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異世界でした!  作者: ぽち子。
四章 異世界文化交流をしました。
17/28

13.


 おそらく日本にいる、いろんな意味で偉大なる親父殿。

 往々にして培ってきた中年太り、別名ビール腹によってズボンのウエストがきつくなっていくのをいつも笑っていたね。

 ごめん、今になって遅いかもしれないけど謝るよ。

 締め付けられるのって苦しいよね、よくわかる。

 なぜなら絶賛締め上げられ中だから!


「……く、るしっ!」

「サシャ様、もう少々お待ちくださいね!」


 そんなウエストの細いドレスを着る必要はあるのだろうか!と散々言い続けたけど……。

 言った日から衣装係のメイドさんの目が怖かった、そりゃもう。

 懇々とこのドレスの出来上がりの素晴らしさについて語られ、そのためにはコルセットで締め上げないといけないこと。

 でもコルセットってあれだよねーわがままボディ、つまり体型の良い人が着てからこそ発揮するよねーとついぽろっと言ってしまった日には……。

 にっこり笑顔のメイドさん、そこはプロの手で締め上げますからご心配なくって?

 まさしくそのとおりですね!だ、だけど息も出来なければ意味がなくないですか?

 ああ、優しかったばあちゃんが綺麗なお花畑の向こうで微笑んでいるぅ!!


「サシャ様!できましたよ!」

「は!意識が飛びかけてたよ……」


 無事衣装が入って満足げな衣装係のメイドさんのほかの人が、キャスター付きの鏡を押して目の前まで持ってくる。

 鏡に映っているのはもちろん私だ。プロの手によって仕上げられた姿をまじまじと観察。

 この世界の文化なのか、ドレスはロングで足元まで隠れている。

 確かアニーが今年の流行色って言ってたっけ?

 パステルカラーの薄紅色で、露出控えめに全体的にひらひらしている。

 装飾系は少なめだけど、ネックレスが大きな紫色の宝石をあしらった豪華なものだ。

 紫色はウィートランドの王族の色らしく、王の伴侶は公式の場では必ずその色を身に着けるのだそうだ。

 そう!今夜はいよいよ隣国との晩餐会。

 そのため、このドレスを着なきゃいけないのでコルセットで締め上げられていたという訳である。


「お美しいですわ、サシャ様」

「……そう?」


 これは、その……馬子にも衣装的な感じがすんごいするんですけど……。

 猫に小判に、豚に真珠。そんな諺が頭を過ぎる。

 ウィートランド風にいうのなら違うかもしれないけど、残念ながら諺までは知らない。

 そんな微妙な気分の私をよそに、メイドさんたちはいたく満足げだ。

 なんかお互いの努力を褒めたたえているのでその空気に水を差すのは野暮だから黙っていよう。

 そもそも素材がよければこんな苦労もなかったんだよね。

 卑屈になるわけではないけど、特に美人でもない平凡な顔立ちなのは事実だし。

 うん、ドレスは綺麗だから許してくれるでしょ!


「まあ、見栄えは多少良くなったんじゃない?」


 この空気の中そんな辛辣な感想を言えるのはただ一人、あのドS貴族のクレイしかいないな!

 おそらく着替えだから遠慮していたけど、衣装係のメイドさんたちが片づけて出て行ったから入れ替わりに入ってきたのだろう。

 そういうクレイは今夜はどんだけゴージャスなのか、多少期待しつつ視線を向けた。

 そこにいるはずのクレイに向けたはいいけど……。


「……だれ?」

「はあ?」


 そこにいたのは貴公子然とした美形だった。

 緩やかにウェーブのかかった金の髪を、赤色のリボンでまとめて背中に流している。

 長めの黒色のジャケットは一見シンプルだけど、よくよく見たら刺繍が施されていて豪華なつくりだ。

 それを完璧に着こなしているこの正統派王子様風の正体は……まさかあのドSの女装貴族!?


