A LOVE GAME
私、若宮楓。高校1年生です。16年間、男の人と一緒に遊びに行った事が無い私が、今、渋谷の街中で男の人と歩いています。彼の名前は、高槻龍。私と同じ1年生。きらめく瞳に美しい黒髪。端正な顔立ちの彼がどうして私の横を歩いているのかというと、事の始まりは、3日前のこと。
「楓、お願いがあるの」
学校に着くと友達の片山玲緒が話しかけてきた。玲緒は、小学校の時からの付き合いで、私の一番の友人だ。彼女は、私とは違って容姿端麗で誰とでも仲良くできる。私とは正反対の女性。
「今度の日曜、合コン行かない?実は、昨日高校生に声かけられてさ、今度お互い友達を連れてきて合コンやろうって話になったの。それで楓に誘ってみたんだけど、これる?」
「え、合コン?でも私そういうの苦手だし」
「楓。これは、彼氏作るチャンスかもしれないじゃん。楓結構かわいいんだから彼氏作んなきゃ勿体無いよ。昨日の人、結構イケメンだったから、来る人も悪くない感じだよ。もしかしたらそこにいるかもしれないよ。楓の運命の人」
「行くー!!。ぜったい行く!!。彼氏GETするー!!」
日曜日
「どーも!麻生孝一です。さすがれおちゃんの友達。みんな可愛いね」
どうやら、先日玲緒に話しかけてきた男性が来たらしい。
「やだー。そういえば他のメンバーは?」
「ごめんちょっと遅れてて。もうすぐ来ると思うんだけど」
「おい、オレは合コンなんて聞いてないぞ!!」
「おちつけって龍。」
突然近くから、声が聞こえた。そこには二人の男性が立っていた。黒髪の人と茶髪の人だ。
「!!!」
一瞬、黒髪の人と目が合っちゃった。
「ごめんごめん、遅れちゃって。龍の奴、連れてくるの大変でさ。こいつマジで女に興味無いんじゃないかと心配してさ。ムリヤリ合コンにつれてきたくらいだよ」
リュウっていうのは、黒髪の人だろうか。
「俺、鹿山拓巳。で、こっちの黒いのが高槻龍。えーと名前は?」
「あ、あの。私、綾瀬美樹っていいます」
いきなり私の隣から声がした。彼女もまた今回の参加者だ。
「拓巳さん。私と付き合ってください!!」
「え?」
その場が凍りついた。拓巳の返事は
「いいよ、付き合っても。ということで俺たち行くから」
「ちょっと待てってば。これからどうするんだよ。4人で合コンっていうのもさみしくね。せっかくここまで来たのにさー」
反論を言ったのは、孝一だった。それに対する拓巳の反応は
「じゃあさ、こうしようぜ。これから二人一組で回るってのはどう。俺たちは二人で行くからさ、そっちも組んでまわろうぜ」
「しょうがない、それで行くしかないか」
どうやら孝一も同じ事を考えていたらしい。
「はいはーい。私、麻生さんと一緒にまわりたいです」
そういったのは玲緒だった。
「俺は、別にいいけど若宮さんと龍は、それでいいの?」
「あ、はい」
「俺は別に誰とでもいいけど」
「それじゃー決まりね。解散!!」
というわけで、今私はこのような状況下にいる。しかし今の状況は彼が先に歩いているため、私が隣で歩いているわけではない。しかも彼のペースは、速く追いつくのがやっとである。突然彼が止まった。
「君さ。これからどうする気なの?」
「え!?」
「俺は、別に合コンに無理矢理連れてこられた立場だからさ、はっきりいって面倒なんだよねこういうの。今なら、あいつらがいないからこのまま解散でいいよね」
「わ、わたしは、このままでいいよ。折角来たんだから、このまま居たい」
「君さ、このまま居たいっていうけど、実際理由が違うんじゃないのかな。さっきだって、俺の顔見て一瞬何か感じたでしょ」
「私は、別に!」
「ふーん。ならいいよ。。このまま君に付き合っても。但し、簡単なゲームをしよう。ルールは簡単。君が俺を楽しませてくれれば。でも今日俺が楽しいと思わなければ、今度は、僕が君を連れ出すから。うーんそうだな。君は、俺の下僕となる運命ね」
「わかったわ」
何こいつヤな奴。一瞬でもときめいた私が馬鹿みたい。でもそんなことより絶対こいつを楽しませないと。しかしどうする…
「で、どこ行くの?君が俺をリードしてくんなきゃ意味ないじゃん」
