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英雄王と影の騎士  作者: Ak!La
§1 光と影の英雄譚
33/52

#31 East is East and West is West and never the twain shall meet

「……神界」

「ま、天界にはもしかしたら馴染みがあるかもしれねェけど、神界はねェか」

「天界って……神様がいる世界だっけ」

 アルス神話なら子供の時から皆が知っているような話だ。神の為の祭りもある。本気で信じている人は一部だけど。

「そうそう。その下の世界だな。神の子孫の皇族の下に、属性ごとの国がある。俺は影の精霊だから影の国」

 と、ノイシュが空中に手をかざすと、槍が現れた。凝ったデザインの槍だ。

「これが俺の“神器”。上級精霊と認められた精霊に渡されるものだ」

「……へえ。認められるとどうなるの?」

「こうやって人界に降りて人間に憑く事が許される」

 ふふん、と笑うと彼は槍にもたれ掛かった。

「守護者として与えられた力を、最高にまで鍛え上げた人間に俺たちは憑ける。つまりイヴァンは力の扱いについてはプロと言えるな」

「……僕より凄い人達もいるのに」

「そうかな。あんたかなりのテクニシャンだろ。分かるぜ。そういう流れをしてる」

 あとは、と彼は人差し指を立てる。

「強い意志だ。力を欲する望み。それによって俺たちは心理の窟へと召喚される」

「何人か憑いたりとかは……」

「あるよ。あるけど二人までだ。それ以上は器が持たない」

 器……だなんて言われるとなんか嫌だな。物みたいで。そんな思いが顔に出ていたのか、ノイシュは口を尖らせた。

「器ってのはそのままの意味だぞ。精神と魂から成る俺たち精霊を人界で留めるんだから」

「……どういう事?」

「人間は生命の根源たる魂と、人格たる精神、それを納める器である体から成ってる。でも俺たちにはその器が無い。神界では必要無いんだ」

「…………どうして?」

「創造主が決めたからさ」

 彼の口からそう言われると、神様って本当にいるんだなという気になる。精霊なんてものがいるんだから、いてもおかしくないか。守護竜殿もいる事だし。

「俺たち精霊は、あんたら守護者と共に生きるように創られた。そういう事なんだろうさ」

 まだ何か訊きたい事はあるか、とノイシュは首を傾げる。僕は少し考えて言った。

「“リンク”って?」

「あぁ」

 と、ノイシュは自分と僕を交互に指差した。

「俺の力をあんたに反映させる事だ。普段はあんたはあんたの持つ力しか使えないけど、俺とリンクすれば俺が持つ力をイヴァンが使えるようになる」

「……君の力?」

「暗闇の中……月夜くらいの暗さまでなら、俺は一定空間の影全てを支配下に置ける。さっき使ったろう」

 あぁ、あれか。ランタスの支配下にあったはずの影を全て僕が奪い取った。沸いてきた力もノイシュのものだったんだ。

「“リンク”はとても体力を使うんだ。精霊の高濃度のエレメントを自分のと混ぜ合わせるからな。使い続けるのにも限度がある」

「……もしかして」

「まぁあんたが倒れた理由の一つはそれだろうな。普通は意図しなくても外れるモンなんだけど」

 外せって言われたのに外さなかったから。リミッターが外れていたのもあって僕は無意識のうちに体力を消耗し続けたんだろう。

「……その、つけ外しってどうやるの?」

「どうって……感覚?」

「感覚…………」

「その辺は慣れて行こうぜ」

 そんな無責任な。でもそうか、彼は精霊だし人間の方の感覚がどうとか分からないのかも……。

「あとそうだな、他にも出来る事は言っておくか」

 ノイシュは顎に手を当て、うんと頷いた。

「俺はイヴァンの体から出て、個人で活動出来る」

「出来るの?」

「あぁ。けど俺はあんたの体を器として人界にいる訳だから……一定距離内でだけだな。あまり離れると俺が死ぬ」

「具体的には?」

「……10mくらいかな……」

「それくらいあれば十分か」

「まぁ大抵はな。あと、も一個大事な事」

「何?」

「俺が外に出てる間はあんたは力を使えない」

「……えっ」

「精霊が憑いた時点で人間の核は精霊にくっ付いちまうんだ」

