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一章十四話 とある少女の物語②




 フィーロの男には、昔から課せられている義務があった。

 それは強くなる事である。


 奴隷にされやすい獣人族の性質上、そうせざるを得なかったのだ。愛する者を守る為だと、皆が強くなる事には貪欲だった。

 幼い頃から戦い方を教えられ、魔法を教えられる。


 シロウも例にもれなかった。いや、むしろ他人より圧倒的に強さに飢えていた。

 親の影響もあっただろうが、それだけじゃない。

 この年頃にしては珍しく、守りたいものが明確にあったからだろう。

 妹のソラのことだ。


 一族の中でも特に魔力量が多いソラは、奴隷商からすれば最高の商品となる。

 実際、その都度ガロウが対処するが何度も狙われたことがあった。


 そんな事もあったからだろう。シロウがより強さを求めているのは。

 愛すべき家族を守るために。

 ソラを守るためにと。

「あら、ガロウは今日は食べないんですか?」


 いつもなら子供のようにおやつにがっつくガロウが、今日子供達にあげていた。

 非常に珍しい光景にソアラは驚く。


「……ちょっと、やられてな……」


 ガロウはちらりとシロウを見る。


「あぁ、なるほど。さすがシロウですねぇ」


 ソアラはこれだけで察することが出来た。最近のシロウはそれ程に賢くなってきた。

 そのおかげか、親含めた大人たちにも信頼され、同年代の中ではリーダー的存在となっていた。


「ほらソラ、俺が勝ち取ったおやつだぞー」


「わぁ!ありがとうおにいちゃん!」


 しかし妹にデレるシロウからは、そんなようには見えない。

 まるでただのシスコンだ。実際そうなのだが。


「俺の楽しみが……しかしソラが可愛い……」


 落ち込みながらもそんな事を言うガロウもまた、ただの親バカだ。

 この様子から分かるように、一番大人なのはソアラであった。




「ガロウ、今日は人族との集会があったような気がするのですが」


 ソアラはそういえば、と言うふうに言う。


「うおっ、マジだ!忘れてた!」


「私の準備はできてます」


「待っててくれ!すぐに準備してくる!」


 ガロウは慌てて身支度を始める。

 実はいつも通りなそんな光景に、ソアラは呆れずにはいられなかった。


 現在、フィーロと人族との間には協定が結ばれていた。

 代表であるガロウとソアラは、月に一度開かれる集会に出欠しなくてはいけない。


「ソラ、あんな風に時間にルーズになっちゃダメだぞ」


「うん?わかった!」


 背後から聞こえるそんな兄妹の会話に悔しさをにじませるガロウであった。




「悪い、待たせた。行くか!」


「まったく、急いでください。代表が遅れるわけにはいきません!」


「いってらっしゃい、する!」


 とにかく行ってらっしゃいとお帰りなさいを言いたい年頃である。


「行ってきます」


「いってらっしゃい!おかあさん、おとうさん!」


「おう、行ってきます。シロウ、ソラを頼むぞ」


「分かってるよ」


 そう言ってガロウとソアラは家から出て行く。

 いつも通りなら今日の帰りは夜遅くになるだろう。


「ほら、おやつを全部食べちゃおうか」


「うん!」


 二人は部屋に入って行った。


 現在十一時、事件が起こる四時間前だった。

「おにいちゃん!はやくはやく!」


「あんまりはしゃぐとすぐ疲れちゃうぞー」


 ソラとシロウは広い野原に来ていた。

 家ではおやつを食べた後、遊んでから昼食を食べ、ソラは昼寝をしていた。

 シロウはソラの寝顔を見ながら、気分良く勉強をしていたのだ。


 そういうお年頃なソラは家の中では満足出来ずに、シロウと最も広い野原に行くことをお願いした。

 シスコンこじらせたシロウが断るはずがなく、シロウ同伴でここに来たのだ。



「おにさんこちら手のなるほうへー!」


 鬼ごっこ。

 それは獣人族にとって人気な遊びだった。

