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【いせトラ特別編】一つの無限のセカイと、出会ってくれた皆への感謝

作者: フィオレ
掲載日:2026/03/25

 本短編は「異世界∞異世界」をプレイしたことがある方向けの超身内ネタなので、未プレイの方は見ても多分わからないことが多いと思うのでご注意ください。

 この話を見なくても「トラック側が転生しないと誰が言った?配送ドライバーが異世界でもトラックで大爆走します!!!」の本編は十分に読めるようになっている……というより、登場人物が同じなだけの完全に別の話の1話限りの短編小説なので見なくても大丈夫です!


 また、2026年3月23日投稿のいせトラ本編27話まで読んでないと「この人誰だろう」ってなる人がでてくるので、事前に読んでおくことを推奨します!


 本作品の都合上ユズルがスマホをもってこちらの世界に来たという描写等がありますが、いせトラ本編とは一切関係有りません。本編ではスマホは持ってないですし、今回のお話の記憶が本編に繋がる等もありませんのでご了承のほどよろしくお願いします。(異世界∞異世界が切っ掛けで始めたというのもあり、BBSの仲間に楽しんでもらおうと異世界∞異世界のオマージュやリスペクトのネタがいせトラ本編に登場することもありますが、基本的に全ての伏線は回収しようと思ってます。異世界∞異世界を知らない人でも十分に楽しめる作りになるようプロットは組んでいるつもりですのでご安心ください)

 ユズル邸にある自室。

 俺はベッドに寝転がりながら、なぜかポケットに入っていた俺の小さな板――スマートフォンをポチポチと操作していた。


「イベントの周回、結構大変なんだよなぁ……っと」


 バッテリーは魔力でなんとか充電できているものの、異世界に電波はない。だが、なぜかこの『異世界∞異世界』――通称『いせいせ』というゲームアプリと『異世界∞異世界BBS』だけは、オフラインのこの世界でも不思議と起動し、遊ぶことができたのだ。


「ユズルさーん! こんなお部屋の隅っこでコソコソと何をしているんですか?」


 不意に背後から声が掛かり、ビクッと肩を揺らす。

 振り返ると、ミリアが不思議そうな顔で俺を見下ろしていた。その後ろからは、リース、ルカ、そして給仕係のセレナさんがひょっこりと顔を出している。


「うおっ!? み、みんな、いつの間に部屋に入ってきてたんだ?」

「ノックはしたんですが、ユズルさんがその……光る板に夢中でお返事がなかったので」


 リースが上品にクスリと笑う。

 しまった、完全にゲームの世界に没入しすぎていた。四人は興味津々な様子で、俺の手元にあるスマホの画面を覗き込んできた。


「ユズルさん、それは故郷の魔道具ですか? 中に小さな絵が動いています!」

「ユズルさんユズルさん! これ、すっごく綺麗に光ってますけどどういう仕組みなんですか!?」


 ミリアとセレナさんが画面の光に顔を照らされながら目を輝かせる。


「あー、これは『スマホ』っていう俺の故郷の道具でさ。今は『異世界∞異世界』っていう、画面の中で冒険をするゲーム……ええと、盤上遊戯みたいな遊びっていえばいいのかな?」


 俺がそう説明しながら画面を見せると、ルカがピクッと耳を反応させた。


「ふーん……って、あれっ!? この画面の中で跳ねてる青いプルプルしたやつ、王都の南の森によく出るスライムそっくりじゃないかい!?」

「ああっ、本当ですルカさん! それにこっちの画面の奥に映っている景色、なんだか王都の街並みにすごく似てますよ!」


 ルカの言葉に、セレナさんが食い入るように画面を指差して声を上げる。


「そうなんだ。このゲームの世界観はこの異世界とどこか繋がっているみたいで面白いだろ? 俺は故郷にいた頃からこの小さな画面の中で色んな場所を冒険してんだ」

「……ユズルさん。そうしますと、この画面の中で剣を振るっているこの立派な装備の方たちはいったい……?」


 リースが上品な仕草で、画面の中で俺の横に立っているキャラクターたちを指差した。


「ああ、こいつらは――」

「ああっ!? ちょっと待ってユズル君! この格好……ボク、吟遊詩人の歌で聞いたことある格好だ!!」


 俺の言葉を遮ってルカが画面に鼻先を近づけんばかりに興奮し始めた。


「確かこの人は……毎日スライムだけを倒し続けて何百年も高原で暮らしているっていう『高原の魔女』じゃないかい!? この特徴的な大きな帽子とローブ、間違いないよ!」

「高原の魔女……? 私もそのお話、聞いたことあります! すごい魔力を持ってるって!」


 ミリアがパッと顔を輝かせる。

 吟遊詩人の歌か……。確かにあのアバター、高原の魔女そのものだもんな。


「わあ……! この人はまさか……あのお話に出てくる魔術師さんですか?」


 今度はセレナさんがもう一人のキャラクターを覗き込んで、少し顔を赤らめながら声を上げた。


「確か、手に入れた女性のパンツを……あ、ええと……『聖なる遺物』として神棚にお供えしているっていうちょっと変わった逸話のある……」

「ふふっ。セレナさん、言葉を濁さなくても大丈夫ですよ」


 リースがくすくすと上品に笑い、セレナさんの代わりにその逸話を口にした。


「吟遊詩人の歌では『愛する人の衣を聖遺物として崇める、純真なる魔術師』として語られていましたね。まさか、そのお姿をこの小さな画面の中で拝見できるなんて……」


(……うん、まあ間違ってはいないな)


