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異世界でした!  作者: ぽち子。
二章 異世界で迷子になりました。
6/28

5.


 果たして、人は音を立てず口を開けず食事ができるのだろうか。

 さらに、蝶々が舞うように優雅かつ淑やかに歩けるのだろうか。

 答えはわからないけど、私には無理。


 だって、普通の高校生だったんだから。

 ……なぜ、だったと過去形か不思議かもしれない。

 その経緯は残念ながら、今の私も分からない。嘘みたいな話だけど、朝起きたら8年後。

 しかもそれどころか、ここは私の知っている日本ではなくて……。


 

 気が付いたらファンタジーでした!

 ちなみにファンタジーと読んで、異世界とかく。

 ああ、大丈夫、ちゃんと起きてるから。寝ぼけてませんから。


「……ここどこよ」


 そんな私は絶賛迷子中です!

 ……て、そろそろそんな冗談は置いておいて辺りを見回す。

 しかし、どこまで行っても樹木、花壇、樹木、時々ベンチ。

 まさか庭で迷子になるなんてそんな馬鹿な……とお思いの方、甘い!

 一度だけ二階の窓からみた庭園はシンメトリーで綺麗だと思ったけど、実際歩いてみると同じような風景が続いている。

 ここだけの話、方向感覚が狂っていると自他共に認められているほどの方向音痴なんだよね。

 そんな私がそもそも探検なんて無理な話だったのだ。

 まさか、ないとは思うけど。

 このままずっと迷い続けることはないよね……。

 本当に何度目か解らないため息をついた。


 どうしてこういった事態になったかは、約一時間半前に遡る。

 依然として16歳の意識のまま、異世界生活一週間目。

 私はついに脱走してしまった。

 『脱走』は言い過ぎかもしれないけど……まあ、ちょっと黙って出てきてしまったのは本当。

 朝昼晩近くまで一週間ひたすら、あのドSの女装変態貴族にしごかれた結果かもしれない。


「蝶の様に舞い、花のように艶やか、ってどんな状態やねーん!!!」


 はあはあ、と大声で絶叫したところで誰も驚く人はいないが、虚しいぐらいに声は木霊している。

 似非関西弁に驚いたのか、鳥達が多少羽ばたいたような音はした。

 でもお陰ですっきりしたよ。やっぱり不満をためてるとストレスで死んじゃうって。

 そこで冷静になって辺りを見回して思った。もしかしてこれは本格的にヤバいんじゃないの?

 王妃様が自分の家(城)で迷子になって、そのまま餓死してしまいましたとか……。

 考えただけでも、ぞっとするというか……。


「そんな死に方嫌だ……」


 末代までの恥だ!

 きっと教科書やら歴史書やらにのって、歴代一のマヌケ王妃として語り継がれていく。

 そんな未来が少しだけ垣間見えて、頭を抱えた。

 何だってこんな目にあってるんだ!

 これも絶対あのどS女装変態貴族のせいだ!

 まあ、確かにちょっと素質がなかった私にも落ち度はあるけどさ……。

 ……うん、ライに言ってみようかな。王妃様の素質はありませんって。

 だってどう考えても可笑しい。あんな美形がわざわざ得体の知れない異世界の平凡女を王妃にするなんて。

 

「……あれ?」


 微かに、声が聞こえる?

 風に乗ってだけど、人の声……というか、ないているような声?

 まさか王城の庭なんだから獣とかはいないよね……。

 抗え切れない好奇心に負けて、声のするほうへ足を進める。

 ちょっと広場みたいに整えられていて、その中心に設置されているベンチに声の主はいた。

 小さい……子ども?5〜6歳ぐらいかな?うずくまって泣いているようだ。


「どうしたの?大丈夫?」


 どうしてこんなところにという疑問の前に、心配になって声をかける。

 こんな小さい子が泣いてるんだもん、声をかけないほうがおかしいって。

 声をかけて私の気配に気付いたのか、泣いていた子が顔を上げる。



 その瞬間、私は天使にあった。



 そう錯覚するほど、天使のように愛らしく可愛らしい男の子だ!

 艶やかな黒髪に、泣いていて真っ赤な頬っぺた。

 ふさふさの睫に涙の雫が乗っていて、きらきら輝いている。

 きっと世界中の人々を感動の渦にした、某有名な犬の主人の少年の死に際に迎えに来た天使はこんな子だ!

 まあ、天使は金髪がセオリーだけど、そんなのは関係ないね。

 ああ、私の内なる秘密の扉が開かれそうだ。というか既に開かれている、頬っぺたすりすりしたい〜!!