 その代わり普段はある程度強化されるんだけどな、と彼は言う。まぁ……そうだな。武器は影の力ばかりじゃないし、そこまで困る事は無いかもしれないけど。

「精霊は人間と違って、核も持たない。この体がそもそもエレメントみたいなものだけどな。自分ではエレメントを生成出来ないんだ」

「じゃあどうやって力を?」

「神界にいる時はこれ、属性に見合った石を使って空気中のエレメントを集めて使う」

 と、彼が見せたのは白い羽根と紫の石が付いたチャームだった。

「これは人界と神界の間を行き来する為の通行証……でもあるんだけどまぁそれはいいか。とにかく俺達は石が無いと力を使えない」

「じゃあ僕がそれを持ったら?」

「……悪かねェけど扱い方がちょっと違うぞ。人間には自分以外のエレメントを操るのは少し難しい」

「エレメントって全部同じじゃないんだ……」

「違うよ、人によって少しずつな」

 そういえばあの魔導具はそういうものだったか。同じ属性のエレメントを込めてもそれぞれの持ち主の方を指していた。

「まぁ……説明するのはそれくらいかな。あとはおいおい必要になったらで」

「うん、ありがとう」

「じゃあこれからよろしくな、イヴァン」

 ノイシュが手を伸ばして来る。僕はようやく立ち上がり、その手を取った。

「あぁ、よろしく」

 ……ところで、と僕は辺りを見渡した。

「ここからはどうやったら出られるの?」

「あー……うん」

 うーんとノイシュは首を傾げた。まさか分からないなんて事は……。

「……感覚?」

「またそれ……」

「だって仕方ねェじゃん、俺がここから出るのだって感覚だよ‼︎こう、意識を外に向けるって言うか……」

「……分からない」

「とりあえずやってみろよ」

「うーん……」

 まぁいいか、それしか分からないなら仕方ない。……外に……外に……。


† † †


 目を開けた。視界はほんのりと薄明るく、先程までの洞窟ではなかった。

「……ん?」

 背中に当たる感触はふかふかとしていた。……デジャヴだ。あの時は足元に魔術師殿がいたけ……ど……。

 隣に気配を感じて見てみると、椅子に座った先生がこっくりこっくりと船を漕いでいた。

 ……寝かしておくべきだろうか?それとも僕が目覚めた事を教えるべきだろうか。それにしても今は何時だ。心理の窟の中にいた時間が分からない。

(ノイシュ)

『んー、何だ』

 心の中で呼び掛けてみると返答があった。最初の時のようにやはり頭に響いて来る。

(僕が気絶してからどれくらい時間が経った?)

『……さぁ……あんたの意識が途切れてからこっちに来るまでちょっと時間あったしな。……あんたが起きてない間は俺もあまり時間感覚が無いんだ』

(そっか)

『あと精霊の時間感覚をあまり当てにするなよ、俺達寿命が長いからあんたらとはちょっと感覚が違うんだ』

(…………そう……)

 ……とりあえず、そうだな。疲れてるとは言え先生もこの体勢のまま寝るのは良くないだろう。

「先生、先生、起きて下さい」

「………ん……くぁ……あぁ、何だ、起きたのか」

 一つ大きな欠伸をして先生は眠そうに目を開けた。

「大丈夫か、急に倒れたが」

「ちょっと力を使い過ぎたみたいです。すみません、ご心配をお掛けして」

「全くだ、一人で勝手に行っちまうし……」

 あ、そう言えばと先生は魔導具を取り出した。

「……これ……俺達が洞窟に入った辺りから針が消えちまったんだ」

「えっ」

「だから何かあったのかって……」

 確かに、円盤の上にあった筈の薄紫色の針は無くなっていた。もしかして、と僕はグワルフさんの魔導具を取り出すが、普通に針はあった。

「……先生のも消えてないんですか?」

「んだ。お前のだけだよ」

 時間によって消えてしまったのかと思ったが、そうではないらしい。……あ、もしかして。

(君のせいか)

『せいとか言うな、どういうことだよ』

(僕のエレメントを込めた魔導具が僕を示さなくなったんだ)

『……あぁ、そういう事。じゃあそうかもな。俺が入った事によってエレメントが変質した』

(…………そう)

 じゃあ、先生にも言っておいた方がいいかもな。

(秘密にしておいた方がいいとか無いよね)

『敵には知られない方がいいけど、味方ならいいと思うぜ』

(了解)

