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異世界でした!  作者: ぽち子。
三章 異世界の名を今更聞きました。
14/28

12.




「かあさま!」

「ユーリ!」


 部屋に入ると、部屋付きのメイドさんが知らせたのかユーリが飛び込んできた。

 驚いたけど軽いから難なくキャッチ。

 そのままの勢いで、ぎゅーと抱きしめるとユーリは楽しそうに笑った。

 かっわいい!もうなにこの天使、いやむしろ思わずマイエンジェルと英語表記しちゃいたいわ!

 どちらかというと白い肌だけど頬を赤くさせて、えへへとはにかむ笑顔。

 どうしてこの世界にはカメラがないのー!

 こんな愛らしい姿をずっと写真に収めることができないなんて……悔やまれる!


「かあさま、おべんきょうは終わったのですか?」

「う……ユーリ、クレイがちょっとご用ができていなくなっちゃったのよ」


 ユーリのように純粋に聞かれるとなんでか後ろめたい……。

 これは息抜きなのよ、と誰かに言い訳したくなる。

 け、決して逃げてきたんじゃないってば!


「ではユーリウス様、午後からはサシャ様とお勉強ですね」

「はい、リューイスおじさま!」


 おっと、先客がいたのか!

 ユーリは『おじさま』って言ったけど……若いようにみえる。

 歳は20歳後半ってところかな。

 やっぱり無駄にきらきらしていてこの世界で初めて見る正統派貴族様!って感じ。

 きちりと貴族の礼服を着こなしているところからしても、けっこう身分が高そう。

 それに……どこかで見たことのあるような顔のつくり。でもどこで?

 あと無駄にキラキラ効果音がするぐらい微笑んでいるけど、クレイとは違う系統でなんか腹黒そうな人。

 私の友人でいつもは癒しの笑顔なのに、ここぞというところでは笑顔でごり押ししてきた……そんな笑顔に似ているんだ。


「やはり記憶はまだ戻られておりませんね、サシャ様」

「え、えーと……ごめんなさい」

「良いですよ。私の名は、リューイス・レイ・フェンリートと申します」


 ということはフェンリートの系統か。

 ん?フェンリートということは……アニーの知り合い!?

 どこかで見たことあると思えば、アニーとどことなく似ているんだ!


「アニーの……お兄さん?」

「そうです。そしてあなたの父であります」

「……は?」


 微笑みながらさらりと何言ってんだ、この人。

 父って、あれですよね。地震雷火事親父、ではなくて英語でファーザーNOTゴットファザー、父上、お父様。

 ……どう考えてもそんなに年が離れているようには見えないんですが。


「クレイ殿から教わりませんでしたか?あなたはフェンリートの系統であり、そのために当主の養女となったのですよ」

「え、ええ、まあ聞きましたけど……でもこんなに若い人だなんて」

「陛下とサシャ様の婚姻当時に私が家を継ぎましたからね。私が若いというのと他にも特例でもあったのでやむおえなくクレイ殿が後見人なりました」

「はあ……」


 つまり、立場上の義理の父親ね。

 なるほどねーそりゃまあ、いろいろあるか。

 異世界人であるということが伏せられているとしても、身元不明だし立場は弱いもの。

 大人の世界の話ってことか。いや今は私も大人だけどさ……。


「ですが王太子は基本御産みになった妃様の実家が後見人となるのが習わし。そのためユーリウス様の教育は私に任されております」


 そういいつつリューイスさんはユーリの頭を優しく撫でる。

 ユーリも嫌がる様子もなく嬉しそうな表情を見せているあたり……悪い人ではないみたいだ。

 その微笑みがどうしても腹黒そうに見えたとしても。


「ユーリのこと、宜しくお願いします」

「ユーリウス様は大変優秀でいらっしゃりますよ。陛下譲りの聡明さとサシャ様譲りの度胸の良さを兼ね備えている」


 ええ、まあ私はどうせ賢くないですよ。

 いつまでたっても覚えていないし……だからそんな風に分かったように微笑むのやめてくれます?


「いえ、褒めているんですよ?サシャ様は我々にはない発想の持ち主でいらっしゃるし、ユーリ様がこんなにも素直で愛らしくいらっしゃるのはサシャ様のおかげです」

「考えていることに対してツッコむのはやめてください!」


 やっぱり、こえええぇ!

 こう、クレイとはまた違っての怖さというか……。

 腹黒い人は敵に回してはいけませんね。


「あの、リューイス様」

「様付けはいりませんよ。まあ、お父様と言っていただければ嬉しいですが」

「謹んでお断りします」


 へ、変な人だ!

