#39 Other Heros1/Lancelor: A secret between more than two is no secret
※12/5 22:24 最終シーン追加
─神暦36992年6月15日─
昼、目的地であるロスタイルの街に着く。空はどんよりと淀み、湿った嫌な風が吹いている。一雨来そうだ。嫌な感じ。
「この辺りでリーネンス軍が目撃されているとか」
「……住民の元気が無いな」
「そうねぇ」
灰色の街、ロスタイル。石畳みの通りも、石造りの家も全てが灰色である。時折ある花屋や雑貨屋だけが色鮮やかである。……が、何だか今は空気も全て灰色に思えた。
「とりあえず話を聞いてみるか」
「そうね」
大通り。ディナダンは馬を降り、そこに待たせると近くの花屋へ駆け寄って行った。
「失礼、私は王都の騎士の者だが、市長殿へはどこへ行けば会えるだろうか」
花屋の若い女主人。ペレディルが好きそう。まぁ、今彼女は目の前に現れた青髪の騎士に心を射止められているようだが。ディナダンはその様子に気付いているのかいないのか、いや気付いていないだろう。奴は弟のことと他人の色恋沙汰以外にはとことん鈍い。
「ありがとう」
「いいえ」
ディナダンが彼女に(見えないけど恐らく)優しい笑みを向けて、こちらに戻って来る。彼女はずーっとその背中を見ているが、やはりこの無自覚モテ男は気付かない。
「さて、行こうか」
「おー……」
……何で皆んなこういう鈍い奴の方が好きなんだろうな。
† † †
「王都から遥々、ようこそお越し下さいました」
「いえ。リーネンス軍のことは我々も放ってはおけませんので」
ロスタイルの役所。市長室に俺たちは通された。市長は初老の男、顔には何とも言えぬ不安が浮かんでいる。
「はい。ここのところ、市民から『リーネンス軍を見た』との声が多く寄せられていまして」
「ロスタイルの中で?」
「いえ。街から少し出た所……そうですね、リーネンス国境方面です」
「なるほど」
街にはまだ入って来ていない。だがこの辺りにウロついているということは、いずれ攻撃があるかもしれない。
「他には何か情報は?」
ディナダンが訊くと、市長は少し躊躇う様子を見せた。が、ディナダンが目で力強く促すと、重そうなその口を開いた。
「実は……リーネンス王の姿を見たという声もありまして」
「リーネンス王⁈」
……は、うっかり叫んじまった。……ガラハドの目が少し痛い。ディナダンは何事も無かったかのように続ける。
「それは本当ですか」
「いいえ、一件だけで他にはありませんので、なんとも。なにぶんここの所敵兵の姿が街周辺にあるものですから、皆不安がっているのです。噂に尾鰭がついている可能性もありますから……」
「……ですが、心には留めておきましょう」
────アルファイリア様は、「指揮官が絶対いる」と言っていた。だから、宮廷騎士以上の存在はいるはずだ。まさか、一般兵だけで街を攻め落とすなんてこと……。
「あの、大丈夫なのでしょうか……」
「ご心配なさらず。我々は守りに来たのです。必ずやリーネンス軍を退けて見せましょう」
「お願いいたします、本当に……」
「いいえ」
仕事ですから、とはディナダンは言わない。彼は本当に、心の底から民と向き合っている。
「それでは我々は街を見てきます」
「はい」
「行こう、ランスロー、ガラハド」
促され、俺たちは立ち上がって一礼し、市長室を後にした。
「とりあえずどうするの?」
廊下に出て、少ししてガラハドが言った。
「そうだな、既に街中に騎士達を見回りに出しているし……我々は外に出ようか」
「リーネンスの陣営を見つける?」
「まぁ、近くにいるだろうな。だが今日は仕掛けない」
「三人で偵察ね」
「いや、私が行こう。君達は街に残って警備と聴取に当たってくれ」
「……そーゆーのお前の方が良いんじゃねーの」
「一人で大丈夫?」
