病院 3
夜。
面会時間はとっくの昔に終わった。
「あー、ねむ。寝よっと。」
リモコンを手に取り、電気を消す。
目を閉じた。
静寂が支配する。
世界がこんなんなら良いのに。
静寂が支配する世界なら、誰も私に近付かない。私は誰も狂わせない。
…馬鹿らしい。
そんな世界、ある訳無いのに。
その時。
異変に気付いた。
試しに寝返りをうってみる。
闇の中で何かが動く気配がした。
(やっぱり、誰か居る――――!)
誰かが私に近付いてくる。
一歩一歩確実に。
ギシッとベッドが軋む音がした。
乗ってきたらしい。
(クソ、冗談じゃないっ!)
でも、まだその時じゃない。
タイミングを見計らわないと。
まだ。まだ。まだ。
(今だ!!)
布団を勢いよく捲りあげ、ギプスから足を引き抜き蹴りを喰らわす。
「うっ!」
誰かは引く呻いた。
その隙にベッドから飛び降り、ドアへと走る。後ろの方で何で…という呟きが聞こえた。
どうやら私が走れるのが不思議らしい。
(骨折なんて三日で治るっつーの!)
成長期ナメんなよ。何の為にカルシウム取ってると思ってんだ。
ドアを開け鍵を閉める。
この部屋は電子ロックになっている。私には効かないが普通の人なら破れまい。
因みに、電子ロックはこの部屋だけだとか。
何で私がそんな部屋に収容されているのかは、御想像にお任せします。
「ふぅ……」
これでもう大丈夫だろう。
そう思った矢先、
「うっそぉ………」
私は絶望した。
廊下の突き当たりでグラサンとスーツ着用の見る限り相当な場数を踏んでそうな厳つい方々が待機しているのだ。
これを絶望と言わずに何と言う?
「ほんと、最悪。」
そう呟いた瞬間、場数を踏んでそうな方々の内の一人と、目が合った。
合ってしまった。いえーい。最悪だー。
さて、如何する?
その一、逃げる。
その二、大人しくとっ捕まる。
その三、戦う。
その一その二は御免だ。というか絶対に嫌だ。
そうこうしてる間に、厳つい方々は走ってくる。
覚悟を決めろ、九重六定。
退院したら侍女長に謝るんだろうが。こんなとこで捕まったら、ごめんなさいって言えない。
「そんなの、絶対嫌だ!」
私は、学校が嫌いだけど、私の事が嫌いだけど、あの人達の事が嫌いだけど、侍女長や皆のことは大好きなんだ。
…来い、厳つい野郎共。迎撃してやらぁ!
こっちには侍女長直伝の『ナイフ&フォーク戦術』だってあるんだ!
「ナメてんじゃねぇよ!子供の意地を見せてやる!!」
患者衣の裾からフォークを取り出し、構える。
少しどころかかなり不恰好だけど、致し方ない。
ふっと笑って一歩踏み出した。
次の瞬間――。
後頭部に鈍い衝撃が走った。
全身がぐらりと揺らぐ。
「え……?」
なに?なにがおこったの?
「すみません、お嬢様。」
あれ?じじょちょう?なんでじじょちょうがここにいるの?
…まぁ、いっか。もうねるじかんだもん。
おやすみなさい。