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家族という仕事  作者: 阿井 亜斗
2章

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2

「井戸の話聞いた?」


 ここ最近はバイトのほうが忙しかったのか、久しぶりに大学にきている香に昨日の聞かされた話を振られた。

 単位が危なくなってきたため講義を受けているのだろうが、そんな中でもしっかりと噂話を拾っているところはさすが顔が広い。


「ああ、菊莉達から聞いた。」

「菊莉達から?」

「昨日、学食で会ったんだ。」


 ふーん、となぜか考え込む姿を見せた。


「菊莉、たちよね?」

「そうだけど、どうした?」

「いつものメンバーよね?」

「いつものって、浩平と信二が一緒にいたぞ。あの三人、仲がよかっただろう。」


 余計に考え込む香。


「どうにかなったのかしら。」

「何がだ?」

「菊莉が浩平と付き合っているのは知っているでしょ?大学卒業したら結婚しようと思っているらしくて、浩平の実家に挨拶というほどではないけど先週末に行ったらしいのよ。」


 おめでたい話だったのに、昨日の菊莉達からはそんな気配微塵もでなかった。

 結婚の話がでたなら、浩平と菊莉は浮かれていてもおかしくない全くその話題が出てこず、普段通りに見えた。



「浩平の実家って昔ながらの大地主って感じの所だったらしくて、お金持ちなんだって。そこで実家に訪れていた客の大事な皿を菊莉が割ってしまったそうなのよね。」

「皿?」

「どうやら、歴史的な価値も高かったらしくて数枚あるうちの1枚を割ってしまったらしくて浩平の父親がカンカンだったらしいのよ。賠償責任が生じたとしても、歴史的価値の損失ははなり知れないらしくて、浩平の父親がこのままだと結婚は認めないらしいのよ。」


 実家に訪れていた皿をなぜ菊莉は割ったのか?

 菊莉は初めて浩平の実家に訪れたはずだし、皿を割る機会はないはずだ。


「浩平は菊莉をかばったらしく、父親とけんかになったみたい。そんな話を聞いてたから、どうなったんだろうとは思っていたけど二人は別れる気はないようで元気そうででよかったわ。」


 満月は昨日の3人の姿を思い返してみる。

 浩平も菊莉も信二も普段通りに見えたが、そう装っていただけだったのだろうか。


「というか、よくそんな話を知っているな。本人から聞いたのか?」

「信二が話してたのよ。」

「信二が?」


 二人で浩平の実家に向かったんだろうに、そこでなぜ信二が知っているのか。


「浩平と信二は幼馴染なのよ。地主の息子が将来のお嫁さんを連れてきたから、地元では噂になっていた矢先にこれだから親族が信二に話したみたいなのよ。」

 浩平と仲がよかったのはそこもあるのか。


「信二の様子もなんか心ここにあらずの様子で、自分だけで抱え込めず誰かに話したかったみたい。私も二人とは仲良くしていたし。でも、菊莉と浩平がそんな様子だったら心配しなくてもいいかも。」