「何、心配はいらないさ。交戦は絶対にしないから」
「んー……」
いや、さ。そういうんじゃねェんだよな……。
「と言うわけで頼むよ二人共」
「気を付けてね」
「はは、勿論」
……俺知ってる。こういうの“フラグ”って言うんだ。
† † †
……なんて心配は杞憂に終わり。ディナダンはピンピンしてシルフィルヴィアと共に戻って来た。俺はホッとしたような、拍子抜けしたような、何だか複雑な感情。
茜色に染まる街。色が無い分よく染まる。市役所の前で俺たちは落ち合った。
「どーだった?」
「いたよ。ここから数キロ先だけどね。テントを立ててそれなりに大掛かりな陣営が出来ていた」
「宮廷騎士はいたのか?」
「あぁ。……見覚えがあるのが一人。名前は確か……そうだ、オジェルダ」
「他には?」
「他に黒髪の騎士が一人と若草色の髪の騎士が一人」
「……三人か」
「王様は?」
ガラハドが訊くと、ディナダンは首を振る。
「私からは見えなかった、が最低でもそれだけはいるという事だ」
「こっちは三人……」
「王様がいたらあっちは四人」
「……うちのアルファイリア様と違って向こうの王は慎重だろう」
「お前それさりげなく主ディス?」
「違う! アルファイリア様はアルファイリア様であれで良いのだと私は思っている。……じゃなくて。…………そう簡単に出て来るだろうかという話だ」
「……んー、まぁ、そうだな」
「奴はジルギス城にも来ていなかった」
「でもねぇ、目撃情報があるんでしょ?」
「…………その辺りは、どうなんだ。何か収穫はあったのか」
「あったっちゃあったよーな」
俺はガラハドと目を合わせ、彼が頷くので言う。
「何人かリーネンス王を見たって」
「……本当かい?」
「そうよ。はっきりした証言だったわ」
「…………そうか」
ディナダンは考え込んでいるようだった。これから、どう動くべきか。先制を仕掛けるか、それともここで防衛線を張るか、というところか。
「……ひとまず今日は休むとしよう。隊の皆も疲れが溜まっている事だろうし」
「ずっとキャンプだったしな」
「ちゃんとしたベッドで寝れるのは嬉しいわ」
「あぁ。君たちもしっかり休むといいさ」
† † †
────夜。遠くから聞こえる喧騒に俺は目を覚ました。
「……何だ?」
体を起こし、時計を見る。夜中の2時。……訝しんでベッドに立て掛けてある剣に手を掛けた。その時。
「!」
大きな音と共に突如窓が割れ、火矢が飛び込んで来た。壁に刺さったそこから火が広がる。
「やべっ……“水よ”!」
手から水を放ち、消火する。……ッぶねぇ、何だ、何が起こってる。
割れた窓から、壁に身を隠しながら外を覗き見る。
「な……」
燃えている。街が。人が逃げ惑っている。剣を持ち走っているのはロスタイルの衛兵……と、リーネンス兵。
「襲撃⁈」
「隊長!」
「!」
ドアが開け放たれる。寝起きらしく髪の乱れたアーロンが焦った顔でそこにいた。
「たっ……」
「分かってる」
やるべき事は一つだ。決まってる。眠気など吹き飛んだ。
† † †
ディナダンとガラハドと俺は各々の部隊をつれてそれぞれ別の宿屋に泊まっていた。この騒ぎはこの辺りだけじゃない、街中に広がっている。……あいつら無事だろうな。まぁ無事だよな。……無事に決まってる。
合流、は出来たらする。だがそれは今最優先ではない。俺の持ち場は、ここ。ここで市民の避難とリーネンス兵の掃討。
……それにしても、熱い。火の手があちこちで上がっている。飛ぶ火矢も見える。奴ら、片っ端から焼き払うつもりだ。
「……“水輪……ッ駄目だ! 水のエレメントが足りねー!」
一気に消火しようにも、俺が自分で生成出来るエレメントじゃ限りがある……普段なら空気中のを使うところだが、この高温のせいで湿度が下がっている。……俺の技量がもっとあれば…………。
「……隊長、どうしますか」
「…………」
