#20 No man is a hero to his valet
-神歴36992年4月18日-
王女達が来られて7日。今日、彼女達はご出立される。
「道中お気を付けて」
「あぁ。お前も元気でな。次はユージア殿も連れて来よう」
「私もいずれシャーロック様を連れて来るわ」
城門。見送りの僕達騎士と、王女一行の騎士達の間で、王家の姉弟達は会話を交わしている。
「いい子にしてるのよ」
「……やめて下さい」
「怪我はもう大丈夫なのか」
「えぇ。元から大した事はありません」
「そうか。お前は昔から無茶をする所があるからな」
「心に留めておきます」
正装の王。王……だけど、姉二人といると少し頼りなく見える。背丈は明らかに二人よりあるのに。
「イヴァン様」
「!」
ゼルナードさんとルヴィーレンさんがこちらに歩いて来る。ベルナールさんは僕の後ろで静かに立っている。
「弟の事をどうかよろしくお願いします」
「……よろしくお願いしたいのは僕の方です」
「おや」
ルヴィーレンさんが驚いたように目を見開いた。ゼルナードさんはくすりと笑う。
「そうですか。ベル、良くやるのだよ」
「兄様は心配し過ぎです」
「はは。そうか。心配いらないか」
「兄弟とはいえ歳は変わらないんですから」
背丈も同じで顔も同じ、声色は違えど声も同じ。……こっちの三兄弟を見ていると不思議な気持ちになる。
「道中、どうかお気を付けて」
僕は、ゼルナードさん達にそう言った。
「えぇ。ありがとうございます」
にこりと笑うゼルナードさん。いい笑顔だ。
スコートは、セシリアのすぐ隣の国だ。スコートの王都まで、この王都からは2日で行ける。ジルギスまでとそう変わらない距離だ。
一方、ロトルクはスコートのさらに向こう。セシリアとは接していない。……何でそんな所と同盟国になるのかって、さぁ、先代王のご意向なのだから僕には分からない。ロトルクの皇帝と縁があったとかそういう事じゃなかろうか。
休憩を夜だけとして行っても、一週間以上かかる。何故ならスコートを抜けてすぐ、帝都までの間に広い砂漠地帯があるからだ。そこはもともとイゼルプスという国で、セシリアが出来た頃にロトルクと併合したという。具体的には36126年。……もう800年も前。当時はイゼルプス人とロトルク人は……まぁこの話はまたの機会にしよう。
「ミルディンの奴は見送りにも来ないのか」
「そこまで薄情では」
「!」
はたまた、いつの間にか魔術師殿がアルファイリア様の後ろに立っていた。
「……お前、いつからそこにいた」
「さて、いつからかな」
……見てたはずなんだけど、分からない。突然ぽっと湧いて出たという訳でもない。気付いたらそこにいた。
「途中、スコートには何日か滞在を?」
「いや、私は姉上と別れた後一晩過ごしたら発つ。ユージア殿をそう待たせてはおれん」
アルフィア様の答えに、ふむ、とミルディンは頷いた。
「なら良いけど」
「……何か言いたい事があるようだな」
「いいや特に。君が今言った通りにすれば何とも」
「…………予言か?」
「一日も予定を遅らせない事。でないと安全は保証できないな」
「……分かった。その通りにしよう」
アルフィア様は魔術師殿の予言を信じてるのか……。意外というか何というか。
「ではな。世話になった」
「またねイリアちゃん」
「……はい」
アレッタ様とアルフィア様がゼルナードさんとルヴィーレンさんを呼ぶ。彼らは僕らに一礼すると、彼女達の方へ歩いて行った。
「……兄様達も変わられない」
「そうなんですか?」
「えぇ。僕に対して昔から気を遣い過ぎるのです」
ベルナールさんはそう言って、ため息を吐いた。
「……ベルナールさんは心配じゃないんですか?」
「僕が兄様達を心配するなど」
と、そこでベルナールさんは言葉を止め、一度口を噤むと言い直した。
