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一章二十二話 剣術、次のステップ



 魔物の騒動からもう一年が経った。

 この小さな村には子供の数も少ない。

 その貴重な小さな命が失われかけた事で、村中に知れ渡ってしまった。


 その結果、俺たちが怪我人だということ御構い無しに何人にも怒られっぱなしだ。

 結局三時間は怒られていたのではないだろうか。


 グランはしばらくの間むくれていた。

 まあ、この歳の子供は怒られたら落ち込むかむくれるかだろう。

 でも俺はよく分かっている。それは俺たちを大切に思ってくれているからこそだと。

 この村の人たちは温かい。


 辛かったのが、技能の影響と思われる筋肉痛だ。

 一週間は本気で体が動かなかった。

 動かした時は痛みで大声を出して、両親を心配させてしまった。


 先生が言うには、技能の身体強化はいわば筋肉の潜在能力の解放だそうだ。

 魔力で保護しているため、大きなダメージにはならないとしても、あの日は少し無茶をした。

 そもそも俺の体はまだ出来上がっているとはとても言えない。

 こうなることも当然の事だろう。


 でも俺はあの騒動で成長できたと思う。


 技術面で言えば、技能をもっと上手く使える様になったし、剣術も、少し戦闘向きになったようだ。

 だが俺が一番成長出来たと思うのは精神面。


 ゴブリンを殺した事で得られた“覚悟”だ。


 前に先生に言われていた、「守るために殺す覚悟」。

 それを持てていたかと言われれば、そうじゃなかった。

 でもあの日、グランの命が危険でゴブリンを殺すしかない状況の中で、俺はその覚悟を持てた。


 この先、きっと俺は大切なものを守るために躊躇うことをしなくて済む。

 それが一番の成果だった。


 そうそう、言い忘れていたがネコは元気だ。

 最近はあまりモフる機会がない。

 少し寂しくなってきたし、近々グランの家に行こうか。

「ハルト、今日の鍛錬は少し気合い入れてこいよ」


 俺が八歳になった一週間後、父さんが少し緊張した感じで言ってきた。


「うん、分かった」


 実は俺は何をするか知っている。

 一年前の騒動の夜、父さんが母さんに言っていたのだ。




『そうか、ハルトがそんな事をしたのか……」


『うん。それと、勝手に父さんの剣使わせちゃってごめんなさいね』


『いや、それはいいんだ。結果的にはそのおかげでハルトたちは無事だったんだから。それよりも前言っていた事だが……』


『分かってる、剣の鍛錬のことでしょ』


『あぁ、十歳で次のステップに進もうかと思ってたけど、来年には始めようと思う』


『いいと思うわ。ハルトならどうせ嫌がらないでしょうしね』


『怪我も増えると思う。俺は厳しくするつもりだから、母さんが支えてくれるとありがたい』


『もちろん、元々そのつもりよ』


『そうか……、ありがとう』




 こんな事を言っていたのだ。俺は当然バレないように隠れていたさ。

 八歳になってから、父さんの態度に緊張らしいものがあった。

 俺に切り出すタイミングを図っていたのだろう。


 そして今日、父さんとしては頑張って切り出したつもりだろうが、俺としては「やっとか……」っていう感じだったりする。


 楽しみではある。次のステップとは何だろうか。

 強くなる為なら努力は惜しまないつもりだからな。


 俺は顔を水で流す。

 そしてシャルと戯れてから庭へ向かった。

「ハルト、俺はそろそろ基礎は十分だと思う。今日から剣術の勉強はグラン君の家と同じ様に実戦形式でいく」


 父さんは庭の真ん中で仁王立ちをしていた。

 やっぱりどこか緊張しているというか、ぎこちない。

 この人はあまり人に対して強気で接することはないからな。俺に厳しくしようとして空回っているのだろう。


「厳しくしていく。ついて来られるか?」


「もちろん」


「そうか……技能の使用は禁止だ。それじゃあ……いくぞ!」


 いきなり鍛錬は始まった。

 父さんは木剣を強く当ててくる。


「痛ってぇぇ!」


 衝撃は予想以上だ。

 それに木剣は今までとは違い、クッションが付いていない。


「父さん!それ何もカバー付いてないじゃないか!」


「当然だ、厳しくすると言っただろう。それとも、もう音を上げるのか?」


「このっ……、そんな訳ない!」


 俺はすぐに立ち上がり斬りかかる。父さんは俺の返答と、素早い動きに満足そうだ。


 父さんは避けることはほとんどしない人だ。

 攻撃は剣で弾くか軌道をずらす、もしくは受け止める。

 俺はその堂々とした戦い方に惹かれていた。


 今回も木剣で受け止められた。

 それも、ひどく簡単そうにリラックスした状態でだ。やはりパワー不足は否めないな。


「実は俺も少し失敗したと思っていたんだ」


 父さんは受け止めた木剣を弾き、蹴りをかましてくる。


「ぐっ!!!」


 木剣だけを気にしていた俺は、簡単に吹っ飛ばされる。


「型は大切だが、少し長すぎた。もっと早いうちから実戦的な鍛錬にすればよかったってな」


 父さんは俺が咳き込んでいても待ってはくれない。