 香はよかったといった顔を見せていた。



 満月は久しぶりにサークルメンバーと飲みに行くことになった。

 ここ最近付き合いが悪いと言われてたこともあったし、金銭面でも落ち着いたため行くことにしたのだ。

 晶には前日にそのことを伝えており車のため朝帰りはせずに夕方ごろ帰ることになることを伝えており、夕飯は冷蔵庫に、朝食は自分で適当に食べているように言っといた。

 晶は、ふてくされたような心配そうな複雑そうな顔をして「わかった」といった。

 訳を尋ねたところ応えてくれなかった。


「いや、なんか兄さんの危機感のなさをみたら複雑になって。」

 なんか小声で言っていた気がしたが、まあいいかと思い大学に出かけた。


 久しぶりの飲みはほろ酔いにもなり、友達とも大学生らしく騒げて正直楽しかった。

 金銭面から大学と家の往復だけだったが、やっぱり人がにぎやかなのもいいと感じた。


 晶も出かければいいのに。


 脳裏によぎった言葉はなかったことにした。

 佐藤の苦笑した顔がよぎった。


 時間も遅くなり、電車の時間が迫ってきているためメンバーがそれぞれ帰り始めた。

 満月は友達の家に泊まる予定だったが、急遽彼女が家に来ることになり泊まれなくなった。

 二次会や三次会で残っていたメンバーも、今日に限って家に泊まることはできなかったため大学に潜り込んで朝まで過ごすことにした。

 ネットカフェに泊まることもできたが、ケチったのだ。


 深夜2時。

 大学の周辺は静まり返っており、門もしまっていた。

 守衛がいたら見とがめられるためどう入ろうかと思ったが、なぜかいなかった。

 違和感を覚えたが、まあいいかと思い門を越え目指すは1階にあるサークルの部室だ。

 部室に向かって歩いているところ。



「・・・・ない。」


 声が聞こえた。

 守衛の声かと思いどこかに身を潜めたほうがいいかと思っていると。


「・・・足りない。」


 女の声が今度ははっきりと聞こえた。

 菊莉の話を思い出した。


「その敷地を工事中に、2週間ぐらい前に井戸が見つかったんだって。」

「掘り返えしたら、出てきたみたい。」

「その井戸が見つかってから、女の声が聞こえるようなったんだって。たまたま、夜遅くにそこに通りかかった学生がいたんだけど、どこからか女の声が聞こえてきて。気のせいかなと思ったらしいんだけど、立ち入り禁止の工事現場の近くを通ろうしてたから、女の人の声が聞こえたらしいよ」




「聞こえてきた声の内容はね。」




「足りない。」



 後ろから聞いたことがある女の声がした。



「・・・菊莉?」


 満月は後ろを振りかえると数メートル先に、先日井戸の話をしてくれた菊莉の姿があった。


「足りないの・・・。」


 菊莉の姿は先日見たものと違い、明るい姿はなく、どこかに感情を落としてく来たのではないかというほどの無表情だった。

 手には包丁を持っていた。


 満月は、その言葉に問い返した。

「・・・何が足りないんだ?」


 その言葉に、何も写してなさそうな目をしていた菊莉が反応した。

 そして。



「皿が足りないのよW4l,aaDdo43おai 2GSdLkーーーーーー!」



 こちらに向かって人間とは思えないような奇声をあげ、数メートル先にいる菊莉が人間とは思えない走りをしながら包丁を向けてきたのだ!

 あまりの出来事に走って逃げることもできずに寸前でよけた満月だったが、逃げる隙もなく菊莉が振り返り振り上げてきた包丁の柄をつかんだ。


 このままでは、刺される!


 膠着状態に持って行けず、女性の菊莉のほうが力強い。

 助けを求めようとしたが、だれもおらず刃物が満月の腕をかすめた。


 その瞬間。


 ガウっ!!

「きゃあ!」


 菊莉に向かって、突進したモノがあった。


 膠着状態から脱し、菊莉の方をみてみるとそこには黒い犬が菊莉の腕を嚙んでいた。


 文字通り黒い犬だった。


 影のように目がなく、夜の暗闇もあるせいかのっぺりしているようにみえた。


 だがこのままでは腕ではなく、菊莉の喉笛を噛みつきそうないきおいをしていた。


「やめろ!」


 満月のその言葉を聞き、犬は菊莉を噛むことをやめてこちらにやってきた。

 その顔をみても目がなかったが、ほめてほしそうにこちらを見上げてきたため、頭をなでた。

 晶の言葉を思い出した。


「兄さんには犬をつけとくから、気をつけてね。」

 晶がつけてくれた犬だろうと見当がついた。


「助けてくれてありがとな。」


 その言葉を聞き、うれしそうな様子が見受けられもっとなでてくれというようにねだってきた。


 そこで菊莉の様子はどうだと思い出し、菊莉を見てみると倒れていた。

 近づいてみると気を失っていたため、救急車を呼ぼうとしたが友達が奇声を上げて包丁を振り上げながら突進した話をしたら警察案件だ。

 それは避けたい。


 前例もあることから、佐藤に連絡をしてみることにした。

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