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異世界でした!  作者: ぽち子。
二章 異世界で迷子になりました。
9/28

8.



 ちょっと前に一世を風靡したメイド服は、今となっては定番だ。

 定番って言っても実際に着ている人が居れば二度見はしてしまうけど。

 学園祭でも定番設定のそれを可愛い子がきていたら目の保養……もとい、可愛いから和む。

 だけど、ぶっちゃけ若さで何とかなるようなものだよね。

 今着ている服を見下ろして、ため息がつきたくなった。 


 なぜなら、問題のメイド服を着ているからだ。


 はい、そこ年齢のことは言わないー……そういうのは本人が一番わかっているから。

 でもメイド服っていっても、見た目重視の可愛いやつではない。

 王城で一般的に着ている仕事着なのだ、これは。

 ふんわり膝下のスカートは、ふんわりしているから余裕があって早歩きに最適!

 しかも下にかぼちゃパンツみたいなのを履いているから、スカートが捲れても無問題。

 フリルのついたエプロンも、びっくりするほどポケットが付いていて某未来型ロボットも更に真っ青だ。

 どうりで、アニーが櫛やら鏡やら化粧道具やらを何にもないから取り出すよ!

 うーん……この機能性重視の制服は誰が考案したのだろうか。

 おっと、そろそろ萌と効率の共存はおいといて。


「えっと、三つ目の角を曲がるんだっけ」


 クレイから渡された地図を見る。

 といっても方向音痴の私を知っているのか、クレイは丁寧かつ慎重に根気よく教えてくれた。

 ……まあ、途中から指示書になってるけどね。このとおりに行けば着くと最後のほうは諦めがちに。

 うん、なんか致命的な方向音痴でごめんよ。


「……ここのつきあたりっと」


 あの子、ユーリに会いに行く。


 クレイは面白そうに笑って、当然のようにアニーは反対した。ライから部屋から出すなと言われていたらしい。

 どうしても会いたかったからお願いすると、アニーは渋々頷いてくれた。

 メイド服と目立つらしい黒髪を隠すためのカツラを持ってきてくれたのはアニー。 

 直前までは一緒に行くと言っていたけど、クレイがそれを止めた。

 どうやらアニーは、王妃つきのメイドとして城では有名らしい。

 『そんな目立つアニーと一緒にいるところを目撃されて、ついうっかり陛下に報告されたらどうなるかしら』

 と、クレイの鶴の一言で、泣く泣く諦めた。

 しかし説得された相手がクレイなのが大変不本意なのか、二人とも微笑み合っているのに背景にブリザードが見えるよ!

 こんな古典的漫画表現を実際に見られるとは……。

 うーん、戻るのが怖い。けど、クレイには必ず戻ることを約束の上の協力だからそれはできないけど。


「ここか……」


 重厚そうな扉をゆっくり開く。

 クレイの言っていたとおり一間の受付みたいな部屋があって、その前に二人が奥に続く扉をはさむ様に立っている。

 鎧はつけていないけど、剣は持っているから兵士だよね。

 そのうちの片方を目が合った。


「何か御用ですか?」

「ええっと、王妃様からユーリウス様宛てに手紙を預かってまいりました」


 メイド服に茶髪のカツラのおかげか、どうやら気づいていない様子だ。

 持ってきた手紙を出すと、もう一人とアイコンタクトとった。

 なんか、こうしてみると兵士というよりは騎士って感じだ。

 よくよくみれば、爽やかイケメンって感じだし、この城美形率高ぇ!


「ではお預かり致します」

「い、いえ!王妃様から、言付けも頂いてますので!」


 するとちょっと困ったような表情。

 もう一人の体育系イケメンとまたまたアイコンタクト。


「陛下からはしばらく誰も通すなと……印は確かに王妃様のものですね」

「床に臥せっている王妃様からどーしても伝えてほしいと言われているんです!」


 わざとらしく顔を伏せて泣く真似。ちょっと大げさかな?

 でも兵士さんたちには効いているのか、あせった様子を見せだした。

 実は私つまり王妃って、ほかの人には病気ということになっているらしい。

 だから子供であるユーリに会えないのも公の場に出ないというのも、それが原因ということになっている。

 お庭で遭遇しちゃったとき、気を失って倒れちゃったから更に信憑性がましたらしいし。


「……わかりました、どうぞ」


 なにやら小声で話し合ったかと思うと、奥に続く扉をゆっくり開いてくれる。

 とりあえず頭をぺこりと下げて、扉の中へ入っていった。

 ううん、なんか胸が痛むなぁ……困惑した表情の中に、心配そうな表情も見えたから。

 臥せっていることになっているのは、私が記憶がないから。

 でも本当に覚えてないんだよね、懐かしいという感覚もないから毎日が新鮮な感じ。


「……失礼しまーす」


 一通り見たけど中には誰もいないみたい。

 二階に位置していているこの部屋に入ってすぐに大きな窓が目に入る。

 まだ日は高いけど薄いレースで覆われているからそんなに眩しくはない。

 部屋を見渡すと、子供向けの内装だけどやはり豪華だ。シンプルなライの寝室より華やかな印象を受ける。

 あれ、ユーリいないよ?


