一章十五話 とにかくシャルが可愛い
先生に魔法の使用禁止を言われてから、約二年。
この二年で魔法に関してはあまり進展しなかった。
とは言っても幻影の魔法式は覚えたし、技能についてもかなり分かった。
先生は魔力回路について少し調べたかったらしい。教えるにあたって無知ではいけないとかなんとか。
多分だが、魔力操作会得のために魔力を流してもらった時のミスか何かを気にしてる気がする。
別に大丈夫だから試し打ちはしたいと言ったが許されなかった。
まぁ、勉強熱心で流石は先生だと思った。
何故だか先生の机の上に、魔力の本以外に呪いやら封印やらの本もあったのが気がかりだが。
それと母さんと父さんに口止めされている事もあるらしい。
悪い様にはならないと思うが、少し怖いな。
まぁ、そんなことがあったわけだ。
でもまぁ、そんなことよりもこの二年は大変だった。
あれからすぐに風邪で母さんの体調が悪くなったのだ。
もともと来てたらしい、つわりも重なって随分苦しそうだった。
当然、家事は俺と父さんがやっていた。
父さんはまだ三歳の俺に任せるのは不安だったらしいが、俺がやらざるをえなかった。
あんなに「できる」人である父さん。実は料理の腕が壊滅的だった。
あんな健康に悪そうな、不味そうな料理は初めて見た。
多少おかしく思われることを覚悟で俺が食事を作ることにした。
怪しまれても仕方がない。母さんのためだ。
俺もそこまで料理が得意というわけではなかったが、父さんよりマシだし、それにやっていくうちに上手くなっていった。
今なら特技は料理ですって言える。
父さんはその他の家事なら普通に出来た。
ただとにかく料理が出来ないらしい。
母さんの事で俺たちはかなり心配した。風邪が全然治らなかったのだ。
こんなことは珍しいという事で先生にも診てもらった。
先生は技能で体調を整えると言っていた。
そのおかげか、その二日後には風邪は治っていた。
むしろ以前より調子が良いらしい。
先生のあの技能の使い方、練習して出来る様になろうと思う。
調子が戻ってからは、また母さんが家事をした。
妊娠中だし、まだいいと言ったがそこは譲れないらしい。
なんだかんだで母さんの料理が食べられたのは嬉しかったがな。
それでも俺たちも譲らなかった。俺たちも家事をある程度手伝うことになった。
一番変わったことは、父さんに剣術を教えてもらうことになった事だ。
先生が調べ物で、授業が出来ない日が出てきた頃だったので暇だったのもある。
それに、せっかくなのだ。
魔法がなくても戦えるようになっておきたかった。
父さんは《剣術》スキルを持っているが、それだけに頼っているわけではないらしい。
鍛錬はちゃんとしているようだ、母さんが言ってた。
俺が見たことがないのは、父さんが家族には隠したがってるらしいからだ。
努力を見られるのは恥ずかしいようだ。父さんの予想外の心情に随分驚いたものだ。
そんな父さんならちゃんと教えてもらえると思ってお願いした。
しかし、やっているのはずっと木剣を振ってるだけだ。
型とか振る速さを上げるためだそうだ。
俺としては、こう、もっと実践的な感じだと思っていたため、少し拍子抜けした。
しかしやってみるとその大切さがよく分かった。
そもそも上手く振れないのだ。筋力が足りないのもあるが、父さんの振り方とは何かが違う。
技術が必要だと分かった。それに三歳の体には少しキツかった。
これなら筋肉も付けられそうだという事で、気合い入れてやる事にした。
しばらくはこれだけをやるらしい。
あとは技能の訓練だろう。
自分の体を実験台にして試していた。
気持ちよく感じさせる加減はすぐに分かった。でも先生のとは何かが違う。
先生のに近づけるのに一ヶ月もかかってしまった。
近づけれて分かったことがある。
なるほど、これは体の体調を整える事も、少し疲れを取る事も出来るようだ。
そこまでにするのもかなり時間がかかったが、大きな収穫だ。
収穫といえば、庭で栽培していたトマトも収穫した。
非常に美味しかったし、心なしか三日間は体調が最高潮だった。
日本のトマトとはやはり違う。味は少し日本のよりも少しだけ甘かった。
それに育ち方、収穫に関しても違うだろう。冬でも夏でも、いつでも育つ。
育てる期間は三ヶ月。三ヶ月で収穫できる。
適度な水必要。