「……いいえ。いえ、そうですね。ずっと危険でいるのは兄様達の方です。あぁ見えて……無茶をする時はする人ですから、心配と言えば心配です」
「…………お二人とも結構お強いですけどね」
「手合わせでもしたんですか?」
「はい」
つい昨日の事……ちょっと怪我もマシになって来た所へ、アルフィア様から呼び出された。場所は訓練場、待っていたのはアルフィア様とルヴィーレンさん……だけでなく、アレッタ様とゼルナードさんもいた。「ここを出る前にお前の強さを見ておきたい」とそういう事だった、
それぞれ一回ずつさせてもらった結果、ルヴィーレンさんは少し押せたけど最後は負けて、ゼルナードさんに至ってはあっという間に負かされた。多分ルヴィーレンさんは手加減してたと思うし、僕なんか目じゃ無いほど強い。僕の喉に剣の鋒を突き付けながら、にっこりと爽やかに微笑むルヴィーレンさんの顔が忘れられない…………。
「……僕も精進しなければ」
「まぁでもイヴァンさんの場合、アルファイリア様もお強いので……」
「だからこそですよ」
「…………目標が高過ぎると身を滅ぼしますよ」
「うぐ……」
いや、まぁ、確かにアルファイリア様より強くなろうと思うと大変だけどさ。
馬と鎧の足音が遠ざかって行く。城下町でも見送りの列が出来ているはずだ。
────さて。またいつも通りの日常が始まる。
† † †
「ア〜ル様っ!頼まれてたのが出来ましたよっ」
「お」
その日の昼。訓練場にいた僕達の元に、ガルさんが何か折り畳まれたものを持ってやって来た。
……ん?あれって……。
「早いな」
僕を置いてアルファイリア様は、剣を持ったままガルさんの前に行く。……僕の訓練は。
「そりゃあもうアル様のお頼みとあれば頑張らない訳には行かないじゃないですかぁ」
「そうか。どれ、広げて見せてみろ」
「はぁい」
畳んでいた赤い布を、ガルさんは両手で持って広げた。それは小さなポンチョだった。……猫耳の。
「色はあたしが勝手に決めちゃったけど、良かったかしら」
「あぁ。上出来だ」
「……本当に頼んでたんですね」
「あら、イヴちゃん」
気付いてなかったんかいっ。まあいいや。
「それ、守護竜殿のですか」
「そうよお、可愛く出来たでしょ?」
にっこり笑うガルさん。何だか元気が出る。
「よし、早速渡しに行こう。二人共来い」
「はーい」
「はい」
訓練そっちのけ!余程楽しみにしてたんだな。とても楽しそうなウキウキとした顔をしている。
僕とガルさんはそんな王の後をついて行った。
† † †
「あれ、どうしたんだい、珍しい」
僕達三人の姿を見て、守護竜殿は鳥籠の中からそう言った。
「アテリスちゃんこんにちは」
アテリスちゃん……そういう呼び方なのか。
「……えーと」
「ガラハドよ。ガルちゃんと呼んで」
「あぁ、そうだそうだ。ガルちゃん」
にっこり笑う守護竜殿。
……そうか。守護竜殿はあまり騎士達と面識が無いのか。というか守護竜殿順応早っ。
「…………採寸はしなかったんですか?」
僕はガルさんにそう訊く。
「アル様が寸法はきっちりと持って来てくれたのよ」
「はぁ……」
「まぁアル様の事だからその通りにしたら大丈夫なんじゃないかって」
と、ガルさんは持っていたポンチョを広げた。
「わ」
「これ、お前にやるよ」
いつの間にやら中に回っていたアルファイリア様。その顔を見上げ、守護竜殿は目を輝かせる。
「本当?」
「おう」
「気に入ってくれると嬉しいわ」
「お前達も中に来い」
「はぁい」
「……はい」
え、ちょっと近付くとなると緊張する。今までずっと檻越しだったし。
けどまぁ…………仕方ないか。よし。守護竜殿は危険な方ではないし。
鳥籠をぐるっと回って、鍵のかかっていない格子戸から中へ入る。この中から庭園を見ると何だか変な感じだ。
「はい」