「……かあさま!」


 鼻息荒く挙動不審に現れた私に怯えられると思ったけど、予想に反して天使は私の胸に飛び込んできた。

 その愛らしい行動に、思わず腕を広げて受け止める。

 かーわーいーいー!!ぎゅうっと抱きしめて、私のことを「かあさま」だって!

 あれ…………か、あさま……?


「だ、大丈夫?お母さんとはぐれちゃったの?」

「かあさま!」


 ……うん、間違えてるだけだよね。だって迷子になって心細いだろうし。

 ありえないありえない、こんな天使のお母さんなんて。一瞬どきっとしちゃったよ。

 ふう、落ち着け。心の中で一呼吸をしてから、この天使の頭をゆっくりと撫でた。


「落ち着いて、大丈夫だから」

「うん……」

「それでどうしてここにいるの?」

「かあさまにあいにきました……かあさまがビョーキになったって……」


 つまり話によると病床の母に会いにきたのね。

 くう、なんか感動の話の予感が!

 私こういう話には弱いんだよね、母をたずねて系とか。

 あ、思い出しただけで涙がでそうになるよ。


「でもよかったです!かあさまにあえてうれしい!」

「よかったねー……ってあれ?」


 かあさまに、あえて?会えたんだよね?いつ会ったの?

 それに先程から、嬉しさが溢れんばかりの笑顔をコチラに向けてくる。

 そのキラキラ笑顔に悩殺され気味だけど、しっかりしろ私!

 まさか、まさかだ。あれ、最近このパターン多くない?

 とりあえず事実を確かめるためにも誰か事情を知ってる人プリーズ!


「あの、出口ってわかる?」

「こっちです!」


 天使にぐいっと手を引かれながら進む。

 しっかりした足取りにこの庭園を知っているのがわかる。

 にこにこと笑顔を向けられるたびに撫で撫でしたいのぐっと堪えた。

 見た感じの身なりは正直お坊ちゃまって感じだ。うん、どうみても王子様っていうか……。

 いやもしかしたら予想が外れるかもしれないし、物理的に私からこんな可愛い子が生まれるはずがない!


「ユーリウス様!……と、サシャ様!?」


 建物が見えて迎えてくれた可愛らしいメイドさんは天使もといユーリウス様に安堵し、隣に居る私に驚いていた。

 え、えぇー、その後ろには鎧兜みたいなのをかぶった人も大勢居るし、なんか……大変なことになってる?

 メイドさんは発見の報告を叫んでから、私たちを建物の中に誘導してくれた。

 洒落にならなそうな事態に顔を蒼くしていると、ユーリウス様は不安そうに見上げてくる。

 だ、大丈夫だよー多分……。


「サシャ!!」


 その中で、一番通る声で私を呼ぶ声がした。

 この声は……まさか、まだこんな昼間だし……。

 そろりと声のほうを見ると、やはり執務中だったのかきちんとした格好のライがいた。

 こうやってみると本当に王様なんだな……威厳があって神々しい感じ?

 わらわら集まっていた兵士さんやらメイドさんが端っこに急いで寄ってライに道を作る。

 な、なんか逃げ場なくしたかも……!


「無事だったか……しかし、なぜ黙って姿を消した?」


 ううー怒ってる、ちょう怒ってるよ!

 ものすごい美形が怒ったら、ちょう怖いって!心なしか気温が下がっているような……。

 そして怒っているライは私の隣に居るほうへ目を向けた。


「それに、なぜユーリウスがここに?」

「だって、とうさま!」

「サシャの面会は許さないといったはずだ」


 ぴしゃりとしたライの言葉に、天使はまた目に涙をためる。

 こんなに可愛らしいのにライってば厳しすぎでしょ!……って、とうさま?


「あのー、ライ?もしかしてユーリウス様はライの子ども?」


 ……マヌケな質問だっていうのは解っている。

 でも冒頭でも説明したように私の記憶は16歳なんだって!

 確信めいた予感しかないよ、もう!


「……かあさま?」

「ああ、そうだ……そしてお前の子でもある」


 ユーリウス様は不思議そうに私とライの顔を見回す。

 天使のように愛らしい外見はライ譲りだと考えれば納得がいく。

 まん丸と大きい瞳の色は紫色……そして髪の色は黒色。

 ああ、誰か、この際ドッキリ企画だといって……。

 とりあえず疲れからか、新たに判明した事実のダメージが大きいからか、私の意識は言葉どおり遠くなった。




 地球の家族の皆様。

どうやら私、結婚して子どもいたみたいです。

 




更新が長らく開いてしまい大変申し訳ございません。

そして展開が急すぎて申し訳ございません。

不定期になってしまいますが、お付き合い頂けますと嬉しいです。

人物紹介はまた次回に行いたいと思います。

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