 にこにこ笑顔のまま、それは残念と言っているけどむしろ冗談ですよね?

 何で面白そうな顔している割に若干残念そうな顔しているんですか。


「そういえば、今日の見立ても我が妹のものでしょう?やはりあの子は賢く、その上美人で心優しい」

「りゅ、リューイスさん?」

「ああ、勿論その見立て通りに着こなすサシャ様もあどけなくて可愛らしくいらっしゃって天真爛漫ですよ」


 なななな、なんか変なスイッチ入っちゃったよ!

 アニーは確かにそうだと納得できるけど、サンドイッチ状態で褒め殺しなんて高等テクニック!

 やっぱりこの人只者ではない……。 

 というか目の前で褒めちぎられると恥ずかしい……!


「一度アニーとともに実家の方へ里帰り致しませんか?私はいつでも歓迎しておりますよ」

「はあ……」

「リューイス!」


 ばったーん!という扉の開く音がしたと思うと見覚えのある赤色が眼に飛び込んできました。

 って、なにこれデジャビュー?最初もこんな感じでしたよね……。

 あの赤い固まり、一見すると優雅な夫人にも見えるその変態女装貴族は、リューイスさんの目の前までやってきた。

 つかつかとあのピンヒールで歩みよる姿は、大分前に昼ドラで見た浮気した夫に制裁を加える妻のよう……!

 ええ、この二人って!?あ、ちなみに昼ドラは風邪で学校をお休みした日に見ました。


「どういうつもりだ!?」

「クレイ殿、サシャ様の御前で礼儀に反する行為とは思いませんか?」


 胸倉をつかまんばかりの勢いのクレイに、一見穏やかそうにしているリューイスさん。

 でもばっちり視線に火花が走ったのが見えたんですけどおぉ!!

 リューイスさんの言葉に盛大に舌打ちをするクレイは、その怖いままの顔でこちらを向くし!


「サシャ!」

「……はい」

「課題を言いつけておいたはずだけど勿論できているんだよなぁ」


 え、ええと、クレイさん?なんかキャラを激しく誤っているばかりか、男言葉出ていますよ?

 見た目は完璧な女装なのに、その言葉使いでしゃべられると益々変態度上がりますって!

 いつも以上に心の中で、ドン引き中の私を助けてくれたのが……いやむしろ喧嘩を売ったのはやっぱりリューイスさん。


「クレイ殿、サシャ様はユーリ様にお会いにいらしたんですよ。それにたかが後見人の君がサシャ様の行動を規制する権限はないはずでしょう?」

「あんたは後見人でもないんだから黙ってくれないか?それにユーリ様の教育係というならば勉強の邪魔になるサシャを追い返せ」

「勉強の邪魔など。君と違って教えるのは得意ですから問題もないですよ。いっそサシャ様の教育係も変わりましょうか?」

「ぬかせ。あんたにサシャの教育係など勤まるものか。第一本来の仕事を疎かにして陛下に迷惑をおかけするつもりか?」

「勿論疎かには致しませんよ。君と違って要領は良い方ですから」

「ほう?といいつつ、最近ユーリ様のお勉強を見られるのは週に一度あれば良い方とかお聞きしたが?この際教育係を降りたらいかがか?」


 何なんだ、この皮肉の応酬は!

 とりあえず仲がものすごーく悪いということは分かった……分かったからちょっと落ち着きませんか?

 え?私がとめるのこの二人を?

 こうみえても小心者の小娘な私には無理難題だっつーの!


「……サシャ様、いつものことですので放っておきましょう」

「あ、アニー!いつのまに?っていうか放っておいて良いの?」


 いつの間にかにいたアニーは気付いたらお茶の用意を完璧に済ませていた。

 すでに美味しそうな焼き菓子をユーリは美味しそうに食べている。

 そうだよね、ユーリの教育に悪いもんね。ユーリは可愛らしい笑顔でこちらを手招きししている。

 ああ、癒されるなぁ。ユーリを見習ってもうちょっと穏やかに……いや無理か。


「兄とクレイ様が仲が悪いのはいつものことです。それに今回は少々強引な手をつかってのは兄ですから」

「強引な手?」

「ええ……サシャ様にお会いするためにクレイ様の用をでっち上げまして遠ざけたのです」


 ああ、だからクレイあんなに怒っているのね……。

 こういった騙し討ちは嫌いなうえに、その相手が犬猿の仲なのだから……。

 こうなったらやっぱり放っておくことにしますか。

 親子の時間も大切だしね!


 こうして放っておかれた二人は日が暮れるまで、嫌味合戦を続けたとか。

 本当にこの人たち、国の偉い人たちなのかと疑問がまた一つ増えました……。




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