九重邸 3
侍女長逃げて。
それにしても、こいつは一体何がしたいんだ?
ただ私を撫で回したいが為に連れ戻したのか?
よし、ちょっと探ってみるか。
「お兄様、その、何故私をもう一度此処に連れ戻したりなどしたのですか?私は遠の昔に絶縁された身。こんな事をしては、お兄様もただでは済まない筈です。」
「君は美しいだけではなく優しいんだね、六定。」
今度は私の唇に触れてきた。
だから気持ち悪いって!
噛み付くぞ!人差し指噛み千切るぞ!
私の顎力ナメんな!!
少し目だけを動かして侍女長を見てみると、侍女長は必死に笑いを堪えていた。
くっ、笑ってんじゃねぇよ!
主人がこんな事になってんだぞ!?助けろや!!!
「六定、君は優秀だと聞いているよ。」
あー、この人も騙されてるのかー…。
テストで高得点取れるぐらいで変な事になっちゃったなぁ…。
「何故、優秀な人材を父上が手放したのか解らない。」
いやだから、性格に問題があったんだって。
「もうじき僕がこの九重家を継ぐ。」
でしょうね。
「僕は、僕がこの家を継いだ暁には君を迎え入れようと思っている。」
うわ、それ絶対後から後悔するよ。
「だから、僕のものになってくれ、六定。」
「「………は?」」
侍女長と私の声が重なった。
いや、そんなことはどうでもいい。それより、いまこいつはなんていった?
ええと、ぼくのものになってくれ、りくさだ、だっけ?
ぼくのものっていったいどういうこと?
「僕の所有物になってくれ、六定。」
はい、解り易いように言い直してきたよ、この人!
「最初、僕は君を僕の秘書として迎え入れようと考えていたんだが、君を見て気が変わった。」
な、なぁんか嫌な予感がしてきたぜ!
「僕と結婚してくれ、六定。」
嫌な予感的中したぜ、いやっほーい!!
仮にも妹に何を仰っていやがるんですか脳内ぐっちゃぐちゃになりやがりましたかそうですか。
あっは、色々ツッコミ所多すぎて何からツッコんでいいのか解んねぇ!!
「大丈夫、僕は君が十六になるまで待つつもりだ。」
そういう問題じゃねぇよ!
「あ、あの、お兄様。私は仮にもお兄様の妹ですよ?だからその、結婚とかってのは、かなり無理があると思うのですが……」
「何、君と僕とでは血液型が合わない。だから大丈夫さ。」
だからそういう問題じゃねぇってば!戸籍がもう登録されてんだよ、あんたの妹だってな!
「戸籍なんて金で買えるから大丈夫だよ。」
金持ち発言ktkr!それの何処が大丈夫なんだよ!?
誰かこいつに世の中の厳しさと倫理って奴を教えてやってくれ!!
「あの、椎名様。」
「何だ?戸田。」
「そのような事、旦那様と奥様がお認めになさらないと思うのですが……」
侍女長が控え目に言う。
が、椎名は
「黙れ戸田。」
と言って、侍女長に腹を何の躊躇も無く蹴った。
「うっ……」
侍女長は避けるわけにいかず椎名の蹴りを諸に喰らって、蹲る。
だが、椎名は止まらない。
「お前如きがこの僕に指図するな。」
侍女長の髪を掴んで、思い切り引っ張る。
侍女長の顔が苦痛に歪む。
「侍女長!」
「おじょ、さま……」
「何勝手に僕の妻に話し掛けてるんだ?」
椎名はもう一度侍女長の腹を蹴った。
しまった。私の所為で侍女長が…。
「お、お兄様!もうやめて下さい!!」
「大丈夫さ、六定。こいつ等は虫の様にしぶといから、ちょっとやそっと痛め付けたぐらいで死ぬ事はないからね。」
その時、解った。
ああ、こいつは私の兄じゃない。
こいつにとって、使用人達は駒も当然なんだ。
そして、私も駒としてしか見られていない。
なんだ。そういうこと。
なら、ぶっころしても、だいじょうぶだよね?