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一章十二話 天才魔法師、先代聖女



 技能が使えるようになった。

 最初は浮かれてたものだが、だんだんと冷静になってきた。


 いきなり技能を習得するなんて異常だろう。

 俺はどこかの小説みたいに神様からチート貰ったりした記憶もないんだが。

 流石にこれを他人にいうわけにはいかない。先生なら大丈夫そうだが、今はやめておこう。


 そしてこの技能。

 魔力操作の技能は日常でよく使えそうだ。


 先生に魔力を流してもらって分かったが、一定の魔力ならそれは最高に気持ち良い。

 コリでもほぐす効果もあるのか、その後は調子が良くなる。


 これを使えば、さりげなく両親の疲れを取れる。

 両親の為になりたい俺としては、魔法学園に行くまでに出来るだけ助けになりたいのだ。


 まぁ、加減を間違えれば激痛だから気をつけなくてはいけないが。


 あともう一つ。

 動物類以外に魔力を与える場合だ。


 さっきトマトに流してみた感じからの俺の予想だが、人の体の調子を良くすることができるように、野菜の状態も良く出来るのではないだろうか。

 少なくとも、うちのトマトはより元気になった様に見えた。


 味についてはまだどうなるかは分からないから、少しずつ調べていこう。




「ハルト、先生の授業はどんな感じなんだ?」


 色々考えていたが、今は食事中。

 父さんが俺に質問をする。


「色々分かりやすく教えてくれるから、楽しいよ」


「それは良かったな。今度先生にお礼をしなくちゃな」


「そうね。そういえばハルト、あなたの使いたがってた魔法はどうなの?」


 魔法は技能まで使える様になったよ。


 とは言えないな。

 かと言ってそのうち先生から聞かされるかもしれないし、ある程度ちゃんと教えておこう。


火球(ファイアボール)の魔法式の暗記と、今日は魔力操作をできる様なったよ」


「えっ……ハルト……、本当?」


「う、うん」


 母さんと父さんが固まる。


 まずい、これも言うべきではなかったか。

 気味悪がられたら辛すぎるから勘弁してほしい。


「………………」


 我が家の食卓に沈黙が続く。


「……す………」


 ……す?

