一章二十四話 魔法式の意味※所有魔法式
「………………ん?」
「どうしたの、ハル?」
グランは固まって魔法書を見ている俺を訝しげに感じている。
そんなことより、今の状態の方が異様だ。
「グラン、これって火矢の魔法式だよな」
「うん、そうだよ。ハルとは違ってまだ僕は覚えられてないからね」
グランが棘を含めた言い方をする。
今の魔法書のページは魔力矢の派生魔法、火矢のページだ。
グランが言った通り、この魔法式はもう暗記してる、見覚えのある魔法式だ。
驚いたのはその魔法式の様子………ではない。
その魔法式の状態に変化はない。変化があるのは俺自身だった。
視界に入る魔法式の形は何も変わらないのに、何故だかそれがどういう意味なのか分かる。
火矢の魔法式は二つの文字からなっていた。
二つの文字の意味は『火』と『矢』。
何が起こっているんだ。
「どうしたの?」
「………グラン、俺がまだ見たことないページを開いてくれ。そして魔法名を隠してくれ」
「え、分かったけど……?」
グランは不思議に思いながらも言った通りにしてくれた。
グランが開いたページの魔法式は上級向けの魔法式だった。暗記なんて不可能だと思えるほど。
「……それは身体能力を強化する魔法か?」
「えっ、すごい、その通りだよ!強化だよ、なんで分かったの!?」
グランが驚いて訊いてくる。
しかし俺はそれを答える余裕がなかった。
(まさか……これは《言語理解》の効果か……?)
あの魔法式を見て浮かんできた単語は二つ。
『強』と『身』である。
特に『強』の魔法式が異常に複雑な形をしていたな。
《言語理解》で魔法式の意味が分かるなら、これは尋常じゃないスキルだ。
なぜなら魔法式の解明はずっと昔から行われ、最も進展が無い研究だと先生が言っていた。
「……もしかしてスキルで魔法式が読めたとか……?」
「その通りだ。いや、これマジか……」
少し混乱している。けど少しずつ今起こっていることが理解できてきた。
自分は実は物凄いスキルを得てしまったという事に。
「よっし!グラン、これすごいスキルだ!」
「うん、すごいね」
だんだん興奮してきた。
先生はオリジナルとも言っていた。ならこのスキルを持っているのは俺だけ。
「グラン、俺今から先生のところ行ってくる。魔法書借りていいか?」
「うん、いいよ……」
そこで気づいた。
グランの様子がおかしい。グランならもう少し大袈裟に反応してくるところだ。
「グラン、どうかしたのか?」
「え……?いや、ちょっと頭が働かなくて」
なるほど、なら今のグランの状態も理解できる。
「そうか、じゃあ俺行ってくる。シャルを頼んでいいか?」
「いや、……できれば連れて行ってほしいな」
「あぁ、分かった。……調子悪そうだな」
やっぱりグランの様子がおかしい。顔色も悪くなってきたようだ。
「んー、ちょっと気分悪いかな。寝れば治るから心配しないで」
「そうか、分かった。今日はちゃんと休めよ?」
「分かった。あっ!できればその魔法書、ついでに先生に返しておいてよ」
「分かった、それじゃあまたな!」
「またね」
そうして俺とシャルはグランの家を出た。
グランの体調は気になるが、珍しいことではない。いつも通り、本当に寝れば治るだろう。
「ほらシャル、行くぞ」
俺はしゃがんで背を丸める。
「うん!」
シャルは俺の背中に乗る。おんぶだ。シャルはとても軽いので簡単にできる。
俺はシャルに振動を伝えないように気を付けながら全力疾走した。
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「先生!」
「せんせー!」
俺は勢いよく教会の扉を開いた。
奥で寝ていたらしい先生は、ビクッてなって俺を見る。
ていうか俺と一緒に声を出したシャルがマジ可愛い。
「ハ、ハルトくん、それにシャルちゃん、どうしたのですか。それにもっと静かに入ってきてください!」
先生は少し目が回ってる。
俺も気持ちは分かる。きっと今は心臓ばくばくだろう。
「先生、とっても大切な話があります!」
「分かりました、分かりましたから少しテンション下げてください」
そう言われて気づいた。俺は、机に身を乗り出して先生に迫っていた。
俺は大人らしくないその行動に少し恥ずかしくなる。
まあ、最近は精神的にも子供に近づいてきた自覚はあるが。
先生はボサボサになっていた髪を少し直し、俺にお茶を、シャルにミルクを入れたコップを持ってきてくれた。
俺はまだ熱いそれを一気に飲んだ。熱いお茶が体の中を通って行くのを感じる。
「ふぅ………」
「落ち着きましたね」
落ち着きを取り戻して、シャルを見てみる。シャルはちびちびと少しずつ飲んでいた。
可愛い
「それで、どうしたというのですか?」
「あっ、そうなんです!凄いことがあったんですよ!」
「はいはい、何があったのですか?」
うるさい、という風に耳を軽く塞ぎながら聞き返してくる。
「《言語理解》で魔法式が読めたんです!」
「へぇ、すごいですね。………………えっ、えぇぇぇぇぇ!?」
先生がテンポ遅れて大声で叫ぶ。
「せんせー、うるさいぃー」
「はっ、す、すみません」
先生はシャルにクレームをつけられて、自分のお茶を飲んで落ち着く。
しかしそれでも興奮は冷めた様子がない。
「それ、本当ですか」
「本当です。もう火矢と強化を理解できました」
先生は目を大きく開いて、額に手をやる。
「それが本当なら今の魔法学に革命を起こせますよ……。まさか魔法式を理解するだけで魔法が使えたり……?」
「ちょっとやってみます」
俺はさっき見た魔法、強化使ってみることにする。
先生は調査で観察するらしい。
「強化」
「調査。えっ、その魔法って……」
ドクン
確かに魔法が発動したのを感じる。そして、身体能力が一気に上がった感覚も感じた。
「おぉ……。これはすごいな……」
俺はその場でジャンプしてみる。
「うおぉぉぉ!」
すごく高く跳んだ。
教会の天井はかなり高いはずだ。なのに一回のジャンプで届いてしまった。
フワッという一瞬の浮遊感の後、着地する。
ダンッ!!!
