日の日。あの日は例年とは違かった。
父さんからは以前のとは違う、新しい短剣をもらった。非常に綺麗で、前使ったのより軽めで使いやすかった。
父さんが知り合いに頼んでくれたオーダーメイドらしい。
『これからハルトは一人前だ、自分の身は自分で守れ。妹のことも頼むぞ』
父さんからはそう言われた。
この世界では十二歳でもう一人前とされる。仕事に出るのも許される歳だ。
最近、父さんとの試合形式の鍛錬でかなり戦えてきた。
まだ手加減はしているだろうけど、それでも父さんからは少しでも認められてきているような気がする。
母さんからは一枚の紙。なんと母さんが唯一持っている魔法書だそうだ。
『あなたにもきっと誰よりも愛する人ができる。その人をこれで守ってあげなさい』
そう言って渡されたのがたった一枚の魔法書、その魔法は“大回復”だった。
魔法式は『癒』と『大』。
今までの魔法とは明らかに違う。明らかに威力、効果が他の習った魔法より強力な魔法だった。
おそらく『大』の魔法式の影響だろう。
たった一文字でここまで効果が変わる強力な魔法式だが、使用時の消費魔力も尋常じゃなさそうだ。
俺が使えば、場合によっては体力まで削られてどうなるか分かったものじゃない。
使い所は慎重に選ぼう。
しかしこんな魔法書を持っている母さんは一体何者なのか。
少し気になった。
そうして二人から、森に入る許可をもらった。
母さんとしては許したくないが一人前になった息子を、縛るわけにもいかなかったのだろう。
父さんは「お前に何かあったら悲しむ人の事を忘れるな」と言っていた。
基本は自由。
しかしまともな行動をしろ、あまり危険なことをするなということだろう。
そうしたいとは思ってる。
残念な事に、この日まで随分と二人には心配を掛けてしまったからな。
母さんと父さんには悪いが一番嬉しかったのは、実はシャルがくれたプレゼントだ。
シャルがくれたのは二枚の画用紙。俺の似顔絵と文字がびっしりの手紙だった。
もうすぐ八歳になるシャルはもともと人より成長が早かったこともあって、かなり精神が大人になってきた。
正直兄離れされるんじゃないかビクビクしていたから、このプレゼントは余計に嬉しかった。
もらった時は思わず泣いてしまった。シャルは俺の喜びようを見て恥ずかしいような嬉しいような顔をしていた。
マジで最高の妹だ。
似顔絵は俺の部屋に飾ってある。それを見てはニヤけてしまう毎日だ。
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俺は今、村の外れの森の中にいた。
グランが昔言っていた、森の幽霊について調べる為だ。なんと今日までずっと噂は消えなかったのだ。
これは何かあるだろうという事で、グランも連れてこようとしたが断固拒否された。あいつはあまり変わっていない。
腰には父さんから貰った短剣をかけ、ポケットにはシャルの愛情のこもった手紙を御守り代わりに持っている。
母さんは心配していたがあまり問題はないと思う。
以前とは違って攻撃魔法も火球なら三発、火矢なら一発撃てる。
何かがあっても、なんとかなるだろう。
体もかなり成長してきて、剣術も以前とは比べ物にならない。実戦にも、父さんとの鍛錬でかなり慣れてきた。
技能を使った身体強化も以前より長時間使える。
今ならEランクの魔物が多少出てきても問題ないだろう。
「おっ、これはもしかしたら……」
俺は雑草の中に少し変わった草を見つけた。
「……やっぱり、いやし草だ」
先生から教わったことのうちに植物の種類も教わった。先生は必要になりそうな知識ならなんでも教えてくれる。
ありがたいと思う。
「いやし草か……集めれば金になるかな」
いやし草は様々な治療薬の材料になる。たくさんの種類の薬にほぼ必須とされる薬草だ。
それからは地面を注意して歩いていった。おかげでかなりのいやし草が手に入った。
この辺りは人が入ってこないからな、今まで採られることがなかったんだろう。
「先生にも授業のお礼としていくつかあげようかな」
最近知ったことだが、先生は本当にお金がないらしい。その節約生活は見ていて悲しくなってくるほどだった。
無償で俺たちに色々教えてくれているのだ、一人前とされた今、ちゃんと恩返ししていこう。