 俺は心の中でツッコミを入れつつ、画面の奥の、もうすぐ終わりを迎える異世界へと想いを馳せた。


「すごいすごーい! ユズルさん、吟遊詩人の歌に出てくるような英雄たちがこの小さな画面の中にたくさんいるんですね!」

「あっ、ボクの知ってる吟遊詩人の歌の人もいないか探してみたい! あのクマのキグルミを着た少女は居るかな!?」


 俺のベッドの周りを囲んで、四人が「この人知ってる逸話の人だ!」「この魔物、あのお話に出てきました!」とスマホの画面を見ながらワーキャーと大騒ぎを始めた。


「……でもな、実はこの『いせいせ』の世界、もうすぐ終わるらしいんだ」

「世界が終わる……?」


 賑やかだった四人がピタリと動きを止めて俺を見た。


「ああ。このことはサービス終了って呼んでいるんだが、一応終わったあとも一部の機能は遊べるようになるらしいって公式からは言われてるんだ。でも、俺たちの世界では『サービス終了』っていうと、大抵はもうその世界には入れなくなるし、遊べなくなるのが普通なんだよ。だからそうなる前に急いで進めてるってわけだ」

「そうなんですか……。もう遊べなくなるなんて、なんだか淋しいですね」


 セレナさんが少しだけ眉を下げて、画面の中の小さな英雄たちを愛おしそうに見つめた。


「この小さな箱の中でユズルさんたちはどんなことが出来たんですか?」

「主に遊べるのは大きく分けて三つあるんだ。『メインクエスト』っていう大きな物語を進めるものと、深い地下へと潜っていく『ダンジョン』、それから色んなキャラクターたちの物語を追体験する『転生クエスト』だな」

「へぇーっ! それ、全部遊んだらどれくらいかかるの?」


 ルカが興味津々に尻尾を揺らす。俺は少しだけ遠い目をして答えた。


「それがさ……転生クエストだけでも580個あって、ダンジョンに至っては各100層まであるのが11個も用意されてるんだ。かなりのボリュームだし、敵も強くてなかなか難しくてさ。俺もまだ全部は終わってないんだよ」

「ご、ごひゃくはちじゅう!? しかも100層の地下迷宮が11個も……!?」


 ミリアが目を丸くして驚きの声を上げる。


「……ユズルさん。こちらの画面の端にある『クイズ』というのはなんですか?」


 画面を注意深く見ていたリースが、上品な仕草で一つの文字を指差した。


「ああ、それはな。この『いせいせ』の世界の歴史や豆知識なんかを問題として出題されるからそれを答える遊びだ。それに正解すると、冒険に役立つ景品がもらえるんだよ」

「知識を試される試練のようなものですね。ふふっ、ユズルさんは全問正解できそうですか?」

「いやいや、結構マニアックな問題もあって難しいんだよこれが。……あ、そうだ。冒険やクイズだけじゃなくて、こういう遊び方もできるんだぜ」


 俺は画面を操作し、フィギュアモードを開いて見せた。


「この世界に登場するキャラクターたちのフィギュア……こっちの言葉で言うと『精巧な模造人形』だな。それを自分の好きなように配置して、一枚の絵として保存しておくこともできるんだ」

「わぁっ! 本当だ、さっきの高原の魔女さんのお人形が、画面の中でポーズをとってます!」


 俺が指先一つでキャラクターの模造人形を動かし、背景に合わせて配置していくのを見てセレナさんがパッと明るい声を上げた。


「これならユズルさんが一緒に戦った英雄さんたちのお姿をいつでも絵として残しておけますね!」

「……ああ。そうだな。遊べなくなっても、ここで作った思い出の絵はずっと残しておけるからな」


 俺はセレナさんの言葉にうんうんと頷きながら画面の中に配置された小さな仲間たちを見つめ、静かに微笑んだ。それからスッと画面を別の場所――ゲーム内の売店へと切り替える。

 

「俺が特に好きなキャラなんかはここにいる二人だな。ほら、ここに売店があるだろ? そこにいる女性と犬が凄く好きなんだ」

「わぁっ、本当だ! とってもお綺麗な女の人と可愛いワンちゃんですね!」


 ミリアが画面を覗き込んで目を輝かせる。


「ネモシオーネとイヌエルっていう名前なんだけどな。すっごく愛嬌ある顔してるだろ? 二人ともすごく優秀なんだけど、どこかちょっと抜けてる凸凹コンビでさ。ゲームの合間にこの二人のやり取りを見るといつも癒やされるんだよ」


 俺が二人の魅力を語り終えた、まさにその時だった。


――パァァァァァァッ!!


「うおっ!?」

「きゃあっ!?」


 突如として俺の手元にあったスマートフォンの画面が目が眩むほどの強烈な光を放った。

 たまらず全員が目を瞑り、数秒後に恐る恐る目を開けると――俺のベッドの上に、見慣れない『二人』が立っていた。


「じゃじゃーーんっ! 記憶の女神と!」

「従者のイヌエルだぜ!」


 光の粒子を振り撒きながらポーズを決めたのは、美しいドレスに身を包んだ女神様と誇らしげに胸を張るふさふさの犬、イヌエルだった。


「ええええええっ!?」

「ゆ、ユズルさん! 箱の中から人が飛び出してきましたよ!?」


 ルカが尻尾の毛を逆立てて驚き、セレナさんが腰を抜かさんばかりに叫ぶ。

 画面から本物が飛び出してくるなんて、いくらなんでも異世界ファンタジーが過ぎるだろ! 俺が呆気にとられていると、隣からふわりと甘い香りが通り過ぎた。


「ワンちゃん…………!!!」

「え?」


 リースだ。

 普段は落ち着いていて上品な彼女だが、目の前のもふもふの誘惑には勝てなかったらしい。リースはイヌエルの前にしゃがみ込むと、無防備にも両手でその首元や頭を思い切りワシャワシャと撫で回し始めた。