「あんたって、自分の後見人の顔も忘れたの?ますます記憶障害?」

「だだだだって、クレイがドレスじゃないよ!」

「あほか、同伴者必要の晩餐会で誰をエスコートすると思っている?」

「え……と、同伴者いるの?」


 私、ということはないだろう、さすがに。

 だって忘れかけてたけど、一応王妃様という役職だし。

 でも普段は女装でアレでも、こうしてみるとやっぱり美形なんだし女の人の一人や二人いてもおかしくはない。

 当り前だけど、化粧をしていない姿は10人が10人、美形と答えるんじゃないかな。

 ……まあこれ以上の美形を朝晩毎日見続けているから、私は別に見とれないけどさ。もちろん旦那様であるライのことだ。

 こちらに来てから、美形に対する希少価値という価値観はなくなりつつあるのがここだけの話。

 インフレ起こりすぎて、もう何が何だか。


「こういった場の同伴者は誰だと思う?」

「え、えーと、既婚者なら配偶者でしょ?未婚の場合なら、家族とかそうなりたい相手……婚約者とか?」

「そういうこと。ちなみに貴族には未だに政略結婚も根強く残っていることも忘れるな」

「婚約者いたの……」


 その婚約者にいたく同情するけど、クレイが婚約しても女装しているところを見るとその相手も意外に強者かもしれない。

 おそらくフェンリートか、ヴァンハイムの人だよね。

 こう見えても前にアルムグレンの長男だって言っていたようだし、ついさっき言っていたように政略結婚の意味もあるらしいし。

 あれ、もしかしてクレイが女装していても何も言わない相手ってよく知っている人なんじゃ……?

 ちらっとクレイを伺ってみると視線の意味に気付いたのか、口元が面白げに弧を描く。

 ああ、やっぱり当たっているのね。


「で?心の準備はできた?」

「まあ、何とか……失敗しないように祈ってって」

「失敗?あんだけ教えたのに?」


 今日着飾っていなかったら、確実にヘッドロックをかけてくるような視線で脅すな!

 良かった、今日こんな風にきれいに仕上げてくれて!今初めて心の奥底から思ったよ!

 でももし本当に失敗したらどうしよう?

 今まで以上のスパルタが待っているのは確実だけど、ライの顔も潰すことになるし。


「クレイ、そんなにサシャを追い込むな」


 どこか諌めるような声が、割って入る。

 俯き加減の顔を上げると、予想通りの人が通常の2割増しでそこにいた。


「ライ!」


 やっぱり一番かっこいいなあ。

 こんだけ素材が良いと、服装を仕上げた人の頑張りたくなる気持ちが見てわかった。

 突然現れたライに、クレイは優雅に敬礼する。

 クレイって前から思ってたけど、ライに対しては態度がすごく丁寧だよね。

 王様相手だから当たり前かもしれないけど、その少しでもいいから私のほうに向けてくれないかな。無理か。

 なんてことを考えていると、ライがじっと私を見つめる。


「よく似合っている」

「あ、ありがと!」


 そんな悩殺ものの微笑みで言われて赤面しない人はいないでしょ!

 だから決してこのドクドクと早いように感じる心臓は乙女の何とやらという甘い類の物じゃないから!

 私の赤面具合がばっちりバレているのか、ライは小さく笑う。

 なんだかそれがちょっと悔しく感じるのはなぜだろうか?

 そもそも私より綺麗に着飾っている人に言われてもなーっていう気分もちょっぴりする。


「サシャ、失敗しても笑っておけばいい」

「え……」

「いつものお前なら、そうしているな」


 ちょ、いつもってどんだけ失敗しているんですか!

 自他ともに認められていた楽観的な私でも今回ばかりは緊張していたのに……。

 なんだか、気が抜けた。

 そうだよね、失敗しても誤魔化しとけばいいんだし、その辺は周りの人がフォローしてくれるでしょ!


「そうそう、今更あんたが失敗して焦る人なんていないって」

「……散々脅しておいて」

「でも失敗したら課題増やすのは当然でしょ」


 うげ、やっぱりクレイはオニだ。

 と、心の中で思ったことがばれたのか、一睨みをいただいた。

 やっぱり悪魔と契約してこちらの考えはお見通しなのかもしれない。

 そうこうしているうちに、ロマンスグレーな執事っぽい人が部屋に入ってきた。

 どうやら時間みたいだ。ライが私にところに来たのもおそらく迎えに来たからかな。


「準備はいいか?」


 ライが私に手を差し出す。

 一応伴侶だからエスコートするのは当たり前かもしれないけど、内心はドキドキうるさい。

 でもその手を取らないと始まらないわけで。

 頷いてから、ライの手に自分の手を重ねる。

 それをライはしっかり握ってくれて、私が歩きやすいようにもう片方の手で背を支えてくれた。

 なんだかどこかのロマンス小説みたいな展開だな。

 むず痒い気持ちを抑えながら、待機していた部屋を出る。


 さあ、いざ晩餐会へ!

 戦に臨むような気持ちなのは、あながち外れではない。





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