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異世界でした!  作者: ぽち子。
一章 異世界の朝でした。
1/28

1.

 ああ、憂鬱な朝だ。瞼が重いのはきっと昨日泣いてしまったせい。

 私は昨日失恋した。よりによって私の親友とくっつかなくてもいいのに、と何度恨んだ事か。

 好きな人だった彼と、親友だった彼女の痛々しいぐらいに悲しそうな表情は脳裏にくっきり焼きついてしまった。

 一度に恋も友情もなくしたようなもの。いくらポジティブが取り得のタフな私でも、そりゃきついって。

 うだうだ言っていても仕方がない、と潔く目を覚まそうとしてようやく違和感に気付いた。

 ……私の布団、こんなに柔らかくないんですけど。

 年代物のマイ煎餅布団ではなく、まるでケーキのスポンジの上のようにふかふか、いやもうふわっふわだ。

 ホテルだってこんなふわふわは一流ホテルの主にセレブが泊まる部屋ぐらいしかないんじゃないだろか、ってそうじゃなくて!

 ぱっちり目を開けると、まず高い天井が見えた。勿論家の天井はこんなに高くないし、白くない。

 がばっと起き上がって、辺りを見回すと高そうな調度品の数々……まるでテレビの特番で見た最高級スウィートルームのようだ。

 私の部屋の何倍だろう……軽く、5倍?10倍?もっとか?

 平凡な築18年の二階建て一軒家の我が家全体の敷地にしても足りないんじゃないですかってぐらいに広い。無駄に広すぎる。

 

 てえぇっ?ここどこよっ!?

 

 驚きすぎて叫ぶのも忘れて、しばし茫然。一応心の中では叫んだけど。

 ちょっと待って、落ち着いて考えてみても昨日は落ち込んで早々に布団をひいてもぐり込んだはずだ。それは間違いないはず。

 だとしたら誘拐?まさか、こんな平平凡凡の一般人を誘拐して何の利益があるというのだろうか。

 ちなみに私が絶世の美女なんてことも、大変虚しく悲しいけどない。どうみても純日本顔でどこにでもあるような顔立ちだし。

 かといって先程紹介したように家はお金持ちというわけでもない。親父のビール代が一本カットされちゃうぐらいだしね。

 だとしたら何だ、私ってば見知らぬお家に気が付かないうちに潜り込んだ!?


「……随分と、今日は早起きだな」


 茫然とする私の耳に気だるげな、それでも充分な低い美声が届く。

 はっと隣をみると、今起きたのか男が起き上がって大きく腕を伸ばしていた。

 こんなふかふかで広いベットなのに身体が凝ったのだろうか……ってそうじゃなくて。

 誰だ、この美形は。正直あまり見たことのない美形男だ。目鼻のはっきりした俳優のようにカッコイイ外国人みたい。

 こいつが私を手篭めにしたとは考えにくい。正直ここまで美形なのに私みたいな容姿の女に手を出すなんて考えにくい。

 まさか私なのか?私が恥女なのか!?

 頭を文字通り抱えた私を、美形男さんは整った眉を寄せ訝しげにコチラを見ている。


「寝ぼけているのか?」


 ああ、夢であるならどんなにいいか。夢であって欲しい!

 そう願って自分の頬を抓る。残念ながらこの痛みは夢でない。

 目の前の私の行動に、美形男さんは奇妙なものを見てる目つきだ。


「おい、サシャ?」

「え?」


 ……サシャって言った?ちなみに自己紹介が遅くなったけど、私の名前は今野さや。

 外国人が『さや』の発音がしにくくて『サシャ』っていう風に聞こえなくもない。

 ということは知り合い、なのだろうか。考えないようにしていたけれど、今まで……一緒に寝ていたよね?


「……まだ、怒っているのか」

「ええっと……」


 どういう意味だ。私の乏しい記憶ではこの美形男さんにたいして怒ったことはないはずだけど。

 返す言葉がなく沈黙したのを肯定と誤解したのか、ますます機嫌が急降下するかのように眉間の皺が深くなる。

 美形がそういう顔をすると、かなりの迫力で怖いって!後ろに黒いの見えてますよー!!