「ガルルッ! おれは犬じゃねえ! 誇り高き従者だ――って、あ、ちょ、や、ヤメロー!!」

「はいはい、よしよし。とってもいい子ですねぇ〜」

「オ、オレは威嚇して……ダメだぜ、そんないいこいいこされたらっ……」


 イヌエルは必死に牙を剥いて威嚇しようとするが、リースのゴッドハンドによる『もふもふ』の快感に完全に負け、情けない声を出しながらあっさりと陥落してしまった。


「あーあ、だらしないですねぇ……」


 女神様はリースに撫で回されてふにゃふにゃになっている相棒を助けようともせず、呆れたようにため息をついた。そして、気を取り直したように俺たちに向かって優美な微笑みを向ける。

 おもむろに彼女は立ち上がり、窓を開けると懐から何やら枝のようなものを取り出した。


「イヌエル、千代八千代(ちよやちよ)の枝ですよー。そーれとってこーい!」

「うぉおおお!!!!」


 女神様が窓から木の枝を投げたのをイヌエルが楽しそうに追いかけていった。

 おいまて、ここ2階だぞ。

 

「さて、イヌエルは置いといて……。せっかくですから皆さん、よければ私たちと一緒に『異世界∞異世界』の世界に入ってみませんか?」


 女神様のその楽しげな提案に俺たちは一瞬あっけにとられたが、すぐに好奇心が爆発した。


「ええっ、本当にあの中に行けるんですか!?」

「それはとんでもない体験になりそうですね!」

「ボク、あの英雄たちに会えるかもしれないのかい!?」

「はいっ、女神様! 私、ユズルさんたちの冒険を一番近くで見てみたいです!」


ミリア、リース、ルカ、そしてセレナさんまでもが、パッと顔を輝かせて女神様の提案に飛びついた。全員の承諾を確認した女神様はふわりと上品に微笑む。


「では皆さんにこの世界で生き抜くための役割の力を授けましょう」


 女神様が優雅に手をかざすと空間から光の粒子が集まり、俺たちの体を優しく包み込んだ。


「ユズルさん、ミリアさん。あなた方は『ウォリアー』です。メインとなる剣を振るい、前線で戦う一般的な剣士の力を授けました」

「ルカさん。あなたは『アサシン』です。敵の攻撃を避けることに特化し、俊敏性を極限まで高めました」

「リースさん。あなたは『ヒーラー』です。仲間を癒やし、支える奇跡の力を劇的に高めました」

「そしてセレナさん。あなたは『サポーター』です。敵の動きを足止めし、弱体化させるデバフの能力を授けます」


 俺とミリアの体には力強い闘気が、ルカの体は羽のように軽く、リースからは温かい光が、そしてセレナさんの指先には敵を絡めとるような不思議な魔力が満ちていく。


「わぁっ……私にも戦う力が……!」

「本来、この世界では『四人』までしか一つのパーティを組めないルールなのですが……今回は特別なお客様ですからね。私が女神の権限で、特別に五人パーティとして構成してあげましょう!」


 女神様がウインクをしてパチンと指を鳴らすと、俺たち五人が不思議な光の線で繋がったような、確かなパーティの絆を感じた。


「さらに、みなさんには特別に『強靭な力』を付与しておきました。ちょっとやそっとのモンスターが出てきても、みなさんの命に関わるようなことは絶対にありませんのでどうか安心して冒険を楽しんでくださいね!」

「至れり尽くせりだな……! さすが女神様だ」


 俺が呆気にとられていると、女神様は「では、目的地である『妖精の記憶点』に参りましょう。――リインカーネーション!!」と転生魔法の発動を始めた。

 部屋が眩しい光に包まれ始め、空間が転移する感覚が俺たちを襲う。


(……って、そういえばイヌエルはまだ帰ってきてねぇだろ!)


 俺が焦って窓の方を振り返った、その瞬間だった。


「お待たせだぜぇえええええええッッ!!!!」


 窓からイヌエルが『千代八千代の枝』をくわえて全力疾走で飛び込んできた。

 おい待て、ここ2階だぞ。どうやって戻ってきたんだという俺のツッコミも虚しく、イヌエルはギリギリで光の中に飛び込んだ。


「フッ、誇り高き従者は枝一つとっても絶対に遅れはとらねぇんだぜ……!」


 間一髪で転生の光に巻き込まれた俺たち七人は、眩しい光に包まれ――。


 ◇ ◇ ◇


「……う、ん」


 眩しい光が去り、意識を取り戻した俺はゆっくりと目を開けた。

 そこは俺の部屋ではなく、王都の景色もない。

 見渡す限り青々とした木々が生い茂る美しい森の中だった。ここが『いせいせ』の妖精の記憶点……!


「うわぁっ……本当に、スマホの中の世界に入っちゃったよ!」

「まぁ……っ! 空気がとても清々しくて、不思議な魔力を感じます」


 ルカが尻尾を揺らして騒ぎ、リースが上品に周囲を見渡す。セレナさんとミリアも「ここがゲームの世界……」と呆気にとられていた。もちろん、イヌエルも「お待たせだぜ!」とばかりにドヤ顔で合流している。


「……あら?」


 意識を取り戻した俺たちが周囲を見渡していると、「おーい! おーーーい!!」と声が聞こえた。

 そこからひょっこりと顔を出したのは、特徴的な獣の耳を生やした緑色の服を着た少女だった。

 彼女は俺たちを見つめ、自信ありげな、それでいてどこか人懐っこい笑顔を浮かべて口を開いた。


「僕はトゥーリカ。妖精の里の長に頼まれて、キミたちを探しにきたんだ。この森は時折人間がやってきては動物たちを狩ったり、妖精のような珍しい存在を捕まえている……」

「密猟者……ということですね。なんてひどい……」


 セレナさんが胸の前で両手を組み、痛ましそうに眉を下げる。


「僕は森に育ててもらった。森で暮らすみんなは僕の家族だ」


 トゥーリカの力強い言葉に、ミリアやルカも真剣な顔で深く頷く。俺もウォリアーの力が宿った剣の柄を無意識にギュッと握りしめた。

 その時だった。トゥーリカの頭の上のピンと立った獣耳が、ピクッと微かに動いた。


「シッ! 静かに!」


 トゥーリカが鋭い声で俺たちを制し、サッと姿勢を低くする。


「……間違いない。人間たちの足音だ。この間追い払ったのに、あいつら性懲りもなく……!」


 トゥーリカの緊張が伝染し、俺たち五人は咄嗟に周囲の深い茂みへと身を隠した。ルカは女神様に授かった『アサシン』の力のおかげか、完全に気配を消して周囲の木々と同化している。