ガルさんは守護竜殿にポンチョを渡そうとするが、守護竜殿は両手を上げた。
「僕が持つと生地が破けちゃうかも……」
「あら」
「そうだな、俺が着せてやろう」
アルファイリア様が頷いて、ガルさんからそれを受け取った。……そうか。あの鋭い爪だと……。
「せめて手だけでももう少し人型に近付けられれば良いんだけど」
「えー、お前それが可愛いのに」
「色々と不便なんだよ〜。大きくなったらもうちょっと自由に変身できるんだ」
「へぇ、そりゃ一体何年後の話だ?」
「もう!」
言っている間に、守護竜殿は頭からすっぽりとポンチョを被った。足元まで丁度隠れる長さだ。
「ぴったりねぇ」
「完璧だ」
「……わあ」
すっくと守護竜殿は立ち上がり、くるくると回った。裾がひらひらと舞う。普通の小さな子供の様だ。
「似合ってる?」
「おう」
「えへへ。ありがとうガルちゃん!」
「あらぁ、頑張った甲斐があったわぁ」
顔を綻ばせるガルさん。そうだ、彼は可愛いものが好きなんだった。と、そんな彼が手を叩いて提案する。
「ねぇアテリスちゃん?折角だから外に出てみない?」
「えぇ?」
「そうだな、それだったら体も結構隠れるし」
「い、イリアまで〜。外はいいよ、行かなくて」
「ずっとこんな所にいたら退屈だろ?」
「僕はここが好きなの!」
「いいから、出るぞ」
「えぇ〜!」
アルファイリア様が腕を引っ張るので、守護竜殿はそのままついて行く。本気で抵抗しないということは、別にそこまで嫌という訳でもないんだろうか。
「僕は空を見てるだけで充分だよ……この庭園にだって色んなものがあるし」
この空中庭園の周りは、ガラス張りになっている。だが格子には蔓植物が張り付き、ほとんど外は見えない。代わりに、空はよく見える。天井がないので、雨や雪はそのまま降って来る。だが、守護竜殿の鳥籠にはきちんと屋根がついている。……寒くはないのかな、と思うが、確か雪の日は竜型になっていた覚えがある。あの羽毛だ、寒さはあまり感じないのかもしれない。
そして庭園には水路がある。まず階段を上がってきてすぐの横と、そこから直角に分岐して鳥籠の周りを。階段からまっすぐ言った先には、大きな蓮池がある。可愛らしい蓮の葉のその上には、池と同じ大きさの藤棚。今の時期は丁度藤の花が美しく咲いている。夏になれば蓮が咲く。
他にも光を降らす木があったり、白い床と相まって幻想的な雰囲気をもたらしている。
「たまには動け」
「この中でも色々運動出来るんだよ!」
と言いながらも既に二人は籠の外。僕とガルさんも続いて出て、扉を閉めた。
「ここにはイリアやミルディンが来てくれるからそんなに退屈じゃないんだって……」
「ミルディンが来るのか」
「うん、イリアが来ない時にね」
「……腹立つなぁ」
「僕に?」
「お前じゃない、ミルディンだ」
そんな二人を見て、ガルさんが僕にこそっと耳打ちする。
「アル様とアテリスちゃんって本当に仲良いのね」
「えぇ。見ていて微笑ましいです」
「イヴちゃんは妬いたりしないの?」
「しませんよ」
「あらそうなの」
まだ僕はアルファイリア様と付き合いは浅いからなぁ。共にいる時間は長いけど、やっぱり30年の月日には勝てない。何せ僕は、王になってからのアルファイリア様しか知らないのだから。
「よし、行くぞ」
「……うー」
実はちょっと嬉しそうな守護竜殿。フードを被ってしまえば、竜らしいのはあと足くらいである。
「……ていうかいつの間にイリアは僕のサイズ測ったの?」
「いつも見てるだろ」
「え」
「お前ずっと大きさ変わんねェじゃん」
「か、変わってるよぉ!ちょっとは大きくなってるんだよ!」
「そうか?でも大体合ってるだろ」
「反論出来ない」
目測?さすが……って言うかなんて言うか。もはや怖い。そんなにいつもよく見てるのか。……よく触ってるし?感覚?