 母さんが何かを言いかける。

 気持ちは判決を下されるのを待つ罪人である。


「す、すごいわ!うちのハルトは天才よ!!!」


 しかし俺の不安とは裏腹に、母さんが非常に興奮していらしゃった。

 父さんもどこか嬉しそうにしている。


「えっ、普通はそれらだけでも、三年くらいはかかるものじゃないの!?」


「あ、あぁ。そのはずだが……。ハルトはすごいな……」


「えぇ!食事を豪華にすれば良かったわ!いや、今からでもデザートくらいは作れるかしら……」


「落ち着け落ち着け、母さん。それにしてもハルト、頑張ったな」


 父さんに頭を撫でられる。


 思っていたより全然喜ばれている。俺としては嬉しい事なんだが、なんか簡単に信じられすぎて落ち着かない。

 まぁ、親バカ気味だったからな。


「私、デザート作ってくるわね!」


「あ、おい……」


 母さんが父さんの制止を聞かずに行く。

 でもここまで喜ばれると、顔がにやけるな。


「まったく……。いや、ハルトはここまで才能があるとはなぁ。父さん達びっくりしたぞ」


「そんなにすごいの?」


「あぁ、ものすごい。才能だけで言えばシシル先生よりもあるかもな」


 そこまでだろうか。

 なんだかんだで先生はさらっとたくさんの魔法を使うから、俺の中で目標になりがちだが。


 父さんは少し沈黙する。


「……ハルト、そのことは俺たち以外に言ったか?」


「いや、言ってないよ」


「ならその事は言わないようにしなさい。世の中には悪い人もいるんだからな」


 父さんは、俺に言い聞かせる様に言う。


 分かってるよ、父さん。

 これが日本の小説みたいに、偉い人たちに狙われるとか面倒臭すぎる。


「分かったよ。もう他に人に言わない」


「おう、そうしてくれ。あ、あと弟ではなく妹だったぞ」


 へぇー、妹か。


 って、


「えぇぇぇぇ!赤ちゃんのこと!?俺に妹ができるの!?」


 父さんは頷く。

 あまりについでの様にさらっと言うから、一瞬何言われたのか分からなかった。


 生まれてくる事は分かっていた。

 俺としては弟でも妹でも超可愛がるつもりだったが……。

 ……そうか、妹か。


「妹か、妹かぁ……」


 ヤバイな、ニヤケがおさまらない。

 父さんに見られてるのに。


「ふっ、男で女でもいいって言ってたが、やっぱり妹が良かったんだな。父さんもその気持ちはよく分かるぞ」


 それはそうだろ。

 いや、一般的にそう言うものというわけではないかもしれない。

 どちらでも可愛がるつもりだったが、俺としては実は妹が良かった。


 うわぁ。

 なんかにやけと一緒に体の震えが止まらない。


 あれ?

 しかしいくらなんでも性別が分かるのは早くないか?