「ここは痛い目を合わせるのが一番だ。トゥーリカ、一緒に戦おう!」

「随分と好戦的だね。僕もそうしたいけど、向こうの数がわからないからな……。よし、こうしよう。妖精の森に行くことが、今最優先するべき事柄だ。でも僕としてはあの人間たちをこのままにするわけにもいかない。だから、妖精の里を目指して身を隠しながら進みつつあいつらが隙を見せたら懲らしめてやろう。協力してくれるかい?君達の安全は保証するからさ」

「もちろん!」

「ありがとう。じゃあ行こうか!」


 俺たちは息を潜めながらトゥーリカの小さな背中を追って深い森の奥へと足を踏み出した。


 トゥーリカの案内に従い木々の間を慎重に進んでいくと、突如として開けた場所に出た。

 ガシャ、ガシャと重々しい金属音が響き、俺たちの行く手を阻むように全身を分厚い鎧で覆った六人の兵士が立ちはだかったのだ。


「見つけたぞ! 妖精を匿っている輩だ、捕らえろ!」

「しまった、見つかった!」


 俺が咄嗟に腰の剣を抜いた、その瞬間。どこからともなく女神様の明るい声が頭の中に直接響き渡った。


『みなさーん、安心くださいね! ここはゲームの世界ですので、血も出ませんし、倒してしまっても全く問題ありません! 遠慮せずに思いっきり頑張ってくださいね!』

「……なるほど、そういうことなら遠慮はいらないな!」


 女神様の頼もしい(?)お墨付きをもらい、俺とミリアは同時に地面を蹴った。


「はあああっ!」


 ウォリアーの力を宿したミリアが鋭い踏み込みから剣を振るう。その刃が先頭の兵士の鎧にほんの少し、かすっただけだった。


 ガァァァァンッ!!


「ぐわあああっ!?」

 

 たったそれだけで重装備の兵士がまるで枯れ葉のように弾き飛ばされ、地面を転がったかと思うとあっさりと光の粒子となって消滅してしまった。

 俺の剣も同様だった。軽く撫でるように振っただけで残りの兵士たちが次々と宙を舞い、光となってパッと消えていく。戦闘開始からわずか十秒足らずの出来事だった。


「ええっ……よ、弱すぎる……」

「ふふっ。女神様が仰っていた『強靭な力』のおかげですね」


 リースがくすくすと笑う。どうやら俺たちは、女神様のバフのおかげで完全にオーバースペックなチート状態になっているらしい。


「すごい……! キミたち、こんなに強かったんだね!」


 トゥーリカが目を丸くして驚いている横で、イヌエルが「オレの従者としての力も見るか?」とドヤ顔をしていたがとりあえずスルーしておいた。


 兵士たちを難なく退け、さらに森の奥へと進んでいくと道が二手に分かれている場所に差し掛かった。

 パッと見はどちらも同じような獣道だが、ここでふと思い出した。こういう場面、フィールドスキルを使うと進めることがあるんだよな……。


 目の前に看板が立っており、そこには「遠視」と書かれている。

 

「だれか遠視のスキル持ってそうっていう人はいるか?」

「あ、ボク遠視持ってるよ。遠視と高速移動、それと隠密と解錠だね」


 ルカが遠視スキルを持っているようだ。流石シーフ、助かるぜ。

 

「ルカ、ちょっと『遠視』のスキル使ってみてくれないか?」

「えっ? うん、わかった。……『遠視』!」


 アサシンのクラスを授かっているルカが目を細めてじっと森の奥を見透かすように集中する。すると、ルカの耳がピクリと嬉しそうに動いた。


「あ! 右の道のずっと奥の方になんか行ったほうが良いオーラを感じる道が見えるよ! 普通の道じゃないみたいだ!」

「よし、ビンゴだ。その道を通れる分岐ルートがあるはずだ。ルカ、案内を頼む!」

「任せて!」


 ルカの遠視スキルによって見つけ出した隠された分岐ルート。

 俺たちは迷わずそちらの道を選択し、妖精の里を目指してさらに歩みを進めた。


 道なき道を慎重に掻き分けて進んでいくと、少し開けた泉のほとりに出た。


「……しっ。あそこ見て」


 先頭を歩いていたルカが姿勢を低くし、前方を指差した。

 泉のそばで先ほどの重装兵とは違う七人の兵士たちが呑気に休憩しているところだった。


「どうやら密猟者の別働隊みたいだね。完全に油断してるよ」

「よし、こっちの存在には気付いていないな。……絶好の奇襲チャンスだ」


 俺は声を潜め、後ろに続く仲間たちに目配せをした。


「セレナさん、まずは敵の動きを封じてくれ。その後ルカが撹乱して、俺とミリアで一気に片付ける!」

「はいっ、お任せください!」


 サポーターの力を授かったセレナさんが気合を入れるように両手をぎゅっと握りしめ、兵士たちに向けてそっと指先を向けた。


「ええいっ! 『足止めの魔法』です!」


 セレナさんの指先から放たれた見えない魔力が休憩中の兵士たちの足元を泥沼のようにドロドロに変え、彼らの足を地面に縫い付けた。


「な、なんだ!? 足が動かねェぞ!?」

「敵襲か!?」

「今だ、いっけぇーっ!」


 パニックに陥る兵士たちの懐へアサシンのルカが文字通り風のような速度で飛び込む……が、兵士の攻撃がルカの足を直撃する。


「――ッ!!」

「ルカさん! 傷すぐに直します! ヒールッ!!」

「すごいね、一瞬で痛みが治ったよありがとう!」


「はああぁぁっ!」

「もらった!」


 そこへ俺とミリアが左右から斬り込み、身動きの取れない兵士たちをあっという間に無力化していく。女神様のチートバフのおかげで今回も剣の腹で軽く叩いただけで、七人の兵士は次々と光の粒子となって消え去っていった。