口では嫌だと言いつつも、何だかんだで大人しくアルファイリア様について行っている。
階段を降りて来て、キョロキョロと守護竜殿は周りを見回した。
「……何にも変わってないねえ」
「お前、最後に出て来たの何年前?」
「うーんと……400年くらい……」
「……よく体鈍らないな」
ツッコむところが少し違うように思うのは僕だけだろうか。
「先王の最期の戦いの時も、僕は出て行かなかったんだ」
少し後悔気味な守護竜殿。アルファイリア様は答える。
「あれはまさかそうなるだなんて誰も思わなかっただろ」
「……領地視察で偶然リーネンス王の軍と鉢合わせるだなんて」
あの時は、国中が驚きに震えたものである。王都からは離れていた国境付近だった為、国が陥ちる事はなかった。しかし、王の死はセシリアにとって大打撃だった。変わって即位したのは若き王……当時33歳のアルファイリア様だ。
その頃はまだ、僕がその護衛官になるだなんて夢にも思っていなかったなあ、などとしみじみ思い返していると、議長殿と出会った。
「おや、これはこれは」
「あ」
「こんにちはユーサー」
守護竜殿が言う。議長殿は彼の前で屈んで答えた。
「珍しいですね、あなたが出て来るとは。良い物をお召しで」
「えへへ、ガルちゃんに作って貰ったの」
「それは良いですね」
柔らかな笑みを浮かべる議長殿。ふむふむ、ここはこういう仲なのか。
「ユーサー、少し老けたかい?」
「10年も経てば歳もとりましょう」
「そうか、10年ぶりになるのか。君はあまり庭園には来ないから」
笑う守護竜殿。10年……なんて、きっと守護竜殿にとっては大した年月ではないのだろうけど。10年前と言えば……いや、考えるのはやめておこう。
「あなたは何も変わられませんね」
「あー!僕だって伸びてるのにぃ」
「おや、それは失礼」
議長殿は立ち上がると、アルファイリア様に言った。
「ところで、私はあなたに用があったのですが」
「……えー、何」
「…………後でもよろしいでしょう、滅多にない機会を潰すなど、野暮な事は致しません」
では、と議長殿は会議室の方へ歩いて行った。その姿を見送りながら、僕は呟いた。
「近頃は、何だかますます忙しそうですね、議長さん達」
会議室の前を通ると、よく声が聞こえて来る。ぼやぼやと何か喋っているなという事が分かるくらいで、何を話しているのかは分からないが。
「あらイヴちゃん、この時期と言ったら」
と、僕の言葉を受けてガルさんが言う。
「え?」
「……いいよ覚えてなくても……」
「あ」
面倒臭そうな顔をするアルファイリア様。僕はそれでようやく思い出した。
「そういえば、そうですね」
「この時期になるといつも、ユーサー様はちょっとわくわくしてる感じがするのよね」
可愛いわぁ、と漏らすガルさん。彼の感性は少し理解出来ない。……議長殿のどこに可愛い要素あるのだろうか。カッコいいじゃないのか。
「どうせ用ってのもその相談だろう」
「何でイリアが楽しそうじゃないのさ」
「何でってアテリス、そりゃ……」
「嬉しくないの?」
「嬉しいのと、恥ずかしいのとは別だろ」
あはは……まぁ、確かになぁ。
────ん?何の話かって?……あぁ、説明してなかったっけ。えっと、それは────…………
† † †
会議室。入口の正面の席には議長であるユーサー、円卓の残りの7つの席にはそれぞれ評議員達が座っている。
皆気の抜けた様な、疲れた様な表情をしているが、ユーサーはただ一人至極真剣な顔をしていた。
「……全員揃っているな」