 相手から逃げる、タッチを避ける、追うといった動きから自分を鍛える事もできるからだ。


「まてぇー!逃がさないぞー!」


「きゃーーー!」


 あちこち逃げ回るソラを追いかけるシロウ。

 周囲を通る獣人族はその光景にほのぼのしてしまう。




「タッチ!」


「あー!もうー!いくよ、おにいちゃん!」


 もう何度目かになる鬼の交代だ。

 当然だが、シロウは手を抜いている。


 全てはソラが楽しめるように。全てはソラのために!と。

 やる事はともかく、思考はやはり完全にシスコンを拗らせている。


 数を数え始めるソラ。シロウは軽く離れる。

 ソラが二十を数え終わったようだ。そろそろ来るだろか。

 ちゃんと捕まってあげなくちゃな、と考えながら笑うシロウだった。


 そうしてソラの方を振り向くシロウだったが、そこにはーーー


「……ソラ?」


 誰もいなかった。

「ソラ!どこだ!」


 シロウは集落外の森の中を探していた。

 あそこから隠れられるところといえば、ここしかなかった。


 あれからもう十分も経つ。匂いも辿れずに、声も聞こえない。

 流石にシロウも焦ってきたころだった。


(ソラ、やりすぎだぞ。いくらなんでもこのイタズラはお兄ちゃんとしてしっかり叱ってやらなくちゃな)


 シロウはそんな心にもないことを思う。


 本当の心の中は最悪の展開を考えてしまっていた。

 自分が気を抜いたせいで人族に攫われてしまったのではないか、と。

 事実、父であるガロウが集落に住み着くまで、何度も集落内でそういう事が起きていたらしい。


 シロウは常に持っているナイフを構えている。


「ソラ!どこにいるんだ!返事をしてくれ!!!」


 大声を出す。


 今、近くにガロウはいない。頼れる大人もいない。

 自分がソラを見つけ、守るしかないのだ。


(ただのイタズラであってくれ……)


 妹がニヤニヤしながら出てくる光景を思い浮かべる。

 ソラなら十分にする可能性がある。

 きっと大丈夫なはずだ。


 ガサッ


「!!!」


 シロウの耳が草を踏む小さな音を捉えた。


 シロウは出来る限りのスピードでそちらへ走る。

 かすかにソラの匂いがする。

 それは残念なことに……獣人族ではない男の匂いと共に。


「ソラァァァァ!!!」


 シロウは枝から飛び降りながら、男めがけてナイフを投げた。

 しかしもう一人の男に防がれる。


 鍛錬不足、と悔しがる余裕などありはしない。

 シロウは飛び降りた勢いのままソラを抱えている男に飛びつく。

 が、ナイフを防いだ男に阻まれてしまった。


「おまえら!ソラを返せ!」


 シロウのかつてないほどの剣幕。

 ここで失敗すればソラは連れて行かれる。そんな危機感からくる叫びだった。


「おいおい、バレてんじゃねぇか。高い金出して雇ったんだからしっかりしてくれよ」


「大丈夫だ、簡単に蹴散らせる。こいつも連れていくか?」


「荷物が増える。いらん」


「了解」


 シロウの叫びなど意に介した様子もなく、問題など無いように話す男たち。


 シロウは焦る。

 シロウは分かってしまったのだ。

 この雇われている男は手練れである、少なくとも本来子供が太刀打ちできる相手ではないと。


 しかしここで諦めるわけにはいかない。

 負ければ、守るべき大切なものを失うことになるのだから。


「ガァァァ!!!」


 シロウは男に飛びかかる。

 男は危なげもなく躱し、いとも簡単にシロウを蹴り飛ばした。


「ぐはっ!」


 重い。

 しかしガロウほどではない。

 踏ん張り、顔面めがけて拳を打つ。


「ほぅ、子供にしてはやるな、獣人だと考慮しても」


 男はシロウを地面に叩きつける。

 だがシロウは知っていた。そこに投げたナイフがある事を。


「はぁぁぁぁ!!!」


 ナイフが男の腕に深く刺さる。男の顔が歪み、腕の力が緩む。

 力が緩んだ隙に、ソラを抱えた男に飛びかかろうとする。

 ここまではシロウの思惑通りたった。


 そう、ここまでは。




氷矢(フローズンアロー)