「あの!むしろ何が何だかわからないんですが!」

「……は?」

「だから、どうして自分がここにいるかも、貴方が誰かも全くわからないんだって!」


 思い切ってありのまま言った、ついに言ったぞ!!

 美形男さんは私の言葉に、固まった。やはり訳がわからないといった様子だ。


「お前は何を……昨日のあてつけか?」


 えええっ!?なんでそんなに怒るんですか!?

 最早迫力だけではない。怒りのオーラが見える。さすが美形はオーラさえも手足のごとく操るのか。

 オーラに怯えつつ、負けじと私は叫ぶ。


「あてつけじゃないって!本当の本当に訳がわからないんだってば!」


 痛い沈黙だ。そりゃそうだ、いきなり隣で訳のわからない話をしだすんだから。

 ていうか、本当この人とはどういう関係な訳?

 観念したかのように、美形男さんは私の前に手をやって制止した。


「ちょっと待て……一応聞くが、自分の名は分かるのか?」

「今野さや……」

 

 ぽつりといった私の言葉に美形男さんは一瞬いぶかしんだけど、はっと何かが思い立ったようだ。

 ……まあ読み取れるほど表情が大きく変わっていないから、おそらくだけど。

 眺めていると美形男さんは私の肩を掴んで身を乗り出してきた。

ち、近いって!!


「今、自分の歳はいくつだ?」

「え、16、だけど……」

「16……」


 誕生日はこの前の春に迎えた。高校入学して直ぐの頃……今は夏よね?

 首周りが暑苦しく感じて気付いたけど、髪の毛長くない?高校入学のときにばっさり肩に付かないぐらいまで切ったはずなのに、今は腰の辺り。

 こんなに長く伸ばした事ないんだけど、髪の先まで手入れがされているのかツルツルのサララサ髪だ。

 まるで自分の髪でないみたいと毛先をいじっていると、美形男さんは突然腕を掴んで引っ張る。


「ちょっ!」

「いいか、良く聞け。お前は今、24歳だ」


 …………はい?

 腕を掴まれ引っ張られたまま、何畳もありそうな無駄に広いベットを降りる。

 そのまま、化粧台の目の前までいって、鏡にかぶせてある布をとった。

 目の前には、もちろん美形男さんと私。私なんだけど、毎日見知っている私じゃなかった。

 腰までの長い黒髪にやや大人っぽくなった顔立ち、背は伸びたみたいだし……ううむ、ペッタンからちょっと手に余るぐらいには胸が育ったようだ。

 少なくとも16歳には見えない。むしろ16歳なんて、何歳サバよんでいるんだって話だ。

 かなり認めたくないが、紛れもなく『24歳の私』がそこにいた。


「……いやいやいや、ないから!」


 朝起きたら、8年後でした!?そんな莫迦な、じゃあ私の高校生活は?キャハハウフフな青春はどこへいってしまったの!?

 正しくは憶えていないだけになるのかな?それでも身体は24歳でも、頭の中は16歳だってば!

 それに……自分で言うのもあれだけど勘の良い私は非常に嫌な……もといありえない予感がして頭の中で警報機がなりっぱなしだ。

 そしてそれこそが最も重要で、私自身を揺るがすものではないだろうか。聞きたいけど、聞きたくない!


「お前は私の妃だ」

「き、妃?」


 何の冗談だ、それは。いくら成長をしていたとしても平平凡凡な顔立ちはそう変わらないというのに。

 ま、まさか、これが噂の綺麗な人が駄目っていう特殊タイプ?むしろ自分の顔でおなか一杯?

 それに妃って……何、その言い方。妃ってつまりー……偉い人で、王様みたいじゃない?

 目の前の美形男さんが王様であるのは異論がないけど、私がお妃様?