今はまた、俺がトマトを育てている。
試しという事で、ちょくちょく技能で魔力を流している。
大きさは……普通のトマトよりも大分でかくなってきている。
味はどうだろうか。次の収穫が楽しみだ。
母さんのお腹がかなり大きくなってくると、また家事は俺たちがやる事にする。
当然、俺は料理担当だ。
母さんがそうなると、先生がよく手伝いに来てくれるようになった。
なんと驚いたことに、先生は料理ができたのだ。
普段の食生活から料理自体ができないものだと思ってた。
料理に関しては俺と先生の二人で担当する日もあった。
その日は種類も量も豪華になる。
それに先生はよく母さんと話をした。案外二人は気が合ったらしい。
母さんは友達と話すように、随分楽しそうに話していた。
家族にはあまり見せない顔だ。少し嫉妬してしまったものだ。
別にマザコンではございません。
まあそれはそうとして、先生には随分助けられたものだ。
そのうち何か恩返ししよう。
よく母さんの調子が悪くなることがあった。そんな時は俺の出番だった。
マッサージと称して技能使うのだ。
この頃になると俺もだいぶ技能を上手く使えるようになった。
母さんの体調をある程度良くする事も出来るようになった。
この技能はかなり便利だ。
この先もお世話になるだろう。
この世界にも四季がある。
当然冬もあった。
暖かさに関しては、流石に日本のようにはいかない。
薪で火を起こす、先生の魔法で暖める、技能で体を温めて誤魔化すくらいしか出来ない。
出産は、そんな冬の、さらに雪が吹雪く日だった。
母さんが産気づいた時、家にはちょうど父さんも先生もいなかった。
俺だけじゃどうしようもない。
俺は雪が吹雪く中、技能で寒さを誤魔化しながら教会へ走った。
この日ほど、普段ランニングをしていて良かったと思う日はなかった。
教会には先生と、村のおばさんもいた。
二人は話を聞くとすぐに家に向かってくれた。
遅れて俺が家に帰った時には、父さんも帰ってきていた。
すごく狼狽えてた父さんのおかげで、俺や母さん、先生たちが落ち着けたような気がする。
出産は大変だった。
赤ちゃんの頭が大きく、なかなか出てこなかったようだ。
先生は回復魔法を使いながら、おばさんと一緒にどうにかする。
この世界には当然、切開なんてない。出産の失敗はそのまま母子共に死ぬことが多い。
流石に俺もこの時はひどく取り乱した。
ここで活躍したのが俺の技能だった。
技能を使って、即席で母さんの疲れを取り、赤ん坊に干渉したのだ。
何をしたのか、俺もあまり覚えていない。
しかしその数分後、出産できたのだ。
この時はがむしゃらで、どれだけ危険なことをしたか、後になって肝を冷やした。
それに、先生に技能についてバレたような気がする。
俺はこの時の感動を忘れないだろう。
妹の名前は“シャル”。
先生が昔の偉大な魔法使いからとったらしい。
彼女のように、素晴らしい人になりますように。そんな気持ちが込められていると言っていた。
シャルは可愛かった。
朝泣いて昼泣いて夜泣く。大変だといえば大変だった。
でも俺としては、それさえも苦に感じることは一切なかった。
とにかく、可愛かった。
まず間違いなく、疑いの余地なく俺は重度のシスコンになるだろう。
そして俺は絶対にそれを貫き通す!
指を離されなかった時は悶えた。
そりゃそうだ、悶えまくりましたよ!
父さんも似た感じだった。
父さんもさらに親バカが促進されるだろうな。
天使のような笑顔を見せてくれた時も、初めて喋った時も、初めて寝返った時も、ずりばいからのはいはい、掴まり立ちをした時は感動で震えたものだ。
一人で立った時は涙を流した。
技能でシャルに魔力を流したり、流れに軽く触れると、ものすごく喜んでくれるのだ。
シャルもやみつきになったらしく、よくせがんでくる。
この瞬間は俺にとって最高の癒しだ。
何が言いたいかというと、シャルがとにかく可愛いという事だ。
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そうして俺はもう五歳だ。
そんなある日、いつも通り先生の授業を受けていた。
再度、技能で魔力を調べてもらったその日、先生はいつものテンションで告げてきたのだ。
「ハルトくんは魔法が使えないかもしれません」




