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一章二十話 ネコ



 二年経って、俺は七歳になった。

 シャルは三歳だ。もう色々と喋れる様になってきている。

 俺のことは、にぃじゃなくてお兄ちゃんと呼ぶようになった。

 これも非常に可愛くてよし!


 「お兄ちゃん大好き!」とか言ってくれた日には、もう卒倒しかけたものだ。

 ご近所では、どうしようもないシスコンだと言われてしまっている。


 俺はもう自他共に認めるシスコンだ。


 しかし気になることが一つあるのだ。シャルの成長がかなり早い気がする。

 俺みたいなパターンも一時期疑ったこともある程、成長が早いと思う。

 流石にそこまでじゃないので、すぐに違うと分かったが。


 それに何であろうとシャルは俺の可愛い妹だからな。

 関係ない。


 風邪を引いても、怪我をしても欠かせずにしていた筋トレとランニングのおかげで、同年代と比べると運動能力が段違いにも成長した。

 父さんとの剣の鍛錬。実はこれは全然進展がない。

 ずっと体作りと、型を身につけるための素振りばかりだ。


 父さんは基礎が大切って言ってたけど、限度があると思う。

 だって始めてからもう四年も経つのだ。

 流石に飽きてきた。


 まあ、おかげで動き自体はちゃんとした動きができる様になったから良しとする。

 同年代にも、親から剣を教えてもらっている人がいる。

 そいつとは模擬戦のような事をしている。

 それはとても楽しいし、よく動きが綺麗と言われる。




「ハルー!遊ぼう!」


 今日は遊ぶ約束の日じゃないのに、そいつが来たようだ。

 まぁ、いちいち約束で動く子供がそもそもあまりいないか。


「ハルト、お友達が来てくれたわよ。行ってらっしゃい」


「え、約束してないんだけど……」


「そんなのどうでもいいじゃない。子供はたくさん遊んでこそじゃない」


「んー、じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい、遅くならないうちに帰ってきてね」


 母さんは妹が生まれてから、何だか少し落ち着いた気がする。

 昔は少しあった子供っぽさが無くなったように感じる。


「シャル、行ってくるな」


「うん、行ってらっしゃい!お兄ちゃん!」


 …………ニヤ


 おっと、もっとクレバーに。

 シャルは父さん自作の文字型積み木で遊んでいた。

 父さん曰く、小さい頃から文字に触れさせて損はない、だそうだ。


 俺もそうだと思う。

 ただ、この切れ方がノコギリとかじゃなくて、まるで剣で切ったような切り口だ。

 作っているところを直々に見たかった。


 あぁーー、それにしても可愛いなぁ、シャル。


「ハル、顔が気持ち悪い。キモい。直して」


「うっさい、余計なお世話」


 出会い頭で、非常に失礼な友人だ。


「またシャルちゃんでしょ。ハル、シスコンすぎ。キモい」


「さっきからキモいキモい連呼しすぎだろ。妹を可愛がって何が悪いんだ!」


「悪くないけどキモい」


 キモい連呼するこいつは、俺の唯一といえる友人。

 グランだ。


 こいつと初めて会った時のことを思い出す。

 最初に会ったのは俺が五歳の時だ。グランも魔法に大層興味津々で、先生に教わりにきたのだ。

 初めはビクビクしていて、ずっと親の後ろに隠れてるような奴だった。

 せっかくの同年代だと思って友達になろうと近づいてもすぐに逃げられる。


 いやぁ、あの時は久しぶりにイラついたものだ。

 あそこまで逃げまわられたのは初めてだった。


 見かねて、一緒に来ていたグランのお父さんが怒ってから渋々話すようになった。

 あの嫌々やらされてる感。

 思い出しただけでイライラしてくる。


「どうしたの、ハル?顔がひどいよ」


「お前のせいだ!この野郎!」


「えぇぇぇ!?」


 しかもなんか、いちいち燗に触る言い方しやがって。

 グランのつむじを押したりしながら目的地に着く。

 グランの家だ。

 グランの家も俺ん家ほどではないが、村の中ではかなり大きいほうだ。

 庭だけで言ったら俺の家よりも大きい。


 カーン、カーン


 昼の二時頃、その庭から木剣のぶつかり合う音が聞こえる。

 俺、つまりハルトとグランである。


 俺たちにとって遊びとは剣術の鍛錬、趣味は魔法の勉強だ。

 これはこの世界ではそこまで珍しい事ではない。

 日本のようなゲーム機など存在しない。そして幼い頃から魔法や剣術を教えようとする親は少なくない。

 その結果、こうなるのだ。


「ふっ、はあ!」


 グランは慣れた動きで俺は追い詰められる。


「今日も僕の勝ちかな、ハル」


「まだまだ、舐めんなよ!」


 決着がついていないのに諦めてたまるか。遊びだろうが本気、それが俺たちだ。