アーロンが訊いて来た。俺は街の状況を見渡し、少し考えて答える。
「お前は部隊の半分を連れて敵兵の掃討、俺はもう半分を連れて敵の宮廷騎士の捜索と市民の救助に当たる。いいな」
「はい。お任せ下さい」
「頼んだぞ」
アーロンが号令をかけ、半分を連れて行く。……うん、本当出来た奴。俺もボケッとしてられない。
「よし、行くぞ!」
おー!と叫ぶ一団。士気は十分。俺はアーロン達が行った方向とは逆の方へ走る。西側にはガラハドが、中心街にはディナダンがいるはずだ。ここは東の端。……王が行くとしたら中心街だろうな。ディナダンの奴大丈夫かな……。
そんな事を考えながら走っていると、不意に悪寒がした。俺は思わず立ち止まる。少し遅れて部隊の皆も立ち止まった。
「どうしたんですか」
「……下がれ」
「え?」
マジかよ。……マジかよ。
熱さによる汗ではない、冷や汗が額から染み出した。炎と煙の向こうから、誰かが歩いて来る。コツ、コツ、とゆっくりとしたその足取りは余裕すら感じられる。
「……王都の紋の兵が見えたのは気のせいでは無かったか」
「…………」
数メートル先。その姿が見える。俺も、その後ろの騎士達も息を呑んだ。最悪だ。何で、こっちなんだ。
「リーネンス王……」
「初めて見る顔だな、若き騎士よ。セシリアはリリアーネスの死後戦力を整え直したか」
滅多に……いや、アルファイリア様に代わってからは初めてではなかろうか、彼が戦場に出て来るのは。
「何故、ここに……」
「何、先日うちの筆頭騎士がそちらの王にいたぶられたものだからな、こちらも打って出る他なかろうと」
冷たい目。敵だから当たり前か。いや、でも、アルファイリア様のそれとは違う。“本物”だ。これが、本物の王としての風格。そこにいるだけで感じる威圧感。俺達とは明らかに違うような、その気配。……悔しいが、そう感じざるを得ない。
「名を名乗れ、セシリアの宮廷騎士」
「……!」
それは、目の前の王に命を握られたも同じだった。ここで逃げる訳にはいかない。如何に無謀でも、逃げる訳にはいかない……!
俺は、大きく息を吸った。剣を抜き、構える。
「我が名はランスロー・ヴィア! セシリア王に仕えし宮廷騎士が一人なり!」
「……ほう」
リーネンス王は何かに気付いたような顔をすると、彼もまた剣を抜き、名乗った。
「我が名はシャルル・フレアドル・リーネンス。リーネンス王国を統べる者! ……この地を奪還すべく来た」
国の名を冠する王族。分かっていてもその名は実際に耳にすると重みを感じる。ましてや本人の口から、など。
「……ここは俺一人に任せろ」
「た、隊長」
「お前達は引き続き市民の救助、リーネンス兵の掃討。いいな」
「…………はいっ!」
「よし、行け!」
俺は一人、そこに残る。燃える街の中、目の前の重圧と対峙する。
「……ルシオラ」
「はい」
「!」
王の隣に、フードを被った黒い人影が降り立つ。フードの下は純白の長髪、金色の瞳。……あれが、リーネンスの守護竜。
「手出しは無用だ、すぐに済む」
「心得ております」
スッ、と、また竜は姿を消した。……あいつ……王の護衛なのか。
「……随分とナメられたモンだな」
「威勢を張るのは良いが手が震えているぞ」
「!」
馬鹿、敵に心の内を晒すな。怖くなんかない。俺は、誇り高きセシリアの騎士だ。敵に恐れ慄いたりなどしない。剣を握る手に力を込めた。
「参る!」
「来い」
燃える地を蹴った。俺は、勝たなきゃならない。……絶対に。
† † †
「奇遇だな」
「……あぁ本当に」
ロスタイル中心街。ディナダンは単騎、燃える街を駆けていた。体には既に屠ったリーネンス兵の返り血がついていた。そして、目の前にはセシリア兵の返り血を浴びた騎士がいた。
「今日は弟君は一緒でないのか」
「そちらこそ」
オジェルダとディナダンは十メートルほどの距離を保ってそこに立っている。他の騎士達はいない。ディナダンの隊の者は皆副隊長を筆頭に敵の掃討と市民の救助へ遣った。
