日本最後の童貞
「しまった。囲まれたぞ」
「どうやら、そのようだな」
俺の名前は御厨天魔。童貞だ。
ここは学校の屋上。
今俺たちはピンチだ。アサルトライフルを構えた数十人の兵士たちに囲まれていて、二人で背中を合わせるような形である。
「どうする?もう銃弾は残り少ないぞ」
そう言って両手に握りしめたデザートイーグルの弾をリロードしたのは、俺の相棒である吉田だ。彼も童貞だ。
「武器を捨てて童貞を差し出せ!安心しろ、抵抗しなければ命まではとらない」
そう言ったのは兵士の中のリーダーと思われる人物だ。
「くそっ」
俺たちは仕方なく銃を床に投げ捨てる。
兵士たちは俺たちに歩み寄り、アサルトライフルを頭につきつけてくる。
ここまでか……。俺がそう思った瞬間、吉田が兵士たちに飛びかかり、
「御厨!今だ、逃げろ!!」
と言う。
「ああ!わかった!!」
「少しはためらえよ!!!!!!!!!!!」
俺は吉田の叫びをよそに、体当たりで屋上の柵をぶち破り、そのまま飛び降りる。
後ろから銃弾が何発か飛んでくるが、当たらなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
屋上は階数で言えば八階だ。八階から飛び降りて地面に叩きつけられたら、怪我だけでは済まない。
俺は下から風を受けたまま、背負ったリュックサックについたパラシュートを開こうとするが、何故か上手く開かない。
「開けよおおおおおおおおおおお」
パラシュート、パラシュート開かない。
「くそおおおおおおおおおお」
結局パラシュートは開かず、俺は地面に叩きつけられた。
凄まじい音と共に、コンクリートのかけらが空中に舞う。
「いてて。くそ。あばら骨を何本かやられたぜ」
と俺が痛めた胸をさすっていると、
「やめろーーーーーーーーーーー!!!」
屋上から吉田の断末魔の叫びが聴こえる。
吉田。
お前と初めて出会ってから、今日で10年経つね。
喧嘩もしたけど、何だかんだで、俺はお前のこと好きだったよ。
俺はお前みたいな友達――いや、親友、がいて幸せだった。
お前が俺のこと、親友って思ってくれてるかは分からねえけどさ(笑)。
照れくさくて、お前が生きている時には言えなかった言葉、今言うぜ。
「ありがとう」
お前のことは忘れない。
ずっと天国で見守っていてくれ。
頬に何か、冷たいものがつたう。
これは何だろう。久しく忘れていたような感情が湧き上がる。
俺は屋上を少し見上げて、その場から逃げることにした。