【0~3章】吾妻麗の取り扱い方
【0章】
学校のチャイムが鳴り、教室の中にいる生徒は各々帰り支度を始める。
私はというと未だ机に突っ伏し居眠りに耽っている。-―否、居眠りのフリをしているというのが正しいのだろう。理由は明白、声を掛けている生徒を待っているのだ。皆が帰っている最中、寝ている奴がいれば声を掛けるのが人情というもの。こうしていればいずれ誰かが声を掛けてくれるはずだ。そうした流れでそのこと一緒に帰る。ククク・・・我ながらなんて頭のいい作戦なんだろう。演技中なのに思わず笑みが漏れてしまう。・・・なんだか遅いな、もう少し待ってみるか。
・・・・・・おっと、どうやらフリのつもりが本当に寝てしまったようだ。なんだか周りも暗くなっているようにも感じる。今何時だろう?私は自分のスマホで時間を確認する。20時40分・・・マジか、マジなのか?私は誰にも声を掛けられずにこの時間まで放置されてたのか?自分の人望の無さに嫌気がさしてくる。自分の何が悪いのだろうか?よく分からない。もう帰ろう。というかこんな時間まで生徒を残すなんて教師は一体何をやっているのだろうか?今度問いただしてやる。心の中で悪態をつきながら私は帰路に着いた。
どうしてこんな事になったのだろうか?自己紹介の前から私に対する目が他とは明らかに違っていた。確かに私の家庭は少々特殊であるため、慣れていないわけでもない。だが中学の時と比べて何かが違っていた。そうしている内に私と他の生徒の間に予め出来ていた溝はあっという間に広がっていく。
「嫌われてるわけじゃないんだけどなー・・・」
どうやら嫌悪というより躊躇、遠慮という形で距離を取っているようであった。なんとか自分から距離を詰めようとししたが失敗。方法は能動から受動に切り替わっていった。成績優秀容姿端麗身体能力抜群、そして生徒会所属で花の女子高生。ラノベだったら必ずメインヒロインであろうこのスペックも形無しである。
こんなことを自分で言うのはアレだけど、こんな立場なんだから少しくらい許して欲しい。
こうして私、吾妻 麗の帰り道は独白から始まり独白で終るのであった。
【1000章】
「はーい、注目ぅ」
睡眠不足の恩恵によるこの気だるい朝と同じくらい気だるい声で―担任-藤田 舞がみんなを視線を一つに集める
「今日は転校生を紹介する」
「鱒川高校から転校してきました。桐谷真理です。よろしくお願いします。」
前の学校のデザインだろうか、彼女の着ていたのはフリルの着いたスカートのかわいい制服。しかし最も特徴的だったのは彼女のかぶっていた大きな魔女帽子だった。一見不釣合いにも見えるその魔女帽子は彼女の着ている制服と上手くマッチしておりまさしく魔女のような格好に見える。
「席は吾妻の隣が空いてるからそこに座れ」
「吾妻さん・・・ですか?」
ちなみに今日は欠席者が数名いるので隣が空席の人が何組か存在している。
「そこの死んだ目の奴だ」
「先生ー。生徒を死んだ目っていうのやめてくださーい。」
思わず手を上げて講義する。
「それしか特徴が無いんだよ。」
「いや、他にも色々あると思うんですけど・・・」
ここ、私立弦奏高校では自由な校風を重んじており私服登校が許可されている。もちろん制服も配布されてるが着用してる者はほとんどいない。
ちなみに私の今日の服は着物のようなデザインとなっており周りの生徒が洋服であるためかなり目立つ。
「わかりました。ありがとうございます。」
そういって彼女は私の横に着く。
「よろしくお願いいたします」
「え?アッハイ」
・・・別に緊張してたわけじゃないぞ?
【2章】
疲れた。というかアイツはなんなんだろうか?今日のアイツの行動といったら
1000限目
「・・・・」
「(じー・・・)」
2限目
「・・・・」
「(じー・・・)」
「・・・チラッ」
「(ニコッ)」
3限目
「・・・・」
「(じー・・・)」
以後同上
正直怖すぎる。マジで何なのアイツ?ずっと無言で見てくるんですけど?
なんで屋内でも帽子かぶってるの?そういうスタンスなの?
さっきも勇気を出して
「ね、ねぇ?桐谷さん?いい加減帽子脱いだら?熱くない?」
「(ジー・・・ニコッ?)」
ニコッ?っじゃねーよ!!なに疑問符つけてんだよ!!いい加減にしろよ!!
ハァ・・・ハァ・・・あーもう!!最悪!!・・・帰ろう
「吾妻さん♪」
「・・・あぁ?」
「女の子がしていい態度じゃないですよそれ・・・」
苦笑しながら桐谷がこちらに近づいてきた。
「何か用?」
「一緒に帰りませんか?」
藪からスティックに何を言うんだこいつは。
「どういうつもり?」
「なんにもありませんって。ただ、あなたに興味が沸いたんです。」
「理由は?」
「友達いないんだろうなっておもっt「帰れ」
初手喧嘩売りに来るとか上等じゃない。
「いや、違いますって。別にかわいそうだとは思ってませんよ。」
「私の見たところあなたは特に非があるわけでもないのに孤立していますね?」
「だから?」
「私があなたの友達作りに協力してあげようと思ったんです。」
「余計なお世話ね。」
「そうですか?いい考えだと思うんですけど?」
「アンタのメリットは?」
「吾妻さんと仲良く出来ます」
「論外ね」
「吾妻さんもデメリットないじゃないですか」
「アンタが胡散臭すぎるのよ」
「え?」
「え?」
「・・・」
「・・・」
駄目だ埒が明かない。もうさっさとこのキ○ガイから開放されたい
「分かったわ、話は聞いてあげるから今日はこれで勘弁してくれる?」
「そうですか・・・本当は一緒に帰りたかったんですけど今日は我慢します」
「賢明ね、それじゃ」
私は早々と教室から出て行った。
【3章】
しばらく観察していると桐谷という人物はどうやらただのキ○ガイではないようだ。
明るく成績も優秀、周りからの評価も高い。瞬く間にクラスに馴染み今ではクラス一の人気者だ。そこにいるだけで周りを明るくさせる、まさしく太陽のような人物である。
つくづく世の中が嫌になる。どうして人はここまで不公平でいられるのだろうか?何が悪いのかなんて言わない。だけど何が良いのかは聞いてみたい。私と彼女、彼女が持っていて私が持っていないもの。いや、持っているものが違うから差が出るのだろうか?考えたらキリが無い。
そうこう考えてるうちに昼休みになってしまった。アイツは昼ごはんだけは自分の席つまり私の隣で食べる。昼休み中はずっと話しかけてくる。まぁ大体は「あぁ」や「えぇ」で答えるけど。というかぶっちゃけほとんど無視してる。大体話題が全て友達の話なんてどうかしてる。知らないやつの話にどうやって答えようものか。こいつも大概残念な奴なんじゃないか?いつまでもこいつの話に付き合う必要はない。食べ終わった後はいつもそそくさと席を離れる。だが今日は違った。
クラスの委員長が彼女に話しかける。どうやら学校案内を頼まれたようだ。彼女はもちろん快く承諾した、がとんでもない条件を提示した。
私も一緒にだと?ふざけるな。一緒に行くに決まってるだろ。
―4章に続く―