と、そう言いつつユーサーは立ち上がり、隣の席で舟を漕いでいるイゾルデの後ろに立つと、持っているバインダーでその後頭部を叩いた。
「痛っ」
「寝るな」
「……私昨日寝れてないんですよぉ…」
「私もだ」
「何でそんな元気なんですか」
「会議を始める」
「無視」
カツカツと足音を立て、ユーサーは元の位置に戻ると、立ったまま机に手をついた。
「皆も既に周知の通り、いよいよ7日後だ」
「…………」
どんよりした空気。皆は、“それ”自体が嫌なのではない。ユーサーの元気について行けていないだけだ。
そんな空気を、ユーサーはスゥと吸い込んだ。
「諸君にはめいめい働いて貰う事になるが、毎度の事だ、もう慣れたな」
「……寝不足に慣れる事が出来るのなら苦労はしませんよ」
眼鏡の真面目そうな男が眉間を抑えて呟いた。しかし、そのぼやきはユーサーには届かなかったらしい。
「では役割を指示する。業者の手配はリオネスとグリンエル。警備監督はスランカー、厨房の監督はボーマン、内飾はヴィア。ペレノアとマリスは企画書政策だ。分からない事や相談は総責任者たる遠慮なく私にすること」
小さな返事が帰って来る。一つため息を吐いて、ユーサーは言った。
「年に一度の大切な、アルファイリア様の生誕祭だ。必ず良い物にするぞ!」
「地獄だナ……」
厚着の癖毛の男が、火の付いていない煙草を咥えてそうぼやいた声が、会議室の重い空気に溶けて行った。
† † †
「ユーサーの奴、やんなくていいっつっても聞かねェんだよ」
「まぁ……王国始まって以来ずっとやってるし……伝統だし」
「今までに嫌がってる王いなかったのかよ」
「うーん……あ、ヨルズの何世だったか」
「……あまりいないんだな」
16代から20代までの王の名前はヨルズ。21代と22代……アルファイリア様の祖父と父がリリアーネス。その前も、同じ名前が何代か続いていたりする。縁起がどうとかそういうことで変えたりするらしい。まぁその話はさておき。
「どうして生誕祭が嫌なんですか」
花壇の間で僕が聞くと、アルファイリア様はえー、という顔をする。
「まず響きが恥ずかしい。あと、国中が俺の誕生日を祝うってのも……」
「アルファイリア様って目立ちたがりじゃないんですか?」
「そういう認識だったのか」
顔を逸らすアルファイリア様。花壇の縁で遊んでいた守護竜殿がくるりとこちらを向いた。
「イリアは意外とシャイだよね」
「う」
「自信があるのは戦いくらいで」
「うぬ……」
守護竜殿、守護竜殿、アルファイリア様にダメージが入ってますよ。
「生誕祭の日は城内にも一般人が入れるだろ」
「えぇ」
貴族だけでなく庶民も。でも僕は、城に入ったのはアルファイリア様に連れられたのが最初だ。
「そんで……まぁ……女がいっぱいプレゼント持って来るんだよ……」
「…………あぁ」
去年もあったっけ、そんな事。収集がつかなくなってアルファイリア様は早々に部屋に戻ってしまった。……僕も付き添ってた。今年は少しくらい規制されるんじゃなかろうか。
「要は面倒臭いんですね」
「そゆこと」
貰ったものはどうしたかって?そりゃ、ねえ。裕福とは言えない街の人々が頑張って買った品だから、さすがに王も蔑ろにしない。ただ、自分が使うとは限らない。
「あ、蝶々だ」
「お」
守護竜が花の間を飛ぶ蝶を見ようと屈む。アルファイリア様も真似をして覗いていた。
「アル様ってモテモテよねぇ」
「……そうですね」
モテモテ……モテモテか。それは果たして、アルファイリア様がモテるのか、王がモテるのか……。
子供のように無邪気な王を見て、僕はそんな事を考えていた。
#20 END