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第四章~懇談

 ウタリと周詠が街を目差して走り始めてから、三時間が過ぎた。

 「よし、着いた」

 周詠が、前方に現れた岩場を見て、ポツリと呟く。

 「え?あれが街?」

 「ううん、違うの。あれはね・・・」

 周詠は、走りながら携帯端末を取り出すと、岩場に向けて操作した。

 ポン、ポンという規則的な電子音が響く。

 「・・・よし」

 「何それ?・・・雨だれの音みたいな?」

 「よくわかったわね。そう、雨だれの音をちょっと混ぜてるの。電子音そのままじゃ味気ないから。・・・えっと・・・こっちね」

 二人は、どんどん岩場に近づいていく。

 それにしたがって、電子音のリズムが速く、複雑になっていった。

 「よし・・・ここだ」

 周詠が、ひとつの岩の前で立ち止まった。

 電子音は、雨だれで構成された音楽のようになっていた。

 ウタリは岩を見つめて、しきりに首を傾げていた。

 周詠がその岩に向けて端末を操作すると、電子音がやみ・・・岩が変形した。


 「うわわっ?」ウタリが驚いて飛び退く。

 「あはは、びっくりした?光学迷彩で、岩に偽装してたの。これはね、ホバーバイクよ」

 「ほばーばいく?・・・じゃ、さっきの岩は、本当はなかったの?何か変な岩だなーとは思ったけど・・・」

 「そういうこと。さすがにいい目をしてるわね。じゃ、これをかぶって」

 周詠はシートの中からヘルメットをふたつ取り出して、ひとつをウタリに渡した。

 「街の外に出る時は、いつも海まで走ってるんだけど・・・さすがに、四~五日で街から海までの距離を走って往復するのは無理だから、途中まではバイクで来てるの」

 「ねえ、周詠さん」

 「うん?」

 「今の、面白い。もう一回できる?」

 「今の・・・って、これ?」

 周詠は端末を操作して、バイクの外観を再び岩にした。


 「そう。これ・・・触ってもいい?」

 「いいわよ」

 ウタリが手を伸ばすと、確かに岩に触ることができた。

 「・・・でも、変。触ってる気がしない」

 首をひねるウタリを見ながら、周詠はまた端末を操作した。

 「岩のホログラム映像に触れると、電磁波が感覚神経を刺激して、『触っている』ように思わせるの。だから、触覚モードをオフにすれば・・・」

 岩を押さえるようにしていたウタリの手が、突然岩の中に潜りこんだ。

 「わあ」と声を上げたウタリだが、最初ほど驚いてはいない。

 岩が虚像だと納得しているからだ。

 「もう一回、触れるようにしてくれる?」

 「うん。・・・はい」

 「ねえ、さっき『触ってるように思わせる』って言ったよね」

 「ええ」

 「じゃ、この岩は『触れない』って思い込めば、触れないの?」

 「う~ん・・・難しいと思うな」


 ウタリは、じっと岩を見つめた。

 呼吸を整えて、手を伸ばす。

 その手が岩の中に吸い込まれていった。

 「嘘でしょ・・・」

 「へへ。じーっと見てたらね、岩の中に、その『ほばーばいく』ってのが見えたんだ。それを触るつもりで手を伸ばしたら、岩をすり抜けたの。でも、変な感じ」

 「さすがネイティブね・・・いや、ウタリ個人の感覚がすごいのかな・・・」


 周詠は光学迷彩の偽装を解くと、ヘルメットをかぶり、エンジンをかけた。

 ウタリを後部シートに乗せて、アクセルを開く。

 「しっかりつかまっててね」

 「うん。で、これからどうなるの?」

 「これで街まで行くの」

 「これで?」

 「ま、とにかく走るから、つかまっててちょうだい」

 周詠がバイクを発進させると、ウタリは歓声を上げた。

 何だかよくわからない、金属とゴムとプラスチックの塊が動いたことには驚いたようだが、スピード感は爽快らしい。

 「どう?今、時速四十キロよ。ホバーバイク初心者でも、まだ受け入れやすい速さだけど・・・もっと飛ばしても大丈夫?」

 「平気でえす!」

 「じゃ、落っこちないでね」

 周詠はアクセルを全開にして、時速百五十キロで走り続けた。


 やがて日が傾き、夕闇が迫る頃、目差す山脈地帯が見えてきた。

 それほど険しい山々ではない。

 丘陵地帯といえなくもないぐらいだ。

 それらの山々は、間もなく夜を迎えようとする薄暮の中で、キラキラと輝いていた。

 「周詠さん、あの山に登るんですか?」

 「そうよ」

 「何か、たくさん光ってるよ?焚き火にしてはずいぶん色が多いし、煙が上がってる風でもないし」

 「ああ、あれはね。街灯とか照明とか・・・ま、行ってみればわかるわ」


 それからしばらくして山を登り始めたところで、周詠はバイクを止めた。

 「さて・・・このまま街に入っちゃってもいいんだけど、ウタリちゃんのその格好、ちょっと扇情的だしね」

 「センジョウテキ?」

