学校 3
ちょっとだけ、バイオレンス。
学級会が終わった休み時間。
私は机に突っ伏していた。
私達以外は全員外に遊びに行っている。元気だなぁ……。
「何があったの?」
遊びに来たゆーちゃんが不思議そうに言う。
「…さーちゃん。」
「おう。」
「……説明してあげて。」
「解った。さっきの時間、クラス会議やっただろ?」
「うん。」
「で、議題は『自分に出来る事』。六はその議題に真っ向から喧嘩売る様な意見言ったんだわ。」
「成程。それでバッシングを受けまくったのか。」
「……………」
黙るさーちゃん。
「え?何、どうしたの?」
怪訝そうな声を上げるゆーちゃん。
少し顔を上げて見てみると、さーちゃんとみーちゃんが苦虫を五十匹ぐらい噛み潰した様な顔をしていた。
「…バッシングだったらなぁ……」
「まだバッシングの方が良かったわね、あれは。」
二人の言う通り。
まだバッシングの方が、乗り切る手があったのだ。
だけど、あの大演説(擬き)を終えた後、私に浴びせられたのはバッシングでも野次でもなく――。
拍手だった。
惜しみない、心からの拍手。
はっきり言うと、叫び出したい気分だった。
叫んで逃げ出したかった。
こんな事になるぐらいなら、まだクラスの全員(+α)に誕生日を祝われて優等生扱いされていた方がマシだ!
私はもし出来れば誰にも関わりたくないのに!
誰の人生も狂わせたくないのに!
こんな事になるなんて、聞いてないよ!
…まぁ、誰も教えてくれないけど。
そもそもこれは、完全に自業自得だ。
墓穴を掘っただけに過ぎない。
此処から穴を埋めるのも嵌まるのも自分次第と言える。
なら、私にも充分に打つ手がある。
ふふふ、この九重六定の自分嫌いをナメるなよ。
神様だろうが何だろうが、私は堂々と蹴散らしてやる。
私の様な存在を許した事を後悔でもしてやがれ。
私は席を立って、窓に近付く。
この教室があるのは最上階の四階。
…仕方ない。たまには身体を張るか。
痛みがあるのが大変だけど、まぁ、私の身体だ。大丈夫だろう。
もし死んでも別に何の問題も無いんだしね。
…っと、その前にしなきゃいけない事があったんだった。
「……さーちゃん、ゆーちゃん、みーちゃん。後始末と隠蔽とその他諸々宜しくお願い。」
「「「了解。」」」
私はその答を聞くと同時に、開いた窓から飛び降りた。
重力に従って落ちる身体。
スカートが靡く。
大人達の唖然とした顔。
子供達の混乱と恐怖が混じった顔。
三人の少し悲しそうな顔。
空は無駄に青い。
ああ、綺麗だ。
私が居なければ、もっと綺麗なんだろうね。
一瞬。
後悔した。
こんなんでも正面に生きてたら変わったの…?
でも、その後悔は直ぐに衝撃で掻き消される。
「ぐはっ……!」
衝撃。
頭を強打。
もしかしたら骨も折れたかな?
あ、視界がぼやけてきた。
何処からか女の子の悲鳴が聞こえる。
ああもう、静かにしてよ。
今すっごく安らかなんだからさぁ。
誰かの声が聞こえてきた。
死んじゃうの?
死なないよ。まぁでも、これで死んでも別に良いかな。
生きたくないの?
別に。え、何?生きなきゃいけないの?
まだしなきゃいけない事もしてないのに?
しなきゃいけない事?
「…それって、何なの………?」
私は、遠くで鳴り響く救急車のサイレンを聞きながら、ゆっくりと意識を手放していった。