「映画見る?」
「あー今気分じゃないな」
「遊園地は?」
「え?君とは乗る気しないなー」
……っ、この…っ。この人楽しいなんて絶対言わないつもりだ!!だけど楽しいって言わせないと…
「君、さっきから無言だけど、何か喋ってよ。トークで楽しませてよ」
「私、男の人と話すこと経験無いから何を話せばいいか分らなくて」
一瞬、彼の表情が変わった。
「……もういい、喋るな」
ムカー、折角喋ったのに…っ。
私は彼の後をついていった。着いたのは、あまり目立たない喫茶店だった。席に座ると男性がやってきた。
「ようリュウ。珍しいじゃねえか、お前が女連れなんてよ」
「コーヒーを一つ。君は?」
「あ、はい。ストレートを一つお願いします」
「それと何かケーキを彼女に」
「はいよっと。了解。んじゃ、……ごゆっくり」
含みのある言い方をして立ち去る彼。
「ねえ、何なの、ここ」
「俺のお気に入りの店」
彼はそれだけを言うと無言になった。やがて、カップが二つとケーキが一皿運ばれてきた。私の頼んだ紅茶は世間から言われているものと異なったものだ。
「飲んでみな」
彼にそういわれて飲んでみた。
「あ……。美味しい」
そうだろうと言わんばかりに彼が頷く。彼の顔が一瞬笑ったのはきのせいだろうか。もちろんケーキも美味しかった。それから彼は、少し心を開いてくれたのか自然と話せるようになった。
店を出た後、街中を見て回ることにした。でも私はこれといって欲しいものはなく何も買ってない。時刻が3時を回ったころ、路上でアクセサリ類を売っているところがあった。
「ちょっと待って。これ見てっていい?」
「はあ、何が売ってるんだよ」
彼が横でブツブツ言っているのを気にしないで、商品をずっと見ていた。
「お二人さん。デートの途中かい?」
店主がいきなり話しかけてきた。
「ええ、まあ」
「そうかい。だったら君にとても似合うものがあるよ」
店主はそう言って、奥の方から箱を出してきた。
「これなんかどうだい」
そう言って店主が箱を開いた。中から出てきたのは指輪だった。
「綺麗」
「手にとって見てみるかい」
「はいっ」
それは見るものを魅了させる、綺麗な銀色の指輪だった。
「これは翡翠から加工されたものだよ」
「あ、あの、お値段は?」
「27000円になります」
27000円。そんな大金持ってないよ。でもこれすごく欲しいな。でも
「やっぱり他のにします」
隣から龍くんが声を掛けてきた。
「おまえ、そんなにそれ欲しいのか?」
「うん」
「でもそれお前には似合わねーぞ」
「いいの別に」
「はい、27000円」
「まいど」
「え!?」
「ほら、これ欲しかったんだろ」
彼は、私にそれを渡してきた。
「うん。だけど」
「ふーん。じゃあいらないの」
「いるっ」
「だったらほら」
彼は無理矢理私に渡してきた。
「ありがとう」
私は笑顔でそう言った。本当に感謝の気持ちをこめて。
時計を見ると、午後5時になっていた。外がようやく暗くなりつつある。今私たちは、倉庫の近くの海が見える場所に居る。そこから見える夕陽の景色は最高だった。
「た…楽しい?」
私は再度尋ねてみた。彼は、笑顔でこういった。
「全然」
!?彼の顔を見ていると意識してしまう自分がいた。
「ねえ彼女、そんな男と一緒に居ないで俺たちと遊ばない」突然後ろのほうから声がした。そこには六人ぐらいの不良っぽい集団があった。
「龍君、行こっ」
「そうだな」
「待てよ。返すわけねえだろ、なめてんのかテメエ」
男たちがたくさん寄ってきた。
「ああ、わかった。タダでとは言わないよ」
「へぇ、ひょっとして女の子と遊ばしてくれたりするの?」
「え……」
まさか龍君に限ってそんなことしないよね。でも龍君顔はいいけど、弱そう……
「確かにあんた一人じゃボコボコにされちゃうだけだもんね」
「……」
「いいよ。その子置いてってくれるなら見逃しても」
「じゃ、あとよろしくな若宮。色々可愛がってくれるから」
「り、龍君っ!?」
「なんて、冗談だ」
「冗談って、ひどい!」
私は彼を信用しようとした自分に腹が立った。