 「あらぬ誤解を招くってとこかしら。だから、ここからはタクシーで行きましょ。バイクは自走モードにして、先に帰ってもらうわ」

 周詠は端末でタクシーを呼んだ。

 バイクが緩い坂を登り、その姿が豆粒ほどになった頃、一台のエアカーが、入れ違いに坂を下ってきた。

 ロボットタクシーだった。

 タクシーは周詠の前で止まり、ドアを開いた。

 「お待たせしました。本日は、ABRタクシーをご利用いただき、ありがとうございます。どうぞご乗車ください」と、アナウンスが流れた。


 ウタリはタクシーの中をのぞいてキョロキョロした後、グルグルとその周囲を回った。

 「ねえ、今しゃべった人はどこ?」

 「いないわよ。ていうか、このタクシーが喋ったの。さ、乗りましょ」

 「乗る?・・・って、この中に入るの?」

 「うん。・・・あ、そうか。だから『乗車』って言葉にも反応してなかったんだ」

 「これが、しゃべったの?じゃ、これって生きてるの?」

 「うーん・・・生きてるって言葉をどう定義づけるかで、答えが違ってくるけど・・・少なくとも、人や獣ではないわ」

 「ふうん・・・」ウタリはちょっと納得しかねるような顔をしていたが、とにかくタクシーに乗り込んだ。


 「どちらへお越しになりますか?」

 「チャイナエリアへお願い。天津町の・・・」周詠は、自宅のマンションの住所を告げると、シートにもたれた。

 ウタリはシートの上であぐらをかいて、落ち着かない様子だ。

 だが、タクシーが滑るように発進しても、「あっ」とひとこと発しただけで、それほど驚きはしなかった。


 やがてタクシーは、光と建造物の大群に飛び込んだ。

 「さあ、着いたわよ。ここがシティ。通称『街』・・・ようこそウタリ。東の街、アジア・ブロックへ」

 「あ・・・うん」

 ウタリは窓に顔をくっつけて、外を見ていた。

 色とりどりのネオン。

 映像、音楽、文字。

 大小高低さまざまな建造物。

 車、バイク。行き交う人々の多彩なファッション。

 初めて見るものばかりだ。

 狩猟生活では、周囲に潜む色々な情報を、状況に応じて読み取らなければ生きていけない。

 だが、街を飛び交う情報は、それ自体が意志を持って迫ってくるようだった。

 ウタリは思わず目をつぶって、頭をふった。


 「大丈夫?」周詠は少し心配になった。

 「うん」

 「ま、気持ちはわかるわ・・・私も街の外で何日か過ごして戻ってくると、びっくりするから。でも、じきに慣れるわよ」

 「うん。・・・ねえ周詠さん、あれ何?」

 「ん・・・どれ?」

 「あれ。あの白くて、あの周りだけ、妙にたくさん木が生えてる・・・」

 「ああ、あの建物?」

 「たてもの?」

 「ああ、ほら、その辺に大きな箱みたいな、筒みたいな、いろんな形のものがいっぱいあるでしょ?ああいうのは全部、建物。建造物。ビルディング」

 「へえ・・・で、あの白っぽい・・・たてもの?」

 「ええ。あれはね、核融合炉よ。この街のエネルギーの、ほぼ全部を担ってる、発電所の中心部なの。通称は、バイローチャナ」

 「ばいろーちゃな?」

 「ヒンズー教の神様の名前よ。とっても偉い神様で、太陽神でもあるらしいわ。だから核融合炉の通称にしたのね。たいていのブロックで、核融合炉の通称は太陽神よ。ヨーロッパ・ブロックではアポロン。ラテン・ブロックではテスカトリポカ。アフリカ・ブロックではホルスって具合にね」


 「はあ・・・」

 「アジア・ブロックではね、大日如来なんてのも候補になってたんだけど、建設する時に出資の中心になった資本家たちがインド人だったとかで、ヒンズー教の神様になっちゃったらしいわ」

 「つまり、あれが神様?」

 「ううん。そうじゃなくて、あくまでも名前を借りただけ。あの建物の中にはね、いってみれば太陽が閉じ込めてあるの」

 「太陽っ?」

 「いや、その、太陽と同じ原理でエネルギーを作ってるの・・・ま、この辺のことは明日まとめて説明するから」

 「わかった。・・・でもやっぱり、あの建物って変だよ。嫌な感じ。神様っていうか、悪魔っぽい」


 「そう?・・・そういえば、何となく氣がざわついてるわね。ちょっと、ニュースを見せて」

 周詠がそう言って窓をつつくと、ガラスの表面がディスプレイになってニュース画面を映し出した。

 3D映像だから、まるでそこにスタジオが現れたかのように見えるのだが、ウタリは「お」とひと声発しただけだった。

 だんだん慣れてきたようだ。

 「バイローチャナ関連のニュースはある?」

 数秒ほど、映像が早回しになって・・・落ち着いた。

 女性アナウンサーが原稿を読み上げる。

 「本日午後七時ごろ、バイローチャナ三号機で、原因不明の出力の上昇がありました。上昇の程度はごくわずかで、現在では通常の出力に戻っています。しかし、今年に入ってから原因不明の出力上昇はすでに五回目で、例年と比べて・・・」


