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02:守護者<ガーディアン>になるには

 「図書館」は老若男女に本や資料などの提供等を行う機関であり、特に王立図書館ともなれば、王族に認められた由緒正しき図書館である。置かれてある資料や書物は膨大な量であるし、その中には貴重な物もあるだろう。だが図書館にある書物といえば、ある作家が書いた物語であったり、哲学者の研究の成果が書かれてあったり、偉人の伝記であったり、大体似たり寄ったりだ。


 だがこの王立図書館には、他の図書館とは違う所があった。

 それは、選ばれた司書に与えられる『守護者(ガーディアン)』という称号がある事。なぜこんな物があるのかと聞かれれば、この王立図書館にある「魔法書」が関係している。


 「魔法書」というのはその名の通り、魔力が込められている本の事だ。つまり、その著者自身が魔力を持っており、さらに魔術師であった可能性が高い。そしてその本はただの本ではない。それなりに著者の「思い」が詰まっているのだ。それは純粋な思いが込められていたり、中にはドス黒い邪悪な思いが込められていたりする。そんな本の管理ができるのは、同じく魔法が使える者だけ。


 しかも「本」として存在しているという事は、書物に関する知識も必要になる。なぜこの魔法書が書かれたのか。その意味を自分の頭で想像し、そして理解しなければならない。特に魔法書は扱いが難しい。


 だからこそ、『守護者(ガーディアン)』の存在が必須となる。







 説明を受けてなんとなくは分かったが、シィーラは急に不安になった。


守護者(ガーディアン)、ですか。私はこの国の出身ではないですし、それは……」

「あら、心配はいらないわ。魔法書を扱う事さえできればいいもの。私達だって、普通の人間よ?」


 魔法書自体に魔力があるため、例え魔術師でなくてもその魔力を扱えればいい、という話なのだろう。アレナリアは簡単に言ってのけたが、こちらとしては微妙な顔のままだ。それが難しそうだというのに。

 

「とりあえず、二次試験まで通れば司書にはなれるわ」


 試験は一次、二次、三次まであるらしい。憧れを抱く人が多い分、競争率も高い。だが二次試験さえ通れば、「司書」としてここで働く事ができる。仮にもし三次に通れば、守護者(ガーディアン)の称号が手に入る。しかしここ最近は、三次試験に合格する人は滅多にいないそうだ。


「司書として必要なのは、本が好きである事。そして知識がそれなりにある事。後は魔法を使うセンスがあるか、そして一番大事なのは…………」


 アレナリアは二十代後半らしいが、それでも容姿が整っている美しい女性だ。元々歌姫だったらしく、その歌声の実力も王族が認めるほど。だが本が好きだったので、司書に転職したらしい。周りからはもったいないと言われたらしいが、その美声を生かして絵本の朗読を行ったり、舞台で本の主人公を演じたり、文化面で力を発揮している。しかも王立図書館の守護者(ガーディアン)だ。


 最後の言葉に、唾を飲み込んで待っていると。


「根性ね」


 明るい笑顔で言われた。

 思わずずっこけそうになる。


「こ、根性?」

「あら、意外?」

「はい。もっと深いものだと……」


 根性など、どの職に就いても必要になるだろう。


 実際自分も小さい図書館で司書をしていたが、クレームをつけてくる利用者もいた。なのでどんなに理不尽であろうとも、こちらが下である事を知っておかなければならない。それにここの図書館はかなり広く、利用する人の数も半端ではない。その分大変な事は多いだろう。


 だがアレナリアは人差し指を自分の顎に当てた。

 どこか余裕そうな表情をしている。


「この職についたら嫌でも分かる事になるわよ。あなたが思っている以上に、ね」

「え?」


 どこか意味深な発言に、首を傾げてしまう。

 だが答えられる前に、別の人物がアレナリアの後ろからひょっこり現れた。


「なになに? 試験の話?」


 前髪を分けているからか、形の良い菫色の瞳がこちらによく映る。銀に光る横髪は長いが、後ろは短い。そんな活発そうな髪型が良く似合うセノウ・ステンマは、面白そうに二人を交互に見ていた。


「あらセノウ。そうよ、シィーラさんに試験の助言を」

「へー! シーちゃん、ここの司書になるの?」

「は、はい」


 彼女も王立図書館で働いている司書だ。

 アレナリアと同じく、お世話になっていたりする。


 元気があり、それなりにはっきりとした物言いで容赦ない。彼女も守護者(ガーディアン)だが、話を聞くと魔法書を使わない、正真正銘の魔術師らしい。家系の血筋だそうだが、かなり強力な魔力を持っているようだ。ただ、魔法を使うのは図書館限定だと国の法律によって決められている。


「いいじゃんいいじゃん! シーちゃんなら司書として大歓迎!」


 軽くて飄々とした言い方は別に嫌いではない。だがそのような軽はずみな発言は、たまに取り返しがつかなくなるんじゃないかとはらはらしてしまう。しかもただの司書になるならまだしも、守護者(ガーディアン)になるのは難しいだろう。試験は受けたいし、二次に通れば問題はない。だが受けるなら、三次も合格したいというのが本音だ。シィーラは心の中でそう思いながら、謙遜な姿勢を見せた。


「でも私は、まだまだ未熟者ですし」

「じゃあ試しに試験を受けてみなよ」

「えっ」


 なぜそういう方向性になるのだろうか。むしろもう少し実力をつけてから試験を受けた方がいいのではないだろうか。そんな事を考えたが、二人は顔を見合わせ、なぜか怪しくにやにや笑う。


「合格云々よりまずはやってみる事がおすすめっ! 若いんだからさぁ」

「いや、セノウさんも若いですけど」


 自分より一つ上なだけだ。


「そうね。後で後悔するよりは、今受けた方がいいと思うわ。頑張って、シィーラさん」


 アレナリアにまで言われてしまう。

 正直言葉に詰まった。


 確かに試験自体は一年間に一度しかない。

 しかもここの司書になりたいと、これまで何度も思ってきた。


 シィーラはゆっくりと唾を飲み込む。自分ももう十九になる。あまり時間もない。ここで働いている人は大体二十代からだ。だったら今が一番いい時期かもしれない。


 ためらう気持ちを持ちながらも、シィーラはゆっくり頷いた。


「はい」

「決まりね」


 アレナリアは器用にウインクする。


 するとすぐにセノウはシィーラの腕を掴み、強制的に試験の登録をする部署まで連れて行こうとする。「え、セ、セノウさんっ!?」と叫ぶと、「善は急げって言うでしょ~?」と返される。あまりに俊敏な動きに、焦ってそのままついていくしかない。こんなにすぐに登録すべきなのだろうか……と疑問に感じながらも、シィーラは言われるままに書類に自分の事を書いていった。




 そして終わる頃には、神経を使い過ぎてぐったりとしていた。


「お疲れ様ー!」

「疲れたでしょ? 少し休憩してきたらどうかしら」


 両手を上げて労いをかけたセノウと、苦笑しながら頬に手を当てていたアレナリアの言葉に甘え、シィーラは重たい身体を叱咤してどうにかよろよろと立ち上がる。心身ともに、かなり疲労した。図書館で二人に見られながら書くより、自室で書いた方が何倍も良かったと思う。


 精神が削れた様子でその場を後にしたシィーラを、二人は笑顔で見送る。

 そして姿が見えなくなると、ゆっくりと口角を下げたセノウが声をかけた。


「で、本当に司書になれると思ってるの? アナさん」

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