病院 2
シリアスもどきバイオレンス少々コメディ。
それでも、此処まで育つのには誰かの手が必要になる。
こんな私を育ててくれたのは、侍女長だ。当然、当時はただの侍女だったけど。
早い段階から育児放棄されてミルクも何も与えて貰えなかった私に、見るに耐えないと思ったのか何なのか侍女長がミルクを与えたのが始まりだ。
私は侍女長に育てて貰った。
侍女達や執事達や板前達や庭師達やみーちゃんやゆーちゃんやさーちゃんと遊んで貰った。
しかし、小学校四年生の時に私はとある事件を引き起こし、本来なら其処で私は廃棄される筈だった。
だったのだが、侍女長を始め使用人一同がボイコットを起こして反対してくれたお蔭で、私は今もこうして無様に生き延びている。
だから、いくらの私と言えど、侍女長達には頭が上がらない。
今回だって侍女長は保護者代理としてこの病室に来て、
『何を考えているんですか、貴方は!』
『仮にもお嬢様でしょう?令嬢でしょう!?』
『もうちょっと脳みそ使って下さいよ!』
『皆心配して仕事しないんですから!』
と怒ってくれた。
…仕事しないのは統括出来てない所為だと思うけど……。
と思ったものの、黙って反論もせずに怒られた。
もしかしたら、侍女長が私の親なのかも知れない。
今住んでる家も侍女長の家だし。住み込みだから殆ど戻って来ないけど。
「戸田さんも大変ね。六の親代わりなんて。」
「失礼な事言うなぁ…」
あ、戸田さんってのは侍女長だよ。
本名、戸田芽衣。現在三十二歳。独身。
因みに如何でもいいけど、名前から読むと、めいとだ。
つまりメイドだ。かなり無理があるけど。
「それに、お袋の味って言ったら、六にとっては戸田さんの味じゃないの?」
「……知らないんだね、みーちゃん。」
「何を?」
「…侍女長はね、侍女長っていうのに、作る料理は料理と言えない程不味いんだよ……!!」
「…………」
そう、侍女長の料理は料理と呼べない程不味い。
私の最初に食べた離乳食が侍女長の作った離乳食だった。
板前が大晦日で帰郷していたのだ。
結果だけを言えば、地獄を見た。
地獄と天国を見た。
その後侍女長は密に料理の練習をしていたみたいだが、板前長も真っ青になって止めたそうだ。
それでも退かなかった侍女長に、自分の作った料理を食べさせると泡吹いてぶっ倒れたらしい。
それ以来、侍女長が料理を作る事はなくなった。
「ま、そのお蔭で私も料理を覚えたんだけどね。」
「じゃあ何で毎日家に来るの?」
「めんどいからに決まってんじゃん。」
「みーちゃんチョップ。」
「あぅ。」
みーちゃんチョップを喰らってしまった。怪我人に何すんだよまったく。
「はい、これ。」
「え?何?」
みーちゃんが突然、封筒を渡してきた。
「戸田さんから。」
「侍女長から?」
封筒を開け、中を見ると万札が入っていた。数えてみる。
いち、にい、さん、し…。
十枚入っていた。つまり十万。
ん?いや、一枚だけ万札じゃない。便箋だ。
『家に帰った時の生活費です。まだ足りると思いますが、一応念の為に渡しておきます。くれぐれも無駄遣いしないように! 戸田』
そう書いてある。
侍女長に、悪い事したなぁ…。
私でも不思議な事にそう思ってしまう。
退院したら、侍女長に謝ろっと。