 「ついさっきのことね。いい勘してるわよ、ウタリ。確かにバイローチャナは、ちょっぴり『悪魔の横顔』を見せてたわ」

 「じゃあ、どうしてあんなものがあるの?」

 「普段は神様同然だからよ。・・・アジア・ブロックには、五号機まで・・・五台のバイローチャナがあるわ。街が夜でも明るいのも、こうしてタクシーが走るのも、みんなそのおかげ・・・ってことになってるわ」

 「なってる?」

 「核融合発電所はね、街の人間の、自分自身に対する意地と見栄の象徴なのよ」

 「それじゃ周詠さんも、バイローチャナは悪魔だと思うの?」

 「そうでもないわ。ただ、何となくスッキリしないの。・・・ううん、バイローチャナっていうより、街そのものにね。・・・そうだ、バイローチャナといえば・・・劉にメールしとこう」


 「リュウ?めーる?」

 「知り合いよ。・・・元弟子。バイローチャナの管理スタッフなの。で、その人にこうやって、連絡してるの。ウタリのことで、ちょっと協力して欲しいってね。今夜中に電話してくれると、助かる・・・」

 周詠が携帯端末でメールを打ち終えた頃、タクシーは住宅街に入り、マンションの前に止まった。

 「着いたわ。ここが私の家」

 「家?・・・これが?こんな大きな、まっすぐな岩の塊りみたいなのが?」

 「そう。・・・家っていうか、縦に積み上げた集落みたいなものだと思ったほうが、いいかもね。とにかく入りましょ」

 周詠は玄関で網膜パターンをチェックして、エレベーターで七階まで昇った。


 「ここよ。どうぞ・・・上がって」

 周詠の部屋は、ひとり暮らしには広過ぎず、狭過ぎずといった大きさだった。

 壁にかけた絵や、家具、調度品などは、東洋的・・・やや中国的な趣味だ。

 「うん。・・・あの、周詠さんのお父さんとか、お母さんは?」

 「いないわ。就職してから、ずっとここでひとり暮らししてるの。・・・あ、両親は実家で健在よ。私も実家から通勤できなくはないんだけど、職場に近いほうが何かと便利だし。それに、リニアトレインより、走って通勤するほうが気分がいいから」

 「・・・はあ」

 「わかったようなわかんないようなって顔してるわね。でも私だって、あなたたちの部族の中に入ったら、似たようなものだから。さて・・・先にシャワーでも浴びて・・・」


 その時、携帯端末の呼び出し音が鳴った。

 「おっ・・・劉からだわ。早いわね」

 周詠はリビングの椅子に座り、携帯端末をテーブルの上に置いた。

 「ウタリも座って・・・はい、周詠です」

 そのひとことで、向い側の椅子に、青年の3D映像が浮かんだ。

 「こんばんは、周老師。・・・あれ、そっちのお嬢さんは、ネイティブですか?」


 「そうよ。名前は、ウタリっていうの。ウタリ・・・この人がね、劉翔リュウショウ。私の元弟子よ」

 「嫌だなあ、元弟子だなんて。破門された覚えはないよ?」

 劉翔は頭をかきながら笑った。

 劉翔の髪は長過ぎず、短過ぎない程度にさっぱりとしていたが、ウタリにとっては、こういう「程よい」?長さの髪はかえって不自然に見えた。

 細面の顔も、少々逞しさに欠ける・・・が、何よりも(きれいな顔だなあ)とウタリは感じていた。

 それほど劉翔の目鼻立ちは整っていた。


 「私も、破門にした覚えはないわよ。いつも言ってるでしょ?あなたはもう、免許皆伝なのよ」

 「じゃ、僕の実力を認めてください」

 「認めてるわよ。だからこうして仕事のお願いをしてるんじゃない。・・・あ、仕事っていえば、バイローチャナの出力上昇。あれ、大丈夫なの?」

 「大丈夫ですよ。今のところね」

 「今のところって、どういう意味よ」

 「そのままの意味ですよ。原因がわからないから、絶対に大丈夫とは言い切れないってことで」

 「じゃあ忙しい?」

 「いや、普通だね。まあ忙しくっても、老師の頼みなら断りませんよ。やっと僕を老師のスタッフとして迎えてくれるって・・・」

 「あ、いや、そうじゃないの」

 「え?」

 「その・・・ここにいる、ウタリなんだけど。彼女の力を調べるのに、あなたぐらいの達人と手合わせしてみたらいいんじゃないかって・・・」

 「なーんだ・・・僕はただの実験道具か。てっきり老師のスタッフとして働けるものと・・・」

 「だから、いつも言ってるでしょ?実力の問題じゃなくて、力の方向性の問題なのよ」

 