「こうも早く再び目見える事があろうとは」
「……お前は私が斬り刻んでやったと思うのだが」
「残念ながらこの通り生きている」
「あの魔術師は蘇生の術もしてのけるのか?」
「俺は死んでいない」
イラついた顔でオジェルダは答える。手にしたハルバードの石突きを地面にコツンと当てると、彼は言う。
「問答をしに来たのか? セシリアの騎士」
「ディナダン・ルノワールだ」
「……知っている。忘れるはずがない」
オジェルダはハルバードを両手で構える。
「今日は前の様には行かんぞ」
「いいだろう、今度はその首を獲る」
ディナダンもその大剣を構えた。いつもある穏やかさはその目には無く、ただ敵を滅さんとする冷徹な光がそこにはあった。
† † †
一方。ロスタイル西。燃え盛る街の中、ガラハドは一人立っていた。
「……やぁね、お肌が荒れちゃう」
頰に手を当てはぁ、とため息を吐くと彼は目の前の人影へと目を向けた。二人、そこには男が立っている。
「レディに二人は卑怯ってものじゃないの?」
「……レディ?」
「あら失礼しちゃうわ」
眉を顰めた若草色の髪の騎士に、ガラハドは言う。その隣に立つ黒髪の青い軽鎧を着た騎士は腰に手を当てる。
「男だか女だかはどちらでも良い。……セシリアの騎士だな」
「そうよ」
「ならば問答は無用」
「お名前聞かせて? ナイスガイ」
「人に名を訊ねる時はまず自分から……」
「あたしはセシリア王国の宮廷騎士、ガラハド・エレインよ」
「……リーネンス王国宮廷騎士、リナルド・ブルクラース」
遮られたのが不服なのか、微妙な顔をして黒髪の騎士は答える。
「同じく、トゥルファン・ナルテイア」
若草色の髪の騎士がそう答えた。身に纏う橙色の装束が火の中で赤みを増して見える。
「一対一を望むのならそれも構わんが」
「あら、別にいいのよ。同時に二人もイケメンと遊べるならそれはそれで」
「何……?」
「リナルド、挑発に乗るな」
頰をヒクつかせたリナルドを、トゥルファンが手で制する。それを見てガラハドはにこりと笑う。
「あなたが相手してくれるのかしら」
「僕一人で十分だ」
「そう」
声色はそのまま、だが、その時彼は笑みを消した。
「それじゃあ戦りましょ」
高らかに、リイィィィンと金属の音を立ててガラハドが剣を抜く。そのままセシリア式の剣の構えへ。縦に構えられた剣の向こうから覗く彼の目に、トゥルファンは思わずゾクリとした。リナルドが少し下がり、トゥルファンは剣を抜く。それを確認したガラハドは、再びその顔に笑みを浮かべた。
「……推して参る!」
────ただし、その目はまるで獲物を狙う獣のようだった。
† † †
あの日も恐らく、父達はこんな気持ちだったんじゃなかろうか。そんな事ないか、だって彼らは俺よりずっと強かった。……俺だって強くなったけどさ。
あの日の遠征は、敵国の王との戦いを想定したものではなかった。だがあの日王は出陣し、そして敵国の王と鉢合わせた。父もそこにいた。誰も想定しちゃいなかった。偶然────偶然、王と王は出会い、そして我が国の王は敗れた。突然、国を預けられたアルファイリア様は一体どんな心境だったことか。俺には到底想像もつかない。
ただ、俺はあの父が指輪一つになって帰って来るだなんて思っちゃいなかった。……その後、新たな王の下に宮廷騎士に選ばれることも。
いつかは、と思っていてもまさか今じゃあるまい、と思うのが人間だ。その“いつか”に対する心構えは幻想であり、実際にはない。……それを実感するのはまさに今、こういう状況だ。
「ぐっ……」
シャルルの攻撃を、剣で捌く。……重い。そして疾い。でも、多分本気じゃない。顔にはまだ余裕が見える。わざと隙を見せて、こっちから攻撃を仕掛けさせているような素振りもある。……この感じ、試されてる……?