「で、結局どっちにするの」
不良リーダーらしき人物が尋ねた。
「もう一つ選択肢があるだろう。俺がお前ら倒すことだ」 予想外の答えに相手も混乱している。
「残念ながら…それは無理だ。人数が違いすぎる」
「やってみなきゃわかんねえだろ。少し下がってろ、若宮」
「へ、上等だ。少し痛い目にあってもらうぜ」
相手は俺を逃がさないようにすばやく囲い込む。
「しぃや!」
リーダーらしき人物の早い突き。
「マジでやれってことでいいんだな」
「はっ!」
一人の男の殴りかかってきた拳をかいかぐり、隙の生まれた脇に蹴りを叩き込む。男はそこで気を失って倒れた。
「やるじゃないか」
そういってリーダーらしき男がズボンから光モノを取り出した。ナイフだった。
「ああああっ!!」
相手はナイフは大振りのように繰り出している。
「だああ!!!」
相手の突き出したナイフをかわし右手をつかむとそれをいなすろうにして、力のすべてを跳ね返して、体を倒した。
「がはっ!」
崩れ落ちた男の頭を踏みつけ、完全に意識を断ち切ってやる。男たちの中でざわめきが起きた。
「来いよ。まとめて相手してやる。もっとも手加減しねぇから、覚悟だけはしておけよ」
「……終わった、の」
「ああ、待たせたな」
「あの人たちは?」
「ああ、大丈夫だ。ただ、気を失っているだけだから。……ごめんな、こんな思いをさせちゃって」
私は、彼に罪悪感を感じるようになってしまった。
「大丈夫。龍君は私を助けようとしてくれたんだから。ありがとう」
帰り道。
「……」
「……」
二人は無言だった。俺は、ふと彼女の服が汚れていることに気づく。
「どこか座ったのか?汚れてるぞ、制服」
俺は手の平で腰辺りの汚れを払う。
「……」
「なにジッとみてんだよ」
「じじ、ジッとなんてみてない!そんな事より、寄って欲しいところがあるんだけどいい?」
「ああ」
迷惑をかけたのだからこれくらいあたりまえだ。彼女が連れてきたのは、丘の上だった。街全体が見渡せて星が綺麗で最高の夜景景色だ。最初に口を開いたのは彼女だった。
「わたしは…他人と仲良くするのがあまり好きじゃない。めんどくさい。でも、一人ぐらい親友と呼べる人がいなければやっていけない。その友達に選ばれたのが玲緒だった。でも玲緒にたいしても適当に話していた部分があったかもしれない。一人だけ、油断した相手がいた。私が『素直』に演じられる相手が。その人は、私の日常をこわしていった。最初は焦った。台本通り演じてきた私がその人の目の前で台本が無意味なものになってしまった。その人のせいで今まで守っていたものが壊れちゃう気がした。でも私は、大勢の人よりその人を選んだ。自分で選んだのだから後悔したくない。そう思っている」
彼女の言葉を聞いて驚いた。でも俺も
「俺は小さい頃に両親を無くして父方の叔父に育てられた。両親との思い出はさっきの奴らを倒すことができる古武術しか記憶にない。その叔父には娘が居た。俺より2つ年下の娘だ。そのため娘が男女意識を覚えたら出てがないといけなくなる。結局俺は、中1で一人暮らしを始めるようになった。幸い遺産が沢山あったから、一人暮らしを今も続けられている。そのため俺は中学校の頃は人に愛されるということがわからなかったため、人と接するのが苦手だった。でも高校に入ってからは、仲間という輪に入ることができた。でも女子というものは、苦手だった。高校入学当初はラブレターとか貰って俺に関わろうとしてくる人が好きになれないため高校で女性に興味がないだろうに思わせる必要があった。でも一人だけ、俺は深く関わってしまった。その人からは自分と同じ様な匂いがした」「名前は」
「名前は」
「高槻龍」
「若宮楓」
そして距離をゼロにまで詰める。互いの背中に腕が回されている状態。客観的に見れば抱き合っているようにしかみえない。目を閉じて他の感覚を鋭敏にする。心臓の鼓動が二つ聞こえる。彼女が体を三十センチの距離まで戻る。彼女の唇が動く。
「楽しかった?」
「全然」
「普通ここは嘘でもいいから、楽しかったって言うべきところだよ」
―まだゲームは始まったばかり―