 「はいはいっ・・・それじゃ、実験道具はいつご入用ですか?」

 「明後日以降で、あなたの都合がつく時に、ラボまで来てくれない?」

 「わかりました。ええと・・・多分、明々後日に。またメールしますよ」

 「お願いね・・・ところで劉、ウタリを見て、どう思う?」

 「どうって・・・普通の可愛いお嬢さんでしょう」

 「そう?・・・ウタリは、どう?劉翔を見て、どんな感じ?」

 「え?・・・ええと、きれいな人だなって」

 「あ、そっち・・・ま、ホログラムじゃそんなものかしら。天才同士、何か通じるものがあるかもと思ったんだけど・・・」

 「あ、それでわざわざ電話をかけろと?」

 「そう」

 「すみませんね。やっぱり映像だけじゃ、ライブ感が足りない」

 「そうかもね・・・じゃ、またメール、お願いね」

 「了解。じゃ、失礼します」

 「ええ、ありがとう。おやすみなさい」

 そして、劉翔の姿がかき消すように消えた。

 「さて・・・じゃあシャワーを浴びて、何か食べて、今日は早めに寝ましょう。休みは明日までとってあるから、午前中はここで・・・ちょっと、色々説明するわね。午後からはラボに行って、あなたのことを色々調べさせてほしいの」


 翌朝、ウタリが目を覚ますと、周詠はちょうど稽古を終えたところだった。

 「あら、おはよう。起こしちゃったかしら?」

 「ううん。・・・もう、ぐっすり眠っちゃって・・・何か・・・機嫌よさそうだね」

 「そう?そうかもね。眠ってるネイティブを起こさずに稽古できるなんて、我ながら氣の制御が安定してるかなって・・・まあ、ベッドが寝心地いいから、よく眠ってただけかもしれないけど」

 「あはは・・・本当にちょっと・・・危機感が鈍っちゃうね。この、ベッドって」

 「ふふ。さあ、とにかく食事にしましょう」

 ウタリと周詠は、木の実や野菜を入れたお粥の朝食を摂った。

 炊いた米など食べたことがないウタリだったが、お粥に抵抗感はないようだった。


 食事の後片づけをしてから、周詠は携帯端末をリビングのテーブルに置いた。

 「さてと。じゃあ、この街ってのがどういう所で、私がどういう仕事をしているかってことを、ざっと説明するわね。そうだな・・・広く浅く、あっちこっちに話が飛ぶと思うけど、我慢して聞いてね」

 「うん」

 「じゃ、まず・・・地球儀を出して」

 その一言で、テーブルの上の空間に、直径五十センチほどの地球の映像が浮かんだ。

 「これが、地球。私たちの住んでる地面の塊。星よ。この世界が丸いって、知ってた?」

 「うん」

 「へえ・・・どうやって知ったの?」

 「狩りでね。獲物を追ってて、そいつが地平線の向こうに消える時とか、足から見えなくなって、最後に頭が消えたりするの。何でかなってお父さんに聞いたら、世界が丸いからだって教えてくれたんだ」


 「立派ねえ・・・街の人間で、実際にそんな風にして、地球が丸いって確認してる人なんて、ほとんどいないわよ。本やデータベースにあるから、地球は丸いんだって、それでおしまいだわ。それじゃあ天動説を信じてた人たちと、大して変わらないのに」

 「てんどーせつ?」

 「昔はね、世界は平らだって思われてたの。こんな感じね」

 すると、テーブルの上の地球儀が、天動説の世界のモデルに変化した。

 「円形の平らな世界があって、中心に陸地があって、周りは海ね。で、世界の端っこは滝になってるの。太陽はほら、世界の周りを回ってる。だから天が動く、天動説っていうの」

 「ふーん。でもこれ、わかりやすいね」

 「でしょ?実は私もね、天動説って結構好きなのよ。だって普通に暮らしてたら、地面が丸いなんて思わないでしょ?天動説って、日常の実感に基づいた立派な学問よ。・・・ま、それは置いといて・・・地球儀に戻して。もっと、ずっと昔へ・・・どうしようかな。ビッグバンから始めてもいいんだけど・・・面倒だから、とりあえず太陽系が成立した頃の、火の玉の状態から。・・・そう、そこで。ほら、これが生まれたての地球よ」