そんな疑念を抱きながら、丁々発止と渡り合う事数度、不意に王の空いた左手が光った。
「!」
咄嗟に身を翻した。すぐ目の前を光線が過ぎる。俺は後ろへ飛んで距離を取った。すると王はすぐには襲って来ず、ふむ、と手の上に残る光の粒子を握り潰した。
「…………なるほど、よく似た剣筋……奴の子か」
「!」
「その目は肯定だな? ペレアス・ヴィアの子」
「……父を知ってるのか!」
「あぁ」
シャルルは目を閉じ、そして顔を上げると言った。
「憐れな騎士だった」
「何……?」
……何だって? 何て言った。
「父を侮辱するのか!」
「……可哀想に。何も知らんのだな」
「はぁ⁈」
「そうか。差し詰めあの騎士が隠したのか」
「どういう意味だ! 何を言ってる!」
叫ぶ俺に、彼は笑った。冷たい嫌な笑みだった。その時、ポツリと雫が頰に当たった。
「良い事を教えてやろう、ヴィアの二世」
「!」
「……貴様の父はうちの騎士に討たれたのではない」
ポツリ、ポツリとやがて雨が降り出した。それはすぐに本降りになる。
「………何言って……」
「奴は自国の騎士に討たれたのだ」
街に雷鳴が轟いた。と、同時に雨は強くなる。俺はその音に負けないように叫んだ。
「……つまらない嘘を吐くな‼︎」
「嘘ではない。ルシオラの報告だ。奴は嘘は吐かん」
「…………俺は信じないぞ!」
「赤毛の長髪の騎士」
「!」
「あぁそうだ、その時に片腕を失くしたらしいな」
「…………」
は? 何で。……それって……。
「おい……」
風が吹いた。強い風で、思わず吹き飛ばされそうになった。雨脚が強くなる。
「……嵐か」
シャルルが踵を返す。俺はその背中を追おうとする。
「おい! 待て! どこへ行く!」
「撤退だ」
「待て!」
踏み出した所で、黒い影が現れた。と、腹に衝撃が走る。
「っ‼︎ ガハッ‼︎」
バシャバシャと音を立てて地面に後ろへ転がった。……いってぇ……。
うつ伏せになって、腕に力を込めて体を起こす。血を吐いた。……これ以上起き上がれない。力が入らない。
「……ハァ」
「王の後は追わせない」
目の前に猫耳フードの影がある。その足の向こうに、遠ざかる王の後ろ姿が見えた。
「…………お前……」
「慈悲と思え。だがお前がなお立ち上がると言うのなら私はお前を殺さねばならない」
「…………」
……勝てない。コレには。絶対に。火竜一頭一人で倒し切れる自信の無い俺は、絶対に。
ルシオラは俺が動かないのを確認すると、光の粒子を残して姿を消した。
雨が降る。火の勢いは収まっていた。風が強い。雨が痛い。……体も痛い。
「……クソッ!」
握り締めた拳で地面を叩いた。水飛沫が顔に飛ぶ。何なんだ、何なんだよ。
────赤毛の長髪の騎士。その時に片腕を失くしたらしいな──
「…………何でだよ」
思い浮かんだのは一人だけだった。……どうして、あの人が。
雨が、降る、降る。街は静寂に満ちていた。
#39 END
*新規登場人物*
リナルド・ブルクラース
リーネンスの宮廷騎士の一人。32歳。トゥルファンとよく共に行動している。冷静沈着な性格だがその一方でキレやすい。地の守護者。
トゥルファン・ナルテイア
リーネンスの宮廷騎士の一人。29歳。リナルドとよく共に行動している。キレやすいリナルドのストッパー。炎の守護者。




