夢話
朝、目を開く前から世界の音が聞こえる。
それは無機質な音から、鳴いている動物たちの声……そして隣で眠っている愛しい人の息遣い。
その音を自覚するたびに私はまだこの世界にいることを幸せに思う。
ゆっくりと目を開けて、ゆっくりと意識がじわじわと世界に覚醒する。
いつもの天井、そっと隣をみると毎日見ている、あの人の寝顔。
きっともう一人の愛しの存在である幼い子も、まだ夢の中なのだろう。
自然と笑みが浮かび、私の心は何かにいっぱいに満たされる。
それと同時にどこかに置いてきたはずの『私』が軋むように痛む。
私の心の中に一つ『扉』がある。
それはどこかにつながっていて、決して開かないはずの扉。
いいえ、開かないはずはないけれど、ずっと私はそれが開かないようにしてきた。
開くのが恐ろしいから、開いてしまえば私は私でいられなくなるから。
固く、閉ざして見ないふりをし続けている。
こめんなさい、幾度となく呟いた言葉は決して届かないと知っていて、また呟く。
ごめんなさい、とても幸せなの。
罪悪感はあるかもしれない、でももう手放すつもりはない。
素知らぬ顔で私は幸せになる。
カーテンからもれている朝の光に誘われて、隣で眠っていた愛しい人が目を開く。
いつもちょっと寝ぼけた声で、朝の挨拶をするのを見るのがとても好き。
朝の光を浴びて眩しそうに眼を細める姿を見るのが好き。
そしていつだって私に特別に優しく微笑んでくれるのが好き。
もっともっと数えきれないくらいに、あなたが好き。
ねえ、よんで。私の名前を。
私がまだこの世界にいるということを、実感させて。
祈りが通じたのか、あなたは願いどおりに私の名を呼ぶ。
「……おはよう、 」
夢を見た。
それは私の夢。
私の、夢?
お読みいただきましてありがとうございます。
次より新章になります。
なんだかよくわからない話が続いてしまい大変申し訳ございません。
最後まで頑張ります。