 「熱そうだね。これで生き物がいるの?」

 「まさか。生き物が現れるのは、もっとずっと後よ。何億年も経って、地球が冷えて・・・もっともっと、早送りで。・・・うん。ほら、この辺から生命の誕生が始まったの」

 その地球には、大陸はひとつだけだった。

 「陸地には、まだ生き物はいないわ。命は海で生まれたの。こんな風に・・・」

 地球儀が、海中の映像に変わった。

 アミノ酸が生命の原型になり、細胞になり、次第に複雑になっていく様子が流れた。

 「で、植物ができて、動物が現れて・・・どこかの物好きが、陸地に上がろうと思ったらしくて・・・」

 周詠の言葉に合わせるように、映像は生物の進化の様子を流し続けた。

 「恐竜の時代・・・それが終わって、氷河期・・・哺乳類の力が強くなり始めて・・・」

 映像が、アウトラロピテクスを映し出した。

 「この辺から、人間らしくなってくるわね」

 「あの・・・じゃ、人間は最初からいたわけじゃないの?」

 「そうよ」

 「じゃ、この・・・お猿さんみたいな、人みたいなのって、いつ頃いたの?お祖父ちゃんだって、こんなのがいたなんて話、したことないよ」

 「そりゃそうよ。生物が進化して、姿や形を変えていくには、長い時間が必要なの。このアウトラロピテクスがいたのなんて、だいたい四百万年から二百万年も前の話よ」

 「ひゃあ」

 「で、この頃の地球の陸地と海が、こんな感じ。陸地のこの辺とかこの辺とかが繋がってるの。わかる?」

 「うん」

 「それが・・・早送りして・・・ほら、陸地がどんどん離れていくでしょ」

 「あ、本当だ」


 「で、ちょっとさっきのアウトラロピテクスに戻るわね。ここから・・・もう、パーッと・・・これが旧人、ネアンデルタール。・・・で、新人のクロマニョン人」

 「あ、ポンガと似てる」

 「へえ・・・ケンタさんの勘が当たったわね。ところでウタリ、アウトラロピテクスから先の・・・まあ、人間ってことにしときましょう。それと、それまでの生き物との、パッと見での一番の違いって、何だと思う?」

 「うーん・・・アウトラロピテクス?は、まだちょっとあれだけど、ネアンデルタールやクロマニョンになると、二本足で立つのがすごく上手い」

 「正解。人間は、直立歩行という形態を選ぶことで、色々なものを得たの。両手が自由になることで、さまざまな道具を使えるようになったし、脳の容積も増えたわ。でも何よりも、まず・・・呼吸が上手くなったの」

 「呼吸?」

 「そう。直立すると、走行時の呼吸の制限が、最小限で済むの。これで人間は、空気抵抗によって速度を失う代わりに、持久力を手に入れたの。あなたたちネイティブの持久狩猟は、この呼吸の技術があってこそなのよ。で、速度に劣るぶん、見失った獲物を追跡するために分析力が磨かれて、脳が発達したわ。追い詰めた獲物を効率よく仕留めるために、道具も工夫したし。・・・こうして人間は進化していったの。まあ、私みたいに東洋の武術をやっている人間からすれば、人は呼吸が上手くなることで、氣を練ることができるようになった、と言いたいところだけど。・・・ウタリは『氣』って、わかる?」

 「うん」

 「それも、お父さんから教わったの?」

 「そうだよ。氣を感じたり、見たりする練習もした。私、読み書きはできないけど、氣を感じるのはニタイやレラより上手いんだよ」

 「へえ・・・ケンタさんは、何か武術をやっておられたのかしら・・・聞いておけばよかったなあ。ケンタさんは、そういう・・・文字とか氣とか、自然科学のこととか、色々なことを毎日教えてくれたの?」

 「そうでもないよ。大体、こっちから聞いたら答えてくれるって感じ。文字と氣のことは、一時期しっかり教えてくれたけど」


 「ふうん・・・そうそう。で、参考までに、これがネアンデルタール人の、マンモス狩りのイメージ映像ね」

 渓谷に追い込んだマンモスに襲い掛かるネアンデルタール人の集団が、テーブルの上に映し出された。

 「それから・・・クロマニョン人の持久狩猟のイメージ。こっちは、あなたたちの狩りと似てるでしょ?」

 「うん」

 「それからもっと進んで・・・ホモ・サピエンス・・・で、この辺から農耕が始まったの」

 「農耕?」

 「お米とか麦とか、野菜とか果物とか・・・とにかく、食べ物を一か所でまとめて作っちゃうのよ。見たほうが早いわね」

 また映像が切り替わって、色々な時代の色々な田畑や作物、家畜を育てる様子が流された。


 「うわ・・・すごいね。これ、上手くできれば、食べるのに困らないじゃない?」

 「そうよ。でもね、色々問題もあったの。わかる?」

 「うーん、見た感じ、不自然だよね。あんな広い場所に、ひとつの植物しかないってのが」

 「そう。農耕というのは、大規模になればなるほど、生態系のバランスを崩す危険と隣り合わせになるの。でも、それだけじゃないわ。・・・人間はね、農耕を始めることで、土地に縛られるようになったの」