ふむ。
なるほど、身体能力の向上だけじゃなく頑丈にもなるようだ。
「先生、使えました……よ?」
先生はかつてなく目を見開き、口をパクパクしていた。
「い、今のは強化……?なんで使えるのですか……?」
「えっ?……あっ」
実は俺、魔力量の少なさから火球くらいしか使えない。そのはずなのに今、上級の魔法式の魔法を使えたのか。
先生は、自分の見た光景が信じれない様な顔をしている。
シャルはまだミルクをちびちび飲んでいる。
「……な、なるほど。魔法式を本来の意味で使うと暗記で使うのより段違いに魔力消費量が少ないようですね……」
魔法で分かったのだろう。
「おぉ、すごい………うっ」
目眩がした。
「……それでもハルトくんは魔法を一瞬使うのがやっとですか」
「うぅ……残念だ」
残念だが、仕方がない。きっとどうにかなる。
このスキルがあれば、たとえ俺が魔法を使えなくてもやりようはいくらでもある。
それにさっき、驚く事が分かった。
他人の使用した魔法の魔法式を読み取れるのだ。魔法発動時、魔法式が空中に一瞬出るのだ。
さっき先生が使った調査の魔法の魔法式も見えた。
単純に『調』だった。
おそらく、これで調査も使える。いや、魔力が足りないかもしれないが。
「しかしこれは魔法学において最高のスキルですね。これなら魔法が使えないハルトくんも魔法学園に行く意味がありますね」
先生は今まで俺が行く意味がないと思っていたのだろうか。
仕方ないかもしれないがひどいな。
「……ハルトくん、私に魔法式の意味をどうかーーー」
ガシャン!
「っ!」
先生がとてもびっくりしていた。
俺は音がした方を見る。
シャルが中身が残り少なくなったコップを落としてしまったのだ。
シャルの目が虚ろだ。
「あー、先生すみません。ミルクこぼしてしまって……」
「……え?あっ、気にしなくていいです。私が拭いておきますので」
「ありがとうございます。シャルがおねむなのでもう帰りますね」
俺はシャルを抱き上げる。
「……ぅん、おにぃ……」
「……ふっ」
最っ高に可愛いです!もう、スキルの事も合わせて気持ちが上がる。
「そうですか。では今度、魔法式の意味を教えてください」
「もちろんいいです。それではまた」
「はい、さようなら」
俺たちは小声で話し合う。シャルを起こしちゃ可哀想だからな。
今はこんなに可愛いが、成長したらどうなるんだろうか。お兄ちゃん嫌い、とか言うようになるんだろうか。
そうなったら立ち直れないかもしれん。
教会から出る。外はもう星が少し見え始めていた。
「これで魔法も使えるかもしれない」
剣術も成長してスキルも習得し、やっと魔法も使える可能性が出てきた。
技能もある事を考えると、楽しくなってくる。
「母さんたちにも言わなくちゃな」
きっと今日は豪華な夕食だ。遠慮しても母さんが絶対作るだろう。そうして父さんの胃袋異世界マジックの出番だ。
もしかしたら先生も呼んでパーティーになるかもしれない。
俺はその光景を思い浮かべてつい、スキップをし、シャルを起こしてしまう。
シャルに何があったか話すと大喜びしてくれた。
どんどん、この人生が楽しくなっていく。
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『《言語理解》のスキル所有者が生まれた』
『やはりこの時代だったか』
『今度こそこの世界を我が手にしてやる』
『今度は勇者供に邪魔はさせんぞ』
それは禍々しい声。
一度、この世界を手にしようとして勇者に阻まれた者の声。
大昔、今度こそ世界を手に入れると誓った。
今もその意識は、まだこの世界と繋がっている。
そして今も策略を巡らせていた。
ハルトの所有する魔法式。
『火』『球』『矢』『強』『身』『幻』『調』