 ちなみに木剣には柔らかい何かが付けられている。

 当たってもあまり痛くない。


 俺とグランには明らかに別の傾向があった。


 俺は型にはまった、一撃が速い剣。

 グランはあまり型など感じさせない、フラットな動き。

 体全体を動かして、様々な攻撃をしてくる。


 これは鍛錬の仕方に違いがあるからだろう。

 俺はずっと前から型を覚えるための素振り。

 対してグランは最初こそ素振りをしていたらしいが、基本は実戦形式で教わっているらしい。


 勝率は明らかにグランの方が上だった。

 だからと言って父さんの指導方針に文句はないがな。

 これはこれで実る日が来るだろう。


 俺は何度も速い剣撃を放つ。


 しかしグランは躱し、そして木剣で弾く。


 最初は弾かれた時点でバランスを崩して負けていたが、今はもうそんなことにはならない。


 俺はすぐに立て直し、木剣を大きく振り落とす。


「うわぁぁぁ!危ない!」


 しかしグランは寸前のところで避けた。


 くっそ、今までなら勝ってたはず。

 こいつは、剣に関してはどんどん強くなっていく。


 この天才が!

 負けないけどな!


 グランは横に避けた勢いを利用して体を回転させながら横薙ぎに振ってくる。

 グランにしては珍しい鋭い一撃、決める気だったのだろう。


「ふっ!」


 しかし俺だって成長しないわけじゃない。

 負けじと木剣で防ぐ。


 グランがニヤリと笑う。

 グランの木剣は俺の木剣に当たる寸前で止められ、別の軌道で当ててきた。


「うぐ……」


 思わず木剣を落とす。


「今日も僕の勝ちだね」


 グランは俺の首筋に木剣を当てながら、そう告げた。


「くそ、負けました。……次だ、今度は負けねぇ」


 負けたら相手に敬意を払って負けを認める。

 グランのお父さんと、俺の父さんが一緒に決めたことだ。礼儀も身につけさせるつもりだろう。


 俺はすぐにもう一戦を求め、グランも嬉々としてそれに応える。


 これがいつもの俺たちだった。

「疲れた………」


「疲れたね………」


 計十六戦してやっと終わりにする。

 俺の六勝十敗だ。


 次はもっと勝つ。


「あれ、グラン、ネコは?」


 ネコとは日本の猫に似た動物だ。

 俺が「猫だ」と言ったらグランがそれを名前にしたのだ。

 この世界ではあまりいないのだろうか、猫。


 少し前に俺たちに懐いてきた猫がいた。

 でもうちは父さんが猫が駄目。だからグランのうちで飼ってもらうことになったのだ。


 これがまた本当に可愛い。

 比べるまでもなくシャルの方が可愛いが、可愛いの方向性が違うだろう。


 グランの家に来た時は、必ずモフらせてもらってる。

 のだが………。


「ネコいない?…………本当にいないね……。どこに行ったんだろう?」


 俺たちはグランの家の敷地内中探す。

 しかしまったく見つからなかった。


「こんにちはぁ、あらグランちゃんにハルトちゃん」


 ヤノ村の元気おばさんだ。


「おばさん!ネコ……小さな可愛い動物見ませんでしたか!?」


 グランはおばさんに尋ねる。

 いくらなんでも知らないだろう。さすがに世の中そんな思い通りには……。


「んー……。あぁ、あれかしら。多分それなら森の方に走って行ったわよ」


 ……案外思い通りに行くみたいですね、世の中。


「ありがとう!おばさん、大好き!」


「あらあら、グランちゃんたら」


 グランはそんなことを言って走り出す。

 次会った時は揉みくちゃにされるだろう。

 南無。


 ってーーー


「グラン!待てって!」


 俺はすぐにグランを追いつく。

 剣では負けても基礎運動能力は圧倒的に俺の方が上だ。


「森は危ないぞ!」


「大丈夫だよ!何もない!」


 確かにそうか。

 俺が魔物に襲われたのが唯一と言えるほど、本来この村に魔物の影響はない。


「待てって!俺が行けないんだ、母さんと約束してて!」


 当然かもしれないが、俺が大怪我した森には入らない約束をしている。

 もう心配はかけたくない。むやみに森には入りたくないのだが……。


「何言われても僕は行くからね!」


 本当に力尽くでも行きそうだ。一人で行かせるわけにもいかない。

 仕方ないな…………。


「……俺も一緒に行くから。だから俺が一回母さんの所に行く間だけ我慢してくれないか」


「……分かった……」


 渋々といった様子だった。

 たとえ今日行けなくても、グランはネコがいなければ気付かれないように森に入るだろう。


 本当に仕方ないな。

 一人で行かせて何かあってはいけない。どうにかして母さんを説得しなくては。



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