 「・・・縛られる?」

 「そう。あなたたちって、獲物に合わせて居住地ごと移動するじゃない。同じ場所に住み続けるって、あまり考えないでしょ?」

 「うん」

 「でも農耕を始めるとね、豊かな土地があったら、そこに住み続けて、ずーっと食べ物を作ろうとするのよ。それと、お米や麦みたいな穀物は、保存ができるの。そういう作物を貯蔵するためにも、土地が必要でしょ。こういう土地や作物は、財産として扱われるようになったの」


 「・・・ざいさん?」

 「この辺がね、狩猟民族には説明しづらいのよ。あなたたちって、所有の概念が希薄だから・・・そうだなあ・・・あなたたちが狩りをして、獲物を仕留めて、そこへ別の部族が来て、『俺たちによこせ』って言ったら、どうする?」

 「一緒に食べるよ」

 「いや、そうじゃなくて、『全部よこせ』って言ったら?」

 「えー?そんなの考えづらいけど・・・あったとしたら、その部族の人たちみんなが、お腹が空き過ぎて危ないってことだから、とりあえずあげちゃうかな」

 「うーん・・・まあ、いいか。とにかくね、農耕が始まると、『財産の所有』っていう、今までにはなかった概念ができたの」

 「はあ・・・」


 「人間は、個人で、集団で、いかにして財産を増やすかということに力を注ぎ続けて・・・で、そのうちこういうことを考える人がでてきたの。『一番効率よく財産を増やす方法は、既に持っている者から奪うことだ』ってね」

 「何それ?」

 「そのまんまよ。で、そういう考え方をする人たちが揉め始めると、戦争になるの」

 「せんそう?」

 「これもねえ、映像を見てもらうほうが早いから・・・こんな感じ」

 そして、リビングのテーブルの上に、紀元前から二十一世紀頃までの戦争の映像が、ランダムに流れた。

 それまでは時折感心したような目をしながら、どちらかといえば、のんびりと周詠の話を聞いていたウタリの雰囲気が一変した。

 その表情には、強い嫌悪感があった。


 「・・・何なの、これ」

 「見たまんまよ。私もこういうのは苦手。・・・もう切り上げるわね」

 「街の人って、こんなことやってるの?」

 「ううん。もうずいぶん前に、戦争はなくなったわ。どうしてだと思う?」

 「どうしてって、そんなのやりたい人なんていないでしょ?やめたいからやめたんだよ」

 「うん。本質的にはそうかもね。でも、他にも色々あったのよ。・・・もう一度、地球儀を出すわね。ええと、二十一世紀ぐらいからにしましょうか」


 「周詠さん、二十一世紀って?」

 「ああ・・・昔ね、今から百年間を一世紀という時代にしようって決めた人たちがいたの。一年はわかる?」

 「うん。春と夏が1回過ぎたら一年だね」

 「そう。で、百年ごとに世紀がひとつずつ増えるの。一世紀の百年が過ぎたら、次の百年は二世紀、そのまた次の百年は三世紀って具合ね。で、この地球の映像は二十一世紀頃よ。ここから百年を一秒にして早送りすると・・・」

 「あれ?地面が減ってる?」

 「そう。二十一世紀の後半ぐらいから、徴候があったみたいなんだけど・・・二十四世紀に入ってから、もうはっきりと、地殻変動が異常な速度で進行し始めたの。海底は隆起して、陸地は沈んでいく。つまり、地球の表面が平らになり始めたってわけ。で、そんな状態が二千年ほど続いて・・・こうなったの。四十四世紀の地球。この頃になって、やっと異常な地殻変動がおさまったわ」


 「あ、止まったんだ。よかった」

 「今はね。でもこの二千年間は大変だったらしいわ」

 「そう?二千年もかかってるんなら、大したことないんじゃない?」

 「とんでもない。例えば・・・ちょっと巻き戻して・・・ほら、この、ひとつにまとまった大陸が、離れていく・・・ここまでで、どのぐらいかかってると思う?」

 「・・・一万年ぐらい?」

 「はずれ。三億年よ」

 「さんおくう?」

 「なのに、たったニ千年で、こんなに地表が変化しちゃったのよ。結局陸地は七割近くが沈んじゃったわ。海と陸地の比率は、今ではほぼ九対一ね。南極諸島だって、昔は大陸だったのよ。でもとにかく、この千年間は地殻は安定してるわ。だから四十四世紀からは、ほら、変化しないでしょ?で、これが現在、5372年の・・・五十四世紀の地球よ」