「ふぅ、作戦成功だな。セレナさんの足止め、すごく助かったよ」

「えへへ、お役に立ててよかったです!」

「リースもナイス援護だ」

「治療なら任せてください!」


 セレナさんが嬉しそうにメイド服の裾を摘んでお辞儀をする。リースも戦闘で自分が役に立ってることが嬉しいのだろう。とても楽しそうにしている。

 俺は消えた兵士たちの跡地に、いかにもゲームらしい装飾が施された『木箱』がコロンと転がっているのを見つけた。


「おっ、ドロップアイテムだ」


 パカッと蓋を開けると、中にはトゥーリカの顔が書かれた石板がいくつか並んでいた。


「わぁっ、これは……?」

「『トゥーリカの石板』だな。今は全く使い道がないが、ダンジョンという場所に潜るために必要なアイテムだ。それがが拾えるのもこのルートの恩恵ってやつだな」

「このあたり僕の肖像画がかなり落ちてると思ったらダンジョンの通行証になっているのか……なんか複雑だよ」


 トゥーリカは八の字に眉を曲げながら本音を語る。言われてみればそうだ、自分の肖像画があちこちで出てきたら流石に怖い……

 そんな彼女を横目に、俺はありがたく石板をアイテムバッグに収納する。

 敵の気配も完全に消え、辺りは静かな森の泉へと着いた。


「少し歩き詰めだったし、俺たちもこの泉のそばで小休止を挟むか。トゥーリカも少し休もうぜ」

「うんっ。キミたち本当に強いんだね! これならきっと、長のところまで無事にたどり着けるよ!」


 トゥーリカが安心したように耳をパタパタと揺らして微笑む。

 俺たちは澄んだ泉の水を汲み、心地よい森の風を感じながら次の戦いに向けて短い休憩をとることにした。


 ◇ ◇ ◇


 短い休憩を終え、冷たい水で喉を潤した俺たちは再びトゥーリカの案内で鬱蒼とした森の最奥へと足を踏み入れた。


 暫く進むと、道を塞ぐように精悍な顔つきの兵士たちが12人も陣形を組んで待ち構えていた。


「侵入者だ! 妖精の案内人を連れているぞ、逃がすな!」

「チッ、今度の連中はさっきまでの雑魚より少し手強そうだな」


 兵士たちが統制の取れた動きで一斉に武器を構える。

 俺とミリアが前に出て剣を振るうが、今度の連中は最初の重装兵のように一撃では吹き飛ばず、しっかりと盾で俺たちの剣をガードしてきた。


「くっ、少し硬いですね!」

「でも女神様の力がある私たちなら……押し切れます!」


 少しだけ強化された敵の抵抗に遭うものの、俺たちには心強い仲間がいる。


「セレナさん、ルカ! 足止めと撹乱を頼む!」

「はいっ! 『足止めの魔法』!」

「任せて! こっちだよ、鈍間な人間たち!」


 セレナさんのデバフで動きが鈍った兵士たちの死角からルカがアサシンの超スピードで次々と打撃を叩き込み、陣形を崩していく。かすり傷を負っても後方からリースの温かい回復魔法がすぐに飛んできた。

 女神様の「強靭な力のバフ」の安心感もあり、12人の少し手強い兵士たちも息の合った五人の連携の前には敵わず、やがて全員が光の粒子となって森へ消えていった。


「ふぅ……なんとか全員倒したな」

「みなさん、お怪我はありませんか?」


 剣を収めた俺たちにリースが労いの言葉をかける。


 トゥーリカがホッと息をつく。


「ここまでくれば、妖精の里はすぐそこだよ。道中は色々と危険な目に遭わせてごめん」

「気にするなよ。それより、あいつら何であんなに大勢で森をうろついてたんだ?」


 俺の問いに、トゥーリカは耳をペタンと伏せて悔しそうに唇を噛んだ。


「人間たちが話しているのをこ聞いて、森への侵入者が増えた理由がわかった。あいつらはまた、この森をまた荒らす気だ。この森は『資源の宝庫』なんだってさ。木材はもちろんだし、洞窟の奥では鉱石も採れる」


