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異世界でした!  作者: ぽち子。
一章 異世界の朝でした。
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夜話1



 初めて出会ったのは中学の入学式だった。

 彼とは隣同士で、気が付いたら話が盛り上がって楽しくて。気が付いたら好きになっていた。

 それなのに彼は私じゃなくて、ずっと一緒にいた私の親友を選んだ。

 ……いまでも思い出せる、二人の苦く傷付いた表情。

 ふられた私なんかより二人の方が苦しそうで、でも私も笑ってあげることができなくて。

 二人から逃げて……そして二人ともなくしてしまった。



 ……はずだったのに。



 綺麗で繊細な細工が施された家具。高く美しい紋様の描かれた天井。絹のように滑らかな手触りのベッド。

 一目見ただけで庶民には息の根が止まりそうな価格なのだろうと分かる。

 超豪華スウィートルームが体験出来るのだとしたら、こんな感じなのだろう。

 勿論、朝の部屋と一緒です。ただいま、ふかふかベッド!


「……生きているか?」


 抑揚のない美声に返事をする気力と体力はありません。

 あの、変態女装貴族め!淑女になるためと鬼のような特訓をかせられた。

 筋肉痛が明日を待たずに訪れて、何をするにも億劫だ。もう指一本うごかしたくありません。

 ……って、あれ?


「何で居るの!?」

「何でって、俺の寝室だ」


 何を今更と、訝しげな表情の美形はライだ。

 こうしてみると、やっぱり今日会った中で一番美形だな。

 こんな人が、私の旦那様……やはり美的感覚が狂っているか、視力が相当悪いかのどちらかだ。

 いやいやそうじゃなくて、俺の寝室ってそうか。王様の寝室だから一番豪華なのか。


「あ、そうなんだ。ごめん」

「って、どこへ行く?」


 ベッドから降りようとする私の腕を強引に引き寄せて、またベットに転がせた。

 うお!筋肉痛で痛いんだから触らないでよ!!

 若干涙目で、顔を上げる。


「だってここでライが寝るなら、私はあっちへ……」

「お前の寝室なんだから行く必要もないだろう?」


 へ?私の寝室でもあるの?と思ったけど、そういえば夫婦なんだからそうか。

 いやでも、記憶ないんだし、ちょっと一緒に寝るのはどうなんだろ……?

 ちらっと見ると、ライは自然に私を抱き寄せるように寝転がる。

 顔なんてもう数センチですかって距離。美形は好きだけど、この距離は危険だ!


「ち、近いって!こんなに広いベットなんだから近くで寝る必要ないでしょ!」

「今更だ……我慢しろ」


 ええええ!本当にこうやって寝ていたのだろうか?

 だってこんなにも美形なんだから、他にも行くところあるでしょ。

 でもアニーは側室いないって言ってたっけ。うん、勿体無い。

 美女のハーレムだって作れるのに、どうして作らないんだ。


「何を考えている?」

「え、えっと……私がこっちに来たときのことを教えてもらいたいなーって」


 本当は違うけど、こっちも知りたいことだし!

 ライは一瞬眉を寄せて、何かを考えている素振りを見せた。

 何、その表情?もしかして……何か隠している?


「わかった。但し一晩に一つだけ答えることにする」

「え!どうして?」

「お前のことだ、何でもかんでも考え込んで眠れなくなるだろう?」

「うーん……」


 こうみえても探究心旺盛な私なら一晩徹夜してもおかしくはないけどたしかに連日寝不足になりそう。

 やっぱり夫婦だからか、私のことよく解っているな……。

 でも本当は何よりその紫の色の目が心配そうに不安そうに見えたから、ここは頷いておこう。

 朝も思ったけど、その目に弱いんだよね。記憶ないのに変な感じだ。


「わかった……じゃあ、私がこの世界に来た日のこと教えて」

「……その日は、城で夜会が開かれる日だった。考え事をしていた俺の上にお前が降って来た」


 降って来た?そんな雨みたいなものじゃあるまいし、と思っていたらライは真剣そのもの。

 え、本当にライの上に降って来たの?物理的に?

 私の疑問に答えるかのように、ライは呆れたようにふっと笑う。


「新手の刺客かと思ったが本当に何もないところから降って来たからな。とりあえず異世界人だということはわかった」

「何もないところ?それってどこなの?」


 ある日道を歩いていたら降ってきたとでも言うのだろうか。

 素直な疑問をぶつけると、ライは微かに意地悪く笑った。


「一日一問と言っただろう?さあ、もう寝ろ」


 そういってぐいっと更に引き寄せられて、気が付けば腕の中同然。

 近いって!近すぎるよ!

 まだ彼氏彼女の付き合い経験が0の私には刺激強すぎるよ!


「ちょ、ちょっと、離れてよ!」

「何でだ。黙って目を閉じたら直ぐに寝るくせに」


 むむっものすごい寝つきのいい人見たいに言うな!

 こんなに近いと心臓がバクバク言っていて寝れるわけないでしょ。

 とりあえず目を閉じる。

 すると柔らかくベッドが疲れた身体を包み込んだ。

 そういえば、かなりきつかったんだっけ。明日も続くとなると正直悪夢しか見なさそうだ。

 見るとしたらド派手な色の悪夢……どう考えてもクレイのせいだ。

 でも、傍にいる人の温かさもあって、どんどん眠りの世界に引き込まれていくような……。

 ……あえなく、撃沈。


「………………さや」



 夢におちるまえに、誰かが囁くように私の名前を呼んだような気がした。




次回はちょっと間があきそうです。

申し訳ございませんが、お待ちいただけると幸いです。

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