自宅 2
「……く………り……り…く……りく………」
誰かの声がする。それと、いい匂い。
あ、そう言えばお腹空いてたんだった。
「り……六!」
耳元で聞き慣れた声がした。っつーよりも叫ばれた。
そんな事されたらびっくりして意識が一気に覚醒し、目が覚めて起き上がった。
「んにゅ……?此処は誰?私は何処?」
「はいはい、お決まりの使い古されたネタはやめようねー?それに所々間違ってるよん。」
私がお決まりの使い古されて所々間違ってるネタをすると、声の主であるゆーちゃんが笑った。
「おはよ、六。」
「…おはよう、ゆーちゃん。見事に不法侵入決めてくれちゃってどうもありがとう。」
「なーんかさ、六が泣いてる気がしたんだよねー。」
「………勘違いしないでよね!べ、別に、泣いてたわけじゃないんだからっ!」
「六。」
「何!?」
「涙痕、付いてる。」
「あ。」
しまった。そういや顔拭いてなかった。
「六ってさ、時々抜けてるとこあるよねー。」
ゆーちゃんは面白そうに笑う。
「ま、暫らく寝ときなよ?熱あるんだし。」
「え?熱?」
熱って何の事だろうか。気化熱の事だろうか。
「違う違う。体温だよ。た、い、お、ん。身体の温度。」
「あぁ、そっちか。って、私熱あんの?!」
「今更!?」
「うん、今更!!」
「あはははははははは」
「はははははははははははh…」
笑っている途中で私は真後ろにぶっ倒れた。
「はれぇ…?めがまわってまふよぉ…?なんれぇ……?」
天井がぐるぐる回ってる。行った事無いけど、遊園地のコーヒーカップってこんなんだろうか。
「ちょっ、六!大丈夫?!」
ゆーちゃんが私の顔を覗き込んでいるのが、まだ辛うじて解る。
つか、これが大丈夫に見えるってどんだけ節穴なの?
うわーい、見事節穴認定されましたー。いえーい。
「あー…、ちょっと落ち着いてきた。」
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だと思いたい。」
「希望的観測?!」
「取り敢えず、其処の棚の中から風邪薬出して。」
「これー?」
ゆーちゃんが棚の中から黄色い錠剤が入った小瓶を取り出す。
「それ。」
「これ、市販薬だよね?病院行かなくて大丈夫?」
「この状態じゃ出られないよ。色んな意味で。」
「ああ、そうだったね(笑)」
笑うんじゃねえよ。
それに、もう病院は懲り懲りだ。絶対病室に閉じ込められて実験台にされる。
「いや、それはないっしょ。」
「…………」
知らぬが仏っつー事なのかな?
「まーともかく、ちゃんと休みなよ?食料とかは持って来てあげるから。」
「う~ん…、私的には責任を取らせたいんだけどねぇ……」
「?誰に?」
そりゃ、あの変態兄に決まってるじゃないですかぁ。
「兄?って、あの妹系エロゲを攻略しまくる悪魔の事?」
「何で知ってんの…。と言うかさらっと人の心を読まないで。」
全く、油断も隙もあったもんじゃない。
でも、まぁこの娘の場合最初っからこうだったし、仕方無いと言えば仕方無い。
「あ、そうだ。忘れてたけど、お粥食べる?」
「超絶今更だね、ゆーちゃん。」
侍女長もびっくりだわ。
でもまぁ、たまにこんな日があっても悪くない、かな。
……いかん。私のキャラが崩れ始めてる。