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家族という仕事  作者: 阿井 亜斗
1章

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3/10

3.

 その後、晶が暴れることも自傷行為することもなく穏やか過ぎ去った。


 表情がなかったことも、見間違えだと思い忘れていった。


「満月。あなた、何かした?」

「何が?」


 学食でご飯を食べているところに、香に声をかけられた。


「あなたについて、尋ねられたんだけど。」

「誰に?」

「すごい暗そうで顔色が悪い奴だったわ。不審者過ぎて知らないって言ったら、礼も言わずに文句言いながら去っていったけど。」

「なんだ、それ?」

「他の友だちにも聞いたけど、聞かれた人何人かいたわよ。」

「心あたりがないんだが。何について聞かれたんだ?」

「さあ?満月について知っているか聞かれただけで、知らないって応えたから。ただ、」



「なんか、『家』がどうだと、ぶつくさ言ったわよ。」



 香の話を聞いた後、佐藤に電話をした。

『家』のことを知っている、暗い感じの男に心当たりがあったのだ。


「確かに前任者かもしれないですね。満月さんを探していた暗い感じの人は。」

 名前は渡辺というらしい。

「なんで、俺を探してるんだ。」

「借金をしていたようですし、お金に困って満月さんと仕事を変わってもらおうとしたのかもしれないですね。」

「今更だろ。借金しているなら、かじりついてでも家にいたほうが実入りもよかっただろう。」


 この仕事は時給がとてもいいのだ。

 どのくらいの借金かは知らないが、長く働けば返せただろうに。


「しかも、なんで俺が今、家で働いていることを知っているんだ?」

「もしかしたら、車からもしれないですね。」

「車?」

「今、満月さんが乗っている車を渡辺さんが乗っていったものなんですよ。それがどうやら、お金に困って売ったらしく戻ってきたんです。」

「よく、車が戻ってきたな。売られてしまうと、海外に売られたりして、戻ってこないことが多いと聞いたが。」


 盗まれたものが戻ってくることは、なかなかない。


「運がよかったみたいで。中古屋が見たことあると言って、連絡をしてくれたのですよ。」

「中古屋が個人の車なんてよく覚えているな。」

「たまたま、縁がありました。知っている人だったんですよ。」


 そういったところと知り合いなのは、やはり昔からの知り合いが多く、金持ちだからなのだろうか。


「渡辺さんのことは、こちでも探してみます。このまま晶さんや満月さんに危害を加えられたら困りますので。」

「任せるよ。」

 俺はともかく、晶の心配はしないのか。


「俺はこのまま家に帰るよ。」

「わかりました。では、また。」


 電話は切れた。


 車に向かいながら、ふと思った。

 そういえば、あの家お菓子といった甘味などがなかったな。

 俺は甘味を普段から食べる習慣がなく、飲み物も水かお茶で飲んでいたためそういったことに全く気付かなかった。

 晶と話してみると、甘味が嫌いといった話は出てこない。


 俺は車に向かって歩いていたところを、方向転換した。


「おかえり~!・・・兄さん、何もってるの?」

 家につき、晶に出迎えられた。


「ああ、ケーキを買ってきてみたんだ。食後にでも一緒に食べよう。」

「ケーキ好きなんだ!ありがとう!」


 大喜びの晶。

 甘味は好きそうだった。


「最後に食べたのは大分前だったな~。」


 ルンルンしながらケーキの箱を受け取り、キッチンに持っていく晶。

 思わずという感じで、ケーキを最後に食べた日を漏らしていた。


 時々、本来の記憶を思い出すようだ。

 だからと言って、すべてを思い出すわけではないようだ。

 このまま、いけばもしかしたらか寛解(かんかい)はするかもしれないな。


 家に上がり、荷物を自分の部屋に置きに行こうと二階に上がる。


 一緒に住んでいれば、情も湧いてくる。


 晶の性格は悪くはないと思う。

 言動は少し、子どもじみた感じになる気がするが、人とそんなに話すことがないからだろう。

 寛解になればお役御免にはなるだろうが、お金もたまってきているのでこれはこれでいいのだろう。


 自分の部屋に荷物を置き、晶がいるであろうキッチンに向かった。



 夕食後、チーズケーキを食べるため晶が紅茶を入れることになった。


「チーズケーキだ!好きなんだよね。」

「それは、よかった。」

「せっかくの、ケーキだし今日は紅茶いれるね。」


 晶は、家事が全くできないわけではない。

 俺が朝早く大学に行かなくてはならないときは、昼食を作り置きする時間がないときには、自分でカットしてる食材を調理している。


 自分から動いて料理をしているため、病む前は家事は一通りできていたのではないかと思う。

 両親がしっかりと教えていたのだろう。


 紅茶の用意が終わり、ケーキを食べるたびに「おいしい!」と喜んでいた。


 その様子をみて、他の市販のお菓子なども時々買って帰るのはいいかもしれないと、昼間に香から聞いた話や佐藤の話のことなど忘れていた。

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