「ユーリ殿下ー?」


 あまり大声出すと部屋の前の兵士さんが飛んで来そうだからやや押さえ気味に。

 扉のない寝室を覗いてみると、そこも無人だ。

 おかしい……ここは二階だし、窓の下には他の兵士さんが見張っている。

 この部屋に居るはずだけど……かくれんぼ?

 だとすると、どこに?

 ユーリは小さいから家具の上には隠れられないし、となると下だよね。

 食卓で使われそうなぐらい大きい机を見て、棚の一番下を開いてみる。

 いないとなると……ベッドの下かな?


「ユーリ?」


 暗いけど、小さな影が見えた。

 小さく丸まって、声をかけてもぴくりともしない。

 え、ちょ、大丈夫だよね?

 焦りつつ引っ張ると、ユーリの瞼は閉じられていて呼吸も規則正しい。

 ……寝ちゃってる?

 ゆっくりとベッドの上に寝かせて、顔にかかった黒髪を横に撫でる。

 やっぱり天使のような寝顔だなぁ。もうずっとなでなでしたいぐらいに可愛い!

 子タレだったら今頃大活躍だよ、CM引っ張りだこ。

 まあ、ここには子タレもCMなんてものもないだろうけど。

 その天使のような寝顔に涙の後がある。

 泣いていたのかな……。


「……だれ?」


 ゆっくりと瞼が開いたかと思うと、眠そうに目を擦る。

 可愛いっじゃなくて、お目覚めだ。

 薄暗いし、カツラをつけているせいかわからないか。


「私だよ、ユーリ」

「……かあさま?」


 大きなすみれ色の目を、更に大きくして見つめている。

 まるでお化けを見たような反応だけど……そりゃそうか。


「どうして……かあさま、おぼえてないって」

「……ユーリ」


 やっぱり、ライは話していたみたいだ。

 ユーリの顔が不安そうな表情。

 まだこんなにも小さい子供なのに……私のせいだよね。

 私だって、お母さんにある日突然忘れられたら、寂しいし悲しい。

 それなのに、ユーリは物分りの良いふりをして我慢している。


「あのね、ユーリ」

「かあさま?」


 

 そっと、ユーリに触れる。

 正直、ユーリを見ても記憶は少しも蘇らなかった。

 未だに本当に私の子か、と半信半疑ではあるけれど……。


「それでもユーリと仲良くしたいと思うの。ユーリに笑ってほしい」


 勝手かもしれない。

 でも、ユーリには笑っていてほしいって思う。

 それはもしかしたら、忘れてしまった私の心なのかもしれない。


「かあさま!」


 ユーリが抱きついて、大声で泣いた。

 庭では声を押し殺すように泣いていたのに、今は小さい子供のように泣いている。

 ようやく年相応の姿に、なんだか胸が温かい気分だ。

 可愛いの最上級の言葉でも表せないようなこの気持ちは……愛しいとか?

 ゆっくりと、さらさらの髪を撫でる。やっぱり触り心地は最高だ。

 そうしていると落ち着いてきたのか、抱きついたままユーリは顔を上げた。


「でもどうやってここに?」


 ……そういえば、メイド服なんだった。

 茶髪のカツラも不思議そうに見ている。

 まさか、お忍びできていますなんて、ユーリに言えないし……。

 そもそもライにバレたら、ヤバいよね。

 まあ、ライの言うとおりにしていたら何時までもユーリに会えなかったからいいけど。

 でもばれていない内に戻ったほうがいいよね、アニーとクレイにも迷惑が掛かるし。


「サシャ!!」


 なんて考えていると、寝室の入り口から怒声が……。

 思っていたとおり、厳しい顔をしたライがいた。

 美形なだけあって、その眼光は絶対零度の冷たさを持っている。

 心なしか、部屋の温度も下がって寒いような……。

 不安そうなユーリを抱きながら、私は乾いた笑いしか返せなかった。





続きが遅くなってしまい大変申し訳ございません!

そしてまだ引っ張ります。

次もよかったらよろしくお願いします。

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