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異世界でした!  作者: ぽち子。
二章 異世界で迷子になりました。
7/28

6.




「……わあああぁぁ!!」


 がばっと起きると、傍に控えていたアニーがびっくりしていた。

 心配そうな表情で、こちらに近付いてくる。

 あれ?私どうしたんだっけ?

 ふと、ソファーベットみたいなもので寝ていたのに気付く。

 しかし形はソファーみたいだけど、大の字になっても余るぐらいなんて。

 もうこれ、簡易ベットでしょって、そうじゃなくて。


「サシャ様、どうされましたか!?」

「な、なんか、不思議な夢見てさ~」


 そう!そうだよ、子どもがいたなんてそんな冗談……ないよね?

 確かに天使だった。艶やかな黒髪に、すみれ色のくりっとした大きな瞳。

 ほっぺたはマシュマロみたいにふにふにしてそうだし、笑顔は天に召されるほど可愛かった!!

 ああ、もっとちゃんと抱きしめておけばよかった……。

 でも夢にしては具体的で、こうなんていうか……リアリティがあったていうか。

 あれ?


「……あのさ、黒髪に天使みたいな見た目のユーリウス様って知ってる?」

「え、ええ。サシャ様、記憶がお戻りに!?」

「いやいや、全然」


 まったく、これっぽっちも。

 首を激しく振っていると、アニーは残念そうな表情をした。

 ……つまりユーリウス様は実在する人物で、何か関わりのある子だってことだよね?

 き、聞くのが怖い!!でも知りたいような……もどかしい。


「……なんだ、元気そうじゃない」


 隣室に続く開けっ放しの扉から、真っ赤な塊が顔を出した。

 とまさしく言いたくなるような格好だ。

 頭には大きな薔薇のコサージュで纏めてあって、真紅のベルベット地の波打つドレス……。

 もちろん変態女装貴族のクレイです。


「ったく、ほんっとお騒がせ王妃ねぇ。勝手に脱走しておいて、意識失うなんて」

「……うう」

「ユーリウス様にもお会いしたっていうし?陛下まで出て来ちゃったから、皆大慌てよ」


 クレイはため息をついて、心底うんざりとした表情をした。

 でも呆れているのと同時に、愉快そうな色もちらほら……くそう、人事だと思いやがって!

 と、そういえば天使、もといユーリウス様はどうしたんだろう……。

 あと最後に居たはずのライもいない?


「そ、そのユーリウス様とライは?」

「……おかわいそうだけど、ユーリウス様はお部屋でお勉強。恐らく陛下なら、もう直ぐ来るわよ」

「やっぱり、ライって怒ってる?」


 癪だけど恐る恐る伺うように聞くと、クレイは真っ赤な口紅に彩られた口の端を引き上げる。

 まさに「覚悟しておきなさい」と言わんばかりの表情で……。

 ひいぃっ!逃げ出したい!!

 しかし、クレイとアニーに見張られている状況ではどうやっても無理だ。

 いっそのこと、意識を手放してしまいたい……。


「……起きたのか」


 そうこうしている内に、部屋に美声が響く。

 よく通る声だからすぐに解った……淡々と落ち着いているようだけど、やっぱり怒ってます?

 ぎぎぎ、と擬音が付きそうに首をゆっくり向けると、最後に見たときよりはくつろいだ格好をしていた。

 例えるなら、スーツ姿でもネクタイと背広は脱いだよみたいな?こっちの世界の男性の礼服見たことないから解らないけどさ。

 ら、ライ様、国王様としての執務はよろしいのでしょうか?


「陛下、公務の方はよろしいのですか?」

「良い、あとはあいつらで何とかなる。それよりクレイ」

「……はい」

「この度の責任、どうやって取るつもりだ?」


 あ、あああの!傍若無人が形になったようなクレイが頭を下げているよ!!

 しかもいつもより緊張しているみたいだし……まあ、私も絶対零度のオーラが出ているライを直視できていないけどね!

 こうしているとやっぱりライは偉い人だ……部屋に緊迫した空気が流れる。

 もしかしなくてもクレイは責任をとって、何らかの罰を受けなくちゃいけないのだろう。私のせいで。

 ……ちょっと待って!


