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 ハルオの怒りが伝わったのか、香はハルオを睨み返して言った。


「簡単に同情するオトコは嫌いよ。そういうエゴって、裏切るのも早いんだから」


「お、俺を、た、試すような、ま、真似、す、するからだ」


「あんたが馬鹿みたいになんでも鵜呑みにするからじゃない。それに私を試したのはあんたの方でしょ? こっちは信用してるってのに」


「そ、それなら、お、俺だって」

 信用してたのに。そう言おうとした矢先、ハルオの携帯が鳴った。良平からだ。


「ハルオ、悪いが御子が入院した。荷物を取って来てくれないか?」


「お、俺、今、そ、外にいるんだ。ほ、他の奴は?」


「組長がパニックなんだ。みんなで必死に落ち着かせているらしい。俺もどうすればいいかさっぱり分からないんだ」


 そんなのこっちだって一緒だが、御子の事は自分だって心配だ。様子は見たい。


「わ、分かった。す、すぐ、行く」通話を切って、香に御子の入院を伝える。


「ホント? すぐ礼似さんにも伝えなきゃ」

 香の自分の携帯を取り出したが、とたんに着信音が鳴る。礼似からだ。


「もしもし香? 悪いけど私、明日の夕方まで戻れないわ。今、温泉街にいるの」


「は? なんでです? 一樹さんは?」まさか二人で旅行でもあるまい。


「会長の奥様が、飼い犬仲間と急に思い立って、温泉旅行に出たの。会長ったら無理やり隣の部屋をとって、私と土間を押し込めたのよ。おかげで一樹に山ほど宿題持たされたわ。大谷への後始末頼んだから、ブーブー言ってたわよ」


「奥様、相変わらずですね。ああ、それより、御子さんが入院しました。もうすぐ生まれそうです」


「えー? なんだあ。立ち会い損ねたあ。残念。御子に言っといて、頑張んなって」


「それだけでいいんですか?」


「他に何言えってのよ。どうせ産むのは御子なんだから。真柴の事だから、私達の分まで大騒ぎするでしょ? 賑やかしには困らないって。じゃあね」礼似は言うだけ言って、切ってしまった。


「れ、礼似さん、ど、どうかしましたか?」聞き耳を立てていたハルオが聞く。


「今日は帰れないって」


「お、俺、びょ、病院に、む、向かいますが」


「一緒に行くわ。御子さんに会わないと」

 二人はとにかく荷物を取りに、真柴組へと足を向けた。


 真柴組に行ってみると、確かに組長はパニック状態だった。おろおろと室内を歩きまわって、じっとしていない。ぶつぶつ呟いては、時折奇声を発している。周りの組員が色々言ってなだめてはいるのだが、まるで耳に入っていない様子。

 組長がこんなに目立つ状態では、とてもじゃないが病院になんて連れていけない。御子と良平がおいて行ったのも分かる。これは無事に産まれるまでは、外に出さない方がよさそうだ。

 仕方がないので、御子が用意した荷物をメモで確認し、二人で病院に向かった。


 病室に入ると、御子はベッドの中にこそいるが、意外に落ち着いた状態だった。香は土間や礼似が明日の夕方まで来られない事を伝える。


「そりゃ、あの二人もご苦労な事ね。まあ、生まれもしない内に顔出されても、意味無いからいいんだけど。それに私の方も、まだ当分かかるわよ。痛み始めたから病院に電話したら、医者に念のため早目に来いって言われて、良平が慌てちゃっただけ。でも、今夜中には生まれるって言ってた。あんた達が荷物の確認してくれたのなら安心だわ。良平に任せるよりは、よっぽど確実」そんな事を言って笑っている。


 それでもその手に、しっかりとお守りが握られている事にハルオは気が付いた。


「こ、この、お、お守りは?」


「ああ、そうだ。ハルオ、あんたに伝えとかなきゃいけなかった。これ、あんたの母親が、あんたを生む時に持ってたお守りなんだって」


「お、俺の、は、母親?」


「そうよ。無事に産まれたらあんたに渡してほしいって、土間に言われてるの。もうすぐ、あんたに渡すからね」


「い、いいよ。み、御子が、こ、このまま、も、持ってて」


「何バカな事言ってんの。大事な親の形見の品でしょ? い、いててててて」


「だ、大丈夫か? 御子?」慌てて良平が割って入る。


「しょうがないじゃない。痛くなきゃ困るんだから。あんた達、もう、帰っていいよ。まだ、どれだけかかるか分からないんだから」


 ハルオは痛みをこらえる御子に、意外にそっけなく「うん」と答えて病室を出て行った。何だか様子がおかしいので、香も御子達に「失礼します」と声だけかけて、ハルオの後を追った。





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