九重邸 7
ほんわか
少しだけ、昔の話をしよう。
昔、或るところに一人の幼女が居た。
彼女は裕福な家に生まれたが、親と呼ばれる者から放置されその家の侍女に育てられた。
同じ家の中に居ても『居ない』、『要らない』子として扱われている内に、彼女は自分が望まれた子供でない事に気付いた。
正確には最初から気付いていたが、目を背けて気付かないフリをしていた。
だが、それを転機に彼女は目を背けなくなった。目を背けず、『居ない』『要らない』子としての自分を受け止める事にしたのだ。
以来彼女は何時でも笑顔になった。何時でも何処でもどんな時でも笑顔で周りの人間を和ませた。
それだけではなく、彼女は自分を好きになろうとした。
私は『要らない』子だけれど、自分で自分が嫌いで如何する?そう思う事によって、自分を好きになろうとした。
けれど、それだけは彼女の意に反して上手くいかなかった。それどころか逆に彼女の彼女に対する嫌悪感は日に日に増していった。
そんな或る日。彼女が飼っていた小鳥が死んだ。無残な姿で死んでいた。
誰が殺したのか、彼女が悲しんでしまうと使用人達は騒然としたが、彼女は案外何とも無かった。
何故か?理由は簡単。彼女が殺したからだ。
彼女を育てた侍女は訊いた。
「どうして殺したのですか?」
彼女は舌足らずな声で言った。
「だって、わたしをみてるみたいできもちわるかったんだもん。」
どうやら彼女には籠の中で飼われている小鳥の姿と自分の姿が重なって見えたそうだ。
それからは、彼女が何かを飼う事はなくなった。
今は昔のお話だ。
「はい、もう動いても大丈夫ですよ。」
侍女長はそう言って包帯を結び、余った部分を鋏で切った。
「ありがとう、侍女長。」
「六、この部屋すっげぇな!」
さーちゃんが嬉々として部屋の中を走り回る。
今私達が居るのは使用人室だ。
あの男女は適当に其処らへんを通った侍女に押し付けてから来た。
わざわざ介抱する義理も無いし。
あの変態は……どうだろ。もしかしたら使用人達に報復を受けてるかも。
まぁ如何でもいい。こっちの方も助ける義理無し。
それにしても…
「さーちゃん、この部屋の何処がそんなに凄いの?」
「お前解んないの?!!」
うん、解らん。
「あーあ、お前絶対損してるよ。」
「ふーん……あ、でも気ぃ付けてね?」
「え?」
さーちゃんが振り返った途端、さーちゃんの一歩前に槍が落ちてきて床に突き刺さった。セキュリティと使用人達の訓練用を兼ねた装置が発動したのだ。
「こうなるから。」
「…そういう事は早く言えよ!!」
「いや、何も言わなかったでしょ。」
「お前は鬼か!?」
「残念、幽霊だよ。」
「「「嘘吐け!」」」
はい、恒例のトリオ突っ込み。やっぱ煩い。
「というか三人共、学校行かなくていいの?」
「「「……………」」」
三人が三人共目を逸らした。
無断欠席って事かい?それは。
「…自分達がそんな事してて、よく私にサボるなとか脱走するなとか引き篭もるなとか言えるねぇ?」
私はにっこりと微笑む。多分背後には閻魔大王が見えているだろう。
「で、でも!俺らお前がまた廃棄処分され掛けてるんじゃないかって心配してたんだぞ!!」
さーちゃんの必死の弁明。
「そう。ありがとう、皆。私の事心配してくれてたんだね。」
「「「じゃ、じゃあ…」」」
「で、も。」
「「「え?」」」
「これとそれとは別問題だからね★」
「「「…………」」」
星が黒いって?気の所為気の所為。