 素早く近づいて、木剣で背中を叩かれる。


「うっ……」


「その結果がこれだからな。型にはまりすぎて柔軟に動けていない、立ち上がるのが遅い。相手は待ってくれないぞ」


 父さんは更に木剣を背中に振り落とそうとする。


「くっそ!」


 俺は父さんに足をかける。

 父さんが足を浮かべて避けた隙に立ち上がって、後ろに下がる。


「そうだ、そう動くべきだな」


 手加減はしてくれているのだろう。

 スキル《剣術》持ちの父さんが本気で振れば、俺の骨なんて簡単に砕けるはずだ。

 今はただ痛いだけ。動くのに支障はない。


 父さんは余裕で満ちている。


 さっきも、わざわざ避けくても転ぶことはなかっただろう。

 バランスを崩すことさえなかったかもしれない。それでも避けた。俺の鍛錬だからだ。


 なるほど、これは良い。

 格上相手にどこまで成長できるか、どれだけ技を盗めるか。

 やってやろうじゃないか。


「行くぞ」


 父さんは地面を蹴る。

 迫ってくる動き一つでも学ぶ事がある。その足の動きと、剣の構え方。

 相手の予想外の攻撃にも対処できそうな構えだ。


「くっ……」


 俺はなんとか避ける。その速さは、今まで体験した何よりも速い。

 気を抜いたら目を追うのすらできない。


「なんで追撃してこなかった!あれだけ勢いよく振れば普段より隙があっただろう!」


 父さんが声を上げながら回し蹴りをしてくる。

 実戦の中で俺に学ばせるつもりか。


 しゃがんで避ける。この小さな体なら、すばしっこさが武器になる。

 父さんの今の体勢には隙がない。だったらどうするべきか。


 俺はわざと軽く隙を作る。

 父さんはそれを見逃さなかった。一瞬で近づいて、木剣でそこを狙ってくる。


 かかった!


「ふっ、うおぉぉぉ!」


 ギリギリでそれを避ける。

 来るところが分かっていても、全力でなくては避けれない。

 バランスが崩れそうになるが踏ん張る。そして父さんの顔面めがけて木剣を振る。


「おっ……」


 父さんは余裕を持って木剣を弾く。


「俺を誘ったな、良い動きだ」


 父さんは少しの笑みを浮かべる。だがこれで終わりにするつもりはない。

 俺は後ろに下がり、木剣を構える。そして強く地面を蹴り飛ばし、父さんに迫って行く。

 その動きは、さっきの父さんの動きから学んだものだ。


 父さんはそれを見て目を見開く。

 そしてすぐに嬉しそうに口を歪め、子供のように目を輝かせていた。


「いいぞ!もっと俺から盗んでみせろ!」

「いってて……」


 今日の父さんの鍛錬が終わった。

 結局父さんに攻撃を掠らせることさえ出来なかった。いや、それは仕方がないか、今日で終わりじゃない。

 きっといつかギャフンと言わせてやる。


「ハルト、大丈夫?」


 母さんが傷の手当てをしてくれる。

 骨折などはない、体を動かすのに少しの違和感もない。ただ、とにかく痛むだけだ。

 父さんのうまい手加減具合に感嘆する。


「大丈夫だけど、痛い」


「そうね、父さんは加減が上手いから。…………父さんは厳しくするって言ってたけど、辛い?」


 母さんが心配そうに訊いてくる。

 たとえ了承していても、心配は拭えないのたろう。


「辛いなんて事ない。むしろ早く明日の鍛錬がしたいよ」


 母さんは少し驚いて、すぐに微笑む。


「ハルトは本当に努力家ね。父さんもやり過ぎたって心配してたから話しかけてあげて」


「分かった」


 数年前は父さんの方が大人っぽかったのに、今じゃ母さんの方が大人っぽい。

 なんかだかすごく頼りたくなるっていうか、甘えたくなるオーラがある。




「お兄ちゃん」


「おっ、シャルか」


 シャルが母さんの後ろから顔を出す。シャルも、もう四歳か。

 いつからそんな所にいたのだろう。


「お兄ちゃん、痛い?」


「シャル……。お兄ちゃんは大丈夫だ!」


 可愛い妹の心配に頰が緩む。

 それを聞いてシャルは心配顔から笑顔になる。そして俺の膝に座ってきた。


「じゃあ気持ち良いやつ、やって!」


「おう、いいぞ。シャルのためならいくらでもやってやる!」


 俺は元気よく魔力をシャルに流してやるのだった。気持ち良さそうにするシャルに癒される。

 その後は父さんのところへ行き、落ち込む父さんを励ましていた。

 シャルが生まれてから、父さんはむしろ子供っぽくなったな。


 元気を出した父さんは家を出て行った。

 最近知った事だが、ギルドで依頼を受けて稼いでいるらしい。

 家族と、そして俺が魔法学園へ行くためのようだ。


 ありがたい。

 俺の家族は最高だと、自信を持って言える。




「いや、それにしても……」


 今日の剣の鍛錬、これからは毎日だ。辛くはない。だがこれから大変だ。

 それでも、今日だけでも感じた確かな成長。これからが非常に楽しみになる。


 きっとあの天才、グランにもいつか勝てる日が来るだろう。

 剣術では大きく差が出来てしまっているが、すぐに追い越してやる。



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