 トゥーリカの小さな手が、ギュッと固く握りしめられる。


「森で暮らすみんなの生活なんてお構い無しだ。酷いよね。僕はもう森のみんなに悲しい思いをさせたくない……。だから戦う。人間たちの横暴は許さない!!」

「ひどいですね! 自分たちの利益のために他人の住処を奪うなんて、許せないですよ!!」


 セレナさんが憤り、ミリアも力強く頷く。


「私たちも協力するよ! トゥーリカちゃんたちの森は、私たちが一緒に守るから!」

「ええ、微力ながらお手伝いさせていただきます」


 ルカとリースも、トゥーリカの真っ直ぐな想いに応えるように笑顔で胸を叩いた。俺も「当然だ」と頷こうとした、その時だった。

 次の瞬間。

 森の景色も、トゥーリカの姿も、すべてが急激に真っ白な光に包まれて滲んでいく。


「ちょ、ちょっと待て! 良いところなのにここで終わりかよ!?」

「きゃあっ、前が見えません……!」


 視界が完全にホワイトアウトし、浮遊感に包まれたかと思うと――。


◇ ◇ ◇


「……っ」


 ハッと目を開けると、そこはむせ返るような森の空気ではなく見慣れた部屋だった。

 俺の横ではミリアたちが「う、ううん……」と目を瞬かせながら、ベッドの周りで体を起こしているところだった。どうやら無事に元の部屋に帰還したらしい。


「みなさん、無事の生還お疲れ様でした~!」

「ナイスな活躍だったぜ!!」


 部屋の隅では、女神様とイヌエルがパチパチと拍手をして俺たちを出迎えてくれた。


「いまみなさんに体験していただいたのが『妖精の記憶点』……つまり、この世界における『転生クエスト』というものの一つを遊んでもらったのですよ」

「えっ、遊んだって……ちょっと待ってください女神様! あの子たちは!? あの森の危機はどうなっちゃうんですか!?」


 我に返ったミリアが、慌てて女神様に詰め寄る。


「そうです! あんな悪い人間たちを放っておくなんてできません!」

「ボクたちも最後まで一緒に戦うって約束したのに!」


 セレナさんやルカも口々に訴えかけるが、女神様は困ったように、けれどどこか嬉しそうにふわりと微笑んだ。


「ふふっ。みなさんのそのお優しいお気持ちはきっとトゥーリカにも届いています。ですが、あれはあくまで記憶の追体験。……あの続きの物語がどうなるかは、ぜひみなさん自身の手でゲームを進めて見届けてくださいね」


 女神様は悪戯っぽくウインクをして、あっさりと俺たちの抗議をかわしてしまった。


「ううっ、そんな殺生な……!」

「続きが気になって今夜は眠れません……」


 すっかりゲームのストーリーの虜になってしまったらしい四人の様子に、女神様は少しだけ寂しそうな、けれどこの上なく温かい微笑みを浮かべた。


「あら、ごめんなさいね。もう時間がなくなっちゃいました」

「えっ……?」


 俺が顔を上げると、女神様の体が足元から淡い光の粒子となって少しずつ透け始めていた。隣で胸を張っているイヌエルの体も同様だ。


「みなさん、短い間でしたが素晴らしい体験を楽しんでくれてありがとうございました。またどこかでお会いできることを楽しみにしています」

「おう! お前らとの冒険、すっげぇ楽しかったぜ! 元気でな! そうそう。もし次会うことがあったら『焦がし醤油の魔物ステーキ・ミディアムレア』ちゃんと用意しといてくれよな!」

「え!? 女神様! イヌエルちゃん!」


 リースが思わず手を伸ばすが、女神様とイヌエルの姿は完全に光となって弾け、俺の部屋の空気に溶けるようにフッと消えていった。

 あとに残ったのは少しの静寂と、確かな冒険の余韻だけだった。


「……行っちゃったな」


 俺は少しだけしんみりとした空気を振り払うように手元のスマホを開き、ある場所へとアクセスした。

 指先を素早く動かし、たった今体験した『ゲームの中に入ってトゥーリカと一緒に戦ってきた』という信じられないような出来事を短い文章にして書き込む。


 すると、ほんの数秒も経たないうちに画面の隅にある『いいね』の数字がものすごい勢いで跳ね上がり始めた。


『いーなー羨ましい( ' ꒳ ' )♪』

『おじさんいた?( ̄▽ ̄;)』

『女神様に俺のことも中に入れてくれって伝えてといて_(:3 」∠)_』


 画面には、かつて俺と交流してくれた顔なじみの仲間たちからの驚きと羨望のコメントが次々と流れ込んでくる。その賑やかなやり取りを見ていると、自然と顔がほころんだ。


「ユズルさん? その光る板の中で、急に文字がたくさん増え始めましたけれど……何を見ているんですか?」


 リースが不思議そうに画面を覗き込んでくる。


「ああ、これな。俺の故郷の言葉で書かれてるから読めないかもしれないけど……この『いせいせ』には『異世界∞異世界BBS』っていう専用の掲示板があるんだよ」

「けいじばん……冒険者ギルドにあるような、依頼書の張り紙ですか?」


 首を傾げるリースに、俺は優しく頷いた。


「少し似てるけど、もっとすごいんだ。どんなに遠く離れた場所にいる人たちとも一瞬で言葉を交わすことができる場所でさ。ゲームの攻略情報を教え合ったり、さっき話した『吟遊詩人の物語』みたいな色んな話題について、みんなで集まってワイワイ話し合える酒場みたいな空間なんだ」


 俺がそう説明すると、ミリアたちが「ええっ!?」と驚きの声を上げた。


「遠くの人たちと一瞬で!? ものすごい魔道具ですね……!」

「だろ? 俺がこの『いせいせ』の世界をずっと楽しんでこられたのはゲーム自体が面白かったのはもちろんだけど……何より、このBBSで出会った仲間たちとの交流があったからなんだよ」


 俺は画面の中で流れる友達からの温かいコメントを愛おしそうに見つめた。

 だが、その賑やかな文字の羅列を見ているうちにふと胸の奥がギュッと締め付けられるような切なさが込み上げてきた。


「……でもさ。さっきも言ったけど、このゲームはもうすぐサービスが終了しちゃうんだよな」

「あっ……」


 俺の呟きに、ミリアたちがハッとして息を呑む。


「サービスが終了すると、この『いせいせ』の世界に入れなくなるだけじゃない。この掲示板自体も使えなくなって今までここで楽しく交流していた人たちとも……もう二度と、関わることができなくなっちゃうんだ」


