美しいひと
フラロルの王には、宿願があった。
王は、小さな頃から、美しいものが大好きだった。
そして、美しいものを手元において、ながめるのが好きだった。
それは、美しい宝石だったり、美しい花だったり、美しい鳥の羽だったり、
美しい細工箱だったりした。
あるとき、ふと、思った。世界で一番美しいひとがみたいと。
国中におふれを出し、美しい者を召し出した。
国中から、美しい男女が集められたが、王を満足させる者はいなかった。
それぞれ美しいのだが、あるものは、瞳はうつくしいが、髪はいまひとつだったり、
唇は愛らしいが、鼻の形がもうひとつだったり、
顔立ちは良いのだが、肌があれていたり、体型が今ひとつだったり、
優雅さがかけていたり、王を満足させる完璧な者は、一人もいなかった。
王は、美しい者がいなければ、作ればよいのだとおもった。
花の品種改良のように、掛け合わせよと。
後宮に美しい男女を住まわせ、衣食をあたえ囲った。
あとは、勝手に番った。
美しい子が次々生まれたが、そうでないものもいた。
それぞれに、きちんとした教育と礼儀作法を教えた。
美しくない者は、城のメイドや下働きに、
美しい者は、他国の貢ぎ物に、特別に美しい者は、王の庶子として、政略結婚の駒にした。
ひとは、見目麗しいものに弱い。
かの者達は、フラロル国の外交に大いに役に立った。
幾年の月日が流れ、たくさんの美しい子供が生まれたが、王を満足させる者はいなかった。
王も、晩年といわれる年になった。
「貴方を満足させるものは、この世にはいないのじゃないかしら? もうお諦めなさったら?」
と、王妃はいった。
王は、王の責務として、王にふさわしい王妃を娶っていた。
外交的にも、戦略的にも、人柄的にもふさわしい人物だった。
王と同じで凡庸な容姿だったが、穏やかで賢い人物だった。
恋愛で始まった結婚ではなかったが、穏やかで温かい愛情が育った。
王という者のならいとして、王の人生もなだらかなものではなかった。
貴族の策略、暗殺未遂、他国の謀略、天災、いろいろな危機があった。
それを一つ一つ、王妃と乗り越えてきた。
凡庸な容姿の王妃であったが、はしばみ色の瞳は美しかった。
困難に巡り会うたび、
「貴方ならできるわ! さあ、二人で、目にもの見せてあげましょう。」
はしばみ色の瞳をきらりと輝かせた。
王妃の勇敢な横顔を見るたびに、
『 うつくしいひと 』というのは、このひとのことかもしれないと、王は思うのだった。