 あはははは、まさかそんなこと。乾いた笑みを浮かべるしかない私に美形男さんはさらに言い募る。


「お前は8年前にこの国、こちらの世界に渡ってきた……つまりお前のいた世界とは異なる」


 異なる世界、異世界。次元が違う。

 そりゃさ、私もそういった類の話読むよ。

 異世界にトリップして運良く王子様に出会って保護されて、都合の良いことに恋をして紆余曲折の末ハッピーエンド。

 二人は末永く仲良く暮らしましたとさ。

 ……ってもう終わってんじゃん!私、もう話終わっているところじゃないか!?

 まったく、そういった定番のことを憶えていないんですけど!


「う、うそでしょ……」

「嘘は言わん。こちらに渡ってから2年後にお前は俺の妃となった」


 つまり6年前、よね。18歳……どうしてそんな若くして結婚という大切なことを決めてしまったんだ、私!

 まだ心は若いからといって結婚に夢があるわけではないけど、これはあんまりだ。気が付いたら人妻ですか。

 いよいよ頭を抱えて悶えたい。むしろ意識を手放して夢ということにしたい。


「それでお前はどこまで覚えている?この世界のことは?……俺のことは?」


 じぃっと、紫の瞳が覗き込む。

 ……そういえば見たこともない色。綺麗だなっと思うけど、瞳の奥に焦燥が見えてドキッとした。

 うん、でも覚えがない。こんな綺麗な瞳をみたら中々忘れられないと思うんだけどな。

 無言で首を横に振った私に、美形男さんは落胆したように見えた。

 まあ、さっきから言っている通りあまり変化がないんだよね、この人。

 とりあえず、恐る恐る手を伸ばしてその鳶色の頭を撫でといた。うわ、髪の毛が嫌味なぐらいにさらさらだし。

 撫でられて少し吃驚しているみたいだけど、振り払う様子もないし大人しい。


「……まあ良い」


 なんか吹っ切れたのか、疲れたように深くため息をついた。

 私のせいじゃないってば。憶えていないんだから。


「俺は執務があるから行くが、お前は暫くじっとしていろ」

「執務?そういえば……あなたの名前は」

「ライヒアルト・ヴァン・ウィート。この国の王だ」


 疲れたように美形男さん……ライヒアルトさんは言う。

 ああ、やっぱり王様なんだ。てことは何て呼べばいいんだろう?

 そんな表情を読んだのか、「ライと呼べ」と素っ気無く言った。


「あのライ……様?」

「ライ、で良いと言っているだろう。直ぐに人をよこすから待っていろ」


 くしゃりと一撫で、私の頭を撫でてから部屋を出て行く。

 うー、撫でたときに微かに笑っていたのにちょっとどきっとしてしまった。

 本当にここは異世界なのだろうか。確かに部屋の雰囲気は中世的だけど見たことがないものもある。

 何より、鏡に映った自分はも16歳ではない。受け入れがたいが、現実みたい……。

 それと本当に私はあの人、ライの妃なのだろうか。……まあ、隣に寝ていたみたいだし。

 妃かーでも大国なら他にもお妃様、大勢居るよね。権力者のありがちパターンというか。

 って、大切なことを聞くのを忘れていた!


「私って……王妃、じゃないよね?」


 まさか自惚れすぎだ、と叱ってくれる人は勿論居ないのである。

 こうして私の『8年経った異世界生活』は始まった。

 ……記憶喪失メインなのか異世界を楽しむのがメインなのか解らないけど、とりあえず私は元気みたいです。





■今野さや

 16歳のときに異世界トリップして紆余曲折あって、ライのお妃様に。

 さやが訛ってサシャと呼ばれている。

 ポジティブでタフな女子高生だった現24歳。


■ライヒアルト・ヴァン・ウィート

 ウィート国の王様。さやのだんな様。

 超美形の26歳。



お読みいただきましてありがとうございます。

不定期連載になりますが、どうかお付き合いください。

良かったらご感想よろしくお願いいたします。



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