 ぽつりとこぼした俺の愚痴に部屋の中に重い沈黙が落ちる。

 顔も本名も知らないけれど、間違いなく一緒に笑い合い冒険を共有した仲間たち。彼らとの繋がりがあと少しで永遠に絶たれてしまう。その喪失感は、想像以上に大きかった。


「……始まりがあれば、いつか必ず終わりもありますからね」


 静寂を破ったのはセレナさんの静かな声だった。彼女はメイド服のスカートをきゅっと握りしめ、寂しそうに伏し目がちに微笑んだ。


「仕方のないことだとは分かっています。けれど……ユズルさんの大切なお仲間とのお別れは、やはりとても悲しいですね」

「セレナさん……。ああ、そうだな。俺も悲しいよ」


 俺がスマホの画面に視線を落とすと、リースが横からそっと顔を覗き込んできた。


「ユズルさん。そのスマホという不思議な板は遠くの人と言葉を交わす以外に他にどのようなことができるのですか?」

「えっ? ああ……色々な調べ物ができたり、音楽を流して聴けたり……あとは今の状態の風景をそのまま絵として切り取って、保存しておく機能があるよ。俺たちの世界では『写真』って呼んでるんだけどな」

「今の状態を、絵として……。それならばユズルさん」


 リースがパッと花が咲いたような明るい笑顔を見せ、俺とミリアたちを見回した。


「今の私たちみんなをその写真に撮って、遠くのお仲間たちに共有して差し上げるのはいかがでしょうか? ユズルさんがこの世界で出会った私たちのことを、お仲間たちにも見せてあげましょうよ!」

「うん、それすごく良い提案だね!」


 ルカが尻尾をピンと立てて賛同し、ミリアやセレナさんも「賛成です!」と明るい声を上げた。


「みんな……。そうだな、最後くらいとびきり楽しい思い出を共有して終わろうぜ」


 俺はスマホのカメラ機能を起動し、インカメラに切り替えた。

 画面の中に、俺を中心に左右から身を乗り出してくるミリア、ルカ、リース、セレナさんの姿が映し出される。


「うわぁっ、この板の中に私たちがいます!」

「なんだか鏡みたいだね! よーし笑って笑って!」

「よっしゃ、いくぞー。はい、ポーズ!」


 パシャッ! という小気味良い電子音と共に、画面が一度だけ白く瞬いた。

 すぐに保存された写真を開いてみんなで画面を覗き込む。


「まぁ……! なんて精巧な絵なのでしょう。髪の毛の一本一本まで、本物そっくりに写っています!」

「すごいすごい! こんな魔法みたいな道具があるなんて、キミの故郷はやっぱりすごいね! ……あれっ?」


 写真のあまりの鮮明さに驚いていたルカがふと不思議そうに耳を傾け、画面の端を指差した。


「ねえ。この、ボクたちの後ろの隙間に写ってるのって……」

「えっ?」


 ルカに言われて画面をよく見ると、俺たちの頭の後ろのわずかな空間に――つい先ほど「時間がなくなった」と光になって消えていったはずの女神様とイヌエルの姿がバッチリと写り込んでいたのだ。

 しかも女神様はこちらに向かってピースサインを決め、イヌエルは大きくジャンプして最高に楽しそうな満面の笑みを浮かべている。


「め、女神様とイヌエルちゃん!? どうしてこの絵の中に!?」

「おいおい嘘だろ……?」


 俺たちは慌ててスマホから顔を上げ、部屋の隅々まで見渡した。

 しかし俺の部屋には相変わらず五人しかおらず、女神様たちの姿はどこにもなかった。ただ部屋の空気だけが先ほどよりもほんの少しだけ温かく感じられた。


「……きっと今までこの世界で遊んでくれたことに感謝して、最後にこっそり戻ってきてくれたんだな」


 俺は画面の中で笑う女神様とイヌエルを見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……こっちこそありがとうだよ。最高の冒険だったよ」


 俺はスマホの画面を操作し、写真の落書き機能を立ち上げた。

 そして指先を画面に滑らせ、俺たちと女神様たちが写る奇跡の一枚の空いたスペースに不器用ながらも精一杯の想いを込めて文字を書き込んだ。


『いままでありがとう』


 画面の中に浮かび上がった手書きの文字を見て、ミリアやリースたちも優しく微笑み、深く頷いてくれた。

 俺はそのまま先ほどの『異世界∞異世界BBS』の投稿画面を開き、この感謝の言葉を添えた一枚の写真を添付して、迷いなく送信ボタンを押した。


――ピコンッ、ピコンッ。


 投稿した瞬間から、BBSの仲間たちから怒涛の勢いで反応が返ってくる。


『今日は女神様特集の時間がやってまいりました』

『すげえ! 女神様とイヌエルじゃん(/ー▽ー)/』


 次々と流れてくる温かいコメントの数々。顔も知らない、けれど確かに同じ世界を愛し、共に過ごした仲間たち。彼らの言葉一つ一つが俺の胸の奥を熱くしていく。


(……写真だけじゃ足りないな)


 画面を見つめながら、俺はふと静かな衝動に駆られていた。


「他にも……何か、みんなの記憶に残るようなことをしたいな」

「記憶に残るようなこと、ですか?」


 首を傾げるリースたちを前に俺は腕を組み、深く考え込んだ。

 この『いせいせ』という世界があったこと。そこで出会った仲間たちのこと。そして、この小さな画面の中で起きた数え切れないほどの奇跡や冒険のこと。

 ただサービスが終了して消えてしまうのを待つだけじゃなく、俺の手で永遠に色褪せない『形』にして残すことはできないだろうか――。


「……みんなの記憶に残るような、何かか」


 腕を組んで考え込む俺に、隣にいたミリアがパッと顔を輝かせてとんでもない提案をしてきた。


「それじゃあユズルさんが主人公の物語を作りませんか?」

「えっ? お、俺が主人公!?」


 まさかの提案に俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。物語の英雄といえばさっき画面の中で見た『高原の魔女』とか『純真なる魔術師』とか、そういう伝説級の連中だろ。俺みたいな普通のトラックドライバーが主人公なんて一体誰が読むんだよ。

 だが、ミリアは真剣な眼差しで俺のスマホの画面――BBSのコメント欄を指差した。


「ユズルさんが主人公の面白い物語を作って、それが吟遊詩人たちの間で有名になれば……もしかしたら、そのお話をどこかで聞いたユズルさんの知ってるお仲間たちから連絡が来るかもしれないじゃないですか!」

「連絡が……」


 ミリアの言葉に、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 なるほど。物語にしてこの世界に放流する。それは異世界を越えてかつての仲間に届ける、俺からのメッセージボトルになるかもしれないってわけか。


「……面白い。最高に面白いなそれ!」


 俺はニカッと笑い、剣の柄を力強く握りしめた。

 ただサービスが終了して消えてしまうのを待つだけじゃなく、俺たちの生きた証を、永遠に色褪せない『物語』として書き残す。これこそが、俺が今、この世界で成すべきことだ!