「ぐうぅ!」


 雇われた方の男が魔法の矢でシロウの足を射ったのだ。


「いってぇな、調子に乗ってんじゃねぇぞガキ」


 男はナイフを抜きながらシロウを睨む。

 シロウも怯える事なく睨み返すが、もはやただの強がりだった。


「手加減せずに潰してやる、もう逃がさねぇからな」


 男は雰囲気を変えてシロウに近づいていく。

 シロウも矢が刺さっている痛みと、少し凍りついている痛みを堪えながら立ち上がる。

 この男をどうにかしなくてはソラを助け出すことはできない。


 シロウは男に立ち向かう。今度はガロウから教わった戦闘技術を用いながら。

 しかし獣人族の武器である俊敏性はもう無い。

 それに雇われている男は手練れ。


 男はシロウの攻撃を避け、カウンターで腕の骨を折る。

 シロウのナイフを奪って斬りつける。

 刺す。

 氷矢(フローズンアロー)で射る。


 もはやシロウは立っているのが奇跡なほど、ボロボロになった。

 それでもシロウは諦めなかった。

 粘っていればガロウが助けてくれると信じて。


「……うぅん……?」


「ソラ!!!」


 ソラが目を覚ます。

 打たれていた睡眠薬が切れたのだ。


「……っ!おにいちゃん!!!」


 ソラは現状を理解する。ソアラによく言い聞かされていたのだ。

 ソラは取り乱す。


「いやぁぁぁ!!!おにいちゃんたすけて!!!」


 助けを求められたシロウは力を振り絞る。


「うおぉぉぉ!!!」


 ボロボロの足など気にしない。動くたびに溢れる血なんて気にしない。

 シロウはただソラの為に足を進める。


「はあぁぁぁ!『爪波』!!!」


 ガロウから教わった唯一の技だ。

 獣人族特有の魔技。

 シロウの爪が魔力で強化、斬撃を飛ばす。


 完全に虚をついた攻撃だった。

 しかしーーー


「さっきも言ったたろ、調子に乗るな」


 それでも届かない。男は飛ばされた斬撃をナイフで叩き落とした。

 地面が抉れる。


「調子に乗った説教しなきゃな、死ね。氷槍(フローズンスピア)


 矢なんて小さなものではない。

 男の腕回り程もある氷の槍がシロウの腹を突き刺す。


「かはっ……」


 シロウは痛みと失血で気を失いかける。

 だが、ソラの為にと気合いで踏ん張る。


「くっ……ソラ……」


 シロウは男を見据える。

 しかし男はシロウを見ていなかった。


「おい女のガキ、このままじゃお前に兄貴が死ぬ事になるが……」


「おにいちゃん!!!」


 男はソラを抱えている男の所まで行き、ソラの頰を打つ。


「うるせぇよ。お前が奴隷になるって、今ここで誓えば兄貴は見逃がしてやる。どうする?」


 シロウは目を見開く。

 シロウはガロウに教わったことがあった。人を奴隷とするための魔法、隷属魔法には対象の“言葉”が必要なものが多いと。


「ソラ!ダメだ!」


 シロウは手を伸ばす。


「どうするよ」


「わたしは……」


 ソラはシロウを見る。


 ところどころ斬り付けられ、ナイフに刺されていて、凍りついている部分もある。

 そして腹には穴が開いていた。


「わたしは……どれいに、なります」


 ソラがそう言うとソラの首が光り出し、紋様が浮き出ていた。


「よし雇い主、終わったぞ」


「いやぁ、よくやったわ。報酬は弾むぞ」


 そう言って、男は最後にシロウを一瞥して立ち去ろうとする。

 シロウはもはや追うことができなかった。


「おにいちゃん……ごめんなさい………」


 その言葉を聞くと同時に、シロウは意識を失った。



ちょくちょくソラの話が入ります。

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