「どうした?ぼうっとして」

「あの、先生」

「ん?」

「紹介しておきたい人がいるんです……」

 人って言うのか分からないけど。と、その時僕の胸元から小さな光が飛び出し、先生の隣で人の形になった。

「こんにちはー」

「…………⁈」

 にっこり笑ったノイシュに、先生は驚いて椅子から転げ落ちた。


† † †


「……つまり?お前がイヴァンに取り憑いて盗賊頭との戦いに勝利をもたらしたと」

「取り憑いたってゆーな、幽霊とかじゃあねェんだよ俺は」

 とベッドに腰掛けたノイシュが口を尖らせて言った。先生は初め動揺していたけど、説明してるうちに落ち着いて来た。

「まぁ、イヴァンは確かに力の扱いには長けてるし、その辺は納得だけどよ」

「恐れ入ります……」

「俺は?」

 先生は不服そうに自分を指差した。確かに先生だって……。

「あんたにはまだ伸び代がある。まぁ、俺は風の精霊じゃないからよく分からないけど……」

「伸び代?」

「あとそれと、あんたに足りないのは“ピンチ”だ」

「ピンチ」

 釈然としない、といった表情で先生は復唱した。

「いや俺だってそれなりに窮地乗り越えてるからな⁈」

「う、うーん、ほら、こう……多分向上心が足りないんじゃね?」

「適当かよ!」

 はぁ、と先生はため息を吐いて自分の手を見た。

「……まぁ…-そりゃイヴァンに比べりゃそうかもしれねェけどさ……」

「先生は『あ、これ死ぬな』って思った事あります?」

 僕がそう訊くと、先生は「うーん」と考えた。

「……一度だけ」

と、先生は自らの眼帯に手を当てた。

「一度だけ……宮廷騎士になる前に」

 そう言えば、先生の目の傷の話は聞いたことがなかった。そもそも聞こうとも思わなかった。初めて会った時から彼は眼帯だったから、その人の一部として認識していた。

「でもあの時は俺もまだまだ未熟だったし、本気でもう死ぬもんだと諦めてたからなぁ……」

「それなのにどうやって生還したんですか?」

 と、僕がそう訊くと先生は苦い顔をした。

「……ワルだよ」

「え?」

「ワルの奴が助けてくれたんだ。あいつだってボロボロだったのに」

 だから実はあいつには頭が上がらないんだ、と先生は苦笑した。

「俺は死ぬ時は潔く死ぬもんだと思ってるからな。戦場で死ぬのは騎士にとって名誉だ。いくら友達だろうとワルだっていざとなりゃ俺を見捨てるだろうよ。……だから聞いたんだ、何で助けたんだって」

「グワルフさんは何て答えたんですか?」

「……『助けたかったからだ』ってそんだけ」

 やれやれと彼は肩を竦めた。

「だから俺は決めてる、一度だけ、ワルが死にそうになったその時俺が助けるって。でもそれきりだ。俺もあいつもそれ以上は助け合わない」

「…………どうしてそんな」

「自分の命の責任くらい自分で持ちたいだろ」

「なら生き延びる選択も出来るじゃないですか」

「……そうだな」

 先生は目を伏せる。それは何かを諦めている顔だった。

「でも、世の中自分じゃどうにもならない事ってあんだよ」

「…………」

「圧倒的な力の前では何もかもが無意味だ。一人で戦うのには限界がある」

「じゃあ」

「美学的なもんさ、そこに明確な理由なんてない。死ぬ時は潔く。命乞いもしない。命を取られるのは、力の無かった俺のせい。それだけの話だ」

 僕には少し理解出来ない話だった。僕はどちらかと言えば生に執着している。簡単に生きる事を諦めるのは、あの時僕を生かしてくれたキースに対する侮辱だ。僕は彼らの分まで生きなければならない。アルファイリア様の為にも死ぬわけにはいかない。……そう思って足掻いている。なのに。

「そんなだから憑神しねェんだ……」

「うっせ、いいよ別に」

 ノイシュの言葉に、先生は口を尖らせた。

「さて、じゃあ今日はもうゆっくり寝てろ、出発は明日だからな」

 先生はそう言って立ち上がった。ドアを開けて出て行くその後ろ姿を見送る。壁の時計は6時を指していた。

「……ノイシュは分かる?先生達の考え方」

「ん?……んー、そうだな。分からないでもない」

「そうなんだ……」

「でもお前さっき『死んだ方がいい』とか考えてただろ」

「……さっき?あぁ」

 ノイシュが話しかけてくる直前のことか。確かにそんな事も思ったっけ。

「弱い自分のことが嫌いになっちゃうんだ」

「強くなりたい?」

「勿論」

「ふーん」

 にや、とノイシュは笑う。そして僕の額を小突いた。

「痛っ」

「じゃあ、今日弱いお前は死んだ」

「!」

「これから生きてるのは何者にも負けないお前」

 ────きっと、本当にそういうわけには行かないだろう。まだまだ僕より強い相手はいる。だけど、そういう話じゃない。勝ち負けは力だけじゃない。心が屈しなければ、僕は負ける事はない。

「な」

「……うん」

 笑って頷いた僕は、ノイシュと拳をコツンと合わせた。

 誇り高く生きよう。生き延びてやる。過去を克服した僕には何も怖いものはない。何からも逃げなくていい。そこにどんと構えていればいい。

 ────帰ろう、王の元に。


#31 END

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