九重邸 4
被虐。
「…おい、お前。」
私は一歩一歩椎名に近付く。
「如何したんだい?六定。」
「…手ぇ、離せ。」
「え?」
「その手を離せつってんだよこのクソ野郎が。汚い手で私の侍女に触るんじゃねぇ。」
暗い瞳で椎名を見詰め…いや、睨み付ける。
「り、六定?」
椎名は狼狽えているが、その手を侍女長から離さない。
いっちょ目にもの見せてやろう。
私は椎名の手首を掴み、逆の方へ曲げた。
現し様の無い微妙な音がして、完全にひん曲がったその手から侍女長の髪がすり抜けたのを確認する。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
椎名が叫び、そこらを転げ回る。
「大丈夫?侍女長。」
「はい。大丈夫です、ご主人様。」
うん、ならいっか。
後はこいつを叩きのめして叩きのめして常識を一から叩き込んでやる。
「い、痛い!痛いよぉ!!」
「煩い。」
私はそう一蹴して、椎名の頭をローファーを履いたまま踏み付ける。
ぐりぐりと重点的に陰湿に粘着質に親の仇とも言わんばかりに踏み付ける。
「そのぐらいで痛いなんてよく言うわ。ああ、そっか。あんた大事に大事に育てられてきたもんね?そりゃ根性腐るわな。」
このまま頭蓋骨を踏み潰したい。だけど我慢我慢。
こいつをぶちのめす為にはもっともっと痛め付けないと。
「侍女長、こいつに痛め付けられたのって、何人?」
「侍女七人、執事四人、板前五人、庭師三人です。」
「プラス侍女長で二十人ね。了解。」
じゃ、その分きっちり咎は受けて貰わなくちゃね。
「お、お前誰だ?!」
椎名は解りきった事を叫ぶ。
「はぁ?そんなの決まってんじゃない。私は九重六定。稀代の魔術師よ。」
違うけどね。
「そ、そんな筈無い!六定はこんな事しない!!」
ああ、本当に愚かだ。
「あんたの勝手な妄想を押し付けないでくれる?はっきり言って迷惑なのよ。」
「くっ…、戸田、謀ったな!」
…まだ言ってるよこの人。
よし、こいつがした事し返そう。
「何勝手に私の侍女に話し掛けてるの?」
椎名の腹を蹴る。
「ぐ……」
「駒に腹を蹴られる気分は如何?オニイサマ。悔しい?ねぇ、如何なの?」
にやりと笑う。あー、たーのしっ!
なんだろ。ちょっと性癖が被虐的になっちゃってるなぁ。
後でちゃんと鍛え直さないと。
それは兎も角。さて、如何しようかな。
あ、そうだ。
「侍女長、ちょっとあれ持ってきて。」
「承りました、ご主人様。」
侍女長は食堂を出て行く。
「こ、この僕に何をする気だ!?」
「いいからあんたは黙ってなさい。」
睨み付けると椎名は大人しくなった。
ああ、たのしいなぁ。
「持って参りました、ご主人様。」
侍女長が戻ってきて、それを私に渡してくる。
「な、な…!」
椎名は驚愕を顔に浮かべてから自分がこれから何をされるか解ったらしく、羞恥と屈辱で顔を真っ赤にした。顔芸が出来るのねー。
まぁ、それもそれでそそられる。
…いかん。完全に被虐嗜好に目覚めてしまった。
でもいっか。それも、それはそれで、だ。
「さぁ、覚悟してね?オニイチャン。」