「元はと言えば私が勝手に抜け出したのが悪いんだし……クレイに責任はないよ!」


 まあ、それもクレイの地獄の特訓が原因だけどね!

 ライはクレイからこちらに、ゆっくりと視線を向けた。

 視線がぶつかって揺れる紫色に、同じ瞳のあの子を思い出す……あの子、ユーリウス様は泣いてないかな。

 きっと、最初出会ったときのように泣いている。

 あの子に会いたいけど……まずはライに心配かけたんだしちゃんと謝らなきゃ。

 

「……ライ、ごめんなさい」

「……まったく、この最近はお前に振り回されてばかりだな」


 ふーっと疲れたようにため息をつく。

 うん、心配ばかりかけてごめん。

 ライだって王様なんだから色々大変だろうに、肝心の王妃がこれじゃね……。

 本当どうして結婚しようと思いたったのか、謎だよね。

 頭を悩ませていると、ライは言葉を続けていた。それはもうついでの何かのように。


「なら、サシャ。皆を振り回した罰に、来月の公務を言い渡す」

「へ?」

「隣国の来賓を交えての晩餐会だ。きっちり、礼儀作法を学べ」


 れ、礼儀作法……?今までクレイから学んでいたこと、だよね?

 え?ばんさんかい?晩餐会って、みんなでお食事すること?

 それともロマンス映画にありがちなダンスパーティーみたいなこと?

 隣国との晩餐会!!?どーしてそんな展開に!?


「サシャに晩餐会を承諾できてよかったですわね、陛下」

「クレイ、くれぐれも逃げ出すような特訓はやめろ」

「ええ、サシャの努力次第で善処いたします」


 先程と、この変わりよう……。

 やれやれといった態のライと愉快そうに微笑むクレイの二人に……間違いなく嵌められた?

 茫然としている私にこっそりとアニーが教えてくれた。


「サシャ様の晩餐会嫌いは前からのことなので……」

 

 そーゆうことかい!

 目の前の二人組を一発ずつ殴りたい……。

 一応お貴族様と国王様だから、だめか……。

 ぐっと、拳を押さえた。うん、私ってば大人!


「サシャ、これは罰だからな。ちゃんと約束を守れよ」

「……じゃあ、ユーリウス様に会わせて!」


 どう考えても要求できる立場じゃないけどさ!

 とりあえずあの子に会いたい……そう言うと、からかう様なライの表情は真剣になった。

 クレイとアニーまでそれにつられる。というか、心配そうな表情?

 皆の様子が一瞬で変わった中、やや険しい顔でライは問う。


「……ユーリウスのことは思い出したのか?」

「ううん。でも泣いていたから……それに事実が知りたい」


 もうこれ以上驚くこともないはずだ。

 だって最初からいきなり8年後だって言われてるし、結婚もしているし。

 その可能性については容量一杯で、今まで思いつかなかったけど……ありえるよね。


「ユーリウスは紛れもなく、俺と……お前の子だ」


 ですよねー!!

 ただ、ただね、私のDNAがどこにも見当たらないだけど。

 ああ、あるとすれば唯一黒髪ぐらい?

 それでも、容姿は目の前のライをミニマムにして可愛さだけを強調した姿……。

 平々凡々の私と本当に血が繋がっているんですか?


「ユーリとお前は呼んでいた」

「ユーリ……」


 ユーリ……ユーリウス、って呼ぶよりもしっくりくる。

 そういえば、ユーリウス様って呼んだら驚いたような表情をしていた。

 

「記憶のないお前が、ユーリウスに会って何ができる?」


 真直なライの言葉に、胸がつかれる。

 記憶のない私に……なにができる?

 ……そうだ、だって王妃だって言う自覚もないのに。

 言葉が出ずに、私はただ、ライを見つめるしかできない。


 

「それが解らないお前に……ユーリウスを会わせることはできない」



 それでも、あの子は泣いているような気がするの。

 どうしてか、心の奥底からそう叫んでいた。

 それなのに、私は言葉がでなかった。




お読みいただきましてありがとうございます。

変に続いてしまい申し訳ございません。

できれば、今月中にも更新したいと思います……。

遠くなるかもしれませんがよろしければお付き合いください。

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