 「へえ。・・・私たちがいるのは、どこ?」

 「この辺ね。ユーラシア大陸の東側よ。・・・そう、それで。戦争ってね、基本的には土地の取り合いなの。奪うか、守るか。でも、その土地がどんどん減っていったのよ」

 「仲良くしなきゃどうにもならないよね」

 「その通りなんだけどね・・・そうとは限らなかったのよ。下手をすれば、減っていく土地を奪い合って、自滅する可能性もあったんだから」

 「えー?」

 「でも、そうならなかったのは、どうも極端な少子化のおかげらしいわ」

 「しょうしか?」

 「子供の数がどんどん減っていくことよ。文明が高度化すると、結婚したり、子供を作って育てたりするより、仕事や勉強のほうに時間をとられちゃうの。これも二十一世紀頃から世界的な傾向になったみたいね。二十世紀から二十一世紀の頃って、人間の数が一番多かったのよ。七十億人もいたんだって」

 「ななじゅうおく?」

 「いずれ百億に届くっていう学者さんもいたらしいけど、そうはならなかったわ。交通機関や通信網の発達で、文明は意外と早く世界の隅々まで行き届いたの。それで、じわじわと人口が減り続けて、そこへ二十四世紀に入って地殻変動が始まったもんだから、もう一気に少子化が進んだわ。『そう遠くない未来に、すべての陸地は水没する』なんて予測した学者さんもいたから、そりゃ子供を作る気にもなりにくかったでしょうね。で・・・戦争ってね、基本的には、相手をどれだけ数で圧倒できるか、で、ほぼ勝負が決まるの。でもその数の根本の『人』がどんどん減ってるんじゃ、うっかり戦えないってわけ」


 「・・・はあ」

 「陸地も人も、どんどん減って、いくつもの国や民族が滅んだわ。残った人たちは海から離れて、少しでも高い場所を目指して移動を続けたの。そのうち、国家という概念も曖昧になって・・・そういう私自身、国家なんて概念、ピンと来ないしね。周詠って名前は中国人のものだけど、私の中に漢民族の血がどれだけ流れているか、怪しいもんだわ」

 「血ですかあ。私たちはとにかく、結婚は他の部族として、色々混ぜるのがいいって」

 「そうよね。・・・ええと・・・そう、その、陸地が減っていった頃の三十世紀に、画期的な発明があったの。それが核融合炉よ。ウタリも見たでしょ?バイローチャナを。あの施設が、核融合発電所なの」

 「あの、太陽を閉じ込めてるってやつ?」

 「そう。それまでは、どんどん地形が変わってくものだから、資源開発の長期的な目処が立たなくて困ってたの。仕方ないから太陽光とか、風力とか地熱とか、再生可能な自然エネルギーでしのいでたんだけど、そこへ核融合発電が来たのよ」

 「それって、そんなにすごいの?」

 「すごいわよ。エネルギー源は水素だから、海水が利用できるし、生み出す電力量は自然エネルギーの比じゃないし。文明社会ってね、大量の電力を安定して供給できるかどうかってのが、生命線なの。だから、二十四世紀に入って地殻変動が加速してからは、文明の進歩ってすごくゆっくりだったらしいわ。特に宇宙開発みたいな大規模な事業は止まっちゃったし。まあ、それはそれでいいんじゃないかって気もするけど。でもとにかくこれで、文明社会を建て直す望みができたわけ。じゃあ、どう建て直そうかってことで、当時の偉い人たちが集って考えたのが、ブロック・シティ・・・『街』なの」


 「街・・・ここのこと?」

 「そう。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカ、ラテン、オセアニアの六カ所で、おそらくギリギリまで水没は免れるだろうっていう場所が選ばれて、そこに造られたの。まあ大体、各大陸の中央部とか、標高の高い場所が選ばれたわ。ここ、アジア・ブロックだって、かつてはヒマラヤ山脈っていう、標高八千メートルクラスの山々が連なる険しい山岳地帯だったのよ。今では一番高いところで、標高五百メートルちょいだけど。そうそう、これが二十一世紀頃のヒマラヤ山脈の映像よ」

 「うわっ・・・高い!それに真っ白・・・あれ何?」

 「雪よ。凍った雨が降って、それが地面に積もるとああなるらしいわ」

 「へえ・・・」

 「で、結局四百年ほどかかって、『街』は完成したの。世界に点在する六カ所の街は、人間にとって新しい世界になったわ。ひとつひとつの街の広さは、三万から五万平方キロメートル。それぞれが三機から五機の核融合発電所を持ってて、・・・でもね、実はもう今では、核融合発電所がなくても何とかやっていけるぐらい、自然エネルギーの技術も進んでるのよ。で・・・人口は一千万人から二千五百万人ぐらい。現在の世界の総人口は一億人ちょっと。最盛期からずいぶん減っちゃったけど、街ができてからは人口の推移はほぼ安定してるわ。ちなみに一番人口が多い街は、ここ、アジア・ブロックよ。何たって中国人とインド人の血が多いから」

