九重邸 5
書斎の前に立つ。
書斎の扉は南京錠で雁字搦めに封鎖されていた。
「あー、無駄な事するわねぇ。」
「まったくです。」
私は侍女長と共に肩を竦め、思いっ切り扉を蹴った。
鎖も鍵も扉すらも蹴り飛ばし、書斎の中に入る。
書斎の中には中年の男女が椅子に縛り付けられていた。
男と女は私の顔を見て安堵と恐怖を綯い交ぜにした表情を浮かべる。
「六定……」
男が私の名前を呼ぶ。はっきり言おう。虫唾が走った。悪寒がする。
それを溜息一つでやり過ごし、私は男と女を見据える。
何監禁されてるんだ、こいつ等は。
「…六定、椎名は………」
「気安く私の名前を呼ばないで。」
私は男を睨み付ける。
不快だ。こいつ等と同じ空間に居て同じ空気を吸ってるなんて考えるだけで不快感がすげぇ。
えーっと、何で私此処に居るんだっけ?何で私こいつ等に会ってるんだっけ?何で私生きてるんだっけ?
「お嬢様、しっかりして下さい。」
侍女長が言葉を掛けてくれる。
解ってる。解ってるよ。
「……あんた、何しに来たの?」
女が私を睨む。が、そんなに怖くない。
…いや、そんな縛り付けられた格好で睨まれても、ねぇ?
仕方無い。助けるか。
「侍女長、解いたげて。」
「はい、お嬢様。」
侍女長は袖からナイフを取り出し、男と女を縛っていたロープを切った。
これで私の最小限のすべき事は終わった。
さーて、帰るかなー。病院に。
「あ、侍女長、私の服…というか患者衣は?」
「…………」
おっと?嫌な沈黙ですよ?
「侍女長?」
「……………」
侍女長は目を逸らして全然合わせてくれない。
「じーじょーちょーおー?」
「………………」
わざとらしい口笛まで吹き始める始末。
「……おい、戸田。」
「…はい、六定様。」
「私の服、如何した?怒らないから言ってみ?」
勿論、これ以上は怒りませんよ?ええ。
「…その、実に申し難い事なんですが……」
「うん。」
「すみません、捨てちゃいました。」
「ああ、なあんだ。捨てちゃったのか。」
「はい。」
「はっはっはっはっは。」
「あはははははははは。」
「「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」」
って、笑ってる場合じゃねぇ!!
「おい戸田何捨ててんだよ誰に断って捨てたんだお前俺にこの格好で戻れってのか恥曝しじゃねえかよこれ如何してくれんだよ絶対みーちゃんとゆーちゃんとさーちゃんに笑われるじゃんかよ。」
「いえ、お嬢様その前に。」
「何?」
「事件になっちゃってます。」
「あ、そっか。」
そういや私、病院から誘拐されてきたんだった。
そりゃ事件になるわな。
「如何しよー…如何やって誤魔化そうか。」
「そうですねー…」
「って、何も考えてないの?!」
「はい。」
はいって、お前なぁ……。
「ん?ちょっと待って。侍女長、今何時?」
「ネタですか?それとも真面目?」
「このタイミングでネタを言えっつーわけねえだろ。」
「…午前九時です。」
少し残念そうな侍女長。まったく、君は予想を裏切らないね。
「って事は、もしかしたらさーちゃん達に伝わってるんじゃ……」
私がそう言った時、書斎の壁がぶっ飛んだ。
…なんだろう、方向性が解らなくなってきた感が否めない。