「そろそろ魔物が出てくる頃か」
森に入ってからかなり経った。
この森は深くまで進めばそれだけ魔物が出る。もう以前に襲われた場所よりも深い。
この辺りにいるのはゴブリン、ファイアウルフと言われている。
どちらもEランクの魔物だ。
「……噂をすれば、か……」
目の前からゴブリンが現れた。
「ごぶ……」「ごふぅ……」
しかも二体だ。
以前は一体でもギリギリの勝利だった。でも今ならきっと大丈夫だ。
それに以前襲ってきたゴブリンより一回り小さい。こいつらが子供なのか、あいつが特別なのか。
二体のゴブリンは俺を見つけると、飢えた獣のように襲いかかってきた。
力の弱い人族の、しかも子供なんて格好の獲物なのだろう。
「あれ、魔物って食事するのか……?」
不思議だ。
先生は魔物は周囲の魔力を食らってるって言ってたが。
実際のところどうなのだろう。
ゴブリンが俺の元に来るまであと二、三秒。
脚と腕を強化する。自分でも驚くほど落ち着いていた。
余計な思考ができるほどに。
以前のトラウマなど存在しない。今あるのは自分の力を試してみたいという気持ちだけ。
「すぅ……ふぅ……」
呼吸を整えてゴブリン二体を見据える。
剣の柄に触れる。
ゴブリンは手に持つ棒で俺を叩こうとしてくるのが見える。
『剣を抜くのは素早く』
グランによく言われる。
一気に剣を鞘から抜く。
そのまま銀色に輝く剣身でゴブリン一体を、斬る。
赤黒い血が飛び、すぐにゴブリンは粒子となって消えた。
もう一体のゴブリンはその光景に驚いた様子だ。
「ごふぅ!」
そして、目の前の相手はただの子供ではないと判断したのか。
もしくは仲間がやられたことに対する憤怒からか。ゴブリンの棒を振るスピードが上がる。
しかし俺はそれを見切る事は簡単だった。
ゴブリンの大振りを避ける。ゴブリンの棒が地面を抉った。
ゴブリンがすぐには攻撃してこない事を予想、確認。
そして懐に入った。
「ふっ!」
そして横に一閃。
ゴブリンは鳴き声を上げる事なく後ろへ倒れる。最後のゴブリンも青い粒子へとなっていった。ゴブリン二体に勝ったのだ。
「……よしっ!」
思わずガッツポーズしてしまう。
俺はようやく五年前の雪辱を晴らせた気がした。
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ひとしきり喜んだ後、ゴブリンの魔石を見つけた。大きさは三センチほど、濁った緑色だ。
「これも持って帰るか」
母さんたちに見せれば、魔物と戦った事に心配されてしまう。
先生に渡すことにした。
ゴブリンに勝って理解した。もうEランクの魔物に劣ることはないだろう、と。
そして自分がしっかりと成長出来るていることを。
「よし、よしっ!」
どうしても嬉しくなってしまう。
努力してきた人間が一番嬉しく感じるのは、努力の成果がちゃんと出た時だろう。
俺は確実に強くなっていた。
いくら喜びを表してみても、心の底から嬉しさがこみ上げてくる。
俺はその感覚を味わいながら、疲れた体を休める事にした。
「ふぅ……よっと」
大きな木にもたれる。その場で荷物を広げてみる事にした。
一瞬忘れていたが、俺の目的は森の幽霊探しだ。
噂からするに、ほぼ確実に持ち物がなくなっているらしいが。
「集めたいやし草、ゴブリンの魔石二個、短剣、そして水筒。何もなくなってないな」
俺は水筒の水を飲む。冷たくて体に沁み渡る。
「っぷはぁ」
満足した後の冷たい水は美味しいな。
俺はふとポケットの中に手を入れた。
無い。
シャルから貰った手紙が無くなっていた。
まさか………
「森の幽霊か!どこだ!!!」
再度、剣を鞘から抜いて辺りを見渡す。幽霊じゃなくても斬る気満々だ。
可愛いシャルのくれた手紙。
落ちないようにポケットは厳重にしてきた。穴が空いた様子もない。
まず間違なく噂の幽霊の仕業だろう。
こんな所に持ってきた俺も悪いが、あれを盗む奴は許さない。
容赦はしない。
「出てこい!手紙返せ!!!」
視界には風に揺れる草木だけ。でも何かがいる。そんな気配がしていた。
叫んでから数秒が経った時だった。
『くすくす、人間って本当に鈍感ね!』
ハルトの所有する魔法式。
『火』『球』『矢』『幻』『強』『身』『調』『癒』『大』