 「はあ」

 「世界の公用語は、基本的に英語。でもアジア・ブロックでは、第一公用語は中国語で、英語は第二公用語。ヨーロッパでは、フランス語とドイツ語と、あと、何だっけ。とにかくそういうのが、選択制の第二公用語になってるわ。他の言語もそれぞれの区で、結構普通に使われてるのよ。アジア・ブロックなら、日本語、ハングル、広東語・・・とにかく色々。でもね、みんながみんな街に馴染んだわけじゃなかったの。テクノロジーの粋を集めた街の生活とは、反対の生き方を選んだ人たちがいたの・・・それがあなたたち、通称『ネイティブ』よ」


 「え?私たち?」

 「そう。わずかな数だったけれど、それでも各ブロックで、そういう人たちがいたわ。始めのうちは、狩猟生活をするグループと農耕生活をするグループに分かれてたけど、そのうち農耕生活をしていた人たちも、狩猟生活に転向して、今ではネイティブといえば狩猟採集民族ね」

 「へえ」

 「これは環境の力が大きいみたいね。さっきヒマラヤの映像を見た時、びっくりしたでしょ?」

 「うん!」

 「私も最初に見たときは、びっくりしたわ。雪なんて、見たことなかったから。ううん、今でも実物は見たことないわ。ねえウタリ、昔の地球には、四季というものがあったんだって」

 「しき?」

 「春、夏、秋、冬の四つの季節よ。それがね、二十一世紀頃から始まった温暖化で、なくなっちゃったのよ」

 「また二十一世紀?」

 「そう。変よね。それで今の地球は、春と夏しかない、ほぼ常夏の星なわけ」

 「ん~、何かピンと来ないなあ」

 「そうね。私だって秋も冬も知らないし・・・そうそう。それから地殻変動で、地面の高低差が減ったものだから、降雨量の地域差がほとんどなくなったの。温暖な気候と豊かな水のおかげで、植物も動物もうんと増えたわ。人間のほうは、追ってくる海から逃げるのに精一杯で、産業の発展があまりなかったから、それも自然が豊かになる原因のひとつだったみたいね。そういうことで、わざわざ農耕をやらなくても、それなりに食べ物が手に入るような環境ができあがってたの」

 「ふうん」

 「それとね、農耕ってテクノロジーの根源のひとつなのよ。テクノロジーの塊みたいな街に馴染めなくて、自然の中での暮らしを選んだ人たちだもの。生きるために環境を作り変えるようなことは、気が進まなかったんじゃないかしら。ネイティブにとっては、いかにして己の五体だけで生き抜くか、が人生のメインテーマなんだと思うわ。石器ですら、やむを得ず使ってるみたいに見えるし」

 「うーん、やむを得ずとかいちいち考えてないけど、獣みたいに爪や牙で獲物をさばけたら便利だなって、時々思うよ」

 「さすがねえ」


 「でさあ、ネイティブって、どういう意味?」

 「元々は先住民族って意味なんだけど、あなたたちのことをいう時は、『人間本来の生き方をする者たち』ってニュアンスかしらね。最初はいろんな俗称があったらしいわ。ランナウェイとかチェイサーとか。でももうネイティブで一貫してるわね。今のところ、ネイティブについての街の方針は、『来る者は拒まず、去る者は追わず』ってとこかな。ネイティブの正確な人数もわかってないし。大体、世界中で十万人前後じゃないかって推測はされてるけど」

 「へえ・・・私たちの仲間って、そんなにいるんだ」

 「そんなにって、そんなに多くないと思うけどなあ。・・・まあとにかくそういうことで、街は街、ネイティブはネイティブで、自分たちの居場所を確保したわけ。でもね、これでめでたしめでたしとはいかなかったのよ。少なくとも街の人間は、ね」

 

 「どうして?こんなに便利なところに住んでるのに」

 「便利とか不便とか、そういうことじゃないの。そうだな・・・何をしたらいいのかわからなくなった、って感じかな。人間って、貧困とか戦争とか、挙句の果てには大規模な地殻変動とか、そういうトラブルに右往左往しながら生きてきたでしょ?それが、街が完成してみたら、結果的にそういう問題が解決しちゃったのよ」

 「いいじゃない」

 「そうね。でもそうなると、嫌でも・・・自分自身と向き合わなきゃならなくなるの。そして気付いちゃったのよ。人間はこの五千余年の間、本質的には何も進歩してないって」

 「そうですかあ?」

 「そうなのよ。テクノロジーは進歩したし・・・今でも進歩し続けてるけど。でも、種としての進歩はしてないって。進歩っていうか、進化ね」

 「しんか?」

 「そう。海で生まれた命が複雑な細胞になって、脊椎動物になって、陸に上がって、猿から人になる。こういうのを進化っていうの。で、街の人間は考えたのよ。人間は、これからどんな進化をするのか?どう進化するべきなのか?どう進化したいのか?そんな中で、四十五世紀に立ち上げられたのが、進化制御計画・・・エボリューション・コントロール・プロジェクト。通称ECP。私はね、このECPで働いてるの」

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