「よし、やろう! 俺とトラック、そしてお前らみんなのこの世界での爆走物語を書き残すんだ!」

「わぁーい! 楽しみです!」

「ボクもアサシンの大活躍を書いてもらわないとね!」

「ふふっ。素敵な物語になりますね、ユズルさん」

「私、全力でお手伝いさせていただきます!」


 ミリアたちが嬉しそうに声を上げる。俺はスマホのBBSをもう一度見つめ、画面の向こうにいるであろう仲間たちへ向けて心の中で静かに誓った。


「待ってろよ、みんな。俺たちの物語、必ずお前らのところまで届けてやるからな」


 俺は深く息を吸い、仲間たちを見回した。


「それじゃあタイトルを決めよう。俺たちの冒険にふさわしい、とびきり威勢の良いやつをな!」


 俺の言葉に、ミリア、ルカ、リース、セレナさんが顔を見合わせ、そして全員で声を揃えて――。


「タイトルは……」


――俺たちがこの異世界で巻き起こす前代未聞の爆走劇。そのすべてを体現する名前を。


 声を揃えて、全力で叫んだ。


「「「「「トラック側が転生しないと誰が言った?配送ドライバーが異世界でもトラックで大爆走します!!!」」」」」

 サービス開始からサ終まで楽しませて頂いた「異世界∞異世界」

 異世界∞異世界と、BBSが無かったら私は新たな趣味「小説執筆」を行うことが有りませんでした。この場を借りてお礼申し上げます。

 また、BBSのコメント返信欄は全て実在している方をモチーフにした返事となっています。モチーフとなった皆様、掲載許可を頂きありがとうございました!


 異世界∞異世界……もうおわってしまいますね。この短編小説を見た時期によってはもう終わってるかもしれません。

 私はとある作品が大好きで、その作品が来るまでは意地でも続けようと思っていせいせをやってましたが結局来ることはなく終わりました。でも、正直今まで過ごしてきた中で一番本気になることが出来たゲームかもしれません。本当に楽しかったなぁ。

 いせいせ本編が終わっても私は「トラック側が転生しないと誰が言った?配送ドライバーが異世界でもトラックで大爆走します!!!」の執筆を続けるかとおもいます。私がいせトラが大好きだというのが最大の理由ですが、そもそも私がなろうに投稿を始めたのは本当にただの「ついで」なんです。

 私が「トラック側が転生しないと誰が言った?配送ドライバーが異世界でもトラックで大爆走します!!!」を見たい。続きが気になる という理由で書き始め、出したいキャラを出し、やりたいように書いてます。そのついでに見てくれる人がいれば嬉しいな という理由で投稿を始めたものなんです。

 なのでもしPVが毎日0になろうと、1桁がずっと続こうとこの気持ちは変わりません。自分といういせトラ最大のファンが居るので……!


 ちなみに、なろうに投稿した切っ掛けもBBSのとあるおじさん好きの酒飲みさんが投稿しないの?って聞いてくれたことが切っ掛けで、その一言が無ければ間違いなく自分で書いて自分で読んでそれで終わり!ってなってたと思います。恥ずかしいので本人には内緒ですよ?

 自分がなろうに投稿始めてからBBS内でも小説執筆のブームが起きたのが本当に嬉しくて。今でも色んな方の小説をよく見返したりもしています( ˘ω˘)


 ただ、執筆・小説投稿というものは読者が着く関係上一度始めてしまうと辞めたくても辞められないという半ば義務のようなものを感じるようになる世界でもあります。自分が投稿したことが切っ掛けで小説を始めて執筆ブームが起きたのは嬉しいのですがそこが少々心配ではあります……。自分の投稿が切っ掛けで執筆を開始された皆様は本当に無理だけはなさらないでくださいね。


 勿論みんなの作品は見てますし完結を応援してますが、どうしてもしんどくなったら場合はエタってしまう(エターナルの略 つまり更新停止や途中で執筆を辞めるという意味)のも勇気です。無理矢理終わらせるのも悪くないです。しんどい思いをしながら書いてもそれは文章にどうしても出てしまいます。だったらモチベが出るまで休むか、エタるか、無理矢理でも終わらせるか。


 辞めづらいという感情はどうしてもあるかと思います。読んでくれてる人に対して失礼だと感じることもあると思います。ただ、「辛い思いをする」というくらいならそうした方が良い。そういう道もあるということだけをお伝えしたかったのです。折角執筆したのに、自分が辛い思いをしながら書いていたらその作品のことを嫌いになってしまいます。我が子のように愛情注いで作った作品、嫌いになりたくないでしょう。それに暫く休んだりしてたらまた執筆のモチベーションが上がるかもしれないですからね。


……と、少し話がそれてしまいましたが、BBSで絡んでくださった皆様、本当に……本当にいままでありがとうございました……!!最高に楽しかった一年でした!!

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― 新着の感想 ―
どうも( ' ꒳ ' ) これは泣いちゃいますね…( ;꒳; )✨ フィオさんありがとです…。°(°´ᗝ`°)°。
なんか、泣いちゃったよ!フィオレさんのばか(`KωP)ノ
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