 そもそも日本より科学も医学が進んでないはずだ。


「父さん、どうやって男か女か分かったの?」


調査(サーチ)っていう魔法で知り合いに調べてもらってな。確か先生も使えたはずだぞ」


 そうか!この世界には魔法があったもんな。

 それに便利そうな魔法だ。

 幻影(ファントム)の魔法式を覚えたら、次はそれにしよう。


「母さんが妊娠で調子悪くなったら俺がいろいろ手伝うね」


「お、それは嬉しいな。それにしても、妊娠で体調が悪くなることがあるなんてよく知ってるな。どうしたんだ?」


 おっとマズイ。

 今まで一人っ子だった三歳児が知るはずがないことだったか。


「せ、先生に聞いたんだ」


「へぇ、まだ魔法の勉強しかしてないと思ってたがそれ以外もしてるんだな」


「う、うん」


 とりあえず先生が、と言えば大丈夫かもしれない。申し訳ないけど、便利だな。

 先生が技能でミスしたって言ってたし、その代わりにこの言葉を頼りにさせてもらおう。




 その後、母さんが本当にデザートを作ってきた。

 砂糖はあまり安くはないはずなのだが。


 母さんの作る甘味はやばかった。顔が蕩けたわ。

 両親にも大笑いされてしまった。

 もはや凶器と言っていいと思うんだ。


「ふぅ、こんなものかな……」


 日課とした寝る前の筋トレを終える。

 今日はかなり疲れてたけど、やらない訳にはいかない、

 努力は続けてこそだ。


 魔法を使える日は近い。


 俺はその日を楽しみにしながら、眠りにつく。

「いやぁ、ハルト喜んでたな」


「そうね。なんとなく妹が欲しがってると思ってたけど、あそこまで喜んでくれるなんて」


「俺たちも嬉しくなってくるよな」


「そうねぇ」


 ハルトが寝てしばらくした後の食卓。

 クラウは酒を飲み、メアリはデザートの残りを食べている。


「あと、ハルトの天才っぷりな」


「そうね、まさかあそこまでやるなんて思ってみなかったわ」


 二人とも大怪我からのハルトの様子が心配になっていたが、そこまで暗くなってしまったわけでもないハルトの様子に安堵していた。


「それで、調子はどう?」


「まあ、ハルトが十歳になる頃には十分に貯まるな」


 クラウはハルトが魔法学園に行けるために、ギルドで依頼を受けて稼いでいた。

 ギルドとは様々な依頼が流れてきて、それをギルドメンバーがやり遂げる、そう言う場所だ。


 戦える者、特技がある者、ごく普通の人、様々な人がいるが実際はほとんどが強者だ。



 コンコン



「シシルです。こんな夜分にすみません」


 シシルが家に訪ねてきていた。


「どうしたのかしら、見てくるわ」


「お、悪い、頼む。俺は酒を片付ける」


 メアリは待たせては悪いと、急いで玄関へ向かう。シシルが家を訪ねてくるなんて初めてなのだ。

 扉を開けると、少しだけ鼻を赤くしたシシルが立っていた。


「こんな夜遅くにすみません。どうしても話したいことがあって」


「いえ、そんな事より寒いでしょう。入ってください」


 メアリはシシルを招き入れる。

 ちょうどクラウが酒を片付け終わったところだった。


「それでどうしたんですか、先生?」


「はい、今日お邪魔させてもらったのはハルトくんのことで……」


「まぁ、そうでしょうな」


 クラウは相槌をうつ。

 メアリもそうだろうと思っていた。


「まだ授業を始めて二日ですが、ハルトくんは天才です。王都の魔法学園へ入学する際は私が学園長に話しに行きますので安心してください」


「それはありがたい」


 クラウもメアリもハルトの才能で、王都に行った時に何か面倒ごとに巻き込まれないか心配だったのだ。

 なぜかシシルの顔色は冴えない。


「どうしたのですか?」


「いえ……本題に入ります。今日、ハルトくんに技能を使いました」


「あら、やっぱり。流石に魔力操作を覚えるのは早すぎると思ったのよね」


「それでもハルトくんに才能があることは変わらないです。それでその時に、ミスをしてしまいハルトくんに辛い思いをさせてしまいました。申し訳ございません」


 シシルは深々と頭を下げる。


「先生、ハルトなら大丈夫ですよ。あれでもタフなんでね」


 あんな大怪我したのにケロっとしてるしな、とクラウ。


「ありがとうございます。後遺症も残らないと思います」


「それは良かった。しかし、それだけではないのでしょう」


 クラウは、まだ何かあるようなシシルの表情を見てそうは判断する。

 クラウはそういうことに聡い。


「はい、実はその時に魔力回路に違和感がありまして……。まるで何かで流れを阻害しているような感じで」


 そう、シシルはその事が気になっていた。

 魔力回路は、シシルのように技能があるか、特殊な魔法でなくては干渉できるものではない。

 あのような違和感は本来、ありえないものなのだ。


「なるほど、そんなことがあったんですか……」


 クラウは黙る。

 メアリも何か考え込んでいるようだ。


「……実は俺たちは、それに心当たりがあるんですが……言うことは出来ません」


「そうですか……」


 シシルはクラウとメアリの表情から訳ありという事を理解した。

 シシルはとても不安を感じていた。


「先生、そんなに心配なさらないで下さい。それは悪いものではないはずですから」


 シシルは、まるでそれが何か知らない様な口ぶりが気になった。

 しかし、訊いても答えてはもらえないだろう。


「ごめんなさいね、信用してないとかじゃないの。他の人には言わないって、ある人たちと約束したから」


「そうですか、分かりました。何があっても私が守ってみせます」


 シシルは気合を入れながら、そう誓う。


「それはありがたい!先生が守ってくれるなんて、頼もしすぎる。俺の出番が無さそうだ」


 二人はヤノ村で唯一、シシルの事を詳しく知っていた。

 二人はシシルの命を救ったことがあるのだ。




「先生、実はお願いしたい事があるの」


「はい、なんでしょうか」


 クラウはハルトの様子を見に、席を外していた。

 メアリはシシルに頼む。


「実は生まれてくる子、女の子だったんだけど、先生に名前をつけて欲しいの」


「え、そんな……流石にそれは……私がやっていいことではありません」


 シシルは断る。

 単純に、自分がそれをするのは何だか申し訳ないのだ。


「先生にお願いしたいんです。それに、あのシシル様に名付けてもらえるなんて光栄なことです」


 メアリは再度頼む。

 この事は、クラウも了承済みである事を伝える。


「……分かりました、良い名前を考えておきますね」


「お願いします。それと、この子の先生にもなってくれませんか?ハルトみたいに」


「もちろんです。私でよければ」


 メアリはシシルの返事に安堵する。これで生まれてくる子も安心だろう。

 なんせーーー


 天才魔法師、先代聖女であるシシルが味方なのだから。


 その後、戻ってきたクラウも混ざって酒を飲み、更に遅くまで騒いでいた。

 翌日の授業。


 体力作りしてからいつもの様に教会へ来た。


 俺は何かまずい事でもしたのだろうか。


「ハルトくん、一時的にあなたの魔法使用を禁じます」


 どうやら魔法を使えるのはまだ先になりそうだ。


 

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